難易度の高い緊急ミッション
作戦会議が一区切りついた後位になってから、クリスは尋ねた。
「じゃあ、この一か月は狩猟祭の為の準備期間って事?」
「そうだな」
「じゃあ授業とか受けずそれ備えた方が良い感じかな。実際に現地に行ったりして」
「いや、むしろあんたには積極的に授業は受けて欲しい。情報収集とかそういうのは俺がやるから」
「どうして? 遠慮じゃないよね?」
「悪いがチームに遠慮する程余裕はない。理由は幾つかあるが、大きな理由は俺に出来ない事を二人に……というよりもクリスに頼みたいというのが大きい」
「ほほー。お願いとな」
クリスはぴくぴく耳を動かし、興味を示す。
クリスは文化祭とかの様な一緒に何かをするのに憧れるタイプ。
だから当然、ユーリの言葉にも喜びを覚えていた。
「ああ。その前に、俺達は現状二つの問題を抱えている事を話そう。一つは対処する事が事実上不可能な、ぶっちゃけどうしようもない問題。もう一つは、対処しなければ表舞台に立つ事さえ出来ない緊急レベルの高い問題だ」
そう言ってから、ユーリは再び説明に入った。
二つの問題の一つ目。
それは目的達成の為の障害。
誰よりもぶっちぎりで活躍し人気を集めるという目標の障害。
つまり……ライバルの存在である。
当たり前と言えば当たり前だが試験である以上競いあう相手がいる。
もしもどこか別のチームが自分達よりも高い成績を叩きだし、目立つ様な事があればもうその時点でゲームセット。
ユーリの野望はその時点で終わりとなってしまう。
ユーリの狙いがパイの独り占めである以上、得られる名声が分散される事は極力避けたかった。
「それで、ユーリ的にどこかヤバいチームはある感じ?」
「俺の実力で言えば半数以上が脅威的だ。あんたらの実力で考えても……四、五組はいるかな。ただ……一組だけ絶対に競い合う事となる強敵はいる」
「どこ?」
「アナスタシア様のところだ」
ユーリは困った顔でそう呟いた。
不思議だった。
リュエルは何故かわからないが、今のユーリの困り顔がどこか嬉しそうに見えた。
まるで惚気ているかの様に。
「そんなやばいの?」
クリスの質問にユーリはしっかり頷いた。
「ああ。やばいな。まず登山とか以前に環境慣れしているあの程度俺達の国にとっては平地とさほど変わらない。そんな中でもアナスタシア様は幼き頃から活発で良く城を抜け出して走り回っていたなんて健脚で有名だった。当人も努力家だから今は尚優れた身体能力を持っている。事登山という環境なら彼女は一流よりも更に上に居ると思って良い」
「なるほど。それはきょうて――」
「更にアナスタシア様の本職は魔法使い。それも超一流でかつ特化型。自身もまた学ぶ事を苦としない努力家だから魔法についての習熟速度は恐ろしく早い。魔法使いであり走る事に優れている。それがどれだけ有利な事かクリスなら理解出来るだろう?」
「まあ、うん。それは確かに素晴ら――」
「無論彼女の強さはそれだけではない。彼女は智謀策略に長け為政者としての環境故誰かを使う事にも長けている。リーダーとしての活躍は期待された様な物だ。それにあの美貌。元の国でも大勢を虜した美しさで当然パーティーメンバーは選び放題だったはず。更に言えば彼女の魅力は表に出る物だけでなく……」
つらつらと語り続けるユーリの言葉の間に入る事が出来ず、クリスはおろおろとして……しばらくは繰り返し頷くだけの玩具みたいな動きを繰り返していた。
そうしてまあ十五分位してから……。
「と、アナスタシアはそれだけ驚異的だ。特に、彼女は今年一年が自分の最後の自由時間だと思っている。だからこそ、全力を出す事が想像出来る」
それを聞いてリュエルはある考えが浮かんだ。
「あのさ。それだったら――」
「リュエルちゃん。それはなしなんよ」
何を言うか理解したクリスは、その言葉を止めた。
