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もふもふ元大魔王の成り下がり冒険譚  作者: あらまき


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勇者の資質とその本質


 やっぱりこの相手は性格悪い。

 そう、クリスは改めて思い知らされた。

 何時の間にだろう。

 襲い来るゾンビのバリエーションが明確に増えていた。


 まず、最初から襲ってきている基本タイプ。

 汎用型とでもいうべきだろう。


 続いて奇襲特化型。

 背後や通常ゾンビでは届かない距離からの奇襲を中心とした動きを行ってくる。

 奇襲回避後距離を取るという性質もあり脆い割に倒すのが難しい。

 反面カウンターに弱い為クレインが狙われた場合は楽に対処出来る。


 最後の高性能型。

 汎用型と同様のスペックを持ちながら攻撃力と耐久力が大きく強化された個体。

 欠点はその数位だろう。

 二、三十体に一体いるかどうか位の遭遇率であった。


 バリエーションを作るというのは戦略上非常に正しい。

 全く同一よりは互いの長所が伸び、短所を軽減できる。


 それだけなら、まあ真っ当な戦術だ。

 その何が性格悪いかと言えば……この三タイプが外見では全く判断出来ない事にある。


 ゾンビである以上体躯や腐り方といった個体差はあるが、バリエーション事の差異はない。

 つまり、蓋を開けるまでわからない最悪のびっくり箱である。

 確かに対応が遅れる以上その手法が効率的ではあるのは確かだ。


 それはそれとしてやはり性格が悪い。

 とは言えそれも当然の事だろう。

 計画の本筋に無関係なのに『フレッシュゴーレム』の外見をゾンビにする様な相手である。

 それもわざわざ死霊術まで使って。


「……結局、黒幕の計画って何なんだろう」

 クリスは誰に聞こえるまでもなく呟いた。

 無数のゾンビに襲い掛かれながら走り続けているこの状況で聞こえる訳がないと思ったのだが……。

「先生がわからないなら俺にわかる訳ないな」

 どうやらクレインは相当耳が良いらしい。

「これまでわかった感覚的に、愉快犯じゃあないと思うの。だから何か計画の目的があるはずなんだけど……」

「ああ、先生。俺からも一個質問して良いです?」

「うぃ? どうぞどうぞ。後ろからの奇襲対処した後なら良いよ」

 クレインは後ろに振り向きもせず脇から剣を通し背後の奇襲ゾンビの胴体を寸断した。


「お見事なんよ」

「どーもどーも。質問なんだけどさ、このゾンビって何時作られたかわかる? 腐り具合的に半年はかかると思うけど……」

 そう聞いて悩んだ後、クリスはその質問の答えが相当に重要な意味を帯びている事に気付いた。

 腐食の問題はそうだろう。

 だが……。

「私達が遭遇した犠牲者。私と同級生だったよ。つまり一月もまだ経過してない」

「……なんだって? じゃあ……時間は関係ないのか」

「それっぽく腐らせているだけだね。……これ、推測に推測重ねただけだけど、逆に考えてみても良いかも」

「逆と言うと?」

「数か月、場合によったら年単位かかると()()()()()としている」

「……なるほど。先生、もいっこ質問良い?」

「うぃ」

「なんか急に知能上がってない?」

「結構無理してるんよ」

 そう言ってクリスは微笑んだ。


 実際のところ嘘でも誇張でもなく、クリスはギリギリ一杯まで無茶をしている。

 出来る事を必死で考え、水の底で藻掻く様に手を伸ばし続けている。


 必要な事は全てやって、それでも尚足りないとばかりに。


 そうして、あれだけ嫌いであった眼を今では全開。

 弱体化前程ではないが、それでも今の眼なら物体の透過に力場の視認、そして相手の『名前』位なら特定出来る。

 同時に、瞳に釣られる様指揮能力と思考力も向上。

 後若干の運動能力の緩和も起きているが、誤差である為本人さえも気づいていない。

 足りない故に求め、育つ。

 それらはまごう事なき成長であるだろう。

 人本来のそれとは違う、限りなく歪んだ成長だが。


「すまんな。俺がふがいない所為で先生に迷惑かける」

 本心でそうクレインは口にしている。

 それがクリスには理解出来た。


 真っ当な攻撃手段を持たず、新入生にも関わらず口ばかり出す奴。

