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もふもふ元大魔王の成り下がり冒険譚  作者: あらまき


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一着目指して作戦会議


 プチスライム。

 移動は遅く消化器官も弱く大きく形を変える事も出来ずと現時点で出来る事はほとんどないが、限りなく不死に近い。

 命令には忠実だがクリスの視野から離れ命令に縛られなくなった瞬間何をしでかすかわからない為要注意。

 使うつもりはないが飲み物に偽装し対象の体内に入り内臓を焼きながら窒息させるという様な使い方もあるにはある。


 チビ熊。

 熊の赤ちゃんの様な外見だが身体能力はそう低くない。

 また成長率も高い為未来的には役に立つ場面は多くなると思われる。

 ただし、良くも悪くも野生動物である為危険性は高い。

 現時点でも普通の人間位なら襲ってから喰い切る程度のスペックは持っている。


 プチラウネ。 

 十センチ程度の小さな植物系モンスター。

 植物とリンク状態、つまり繋がるという特性により自然の中では擬似レーダーとして活用出来る。

 他にも植物を軽く操作したりと植物限定でなら出来る事は多い。

 反面、植物が近くになければ何も出来ない。

 温厚で柔和、人懐っこく臆病な性格。

 だから他二体と違い目を離し命令状態を解除してもやらかす事はなく放置しても問題はない。

 現時点では……という枕詞が付くが。


 そうして一通り召喚術の特性とその召喚されるモンスターの能力を話し終わった後、ユーリは狩猟祭の説明を始めた。


「場所は創造神ゆかりの聖地『アイフィル山脈』。その中の一つ『トネリコ山』が一年未満の生徒、つまり俺達がテストを行う場だ」


『アイフィル山脈』

 ハイドランド北東方角、騎士国『ヴェーダ』との国境の狭間にあり、幾つもの高山が連なる長い山脈の名である。

 このアイフィル山脈は創造神が降り立ったと言われる聖地の一つである為、ハイドランドもヴェーダもその土地所有権利を放棄して境界線でありながらどちらの領土でもなくなっている。

 管理そのものは隣接する二国ではなく宗教統治国家『フィライト』が行い、その監査を『サウスドーン』が行っている。

 全ての大国が関わり、全ての大国がその地を欲さず、全ての大国がこの地を護る事に尽力する。


 それはこの世界を生きる者、創造神への恩義の為。

 まあそういう建前で、この場所は国家に関わらない聖地としての価値を得た。


 そのアイフィル山脈が今回の狩猟祭りの舞台となった。

 これはこれまでの狩猟祭と比べて例を見ない程に豪勢な舞台と言えるだろう。

 聖地であり、どの国も関わる事が出来、その上で自然豊かで危険度も高い。

 とは言えその理由は言うまでもないだろう。


 ゾンビ騒動による『王立冒険者養成学園フィラルド』の権威失墜。

 その対策の一環。

 冒険者としての実力を見せ、減少した就職先を取返し尚且つ外国に健在であるとアピールする。

 幸か不幸か、実力のある生徒ばかり残ったから少数精鋭としての側面を強める事が此度の目的の一つでもあった。


 そのアイフィル山脈の一つ『トネリコ山』が今回の舞台。

 かつては落雷が多く降り注ぐ地であった為『導雷峰』とも呼ばれた事もあった。

 今は特に落雷が多いという事はなく、むしろほとんど落雷はない。


 アイフィル山脈の中では標高も高くなく、天候も安定し活動しやすい。

 ただし……それは過酷な環境である他のアイフィル山脈と比べての話。

 下手な高山と比べても標高は高く、単なる野生動物でも危険度はそれなりに高い。

 一年生レベルの技量では単なる山登りでさえ過酷な試験となるだろう。


「俺達には関係ないが、これは登山としてのテストという側面も相当に強いと思う。恐らくだが狩猟成果ゼロでも辿り着くだけで合格点が出る」

 ユーリはそう言葉にする。

 その位、トネリコ山の登山は危険な行為であった。

 ただ、これはあくまで合格点が出るというだけ。

 高い目的を持つ場合は全く関係がなくなる。

 今回の様に、一位どころかそれ以上の成果を目指している場合は特に。


「当日は特殊な魔法を用いて自分達の行動は全て観客……まあ、偉い人達だな。そいつらに見られているから最悪のケースとなる可能性は低い。それでも油断したら死ぬだろうがな」

 その言葉はクリスはリュエルに言い聞かせるのではなく、自分に言い聞かせている様だった。

 実際、クリスとリュエルはこれまでの情報を聞いて何一つ恐怖を覚えていない。

 怖いのはユーリだけで、奮い立つ必要があるのもユーリだけだった。


「生徒同士の争いは厳禁。偶然獲物のブッキングによる奪い合いが起きた場合はその獲物の点数は折半。故意のブッキング並びに妨害にはペナルティ。ここまでは良いか?」

 クリスとリュエルは小さく頷いた。

 良くわかってないし何となくしかわからないけれど、とりあえず最後まで聞く為頷いておいた。




「ここまでは生徒に配られた情報。そしてここからが生徒には秘匿された情報だ」

「ユーリはどうやってそれを知ったの?」

 リュエルは疑問に思いそう尋ねた。

 疑っている訳ではなく、純粋な疑問だった。

「元々狩猟祭ってのは準備も試験の内なんだよ。だから表に出る情報だけじゃなく秘匿された情報の二種類がある。この秘匿されたというのは『隠したから頑張って探せ』という意味であって、本当の意味の秘匿情報じゃない」

