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もふもふ元大魔王の成り下がり冒険譚  作者: あらまき


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いまいちきまらなかったくろまくちゃん


 深夜と呼ぶに相応しき時……ヒルデが城に戻らざるを得ないのを良い事にクリスはこそっと病室を抜け出した。

 理由を聞かれたら説明はちょっと難しい。

 幼いが故の気まぐれか、長命種故の心の揺れ動きか。


 だがもしも一番近い物を選ぶなら、月夜が綺麗だったからとなるだろう。


 満点の星空、輝かしい満月(フルムーン)

 全くもって胸が躍る。


 絶好の敗北を噛みしめる機会だ。


「……負けたなぁ。うん。負けちゃった」

 楽しそうに、クリスは呟く。


 此度の騒動はクリスにとっては敗北と断言出来る内容だった。

『何も出来なかった』

 ルークという手柄を取り押さえるどころか、ルークという男の因縁と成る事さえも出来なかった。

 物語の主軸に入り込めず、エピローグに関わる事さえ許されなかった。


 それは偏に弱かったから。

 誰よりも知っている事のはずだった。

 弱さは罪であると。

 そうして自分は、咎人へと堕ちた。


 無力感に苛まれる。

 多くの命を救う事も、事件の解決に助力する事も出来なかった。

 クレイン程とは言わない。

 だけど、せめて戦う力があればもう少し違っていただろう。

 もっと入念に用意しておけば良かった。

 今の自分であってもまだ何か出来る事があったはずだ。


 後悔が無限に湧いて来る。

 心の中に暗い気持ちが沸き起こる。


 だからこそ、クリスは笑っていた。

 愉しい楽しいこの世界が、ようやく広いと感じられて。


「ううん。そうじゃない。後悔しちゃあいけない。手遅れなんかじゃない。だって――まだ、全部が終わった訳じゃあないんだから」

 そう、事件はまだ終わっていない。

 がむしゃらに生きるのは、生きる為に戦うのは、むしろこれから。


 確かにルークの起こしたゾンビ騒動だけで見れば、事件は終結したと言っても良い。

 勇者が事件を解決に導き、最後には友がルークを討った。

 それは間違いのない事実である。


 だけど――。

 あの時ルークは、クリスを最初見た時確かにこう言った。

『見るだけで理解出来るのですね』

 間違いなく、クリスの『眼』について語っていた。


 別にその情報が学園に全く出回っていないという訳ではない。

 だけど、それだけだとおかしい部分が残る。

 確かに観察眼は希少なスキルであり、オリジンクラスとなると下手な戦闘強化系オリジンよりも評価される。

 それでも、あの時のルークの様に徹底して対策を取る程じゃあない。

 クリスというへっぽこな獣一匹相手に黒幕が専用の対策を取るなんて事する訳がない。


 事件の終結間近までルークがクリスと会わなかったのは間違いなくルークの策略である。

 そう考えれば、学園サイドが持つ目の情報だけだと行った事とのつじつまが合わない。

 ルークはクリスがそれ以上に『特別な目』を持っている事を事前に知っていたと考えるのが自然である。

 また同時に、探りを入れてみた結果クリスの正体までは気付いていなさそうだった。


 であるならば……ルークには『協力者』がいたはずだ。


 黄金の魔王の事を知り、その情報をルークの様な強い目的を持った存在に教えている。

 同時に、黄金の魔王の正体を語らない程度にしかルークに肩入れせず、自らの存在を完全に隠蔽したまま暗躍した。


 そんな存在がいる……かもしれない。

 誇大妄想と言えばそこまでだろう。


 だけど、その可能性は低くないと感じている。

 何しろ相手はずっとヒントを与えてくれていたのだから。


 学園の中で、クリスを常に追っている目は最大で三人分だった。


 一人目は学園に雇われたリーガ。

 それはある日から消えた。

 おそらく仕事が終わったからだろう。


 二人目は自分の野望を叶える協力者を探すユーリィ。

 彼が仲間に入ってからその目も消えた。


 つまり……後一つ。

 病院に居る時は感じられなかった。

 だけど……今は確かに、その目が感じられた。


 小さな、寂れた廃公園にクリスは辿り着く。

 どこかオンボロで昼間さえ人が来ないだろうという様な場所。

 近くには誰の気配もなく、誰かが来そうな雰囲気さえもない。

 そんなタイミングで、クリスは空に呼びかけた。

「出ておいでよ。良い夜だよ?」

 居る事が確信している様な言い方。

 いや、事実クリスは確信していた。

 問題は出て来てくれるかどうかというだけ。


 そして……クリスの気持ちは通じたらしい。


 物陰から現れて来たのは、猫だった。

 月光を浴びキラキラと淡い金に輝く銀に近い白猫。


 自然的とは程遠い金属の様な毛並みであると同時に、真珠の様な美しい白をも兼ね備えた光沢のある銀。

 その猫はどこか楽し気な表情でクリスを見ていた。


「確かに良い夜ね。私達の出会いに丁度良い位に綺麗な月……。本当綺麗……壊したくなっちゃう」

 くすくすと笑いながら、どこか妖艶な声を出す猫。

 とても猫らしくない声色だが、気まぐれそうなところは不思議と猫っぽかった。


 その猫が特別であるとクリスは理解する。

 外見の美しさや人の言葉を話す事ではない。

 魔族に分類される者にはそういう動物にそっくりな外見の者は少ないがいない訳じゃあない。

 少なくともクリスの様なぬいぐるみみたいな外見程変ではない。


 違うのはそこではない。

 彼女は……猫の姿をしたその人は、クリスの目で何の情報も読み取れなかった。

 そんな事はあり得ない。

 クリスの目の特性を考えれば、例え相手がどれだけ格上であろうとも全く情報が取れないなんて事は起き得ない。


 それがあり得るのは情報隠蔽特化のオリジンや、クリスさえ知らない特別な魔術を行使された場合。

 もしくは……クリスの理解が遠く及ばない存在。

 答えさえわからない未知。

 ただ……そうだったら良いなとクリスは思った。

 世界には不思議な事が満ちていて欲しいから。

 

