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もふもふ元大魔王の成り下がり冒険譚  作者: あらまき


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奪った未来を返す為


 クレインの斬撃では、ゾンビは一撃では倒せない。

 力に自信のあるクレインであってもだ。

 だが、クリスの指示が入れば何故か一撃で切り伏せられる。

 狙いとかでなくともそれだから、指示されるだけで攻撃力が上がっているかの様に錯覚するほど、その効果は大きかった。


 クレインの眼ではこれだけの数のゾンビの猛攻を凌ぐ事は出来ない。

 どうあがいても数の暴力に押しつぶされる。

 だけど、クレインは未だ無傷のまま要られている。


 クレインの戦術レベルでは何も出来る事はない。

 良くも悪くも彼は一流の剣士であった。

 現に、ゾンビの集団に囲まれ右も左もゾンビパニック状態。

 そのはずなのに、クレインは現状自分達が有利であるという確信があった。


「先輩、こっちお願い!」

 クリスの指示を聞き、背中を向けながら前後をスイッチする。

 そしてクリスが用意したそれを見る。


 ゾンビが倒れ、崩れ、重なって動けなくなったその塊を。

 クリスはゾンビを倒す方法がない。

 いや、真っ当な攻撃手段そのものがない。

 だけどもうそんなのはハンデでも何でもないとクレインは理解出来た。


 クレインは先程覚えた理想の動きを頭の中で再現する。

 オーバーロードは使わず、白の魔力を込めるだけ。

 そうして剣をまっすぐ振り下ろし、爆発する。


 実戦であるが故に再現率は二割にも満たない。

 それでも尚、そのゾンビの塊を一撃で粉砕するだけの力はあった。


「先輩、連続で行ける!?」

「余裕だ!」

 再び前後をスイッチし、ゾンビの群れを『ブレイクバースト』でぶち壊す。


 ああ、恐ろしい。

 本当に恐ろしい。

 これだけの窮地なのに負ける気がしないという事が恐ろし過ぎて、つい楽しくなって笑えてきてしまった。


「先生、やっぱり俺のチームに来なよ! もちろん彼女も連れてさ。やっぱり惜しいよ先生の存在は」

 彼がいるならもっと高みに行ける。

 彼が居てくれるならもっと多くを助けられる。

 彼となら、平和の道を歩みながらも楽しく生きられる。

 そう、クレインは心から思えた。


「有難いけど断るんよ」

「先生は今楽しくない?」

「ぶっちゃけちょー楽しい。凄く切れ味の良い包丁を手にした料理人みたいな気持ち。もしくは玩具を振り回す子供」

 その位、クレインという手足はクリスにとって理想的過ぎた。

 クリスもまたクレインと同様万能感の様な物を感じもっと上を目指したいと思っていた。


 上を目指せる。

 強くなりたいと思える。

 そういう意味で言えば、この強敵を前に神経を貼り詰めながら、それでも尚先を目指そうとする現状はクリスの長年の願いが叶っている状態でもあった。


「じゃあどうして? ちょっとした事じゃ諦めないよ悪いけど」

「……んー。じゃあ本音を話すね」

「ああ。それが納得出来たら諦めるよ」

「本音を言えば……勇者のパーティーに入りたくない」

「それは……いや彼女は……そうか。彼女がパーティー入りしてたか。じゃあ俺もそうすれば……」

「もう一つ言うなら、リュエルちゃんも独立してくれる事を期待してる。押し切られしリュエルちゃんは大好きだけど、それでも勇者と一緒にいるのは本望じゃないの」

「勇者が、嫌いなのかい?」

「ううん。むしろ大好きだよ? だからこそなんよ」

 意味はわからない。

 わからないけど、そこにクリスの強い意思がある事だけは、クレインにはわかってしまった。

 自分が勇者を望むのと匹敵する気持ちを、持っていると。