「なるほど。遮ってごめん。続けて」

「いや、疑問に思ったらどんどん聞いてくれ。それで今更だが……基本的な作戦は俺の考えに従ってくれるか?」

 リュエルはきょとんとした顔をして、クリスの方に目を向ける。

 リーダーはクリスだから好きにして。

 それがリュエルの何時ものスタンスだった。


「ユーリはそれで、自分の作戦で頑張って、それで失敗して後悔しない?」

「……するだろう。というか、誰かの作戦でやっても失敗したら後悔する。だったら……どうせ後悔するならせめて精一杯やる。俺は俺の出来る事を全部やるって決めたんだ」

「良い答え。それなら文句はないんよ。主役はユーリなんだし」

「すまんな、いや、二人ともありがとうって言うべきか。それで作戦についてなんだが……一応の草案は用意した。これで行くかどうかは置いて聞いて欲しい」

 クリスとリュエルはこくりと頷いた。


 秘匿情報の中には得点集計についての詳しい情報もあった。

 今回の場合は『己の手』で狩猟し『素材を持ち帰った』分だけ得点として加算される。

 狩って放置しても、自然に倒れたのを拾って来ても意味がない。

 自分達で狩り、解体し適切に『価値のある素材』を持ち帰る。

 もしくは重量を気にせず解体せずそのまま持ち帰る。


 そうして獲物とその部位によって定められた得点が加算され、時間内で最も多く得点を集めたチームが優勝となる。


 ユーリの手元にはトネリコ山に出て来る一般的な獣の情報が、その定められた得点まである。

 そこからどういう作戦を取るのかを考えた。

 例えば、高得点に設定された所謂レアエネミーを狙う。

 例えば、狩猟難易度の高い高得点の群れを狩る。

 どれが正解という訳ではない。

 なにせライバルも同様の事を狙い、ブッキングし効率も悪くなる可能性もあるからだ。

 完璧な作戦なんて物がもしあれば、それは最下位を意味する言葉となるだろう。


 だから今回の場合正解はなく、要するにどういった方針が自分達に、もっと言えば自分に向いているかという事。

 そうして必死に考えて……。

「俺は無能の凡人だ。あんたらみたいな天才が手伝ってくれても他の奴らと同じ事して勝てるとは到底思えない。だから……もっと堅実に、そして地味に行く」

 そう言ってから、ユーリは二枚の絵を見せた。


 一枚目は、控えめな表現で随分とふくよかなウサギ。

 茶色と濃い茶色のツートンカラーで外見もあわさって余り可愛くはない。

 いや、一応はこれもブサ可愛いという類となるだろう。


 もう一枚はかなり大きな体躯をしたこげ茶の熊。

 ただ、他の熊にはないというかどう考えてもおかしな特徴を持っている。

 その熊は直立二足で立ち長い筒の様な……というよりも銃にしか見えない何かを持っていた。


「前者は『トアーラビット』。擬態に長けた獣で迷彩は当然複数の隠れる手段を持っている。後者は『アイアンベアー』。世界で唯一射撃武器で武装した獣だ」

「……何これ」

 リュエルは顔を顰める。

 前者はまあ置いておき、後者がもう明らかに生物としておかしいとしか言えなかった。

「まあわかる。だが事実だ。このアイアンベアーはトネリコ山の生態系の頂点に等しく数多く存在し、同時にレアエネミーを除いた中で最も多い得点を持つ生物だ」

「……つまり、こいつらを狙うと?」

 クリスはそう尋ねる。


 得点が多く数の多い獣を狙う。

 作戦としては確かに無難で堅実だろう。

 そして同時に最も勝率の高い作戦である事も認められる。

 だが……。


「いいや。最初はその方針で行こうと思ったが変更する。敵対した場合は狩るが、それだけ。むしろ敵対を避ける方向性で行きたい。狙うのは、この一種類だけだ」

 そう言って、ユーリはぱんとウサギの絵を地面に叩きつけた。


「理由を聞いても良いかな?」

「ああ。こいつは探しにくく、そして見つかっても弱い為点数は低い。トネリコ山の獣の中でも下から五番以内に入る位低いだろう」

「だったらどうして?」

「……解体を前提して、グラム単価で最も得点が高い」

「……ふぇ?」

「要するに、同重量でならこいつのポイントは熊を超える。積載限界まで狩る事を考えたらこれが最も効率が良い。その分頭のおかしい数を狩らないといけない。そこがネックだったんだが……」

 そこまで言えばクリスも理解出来る。

 隠密に特化した、足の遅い生物を補足する手段。

 それが丁度今、クリスの手元にあるのだから。


「……他の人が真似出来ない、真似し辛い作戦。なるほど。良い作戦なんよ」

「リーダーに褒められたなら、俺の作も案外悪くないな」

「むしろ私の発想じゃ出来ないナイスアイディアなんよ。だから」

「ああ、クリスとリュエル、二人ともここから煮詰めるのを手伝ってくれ。……の前に一つ尋ねるんだけど……リュエル」

 突然呼び出され、リュエルは首を傾げた。

「何? 別に作戦とか任せるよ。私はわからないし」

「いや。その……無抵抗に近いウサギを狩る事になるんだけど、抵抗とかないか? 女の子してこう……」

 ユーリの言葉にリュエルは困った顔を見せた。


 それは、今現状好きな人が隣にいる女の子としてどう答えたら良いのだろうか。

 悩んだ挙句、リュエルはぽつりと呟いた。

「クリス君の方が可愛いから」

 その答えが良かったのか悪かったのか、チーム内がちょっと微妙な空気となってから作戦会議が再開された。


ありがとうございました。

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