 そんな奴に一度たりとも愚痴を零さず心から信頼し、その果てのそんな発言。

 悔しい位に、クレインは勇者であった。


「ポイント八十なんよ」

「溜まったら何かくれない? 先生自身でも良いよ?」

「プレゼント位なら考えとくんよ」

「そりゃ楽しみだ」

 体力が削れながら、どれだけ進んでも先が見えない中、それでも尚彼らはやはり負ける気がしていなかった。




 まっすぐの道を突き抜けた先に、彼らは辿り着く。

 それは、一目でこれまでの場所とは違うと理解出来た。


 数十メートル四方の巨大な空間。

 そこにいたのは何時もの様にゾンビ。

 ただし……四つ足で翼を持つ生物の。


「『ドラゴン』かぁ」

 クリスは困った顔で呟いた。


 人類にカテゴライズされている『龍人』と呼ばれるタイプのドラゴンではなく、巨大な魔獣としての竜。

 その成れの果てが、そこに居た。


『ドラゴン』

 それは魔獣として最上の一匹。

 小さなドラゴンでも素材全てを売り払えば一生遊んで暮らせる程度の金にはなるだろう。

 当然素材としても超一流の領域であり、金属よりも硬く軽い鱗や柔軟性と耐久のバランスに優れる皮、儀式の素材に出来る程魔力親和性の高い爪や牙。

 ありとあらゆる部位が防具は当然武器素材としても優れた物ばかりで、オマケに肉は滋養強壮に長け体力精力増強の効果に加え、めたらく美味い。

 鍛冶屋でも料理人でも魔法使いでも錬金術師でも、例えどの様な職業であっても欲しがらぬ者はいない。

 ただし……上澄みにとっては宝箱であっても、それ以下の下位中位の冒険者にとっては理不尽な死神であるが


 そんな御伽噺のテンプレで、憧れそのものであるドラゴンの姿はあまりにも痛々しい物であった。

 肉は腐り果て半ば液体となってただれ落ち、どこもかしも骨が露見している。

 近づくだけでゾンビの非でない臭気に襲われ、ただ立っているだけなのに骨が砕ける音と再生する音が繰り返されている。


「むごいな……」

「うぃ。そう思うんよ。でも油断したら駄目だよ」

「わかってる。首謀者はそんな甘い奴じゃない」

「それもあるけど、あれは本当のドラゴンを使ってるから。腐ってもドラゴンなんよ」

「……流石にこのサイズのドラゴンを倒した事はないな」

 どうやらこれより小さいドラゴンなら討伐した事があるらしい。

「それは随分と頼もしい言葉なんよ」

 そう言ってクリスは微笑んだ。


「……ところでさ先生。凄い嫌な予感がしてるんだけど聞いてくれる?」

「うぃ。どうした感じ?」

「……ドラゴンゾンビの方からこう……びしびしと嫌な気配が……具体的に言えば……命が重なっている様な……」

 その言葉の直後だった。

 脇腹からずるりと、何かが落ちたのは。

 これまでの様な腐り液体と化した肉ではない。

 それは一メートル以上の大きさを持つ黒い塊。

 そしてその個体はぺちゃりと地面に落ちた後、当たり前の様に立ちあがった。


 四つ足の小さな生物、それは犬のゾンビであった。

「ゾンビドッグ……で良いかな。名前は」

「良いと思うよ」

 少なくとも、本当の名前よりは。

 その言葉をクリスは飲み込んだ。


 クリスの眼によって得られた本当の名前、それはどいつもこいつも『廃棄A』とか『外れパーツ2』とか『残骸再利用三項目』とかばかり。

 唯一名前らしい名前はドラゴンゾンビの『拠点防衛用生産装置』位だろう。

 ちなみに先のゾンビドッグは『生産品α』であった。


「さて、良いニュースと悪いニュースととても悪いニュースがあるんよ」

「おや、変化球で来たね。それじゃあ順番に頼むよ」

「うぃうぃ。良いニュースは『この奥がゴール』なんよ。あれが最後の防衛、つまりボスだね」

「それは珍しい良いニュースだね」

「悪いニュースは、うん。『ゾンビが後ろからじゃんじゃか』来ている事だね」

「そうだね。それは確かに悪いニュースだ。それで、もっと悪いニュースは何だい先生」

「ゾンビの狙いがこっちじゃなくなってるって事かな」

 ゾンビ達は、クリスとクレインを揃って素通りしていた。

「おや、良いニュースじゃないのかいそれは」

 わかった上で、クレインはそう思わせなのっかりに見せた。


 この状況で背後から奇襲をかけないというのはそれよりも良い手段があるという事。

 そうして状況を見てると……クリスが最悪と言った理由を、クレインは目撃した。