 わかってしまったから、これ以上何も言えなくなっていた。


「俺は勇者候補である事を誇りに思ってる。だけど、今日だけはそうじゃなかったらって思ったよ」

「私としては別パーティーの方が嬉しいんよ」

「まあ、そうだね。依頼として指導をしてもらうよ」

「友達として教えるのも可!」

「ああ、それは良い。……じゃあ、俺と先生は友達という事で良いかな?」

「うぃ! 頼りになるお友達が出来て嬉しいんよ」

 そう言って、彼らは背中合わせのまま握手をした。


 ゾンビは次々と湧いて来て、危機は全く去っていない。

 このまま行けば体力か集中力が切れ押しつぶされるだろう。

 だからこそ、成長しないといけない。

 その状況をもってしても、クレインもクリスも笑っていた。

 どうにもならないなんて一ミリも思わず、かといって傲慢不遜なる神の様な自意識過剰でもなく。

 それは正しく、信頼であった。





 研究室にて、彼女は憂い、呟く。

「リーガ。君は()()ってのは何だと思う?」

 四天王序列二位、アリエス・アートラリーはそう、己の研究室に居座るリーガに尋ねた。

 居座っているというよりも、雑用兼アリエス係としてヒルデに嫌々押し込まれているという方が正しいが。


 彼、リーガの働きによりアリエスの仕事効率は二倍以上に跳ね上がった。

 元々会話をする気がない上に仕事を回すヒルデとアリエスとの相性がとにかく悪かった。

 そこにリーガを絡ませるだけで状況は劇的に改善。

 その上仕事量が増えたというのにアリエスの機嫌は前より格段に良い位で、しかも男性にとって目に毒で苦情さえ来ていた薄着も控える様になった。


 ヒルデにとってリーガは本当にありがたい拾い物であった。

 ウィードの元に返さず冒険者学園を辞めさせ、直属の部下にするにはどうしたら良いかと本気で画策する位には。


()()ですか? それはどういう意味で?」

 会話のほぼほぼ十割がゲーム関連のアリエスの意図を読もうとリーガは考えて……」

「いや、そうじゃない。言葉通りの意味だ。子供と大人という二択で、大人とは一体何か」

「ふむ……僕の意見で良いですか?」

「ああもちろんだとも。私はそれが聞きたいんだ!」

 やけに食い気味で来るアリエスに若干引きながらリーガは苦笑を見せた。

「あはは……。僕としてはまあ……子供と大人に違いはないと思いますよ。社会的責任以外には」

「ほぅ。つまりどこでラインを区切るという話ではなく、明確は違いはないと」

「はい。能力とか、年齢とか、そんなの人種や生態によって違いますし精神的なんて物を言いだしたらキリがない。そりゃあ社会的責任とかはあるかもしれません。ですが、それだけです」

「なるほどね。中々にパンチの効いた考え方じゃないか。とは言え、それで本題から遠ざかってしまったが」

「本題ですか?」

「うむ! まあ、君の持論を否定する訳ではないが、子供は大人が成長し()()ものだと仮定してくれたまえ」

「了解です。まあ、それ自体も間違っているとは思えませんし」

「その通りだ。子供が成長し、大人になる。それは自然の事である。だがもし……もしも、成長出来ぬ子供が居たらどう思う?」

「それは……どうなんでしょう。僕の持論で言えば問題ない事になりますが、実際困りますよね。仕事とか、お金とか」

「いや、そうじゃない。むしろ逆のパターンだな」

「逆って言いますと?」

「つまり……能力がある子供。大人よりも何でも出来る子供と考えて欲しい」

「ならば問題は何もないんじゃないでしょうか? 少なくとも僕はそう思いますが……」

「そうだね。社会的都合で考えたら何も問題はない。子供のままで何でも出来るんだから。ああ、そうだ。問題はないんだ。……だけど、私はそれこそが問題だと思ったのだよ。……誰もその子供を成長させようとしない事が」

