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もふもふ元大魔王の成り下がり冒険譚  作者: あらまき


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三馬鹿トリオではない様です


 ひよこどころか卵とまで教師から言われた新入生……クリスと同期となった生徒達も少しずつだが時間を糧に成長していった。

 高貴である事を誇りとし叡智の探索に励むAクラス。

 元々冒険者としての下地がありそれを着実に伸ばすBクラス。

 鈍足ながらも確かに成長し、徐々に自覚が目覚めつつあるCクラス。

 そして明暗分かれつつあるDクラス。


 どのクラスもおおよそ例年通りの結果ではあるが、同時に全てのクラスが例年より当たりはずれが激しい傾向にあった。

 当たりは一月と経たずに英雄の卵と言える様な活躍を見せ、外れは気付けば教室から姿を消す。

 Dは何時もの事だがAでさえ、教室の隙間を作る様な事となっていた。


 そんな中で彼らCクラスの三人組。

 彼らは……馬鹿であった。

 英雄となる事もなく、姿を消す事もなく着実に成長を見せた。

 やるべき事も正しくやり、凡人でありながら秀才に並ぶだけの成長を見せた。

 ただ……馬鹿であった。


 周りのクラスメイトは彼らの事をでこぼこ三人フレンズと呼んだ。

 その位には、彼らはCクラス内で注目を集めていた。

 まあ注目されているのは彼らというよりも、その中の一人……『学者服の眼鏡の男性』が周りの目を引き付けたという方がより正確な情報となるが。

 どうしてCクラスにという疑問に加え、どうしてあんな馬鹿共と……。


 二人の平々凡々で地味な男と、狐目の女性受けする甘いビジュアルの眼鏡の男性。

 服装も学者風である事から相当の高学歴であると予想される彼は、何故か馬鹿男二人と良くつるんでいた。


「ようやく……ようやくこの時が来たぞ」

 そう、彼は口に出し四角い箱を机の上に置いた。


 彼の名前は『レスト』。

 レスト・リストラー。

 リストラー商会という小さな町商人の次男坊として生まれた彼は長男が家を継ぐにあたり邪魔にならない為家を出て、一旗揚げる為に学園に入学した。

 家に戻るつもりは全くないが、戻っても笑って受け入れてくれる程度に家族仲は良い。


 能力としては平々凡々。

 悪くはないけど長所はない器用貧乏。

 強いて他者と違う特徴をあげるとしたら性的な事への好奇心が強い事位だろうが、それも一般的な青少年らしいと言えるかもしれない。

 馬鹿だが。


「ようやく……いや、意外と早かったというべきか」

 ふっと訳知り顔にそう言葉にする男の名前は『グラディス』。

 ただモテたいからという理由だけで冒険者になったなんて馬鹿な男のテンプレート。

 にも関わらずご自慢の剣(意味深)は未経験であり、使う予定も当分はない。


 彼らは顔こそ悪くないが性格に難があるというか青少年特有の暴走しがちな所為で女っけのない生活を送り、モテない同盟とし義兄弟の誓いを果たしていた。

