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もふもふ元大魔王の成り下がり冒険譚  作者: あらまき


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一月ばかりのお休みを


 冒険者学園ゾンビ騒動が終結し、おおよそ一月という時間が経過した。

 クリスは重症であった為入院する事となり未だ病室の中。

 だから見舞いに来たリュエル達からの又聞きでしか結末を知る事が出来なかった。


 まず、最優先に語るべき結末として言えばグラディスが発見された事だろう。

 なんと彼は生きていた。

 無傷という程ではなかったが、少なくとも未だ入院しているクリスよりは軽傷であり、一週間もせず学園に復帰した。

 まあ、復帰と言っても学園の方はまともな状態でない為大した活動は出来ていない様だが……。

 レストと合流し、二人で何とか頑張るそうだ。


 当然の事と言えば当然の事だが、今回のゾンビ騒動は大いに世間を賑わせた。


 学園内に現われる大量のゾンビとその犠牲者達。

 勇者候補生クレインの活躍もあわさって新聞は大いに事件を盛り上げた。

 ハイドランド首都にて事件が起き、勇者候補が解決した。

 その所為だろうか、国に対しての不満の声は決して軽い物ではなかった。


 犠牲者が出たのは冒険者学園の怠慢、国の怠慢である。

 直接書く様な新聞はなかったが、それでもどこの新聞も暗にそう示していた。


 学園長ウィードが四天王という立場であった。

 その上ウィードは事前に国に報告し協力を仰いでいたというのに国は動かず、事態を食い止められなかった。

 どこもミスをしていないのに、何もかもが裏目となりマイナス評価に繋がった。


 まるで『わかっていたのに国が何もしなかったから大災害になった』かの様に。


 実際の話で言えば、ウィードが居たからこの程度で事件は収まっている。

 最後のゾンビ大量出現は学園全域にて発生し、一年未満の生徒は太刀打ち出来ず全滅していた可能性も高い。

 少なくとも一部の上位冒険者相当の力を持つ者以外は生き残るが事が出来なかっただろう。


 そんな状況で犠牲者が一割以下に抑えられたのは間違いなくウィードの功績である。

 ウィードの様な広範囲汎用魔法を長期的かつ持続的に使える魔法使いがいなかったら学園にゾンビを留める事さえ出来ていない。

 ただし……そんな起きていない事を、それも外部の新聞記者が想像出来るはずもなく、そこまでの事件であったと想定する事などする訳もない。


 だから、大々的にこう報じた。

『数千を超える犠牲を生み出した大災害、近代最悪のテロ行為』と――。

 そういった社会的な事情も含め、今学園は色々窮地に立たされていた。


 こんこんこんと、ノックの音が響いた。


「どぞー」

 クリスの返事に入って来たのは極めてダンディなナイスミドル。

 アルハンブラという名の紳士だった。

 同じDクラスの仲間であり数少ない友人。

 いや、元Dクラスの仲間というべきだろう。


「失礼、調子はどうかな?」

「悪くないんよ。そろそろ退院出来るとか何とか」

 アルハンブラは微笑んだ。

「それは良かった。区切りには間に合いそうだね」

「ごめんね。もうクラスメイトじゃないのに」

「謝るのは違うとも。友情の為に動くなんてのは当然の事でしかない。占う必要さえない位にね」

「うぃ。ありがとうなんよ。忙しいのに」

「いや、実の事を言えばそう忙しくもないんだ」

「あ、そっか。クラス変わったからクラス委員でもなくなったのか」

 アルハンブラは直に肯定せず苦笑を見せる。

 だが、それが真実なのは考える間でもなく明らかな事だった。


 クリスが居ない間、学園に大量の卒業希望並びに退学申請、加えて転学希望が殺到した。

 早い話が『こんな危険な場所にいられるか』という奴である。


