臨時パーティーメンバーを入れてみよう
学園内にある喫茶店。
その一席に、珍しい組み合わせの男女が席に着いていた。
片方はもふもふしてぬいぐるみとまるで見分けが付かない金色の獣。
そしてもう片方は白いドレスの美しき姫君。
ただでさえその喫茶店はどちらかと言えば安い方の店であるのだから、もうあらゆる意味で浮きまくりで目立っていた。
そんな中、白の姫君はそっと店員の方に微笑を向ける。
それは聞き手が女性であるにも関わらず思わず頬が染まってしまいそうな、そんな美しさだった。
「失礼、注文宜しいかしら?」
「は、はい! どうぞ」
姫君は、にっこりと微笑んだ。
「ありがとう。じゃあ……ここからここまでお願いね」
「は、はい! かしこま…………はい?」
「ここからここまで、全部。お願いね」
それは、まるで時間が固まったかの様だった。
店員は動かない。
その様子を見ていた人達も動かない。
誰もがぽかーんと間抜け面を晒し固まる中、姫君だけが楽しそうに……というよりも若干意地悪そうな笑みを浮かべていた。
「ああーこれこれ。これがしたかったのよ!」
四人テーブルに所せましと並ぶスイーツにナーシャはキラキラと目を輝かせる。
ただスイーツを食べるのではなく、周りの唖然とする顔を肴にする。
それがまた美味しくてパフェの一口目を食べるナーシャの表情は心底幸せそうだった。
「お気に召して良かったんよ」
クリスもニコニコと笑みを浮かべる。
ナーシャは悪戯と呼ばれる行為が大好きである。
と言っても誰来れ構わず迷惑をかける様なのではなく、今回の様に唖然とさせる様な方針を好む。
迷惑をかけるのは、信頼出来る相手だけ。
自分みたいな見目麗しい女性がやらないであろうことをして、度胆を抜かれた様な顔をする周りの目が心底楽しくて仕方がなかった。
この悪戯をナーシャが行う為には、高いハードルが二つ存在した。
一つが『値段』。
比較的安い店とは言え、これだけ大量に注文するのは少々厳しい。
出来ないとは言わないがナーシャにとってキツイと感じるのは確かだった。
もう一つが『物量』。
ナーシャは健啖家と呼べる程食べるが、それでも全てを食べきるのは流石にきつい。
特に、直接エネルギーとなり即燃焼出来る肉類と異なり、糖分メインのスイーツは色々と問題がある。
主に、女性の尊厳的な方面で。
そんな彼女が二つのハードルを越えるその方法、それこそがクリスであった。
「じゃあ、後お願い」
一口少し綺麗に食べただけのパフェを渡され、クリスが残りを綺麗に平らげる。
ついでに『一口食べて全部残す』という性格悪い夢も、このタイミングでナーシャは叶えていた。
「凄いわね」
ナーシャは感心した様子で呟く。
所せましと並んだスイーツ全てを完食し、皿がタワーの様に積み重なっていた。
「この位なら朝飯前……じゃあないけどお昼ご飯位なんよ」
意外な事に、クリスは本当に良く食べる。
普段は抑えているが食べようと思えば食べ放題の店を後悔させる程度に食べる事は可能だった。
「流石ね。それでもう一つの方なんだけど、本当に大丈夫なの? 信用していない訳じゃあないけど一応お金は持って来てるわよ?」
クリスはとんと、金貨を一枚テーブルに置いた。
「お釣りは好きにして良いんよ」
わざわざ見栄えの為に換金した金貨。
だがその甲斐はあったらしく、ナーシャは目をまるーくし驚いた様子を見せた。
「……そう。だったら皆のお土産まで買わせて貰おうかしら」
「それは良い考えなんよ。楽しめた?」
「ええ、文句なしよ。文字通り文句なしの完璧。契約成立。ありがとね付き合ってくれて」
そう言ってナーシャはクリスに書類を手渡した。
その『狩猟祭フリーの一年生面白そうな生徒リスト』を……。
金銭込みでアナスタシアが満足するまで付き合う。
それがこの書類をクリスが受け取る為の契約だった。
クリスとナーシャ。
二人の感性は割と近い。
楽しい事に眼がなく、何か起きたら我先にと見に行く。