 まあ裏では必死に互いを出し抜こうとしている悲しい程に脆い誓いだが。


 そんな彼らの今日までの学園での成果こそが、目の前にあるこの小さな箱。


 彼らは依頼と勉強の日々の合間に『裏購買』なる組織を調べ、そして彼らとコンタクトを取りそれを手にしたのだ。

 その……エロ本を。


 そう、裏購買とは即ちモテない男達の先輩が後輩の為、そして小遣い稼ぎの為遠征のついでにエロ本を買って売る事の隠語であった。


「……お見事ですが、その調査能力を普通の方向性で生かせば彼女位出来るのでは?」

 そんな正論を言うのが三人目。


 狐目眼鏡のイケメンなんて薄い本が熱くなるモテ男。

 事実Cクラスの女性の大半が彼をイケメンと認知し、その何割かがガチ恋勢となっているとかいないとか。


 彼の名前は『ルーク』。

 こんな見た目でこれだけモテるというのに、不思議と彼の目的は『彼女を作る事』なんてグラディスと同じ物であった。

 まあ目的は同じでもおそらく理想が違うのだろう。

 自分達の様にがっついておらず余裕があって、そして性的な事にあまり関心がないから。

 そうレストとグラディスは考えていた。


「ばっかお前! モテないが故の情念舐めんなよ。俺達が普通にこれだけの事が出来たらそれこそ英雄にだってなってるっての」

「せやせや。という訳で……さっそく確認しようか。ブツの品質がどの程度の物かを。それともお前は事前に確認済か?」

「いいや。そんな事ないぞグラの字。確認は三人でって決めたからな」

「私もですか」

 ルークは苦笑を見せる。

 教室でそんな物開くななんて常識的な事を言おうと思ったが、無駄だからやめておいた。

「お前だって興味ない訳じゃあないだろ? 彼女欲しいマンなんだから」

「まあ、そうですけどね。ただお二人とはちょっとばかり情熱が違い過ぎて……」

「良いんだよどうでも。という訳で……これが俺達の手にした絆の証、一繋ぎの大秘宝だ!」

 そう言って箱を開き、中の物を顕わにする。


 そこに入っていたのは――丁寧に梱包された瓶だった。


「え?」

「へ?」

「おや、これは……」

 きょとんとした顔を、二人は見せる。


 エロ本だと思っていた。

 そのはずなのに、中に入っていたのは単なる水入り瓶。

 男二人の究極まで上がったボルテージが、すとんと底まで堕ちた瞬間だった。


「もしかして……詐欺られたのかお前? おいレスト!」

「いいやそんな訳がない。これは本物の……だけど……もしかして取り違えが……」

「これ、聖水ですね」

 ルークはそう呟き微笑んだ。

「え? エロ本じゃなくて聖水。ちょっとレベルが高すぎないかレストの馬鹿野郎。お前そういう趣味かよ!」

「い、いや、俺はもっとノーマルだ。ひんにゅーが照れる姿こそが俺の性癖! 流石にお聖水プレイは聖剣未使用の俺にもちょっと……」

 そんな勘違いをする二人を見てルークは苦笑を見せた。


「そういう隠語の意味での聖水ではなく、本物の方です。正しく言えば聖水ではなく聖水相当の効能を持つアイテムですね。最近流通しだした『エナリスの愛』という名前の。ちょっと失礼」