「……ん? 何か意見があるなら聞くが?」
「ううん。これは無粋過ぎるんよ。忘れて」
「あ、ああ……。まあ、そういうなら……」
どこか不承不承な様子でユーリは頷いた。
リュエルの言いたい事はつまり、盤外戦術である。
脅威であるとわかるなら事前に何かすれば良い。
そうでなくとも知り合いならば手を抜かせるなりする事位は容易いだろう。
当然それが良くない事なのはわかっている。
それでも、本当に求める物を手にする為ならありとあらゆる手段を使うべきなのだ。
そうリュエルは思ったのだが、クリスの考え方は違った様らしい。
クリスは楽しそうにウィンクをして『しー』と口元で内緒のポーズ。
そう、確かに無粋だろう。
愛する女を護る為、愛する女を貶めるなんてのは。
「完全勝利って、そういう事ね」
リュエルの言葉にクリスは同意を示す。
「うぃ。そういう事なんよ」
笑いながら分かり合う二人に対しユーリは首を傾げ、少しだけ小さな孤独を覚えた。
「ああ、あと少しだけ話は変わるが、別の意味で要注意なのも居る」
「別の意味って、どんな?」
「直接妨害」
ユーリの言葉にクリスとリュエルはぴたりと止まった。
「……ルール違反でしょ?」
リュエルはそう口にする。
「そうだな。ところで犯罪って違法行為だよな? この世界で犯罪ってなくなってるか?」
「わかりやすい嫌味な答えありがとう。それで、どうしてそうなるの?」
「それはリュエルの方が良く知っているだろう。俺に相談してきたんだから」
「クリス君に嫉妬した屑共の事? でも、流石に狩猟祭で妨害する程愚かじゃあ……」
「する。賭けても良い。絶対にやらかす。そういう馬鹿ってのは何時だって想像の斜め下を越えて来るんだよ」
「……それは……どうしよう……」
「俺の方でも考えておくが……最悪の場合はリュエルに覚悟を決めて貰う」
「覚悟?」
「ああ。狩猟祭で馬鹿を斬る覚悟」
「そんな事に覚悟なんて要らないよ」
「……そうか。なら良い」
「はいはーい!」
クリスはぴょんこぴょんこと跳びながら手を上げた。
「どうしたのクリス君」
「うぃ。とりあえず意見を纏めると、ナーシャ含めた強敵がいるから要注意。私の邪魔の対策を考えよう。だよね?」
「そうなるかな。それでどうしたの?」
「そっちはぼちぼち出来たらで良いから後回しで良いと思うの。ユーリは最初の方で『対処しなければ表舞台に立つ事さえ出来ない緊急レベルの高い問題』があるって言ってたじゃん。それの話した方が良いんじゃないかなって」
「ああ……そうだね。それでユーリ。その緊急レベルの問題って何なの?」
「ん? ああ。単純な問題だ。狩猟祭はいかに多くの獲物を持ち帰れるかが重要になる。もっと言えば積載量だな。ひ弱な俺と、どっこいレベルのリュエル。そして小動物クリス。どう思う?」
「……まあ、きつそうだね」
「更に言うなら、今回の狩猟祭り変則型でパーティーメンバー上限が『四人』となっている。後はもうわかるな」
ユーリの言う緊急性の高い問題。
それはつまり……。
「緊急ミッション! 臨時メンバーを探せ!」
クリスはきりっとした顔でそう叫んだ。
「ああ。外部にバレない為作戦の詳細を話す事が出来ない前提の中で、それなり以上に実力があって、ついでに力持ちで俺達の指示に正しく従ってくれる人材が必要だな」
「き、緊急ミッションの難易度は高いんよ」
「最悪の場合は俺の伝手を使うが、その場合実力はかなり下がる。だからメンバー探しの為にも、授業にはこまめに参加して欲しい」
「うぃ。そういう事情なら授業沢山受けます。せめてものという事で狩猟祭の為肉体技能系の授業を優先するんよ」
「助かる」
そう言って、作戦会議は終わりを迎えた。
一抹の……というか人間関係について多大な不安を残しながら。
ありがとうございました。