 ゾンビはまっすぐドラゴンゾンビの方に向かい、そしてドラゴンゾンビはそんなゾンビを――捕食した。

 無数のゾンビが一度に口の中に入り、飲み込まれる。

 ただでさえグロテスクな光景なのに、もっと違う言葉が二人の中に沸き上がっていた。

『燃料補給』

 それを正しいと証明する様、ドラゴンゾンビは地の底が震えあがる様なかすれた雄たけびをあげる。




 爪か、牙か、それともブレスか。

 ドラゴンゾンビがどんな行動をしてくるのかクリスとクレインは慎重に見つめる。

 そんな中ドラゴンゾンビの選択は――飛翔だった。


 いや、それに飛ぶなんて高度な能力は残っていない。

 それは、跳ぶと呼ぶ方が正しいだろう。

 つまり、ただのジャンプである。


 地響きを起こしながら大きく跳躍し、そのままフライングプレスの姿勢に。

 まあそれは、ちょっと予想していなかった行動である。


「散開!」

 ドラゴンゾンビの落下地点を見極め、クリスが叫ぶと同時に二人は反対方向に跳ぶ。

 分断される形で回避した直後に、ドラゴンゾンビはずどんと地面に落ちて来た。

 グラグラと地面を揺らし、同時にあまり想像したくない液体が衝撃で周囲に飛び散る。 

 それと同時に、ゾンビドッグも周囲にまき散らされ襲い掛かって来た。


「うわっ。これ最悪だ。敢えて自分にダメージ与えて犬ゾンビを大量に散らしてやがる」

 クレインはそうぼやく。

 さっきの一度で大体十匹前後だろうか。

 他のゾンビと違い機動力があるというだけで最悪に近い。

 ぶっちゃけドラゴンゾンビよりもゾンビドッグの方が脅威に感じる程であった。


「これ、衝撃与えるだけでゾンビドッグ出産するっぽい!」

 遠くからクリスの声が聞こえる。

 どうやら同じ結論に到達したらしい。


「面倒だ。先生は何か攻略法とか思いつく?」

「なんも!」

 そうとしかクリスは答えられない。

 勇者候補なんてこれ以上ない程優れた手札を使ってこの有様である。

 ぶっちゃけどうしようもなかった。


「もっと……もっと……もっと……」

 追い詰められたクリスは繰り返し呟き、フル回転させた頭脳を更に酷使する。

 だけど、その表情は追い詰められた人のそれではない。

 どこまでも楽しそうで……どこまでも無邪気な、子供にしか見えない笑みだった。




 増え続けるゾンビドッグの猛攻を凌ぎながら、最小限の衝撃を狙い突きを繰り返すクレインの姿をクリスは見続ける。

 指示を飛ばし、危険を知らせ、その力を最大限発揮させる様に。

 クレインは本当によくやっている。


 魔力を武具に込めるというのは魔法剣士の基本技能である。

 魔力を多少扱えれば非魔法使いでも容易く行え、また見返りも大きい。

 この学園でも半年もすれば使用者は増大するだろう。


 そんな基本技能だからこそ、努力の痕跡がわかりやすい。

 容易い事に胡坐をかかず磨き続けて来たからこそクレインの魔力はよどみなく剣に纏わりつき、更にはオーバーロードの様なオリジナルの技をも習得出来た。


 今回もまた突きに合わせ剣先に魔力を集中し、更に白の魔力で剣先を延長し威力を向上させている。

 ただ魔力を込めるだけと違いそれは高等技能に分類される。

 それを容易く行うのは、才能ではなく努力が必要になる。


 そう、本当に良くやっている。 

 それでも尚、ドラゴンゾンビの攻略の糸口はまるで見えてこなかった。


 特に問題となるのがその再生力。

 常に体のどこかが自壊する程脆いのに、ほんの一瞬で元通りかそれ以上に再生している。


 それの所為でクレインの鋭い突きが意味を為していない。

 まるで象を相手にする蟻の様な気分であった。

 いや、体躯的に言えばその位の差はあるのだが……。


 制限時間、疲労や体力、精神力。

 あらゆるリミットが近づき、限界まで能力を酷使しているクリスは頭痛に苛まれる。


 ここまでクレインを無事で送り届けたのはその眼と指揮能力による部分が大きい。

 だが、クリスの今の能力ではクレインを全力で酷使するのは相当の負担であった。

 クレインがあまりにも強すぎるからだ。

 それでも尚無茶が出来たのはクリスの『かつての経験』という特異性故。

 だがその無茶ももうこれ以上は厳しい。


 そんな状況なのに、クリスは考え続けるのを止めない。

 どうやってアレを倒す。

 いっそ無視して先に行くか?