 その大半は新聞の煽り記事にびびって逃げただけの臆病者だが、それでも在学一年未満を中心に数千人が一度に死んでいるのは紛れもない事実だった。


 ただでさえ新入生には犠牲者が多かったというのにそんな理由もあって機能しないクラスが増え、入学時期の近い同クラスを合併される事となった。

 そしてその合併という新クラス制度を丁度良いタイミングとし、アルハンブラはBクラスに移籍する事が決まった。


「合併自体は毎年行われる事でそう珍しくない事なんだ。大体の学園生が一年を目途に卒業するからね。流石に三か月未満のクラスが合併するのは前代未聞らしいけど」

 そう言ってアルハンブラは苦笑する。

 仕方がないとは思うが、CDEの三つのクラスはどの学年も予想以上に心の折れた生徒が多かった。

 逆に言えば残った生徒はABを中心に粒揃いという事でもあるが。

「その所為で学園行事のイベントが色々後回しになったのはちょっと悔しいけど、私がいない間に終わってなくて良かったと思おう」

 本来ならばこの一月以内に行われていたイベントの中で、特にクリスが楽しみにしていた物が二つ。

『狩猟祭』と『寮決め』である。

 この入院中の一月の間にそれがなかった事はクリスにとって本当に幸いな事であった。


「まあ、それどころじゃないかったからね。とは言えそれも落ち着いて来た。悪い意味でだけど」

「悪い意味で?」

「そう。風の噂が途切れた訳じゃあなくて、ただ単に学園の評価が下限に近付いたからの落ち着きだ。冒険者学園としての価値が下がったと言い換えても良い。少なくとも、冒険者学園ナンバーワンの称号はもう名乗れないかな」

「……ふむふむ。それが狙いだったのかな」

「狙い? ルークという名のネクロマンサーのかい?」

「ううん。そっちじゃないよ。まあ気にしないで。ただの妄想だから」

「良くわからないがそうしよう。ああ、遅れたがこれ、お見舞いだ。受け取って欲しい」

「毎回毎回気を使わなくても良いのに。でもありがとね」

 そう言ってごそごそと貰った袋を開けると、中にはハンバーガーが入っていた。


 アルハンブラ的には、ハンバーガーは流石に見舞いには不適切だと思っている。

 だけどそれがクリスの希望であって、もしも駄目なら持ち帰ろうと思ったのだが……クリスはそのままぱくりとそれを口にした。


「その食欲なら本当に大丈夫そうだね」

 苦笑しながらアルハンブラはそう呟いた。

「うぃ。体調的にはもう問題ないんよ。経過観察的な意味っぽい。とは言え、『これ』は当分かかりそうだけど」

 そう言って、クリスは自分の目を指差した。

 その眼の金はくすみ、充血もあわさり銅褐色の様な色合いとなっていた。


 内臓が一番ダメージを負っていたかと思ったが、それ以上に眼が深刻だったらしい。

 昔から出来るだけ使わない様にしていた弊害だろうか長期の行使による目のダメージは深刻な物あり、未だ機能は回復の兆しさえなかった。

「それでも、時間で治る見込みは高いんだろう?」

「うぃ。『優秀』なお医者さんから見てそうらしいんよ」

「なら良かった。そうそう。学園でちょっとした事件があって――」

 そう言ってアルハンブラが雑談を振った瞬間、ノックの音が響いた。

 無機質で冷たい丁寧な四度のノック。


 その後に女医が姿を見せ、二人にぺこりと頭を下げた。

「失礼します、往診の時間です」

「ああ、これは失礼しました。それでは我が友よ。次は学園で会える事を期待している。噂の指揮を私にも見せて欲しい」

 その言葉にクリスは苦笑を見せる。

 一体どんな噂が流れているのか、クリスはちょっと知りたくなかった。


 アルハンブラは女医に深く頭を下げた後、部屋を静かに退出する。

 その直後に女医は無言での魔法行使にて部屋を物理的に閉鎖空間と変えた。

 誰も入れず、そして何の音も漏れない様に。


「では診察……の前に、早くそれを食べ終わって下さい。我が主」

「うぃ。ごめんね()()()