違いはクリスは踊る阿呆でナーシャは見て愉悦する。
その違い位だ。
そんなナーシャが暇な時間をかけ調べたおもしれー男アンド女の情報。
クリスにとって興味を持たない訳がなかった。
「そっちは一人追加だっけ?」
ナーシャの言葉にクリスは頷いた。
「うぃ。そっちは?」
「こっちは減らす側よ。まあそれなりに選りすぐっているから……正直負ける気はしないわね。貴方達には」
「ほほー。挑戦的なんよ」
「そりゃそうでしょ。Aクラスなんてヒールになってなんぼなんですから。でも、そっちもそうでしょ? 負ける気なんてしないんじゃない?」
「黙秘するんよ」
今回は自分が主役じゃなくユーリが主役。
だからクリスは脇役としての矜持でそう口にした。
「そ。……彼があそこまで本気になるのは珍しいのよね。だから……ちょっと楽しみなの。彼と遊ぶ機会はあまり残ってないから」
「うぃ。じゃあそう伝えておくよ」
「あら? 誰の事かわかる位には情緒に理解があるのね」
「これでも数多くの恋愛漫画を読んだ身なんよ。ま、そうでなくともわかりやすいけど」
「そう?」
「うぃ。すっごくわかりやすいんよ。ユーリが」
ナーシャはきょとんとした後、くすりと微笑んだ。
「そう。私には良くわからないけど、パーティーメンバーの貴方が言うならそうなんでしょうね。それで、良さげな人は居たかしら?」
クリスはリストに目を向けながらこくりと頷いた。
「うぃ。何人か良いなって思うひとがいた」
「例えば?」
「この『いつでもうどんを出せるオリジン』って良いね。出す事そのものよりもうどんに人生をかけているってのが良い。とっても良い」
「ちなみに特別美味しいとかもなく普通だったわよ」
「食べたの?」
「ええ、食べたわ」
「ちょっと羨ましい」
「ふふ。まあ数人程度なら手伝ってあげましょうか? 面識あるから紹介位ならするわよ?」
「良いの?」
「ええ、金払いの良いクライアントは大切にする主義よ。あとついて行くの面白そうだし」
「それは助かるの。でもついて来てもユーリの事は何も話さないんよ?」
ナーシャはすんと、笑みを失った。
「意外と意地悪なのね」
「初めて言われたんよ」
そう言って、クリスはにこっと微笑んだ。
「と言う訳で連れて来たので面接お願いしーます!」
クリスはそう言ってリュエルとユーリに『彼』を紹介した。
ナーシャのリストに載っていた数人に出会い、最も良いと思ったその一人を。
その様子はまるで山の様だった。
大きな、見上げる様な背丈に広い肩幅。
それは一目で鍛え抜かれたとわかる肉体であった。
目は鋭く鷹の様で、表情の険しさは彼が歴戦の戦士である証。
そしてもう一つ特徴的なのが……背中に背負う大剣。
太く、長く、あり得ない程にデカイ。
こんな物を振り回して戦うというのならもうそれだけで脅威だろう。
一目でわかる程優秀な前衛重剣士だった。
「おいクリス。これあの条件で来てくれたのか?」
ユーリは怪訝な顔で尋ねた。
「ん? もちろんなんよ。詳しい作戦は知らないままで問題なし、こちらの命令は極力従う。ある程度のモチベは持っているけどそこまで極端じゃあないって感じ。条件通りなんよ」
クリスはそう断言する。
ユーリは更に不安を高める。
条件通りだからこそあり得ないのだ。
これだけ優秀な剣士が売れ残っているという時点でおかしいのに、あの不平等な条件に納得する。
そんな訳がない。
そこまでこの学園は甘くない。
だとしたら……。
「とりあえず、面接お願いして良い?」
クリスの言葉にリュエルとユーリは頷く。
リュエルもまたユーリの緊張を理解し、クリスのイエスマンと成らない様厳しく判断しようと考えた。
大男は自分を警戒する二人に目を向け、軽く会釈をし自己紹介を始めた。
「俺の名前はヴァン・ロウ。見ての通りスシ職人だ」
「ああ。ありがとう。俺は……ん?」
ユーリは聞き覚えのない言葉を聞き、首を傾げた。
「どうした?」
「いや、えっと……見ての通り……何?」