 ルークはビンを取り、蓋をあけ中の水を自分の手の甲に一滴垂らし確認する。

 触れた部位が心地よいだけでもう普通じゃないのに、単なる水が触媒と成れる程の魔力を放っている。

 それはもう確定であった。


「……本物の『エナリスの愛』ですね。まだ一般流通してないのに良くもまあ……」

「つまり……どういう事だ? 俺のエロ本はどうなったんだ?」

 レストはわなわなとした顔でそう尋ねた。

「えっと……どうやら貴方は本物の『裏購買』の方と接触したみたいですね」

 モテない男達にエロ本を売って小遣いを稼ぐ紛い物の小悪党である『裏購買』ではなく、本当の意味でのご禁制を売る『裏購買』。

 聖水の密売なんてのは処刑さえあり得る重罪行為である。

 それを考えたら新入生と連絡を取ってくれるわけないのだが……どうやらそっち方面の能力は存外高かったらしい。

 伊達に商会出身という訳じゃなかったという事だろう。


「そんな……そんな馬鹿な! 高かったのに……凄く高かったのに……具体的に言えば金貨一枚位」

「その時点でおかしいと思いましょうよ……」

「いや、沢山貰えるかと思って奮発して……。ため込んだ全財産が……」

「ついでに言えば俺も出資したからちょっと痛い。まあ俺はこいつほどの出費じゃあないが」

 そう言ってずーんと落ち込むレストとグラディス。


 ルークは小さく溜息を吐いた。

「わかりました。では、このエナリスの愛は私が買い取りましょう。総額を教えて下さい。情報料含む使った諸経費を込め全額払いましょう」

「ルーク、お前こんなガラクタに……俺達の為に……」

「いえ、最新の聖水で、しかも効能がまだ未解明の大神の真なる聖水ですよ? ガラクタって……」

 言うなればこれは言葉通り神の愛そのもの。

 その神の奇跡と言っても良い。

 しかも通常の聖水と明らかに異なる点が沢山ある。

 例えば、海水である為飲用に不向きとか。


 どの様な効能があるのか、どんな力を持つのか、未だ高位エナリス信者にしか出回っていないから何の情報もない。

 それを研究含む好き放題をバレずに出来る費用と考えたら、正直金貨の一枚や二枚むしろ安い方と言えた。


「まあ、ルークに損がないなら頼みたい。そして今度こそ本物のエロ本を……」

「そうだな。今度こそ俺達の手で……」

 レストとグラディスは固く握手を握り、決意を誓い合う。

 そしてルークの方を二人でちらちらと見つめ出した。

 まるで『お前を仲間外れにはしないぜ』と言わんばかりに。


 ルークは小さく溜息を吐いた。

 ルークは彼らと異なりあまり性的な事に興味がない。

 ルークにとって愛とはもっと神聖な物であり、恋人というのは運命が紡ぎ出した奇跡。

 故に、彼女は恋人を作る為なんて理由でこの学園に訪れた。


 だから彼らと気持ちを共有してはいないのだが……。


 苦笑しながら、ルークは彼らの握手の上に自分の手を置く。

 彼らの心情は欠片も理解出来ないが、彼らの事は嫌いにはなれなかった。

 親……とも違う。

 親になった事も親に育てて貰った事もないから確証はないが、この気持ちはたぶんそうじゃない。

 たぶんこれは、出来の悪い弟を持った気持ちだろう。


「さて、そろそろ気持ちを切り替えて下さいよ。今日は初ダンジョンの日なんですから」

「あいよー。金が後日で構わんから聖水はこのままルークの方が引き取ってくれ。俺達が持ってたら普通にビン割りそうだから」

「せやせや。後ダンジョンって何準備すれば良かったっけ?」

「何もいらんはずだぞ。武器もレンタルだし」

「あいあいおー。んじゃ、飯食ったらいこか」

「軽くにしとけよー」

「んじゃ小パンとスープで良いか。ルークも行こうぜ。奢るからよ」

 ものすごくさくさく話を進める二人を見て、ルークは再び苦笑を見せた。

「……普段からそれ位真面目にやってれば……」

「やってりゃ何だって?」

「彼女の一人位出来たでしょうに」

 ルークの言葉を聞いて、彼ら二人は泣きそうな顔になっていた。

 それが出来りゃ苦労はしないと呟きながら……。




 彼らは普通の冒険者である。

 準備を欠かさず、多少の金銭で解決出来るならリスクは金で解決する。

 そう、普通の冒険者だった。

 準備を怠り途中朽ち果て屍を晒る様な事もなく、例え失敗しても命だけは守り最後まで生き残る、そんな普通の(外れじゃない)冒険者。


 故に彼らは今回の初ダンジョンに辺り、救助人を雇う事にした。


 雇う事にしたのだが……。

「あの……そちらのお姉さん随分とその……不機嫌そうと言いますか……」

 レストはおずおずとそう尋ねる。


 依頼を受けてくれたのは二人。

 その内の片方である女性がこれでもかと不機嫌さを顕わにする事に、レストとグラディスはビビっていた。


「まあ、あまり気にしないでくれ」

 男の方も困った様にそう呟いた。


「あ、はい。えっと、俺はレスト、こっちがグラディスとルーク」

「ああ。俺はユーリィ。こっちがリュエルだ」

 男は困った顔で自己紹介をした。


「あの、その様子で仕事の程は……」

「それは安心してくれ。能力は十分あるし、何よりこんな事で嫌われたくはないだろうからな」

 ユーリィの言葉の意味がわからず、レストはそっと首を傾げた。


ありがとうございました。

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