 そう言ってクリスは大きく一口で半分を平らげた。




 どうして……と言われたら他に選択肢がなかったから。


 クリスの状態は普通ではない。

 多くの医者はその特別な封印を施している事にさえ気づけないだろう。

 そんな状態でまともな治療を受けられる訳がない。

 逆に特別な封印に気付ける医者が居たとすれば、それはそれで情報が外部に流出してしまう。


 そういう事情で治療を行える人が少なく、ヒルデが女医のコスプレをして治療をするなんてちょっとトンチキな解決策に出る事となった。

 正直に言えば、もうちょっとマシな選択肢は幾つもあった。

 あったけれど、それ以上にヒルデ自身の『主の治療を行いたい』という想いが強かった。

 自分以上に主の治療に向いている人はいないという自負もあった。


 ちなみに『ヒルデはぴしっとした恰好似合うね。カッコいい』というお褒めの言葉を頂きヒルデの幸せな日人生ベストテンの項目が久々に更新された。


「……ええ、内蔵に関しては問題ないどころか前よりはるかに丈夫になっていますね」

「じゃ、明日にも退院出来る?」

「数日前より許可を出そうと思えば出せますが、もう少しお待ち下さい。精密検査や次回同様の事があった時の為の情報収集等色々と準備がありまして」

「うぃうぃ。ごめんね迷惑かけて」

「迷惑だなんてとんでもございません。我が主の為に働ける事こそ至上。それ以上の喜びなどありません」

「そうは言っても忙しいでしょ」

「大丈夫です。最悪分裂しますので」

 冗談で言っているのはわかるが、ヒルデなら本当に出来そうだなともクリスは思えた。


「後、こちらを用意しましたのでどうかお使い下さい」

 ヒルデは薬の袋をクリスに手渡した。

 がさごそ漁り、中の物を見る。

 それは目薬だった。


「魔力補充を中心にした特注の点眼薬です。毎日朝晩に一度ずつお願いします。……気休めの面は強いですが、それでも少しは早く治療が進むかと」

「うぃ。今日はどうすれば良い? もう昼過ぎだけど」

「今点眼しても夜まで待っても構いませんよ。多少回数を増やしても効果が出ないだけで害はありませんので」

「うぃうぃ」

 クリスは目薬のキャップを取り出して上を向き……。

「あっ。難しい! 毛に吸われる! 地味に毛に薬もってかれる!」

 短い手である事もあってかじたばたと転げまわり、妙に苦労する。

 自分の体がこれほどまでに目薬に向いてないとは思わなかった。


「……貸して下さい」

 ヒルデは目薬を狩り、クリスを膝枕してからぽちょんと一滴垂らした。

「し、しみ! 沁みみみみみ!」

「我慢してください」

 冷たく、叱りつける様な口調。

 だけど彼女はどこか幸せそうであった。




 しばらくして……何時もの様にリュエルが見舞いに来る。

 リュエルは頭を下げ挨拶をする女医の方に目を向けた。


 理由はわからない。

 わからないが……この女医が妙に気に食わない。

 ピリピリするというか、イライラするというか。

 理由はわからないが、微量かつ微妙な不快感が女医を見る度に味わっていた。


「失礼しますリュエル様。一つ、お願いしたい事があるのですが宜しいでしょうか?」

「何?」

「こちら、クリス様の点眼薬でございます。ご自身では難しい様子ですのでその補助をと――」

「わかった。どうやってすれば良いの?」

「えっと、膝枕の様な姿勢で上から落として下されば……一番楽かと……」

「ありがとう……その言葉しかない」

 リュエルは女医に、心からの感謝を向ける。

 さっきまで感じていた不快感は、気づけばどこかに消えていた。



ありがとうございました。

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