 いや、ゾンビ犬の速度を考えたら無理だし、そんな容易い解決策を残す相手とは思えない。


 事この状況なら逃げるより倒す方がまだ可能性がある。

 それでもこちらの攻撃が通用しないという状態であり、クレインも恐らく徒労感に追い詰めれている。


 考える……考える。

 考える。


 どうやって倒すか。

 どこが欠点か。


 クリスは己が嫌うその瞳に、更に意識を集中させる。

 もうこの再成長でも封印の弱化でも何でも良い。


 とにかく……答えを得る為の力が必要だから――。


「先生! それは駄目だ!」

 クレインの叱咤が聞こえ、クリスははっと我に返った。

「えっと、何が駄目だった?」

「何かわからないけど先生から凄く嫌な気配がした。何と言うか……自分だけで何でもしようとする感じの奴だ。無茶をして潰れる人特有な感じの」

「あー……。だね。ちょっとそんな感じだっ――」

 時間差で、クリスの視界が赤に染まる。

 ぽたりぽたりと、両目から雫が。

 赤に染まった視界では認識出来ないが、それが涙出ない事だけはわかった。


「せ、先生! 眼から血が……」

「ちょいと無茶し過ぎたんよ」

 そう……元々クリスの眼はその肉体、能力を遥かに超越した力。

 封印状態とは言え黄金の魔王が含有していた全知の名を持つ瞳である。

 それを酷使したあげく更なる能力解放の為強制的に支配しようとしたのなら反動を受けるに決まっていた。


「あー。ごめん。タイムアップっぽい。眼の力弱くなっちゃった」

 これでもまだふわっとなら相手の能力が読める。

 だが逆に言えばふわっと能力を見る程度しか出来なくなった。


 それは犬の猛攻を考えたら相当不味い事なのだが……。

「大丈夫。何とかするから先生は今まで通り指示お願い」

 そう言って、クレインは微笑んだ。


 そう、これだ。

 どれだけギリギリになっても、どれだけ追い詰められても、それでも尚人の輝きを捨てない。

 だからこそ勇者は、人の希望なのだ。

 本当の意味の善なのだ。


「……リュエルちゃんのライバルは相当高みにいるなぁ。大変そうだ」

「乗り換えるなら歓迎するよ? もしくは彼女を弟子にするのもやぶさかじゃない」

「揺れるけど、先輩が強大である程私はパーティー組む気なくなるんよ」

「全く頑固な先生だ。とはいえそういう話はこれを解決してから。悪いけどもうちょっとふんばってくれよ」

「うぃ! それはもちろんなんよ。とは言えどうしようか……ぶっちゃけ手がない中無茶も出来なくなって……うーん」

「何もない? 先生が無茶しない感じで。先生はこう……何かめちゃくちゃ隠し玉多そうなタイプだし」

「ない! 眼と頑丈な体だけ! もう盾しか就職先ないよ今の私!」

「いや、何かあるはず。先生にはその知恵もあるんだからさ! というか絞り出してくれ俺もそう保たない感じなんだ!」

「わかってるんだけどなぁ……ううむ……」

「先生じゃなくて俺の秘めたる才能とかでも良いぞ! 勇者っぽく覚醒な感じで!」

「それもない!」

「まじかよ! もう何でも良い! 何でも良いから何とかしてくれー!」

 破れかぶれのその悲鳴。


 それを聞いて……クリスはきょとんとした顔をする。

 そして……。


「ああ……うん。()()()。私、視野狭くなってた」

 我に返ったというか、自分が良くある強者の病気にかかっていた事に今更気づいたというか……。

 つまるところ、眼とクレインの事しか考えていなかった。


「おっ! 何かある感じ?」

「うぃ。ところでさ、オーバーロードって使えそう?」

「無理! 絶対無理! ……いや紛い事なら出来るかな。特に何も考えず魔力を武具にぶちこんで崩壊させる。半分の威力にも満たないけど」

「まあ、やらないよりはマシかな」

「じゃあ、この借り物の剣を壊せば良いのか? だが失敗したら後がないぞ先生?」