「綺麗な物は壊したくなっちゃうの?」

「いいえ。女はそんな単純な生物じゃないの」

「そか。私には難しいね」

「ええ。貴方はおこちゃまだから。とは言え、ちょっとは成長出来たじゃない。良かったわね」

「成長?」

「ええ。貴方はこの騒動の中必死さを覚えた。それに体が引っ張られた。でしょ?」

 実際、それは正しい。

 身体能力は少しだけ成長した。

 身長もたった『3mm』だけど伸びた。

 だけど、その身長の変化に気付いたのはヒルデとリュエルの二人だけだった。

「……それを口にしたのは二人だけだったんよ」

「そう。三人目ってのは不愉快だけどまあ良いわ。そいつらの知らないあんたを私は知ってる訳だし。ね? 『邪悪』さん?」

 ニヤニヤとしながらの猫を見てクリスは苦笑を見せる。


「楽しそうだねぇ」

「ええ、楽しいわよ。あんたを揶揄うのはとても楽しい。だけど、叩き潰したらもっと楽しいと思うわ」

「おや、そんな感じなの?」

「ええ、そんな感じよ。わかっていた事でしょ? あの変態ゾンビ野郎にあんたの事を教えたわけだし」

「全部手の平の上って奴?」

「そう思う?」

「思わないかな。どっちかと言えば蟻の巣に水を入れて藻掻くのを見るのが好きそう」

「その例えは止めて頂戴。気品溢れる私らしくないわ」

「じゃあ、箱庭を弄ぶ神様気取りにしとくんよ」

 一滴ずつ世界に毒を浸し、その影響を見る。

 暗躍はするが思い通りにする訳ではなく、多少都合良くするして後は元のまま。

 だからクリスは支配者ではなく神様気取りと表現した。

「気取りってのはムカつくけどあんたの幼稚な例えにしちゃマシだから許してあげましょう」

「ありがたき幸せ―」

 そう言ってから、クリスは楽しそうに笑う。

 それに釣られる様、猫も笑った。

 くすくすと、普通の友達の会話の様に。

 だからこそ、歪だった。


 どちらの笑みも、悍ましく感じる程純粋だった。


「それで、猫ちゃんはどこの誰か聞いても良い感じかな?」

「さあ? Who am I? 私は誰? 私はこの世界に居るの? くすくす……私は箱の猫、そこに居るか居ないのか、それは私だけが決められる」

「名前も教えてくれない感じなのね。残念」

「しょうがないわね。しょうがないから、一個だけ教えてあげる。あんたがあんまり惨めだから特別大サービスよ?」

「ありがたき幸せ―。それで、何を教えてくれる感じ?」

「私は――貴方の『敵』よ。黄金の魔王ジークフリート」

 その言葉は、まるで剣の様に真っすぐで、そして冷たかった。


「そか。敵なんだ」

「ええ」

「敵になってくれるんだ」

「ええ、敵になってあげるわ。退屈に殺されそうな可哀想なあんたの敵にね。ただし、あんたが封印されて殺されそうな間位だけど」

「それは残念。私の本気は相手にしてくれないのか」

「そういうのは愛しいリュエルちゃんに期待しなさい。その時はきっと来ないけどね」

「ああ。怖い怖い。本当に怖いや」