 リーガはアリエスの表情を見て驚いた。

 それは何時ものアリエスの自慢げなドヤ顔でも、ゲームで気を引こうとする焦った顔でも、怒っても拗ねてもいない。

 どこか憂いを帯びた様な、諦めた様な、そんな表情だった。


「えと、どういう事でしょうか?」

「君の調べものの話だよ。私がその計画に参加した理由。封印装置を作った目的だ」

 驚きのあまりリーガは喉から何か良くない物がこみあげてきそうになった。


 ウィードから頼まれた依頼。

 四天王の中に裏切者がいる可能性が高いという情報と、それの精査。

 そして魔王封印追放劇の裏側、各自の目的。


 それを表に出した事は一度もない。

 なにせこの場にいるのは全員が格上。

 一瞬たりとも油断出来る場ではなく、僅かな欲が全てを滅ぼす。

 むしろウィードの依頼など忘れ一生懸命ヒルデやアリエスのサポートをしていた位だ。

 冒険者学園に帰らずに。


 だというのに、読まれた。

 消す……という発想が出るがすぐに改める。

 道徳的な意義以前に、そんな事は不可能であるからだ。


 彼女はゲーム好きで能力の研究者。

 だが同時に武力に優れる四天王でもある。

 勝つ負ける以前に格が違う。


 そしてこうなってしまえばもう誤魔化す事も出来ない。

 無言になってしまった時点で手遅れであった。


 だからまあ、開き直った。


「すいませんウィード学園長の命令なんです!」

「……いや、わかってるし別にどうでも良いから。これは……アレだよ。私から君への頑張ったご褒美という奴だ。……ゲーム関連以外のお礼をした方が良いって言われたし」

 最後の方はやけに小さい声だった。

「別に気にしなくても構いませんよ」

「まあ、暇つぶしついでに聞くと良い。彼……我らが尊き王のあのもふもふ姿、君が見慣れた獣の姿はどう思った?」

「どうと良いましても、可愛らしいなと」

「そう。可愛らしいんだよ! あれもあれでキャッチ―でファンが出来そうなデザインだろう! 私も何度デザインに使おうか悩んだ位だ! 上手く描けなくてなくなく諦めたがね」

「えと、それでどういう事でしょうか?」

「こほん。失礼、また脱線した。まあつまるところ……彼はあの姿のまま、変わってないって事だ。……我々が生きて来たよりも長い間ずっと。彼曰く、生まれた時からそうだったらしい」

 アリエスはそう口にする。


 自分だけが、おかしいと思った。

 誰も何も違和感を覚えないが、自分だけは。

 不老なのは別に良い。

 それだけの力がある。

 だけど、成長していないというのはまた違う。

 生まれた時から大人であった?


 そんな訳がない。

 彼は生態データ的には赤子である。


 ありとあらゆる者を撃ち滅ぼし、この世界の総数よりも強き力を持つ絶対強者。

 黄金とも称される男。


「それでもね……彼は赤子だったんだよ」

「つまり、それほどに寿命が長いという事ですか? まるで星の様に」

「ふむ。星に例えるか。やはり君は良い。センスもだが知性がある。この超! 大! 天才の私の助手に相応し――いやまあそれは後だ。寿命とかそういう話ではない。ただ単に、彼は成長する機会が与えられなかったんだよ」


 絶対の力があるから困った事はなかった。

 戦場にて戦い続けたから戦場以外はどうでも良かった。

 そして成長しない肉体に合わせて、心も全く成長しなかった。


 故に彼は、大人になる事が許されなかった。

 己の能力と、世界に秩序を満たすという仕事に追われ、彼は赤子のままであった。


「醜い……と、私は感じたよ。ああ、もちろん我が主ではなく、我々がだ。出来るからと言って赤子に仕事を押し付けてのうのうとするってのは、ちょっとばかし醜過ぎると思わないかい? そんな主人公のゲームがしたいかね?」

「……いえ、そうですね。それは同意出来ます。だから――」

「そう、だから私は封印装置を設計した。能力を抑えその上で何等かのトラブルに見舞われた時、その時こそきっと我が主は成長するだろう。そう、私は願ったのだ。我々が奪って来た時間を、僅かながらでも返せるならばと。だからまあ、私はこれ以上何かをするつもりはないよ。ヒルデとの契約の仕事をすれば、後は超! 天才! ゲームクリエイターとしての本領を発揮し続けるだけさ!」

 リーガは「あはは」と愛想笑いを浮かべた。


 若干でもゲームをしたから、リーガは理解出来ていた。

 アリエスの作るゲームは、無難に面白くないのとどうしようもない糞なのの二択しかないと――。


「まあ、だからきっと今頃……いや、止めておこう。期待して後悔するのは馬鹿馬鹿しい。もっと長いスパンで見てみるよ。学園を卒業し、冒険者になって……その間に、きっと色々あるから。我が主はトラブルメイカーだからね」

「そうですね。作るという意味でも巻き込まれるという意味でも、そう思います。友として」

 リーガは言葉にし微笑を浮かべる。


 アリエスやヒルデの思惑と異なって、リーガは学園に戻りたいという気持ちが少しだけ強くなった。

 そのついでに、その世界の中心人物でもある、新しく出来た面白い友達と語り合いたいなんて考えて――。


ありがとうございました。

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