「ううん。そんな事しないよ」

 クリスはにっこり微笑む。

 そして……。


「行けっ! 先輩! あのでっかい牙を抉り落とすんだ!」

 びしっとコッペパンみたいな手を口の中に向け、クレインは理解した。

 なるほどという気持ちと同時に、ふざけるなという気持ちが湧いて来る。

「勇者候補様を汚い上に危険な場所に平然と送り込もうと一年坊主がいるらしい」

「大変度胸に満ちた素晴らしい生徒なんよ。花丸あげちゃおう」

「そうだな! くそっ! 終わったら飯でも奢れよ!」

 クレインは軽口を吐いた後、そのまま高くに飛びあがった。

 ジャンプをし、襲い来るゾンビドッグを体を曲げて回避し、その背に乗って更にジャンプ。

 そして上の右八重歯当たりの根本を全力で、逆Vの字に切り込んだ。


「駄目だ! 刃が届かん!」

「聖水!」

 クリスの叫びの後、クレインは牙に聖水を叩きこむ。


 これまで全く動揺しなかったドラゴンゾンビの悲鳴。

 その直後、牙が地面に吸い込まれる様に落下し地面に突き刺さった。


 クリスは即座に突き刺さった牙に対し、もう一本の聖水をぶっかけた。

「牙が自己崩壊してる! 聖水のおかげで延長出来るけど一分も保たないんよ」

「オーライすぐにやる」

 両手で牙を抱え、クリスは米俵を背負う様牙を担いだ。


「先生、狙いは!?」

「次点で心の臓! 出来たら頭!」

「任せろ!」

 クレインは巨大な牙を担いだまま駆け出していく。


 脅威に思ったのか、ドラゴンゾンビは急にこれまでと動き方を変え、腕を振るい爪でクレインを狙いだした。

 クレインは転がる様に回避して反対側の腕に回り込んでその腕を踏み台とし、その巨大な背に乗った。

 更に駆け出し首目掛け登るがゾンビドッグに襲われ――。


「たー!」

 クリスはクレインを庇う様に跳び、ゾンビドッグの口にすっぽりとはまった。

「……せんせ、大丈夫なのか?」

「くちゃい以外は」

「すまん。我慢してくれ!」

 クレインは余力を捨て、全力疾走にて背をかけ、そして首でジャンプをして――。

「これで……終わりだ!」


 そのまま、ドラゴンゾンビのむき出しとなる脳部に振り下ろす様牙を突き立てた。


「オーバーロード――っぽい何か!」

 叫び、残った魔力をありったけ牙に叩き込んだ。

 魔力伝導体にも等しい牙に、勇者と言える存在の濃い魔力が叩き込まれる。

 それはもう爆弾に等しかった。


 数秒後。

 クレインが地面に着地したその直後、溢れんばかりの光の爆発がドラゴンゾンビの頭を飲み込む。


 長い時間の爆発が終わったその後、頭部のないドラゴンゾンビが姿を現す。

 そしてその場で完全に自壊し本当の意味での動かぬ屍に成り果てた。


 あれだけ居たゾンビも今はいない。

 ゾンビドッグは命令を失ったのかその場で動かなくなった。

 そしてドラゴンゾンビは完全なる死体となり……。


「終わ……ったぁ!」

 クレインは右手を掲げ、勝利宣言する様叫ぶ。

 だが体力の限界からすぐ腕を降ろし、大きく溜息を吐いた。


「おつかれー」

「おう、先生もお疲れさん」

「うぃ。その状態でも残心切らせてないのは流石なの」

「獲物倒した後が一番狙われるからな。何となく今回は大丈夫な気はしてるが」

「うぃ。私もそんな気がする。とは言え先に進みましょうか」

 クリスの言葉に頷きクレインもその奥の部屋に。

 そしてその部屋の隅に『転移効果を持つ儀式陣』を、彼らは発見した。




 転移陣はクリスの眼から見ても何かトラップがありそうにはなかった。

 だけど、どこに出るかわからないのは確かである。

 最悪『石の中に居る』状態になればクレインは確実に死ぬだろう。

 故に、乗るかどうかは博打になるのだが……彼らは転移陣に乗り陣を起動させる。

 いや、乗らざるを得なかった。