 小さく震えるクリス。


 自分でもその震えが恐怖なのか期待なのか、もうわからなくなっていた。


「ええ、怖がりなさい。これから私は影に隠れ、じわりじわりと厄介者をけしかけ、貴方を追い詰めていく。貴方を殺す為にあらゆる物を利用し、奇策を放ち続ける。全てに私の意思はなく、されど全てに私は介入する。ルークの時の様にね。貴方が巻き込まれた事件に私が関していない物はないと思い知りなさい」

 彼女がそう言い終わった直後だった。

 クリスの傍に何かが降って来たのは。


  爆音と共に激しい地響きを鳴らし飛来する何かにクリスは反応出来なかった。

 もしも直撃していれば、その落下物に押しつぶされていただろう。

 それはつまり、死んでいたかもしれなかったという事。


 ゾワリとした恐怖が、クリスを襲った。


「これも、君の差し金か。猫ちゃん……ああ。本当に、本当に敵なんだね」

「――ふ、ふふ。ふふふ……。ごめん……それ、知らない」

「……えっ? 知らない? まじ?」

「うんまじ。だって今日は顔見せだけのつもりだったもん。……というか落ちて来たそれ、人じゃない?」

 クリスは言われ、自分の傍に堕ちて来た落下物に目を向ける。


 そこに居たのはボロボロで酷い事になっているが、確かに人だった。

 赤い髪をした若い女性は一瞬だけクリスの方を見るが、すぐに目を閉じる。

 どうやら気絶したらしい。

「……ほんとに無関係?」

「うん。どっから来たんだろ。ちゃんと誰もこない様警戒してたのに……」

 猫の反応を見て、もう一度足元に目を向ける。


 足元の女性が誰かわからない。

 ただ……酷く衰弱している様子だった。

 というか単純に衝撃で血がだくだくと流れ出していた。


「ちょ、びょ、病院! 猫ちゃん手伝って! お願い!」

「は? な、何よ! どうすれば良いのよ!?」

「私だけじゃ運べないから! 私の非力さ知ってるでしょ! まだ木刀もまとも振れないんだから!」

「ああもう! わかったわよ! ……どっか最高のタイミングでかっこよく変身しようと思ったのにー!」

 そう叫びながら猫は光り輝き人間形態となった。


 地面に付きそうな長い銀髪で、人形の様な白い肌の小さな小さな少女。

 若干小動物っぽい印象を持った可愛らしい少女になった彼女と共に、クリスはわっせわっせと二人がかりで元居た病院まで彼女を運んだ。



ありがとうございました。


これで二巻相当の一区切り。

楽しんで頂けたなら幸いです。


もしもここまで読んで楽しいと感じて頂けたなら良いねなりブクマなりを是非お願いします。

また何かご意見があれば感想なり直接の連絡なりお待ちしております。


ここまでのお付き合い、真にありがとうございました。

そして是非とも変わらずのお付き合いの程お願いしたく存じます。




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