「スシ職人だ。見習いだがな」
「……剣士じゃ、ないのか?」
「何を言ってるんだ? 見てわからないのか?」
「わからねーよ! 背中の剣は何だよ?」
「剣? いやこれ包丁兼フライパンだぞ」
「――は? いや何がどうしたらそれが包丁になるんだよ」
「そうだな。知らないのはしょうがない。だから良く聞け」
「あ、ああ……」
「魚を斬る為の包丁は……でかければでかいほど良い。俺はそう聞いた。つまりそういう事だ」
そう、ドヤ顔でヴァンはユーリに告げる。
ユーリは理解した。
こいつはこのシリアスオンリーみたいな外見しておいて中身はクリスやあの方好みの面白びっくり人間であると――。
「ちなみにナーシャに紹介してもらったんよ」
「だろうな! 心の底から理解したわ!」
「ごめん。全く関係ないんだけど、スシって何?」
リュエルのそんな質問に、クリスが答えた。
「お寿司はね、生のお魚の切り身を乗せたお米料理なんよ」
「へー。そうなんだ」
リュエルは感心した様に呟く。
「なるほど。そうだったのか」
ヴァンもその横で感心しながら頷いた。
「……いや、お前は感心するのおかしいだろ」
ユーリは我慢出来ず突っ込んだ。
「言っただろ。見習いだって」
「見習いだって寿司位食った事あるだろ」
「いや、ないけど?」
「……じゃあ、なんで職人とやらを目指してるんだよ……」
「色々理由はあるが……それが俺の生きる道だからだ」
「綺麗で力強い言葉だけどびっくりする程スッカスカだぞ中身」
ユーリはあきれ果てながらそう呟いた。
「クリス君。スシって珍しいの?」
「んー珍しいと言えば珍しいけど普通? 学内にも食べられる場所あるし値段抑えて値段抑えて回転寿司ってのもあるよ。まあ内地だからそれでもやっぱりお高い感じだけど」
「へーそうなんだ」
「回転スシ! そういうのもあるのか!」
ヴァンは驚いた口調で叫んだ。
「お前はもうスシの何を知っているんだよ」
「何も知らないからこそ目指す価値がある。違うか?」
「何もかもちげーよ。もうお前の事本当にわかんねーよ」
「わかりやすいと思うけどな。あ、だったら冒険者カード見るか?」
「お前そのふざけた夢で正規の冒険者なのかよ!?」
「おう。夢の為に金は必要だろ?」
そう言ってぽいっとカードを投げる。
冒険者カードには記載される情報は名前と凡その階級。
それとスキルシステムにて認定された技能を自ら厳選し書く。
それでどの様な冒険者でどのように生活しているかが凡そ理解出来る。
名前はそのままヴァン・ロウで、階級は銀に分類される。
そして技能は『隠密』『交渉』『重量軽減』『持久走』といった直接戦闘ではないが有用な物がレベル一で多く記載されている。
特に突出すべきは『運搬』であり、これだけはレベルが二となっている。
つまり……。
「お前……運び屋かよ……」
剣士と思ったら自称スシ職人で本業は運び屋特化。
もう訳がわからずユーリは疲れた声で呟いた。
「ん? 一応冒険者としてはそうだな。それでも俺はスシ職人見習いと呼ばれたいがな」
そう言ってヴァンは何故かドヤ顔になった。
「それでユーリ。結局この人は雇うべきなの?」
「……性格を無視したら、うちにとってはこれ以上は絶対ないってレベルの人材だ。性格を無視したらな」
「そ。性格も問題ないしこれなら決まりだね」
「性格に問題がないってどこ見て言ってるんだ?」
「そりゃ、ユーリがつっこみ入れたら問題ないでしょ」
「……ああ……もう……」
言い返す事さえ馬鹿馬鹿しくて、ユーリは悲し気な表情で空を見上げた。
「……ヴァン。最後に一個だけ聞いて良いか?」
そう尋ねるユーリの口調は、どこか諦めた様な感じだった。
「なんだ?」
「どうして記載されるスキルに『解体』がないんだ?」
「ん? ああ、俺解体とかそういうの苦手なんだ」
「……そうか」
頭の中に宿った突っ込みを、ユーリは静かに飲み込んだ。
ありがとうございました。