 再び人型ゾンビが襲って来る姿を見て、もうそれしか手がなかった。


 転移した先は、どこか閉鎖的な地下だった。

 洞窟の様だが扉はある。

 明りは全くないけれど、クリスの眼は部屋の様子を捉えていた。

 土壁の部屋は、まるで坑道の管理室の様であった。


 足元に転移陣はない。

 どやら一方通行の使い切りの陣だったらしい。


「……ここ、どこ?」

 クリスの呟きに両手を横に広げた。

「さぁ? ただまあ……助かったみたいだね」

「どうして?」

「それはね先生……」


 クレインが天井を指差した後、上空から爆音が轟いた。

 激しい爆音と土煙の後に、暗い地下に太陽の光が降り注ぐ。

 天井が、完全に消失していた。


 その先から見下ろす彼らの姿を、クリスは見る。

 二人の女性と一人の男性。


 クレインに負けず劣らず優れた能力を持っていそうな彼らは、クリスではなくクレインの事を見つめていた。

「なるほど。先輩のパーティーね」

「ああ。俺の自慢のパーティーだ。……あ、もちろん先生も」

「断固として拒否なんよ」

「ちっ! まあ良いか。おーい。状況教えてくれー!」

 背の低い方の女性はクレインの言葉を聞き、ヒステリックな声をあげた。

「何遊んでんのよ! こっちは大変だったのよ! ゾンビが大量に出たりとかで。だから……早く来なさい!」

 ヒステリー気味に叫んでいる様子だが、クリスには『心配でしょうがなかった』という風にしか聞こえなかった。

「はいはい」

 クレインはクリスを担ぎ、三角跳びを数度繰り返し地上に登った。


「じゃ、悪いけど先生。俺達は勇者らしい事をしてくる。そっちもそっちで関わるつもりなんだろ?」

「うぃ。一応はそのつもりなんよ」

「そうか。じゃ気を付けて」

 そう言って、彼らは立ち去って行った。


 クリスの事をクレインが先生と呼ぶからか、彼らの目はどこか怪しむ様な物であった。




 疲労した体のまま、クリスはリュエルとユーリを探した。

 とてとてぽてぽてと小走り位の速度で一年生が多くいる場所に。


 確かに騒ぎになっていてパニックになる生徒や誘導する先生達を良く見る。

 そんな誘導を逆さに進み、人があまりいない校舎の傍で、クリスは彼らを発見した。


 リュエルとユーリ。

 そして、グラディスという行方不明の冒険者の仲間二人。

 彼ら四人は合流して行動していたらしい。


 向こうもクリスに気付いたらしく、驚いた様な表情をクリスに向けていた。

「クリス君!? 無事だったんだね……良かった……」

 リュエルは泣きそうな声で安堵の息を吐いた。

「うぃ。心配かけてごめんよ」

 とてとてと彼らの傍に近づくクリスの姿は、ゾンビの液体やらゾンビ犬の唾液やらなんやらでまあ相当汚い物であった。

 一応さっと水で流したがそんなの気休めにしかならない程度。


 それだけで、クリスがどれだけの苦難を送って来たのか彼らは理解出来た。


 そうしてクリスはとてとて皆の傍に……臭くない程度に皆の傍に寄って、にっこりと微笑んだ。

「ところでそちらの学者様。どうして貴方は高位の死霊術技能を持っているのかな?」

 ルークに向かってそう一言。

 意味がわからずきょとんとするレスト、ユーリとは異なり、リュエルは即座にユーリの首根っこ掴んで引っ張り、ルークから距離を取った。


 ルークに変化はない。

 何時もの様に、狐目での笑みのままだった。

「おやおや。本当に、見るだけで理解出来るのですね」

 そう彼は呟いて……細い目を開き、クリスを見る。

 

 その目が随分とヒトデナシの、人を道具としてしか見ていない者特有の目だったから……それでようやく、残りのメンバーも最悪の事実の認識しだした。



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