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もふもふ元大魔王の成り下がり冒険譚  作者: あらまき


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木の棒位しか


 入口は洞窟そっくりの外壁に松明を敷き詰められ、兵士が睨みをきかせ冒険者達は苛立ちと焦りを抱えながら待機していた。

 少しばかり質の良くない冒険者が多いとリュエルでさえも感じ取れる程度の冒険者達。


 クリス達はそれらの列に並ぶ事なく、名前と人数を名乗るだけの簡易的な受付を終え先に進む。

 こちらを見る冒険者達の目が嘲笑う様な物であった事から、彼らはもっと上の階層をメインにしていると予想出来た。


 入口の前で、リュエルは自分の右腕につけられた時計のスイッチを入れた。

 クリスが付けたがっていたが、残念ながらクリスとの腕は時計とすこぶる相性が悪かった。

 いや、時計どころかブレスレットだろうとなんだろうと相性が悪いだろう。

 それこそ、アーティファクトでもなければ今のクリスは装備が出来ない。


「……あの人のおかげで大分時間があるね。二時間以上も潜れる」

 リュエルは時計を見て、クリスにそう伝えた。

「うぃ。まあ、今日は無理せずお試しで。ルールは守らないとね」

「もちろん。それにクリス君の体調も心配だし。ダンジョンは初めてなんだよね」

「うぃ。ダンジョンにこうして潜った経験はないんよ」

 嘘ではない。

 ダンジョン紛いなら経験があって、ついでに外からダンジョンを破壊した事はあるが正規ダンジョンの中に入った事は一度もなかった。

 

「信仰も冥府神じゃないし、魔力酔いの状況を見ないと。きつかったら早めに教えてね」

「うぃ。リュエルちゃんの時はどうだったの?」

「私はそういうのなかったよ。今の封印状態なら、もしかしたらきついかもしれないけど」

「まあ何にしても、入ってみないとわからないね」

「そうだね」

 重く頑丈な鉄の扉に、二人で手をかける。

 ぎぃぃと軋む音を聞きながらゆっくりと開き彼らはダンジョンの中に入っていった――。


 一階――。

 大広間の様になっている周辺を鳴らしの為十分程ぐるぐる歩く。

 閉じ切った空間なのに不思議と明るいが、遠くの方は暗闇の様に見えない。

 距離感が地上のそれとは異なっていた。


 クリスもリュエルも体調に問題はない。

 

 とは言えそれは当然の事と言える。

 既に何度も潜っているリュエルは当然、クリスも扱いきれない程頑強な肉体を持っている。

 初心者向けのダンジョン一階程度でどうこうなる訳がなかった。


 ダンジョン酔いが起きる兆候はなく、体調不良も特になし。

 問題ないと判断した後、そのまま正面の道をそっと進む。

 今日許可されたのはその道だけだった。


 そうしてぐねった道を道なりに進む事おおよそ三十分――。


「何も、何もない!」

 クリスはくわっとしながら叫んだ。

 明りもないのに明るいなんて何かありそうな感じの道中なのに本当に何もなく、ただ歩くだけ。

 一応敵とか出るらしいのだがその兆候もない。


 一度正面から知らない人が現れた時、盗賊か追いはぎか何かと期待した。

 だが実際はただ単に制限時間が来て帰っているだけの人だった。


 クリスは途中拾った『良さそうな棒』を振り回しながら不満を顕わにする。

 ほどよくまっすぐでかつクリスが持てる程度の重さしかない細長い木の棒。

 特に何の変哲もなく、何の背景もない。

 今のところ成果物はそれ一つだった。


「そういう時もあるよ」

 そう言って慰めた直後に――リュエルはクリスに立ち止まる様ハンドサインを出した。


「リュエルちゃん?」

 小さな声で、警戒しながらそう尋ねる。

 リュエルは正面の方を睨む様に見ていた。

「確証はない。けど……嫌な気配がした」

「そう。やっぱりリュエルちゃんは凄いね」

 遅れながらクリスも変化に気付いた。

「何かわかったの?」

「魔力が変調してる」

「どの辺り」

「十メートル位先。来るよ」

 そうクリスが言葉にするが、変化は何もない。

 少なくとも外見上の変化はなく、ただの土の道。

 誰かが来る気配もないし魔法での攻撃の気配もない。


 そう思っていると……。

「リュエルちゃん。違った、来るんじゃない。もういる。下だね」

 クリスが棒を向けたその先で、ぐにゃりと土が蠢いた。


 単なる地面でしかなかった土が螺旋の様な幾何学の様な不可思議な模様と代わる。

 それはさながらマーブリングと呼ばれる画法の様。

 不可思議な模様のままどんどん隆起し、スライムの様にぐにゃぐにゃ形を変え、そしてそれは時間かけ人の様なシルエットとなった。

 人型と呼ぶには悍ましく、無形と呼ぶには形を持つ。

 出来の悪いマリオネット、もしくは崩れたマネキン。


 もし名前を付けるなら『泥男(マッドマン)』とでもとなるだろう。


 泥男はこちらを認識しているらしく、ずるずるとなめくじの様に泥の後を残しゆっくりと近づいて来る。

 すぐ傍に出現した泥男だが、その動きは亀よりも鈍足だった。


「クリス君、どうする?」

 既に剣を構えながらリュエルは尋ね……。

「まずは私が」

「えっ。ちょ、クリスく――」

 ぴゅーっとそのままクリスは突撃。

 そして手に持った木の棒で殴りだした。


「たー」

 ぺちんぺちんと、情けない音が何度も響く。

 誰が見てもまったく効いていない事がわかり、むしろ泥男の方が困っているとさえ思える様な情けない空気となっていた。


 リュエルは内心で死ぬ程萌えていた。


「えいやー」

 今度は突きを行ってみるけどぷにんぷにんするだけで意味はない。

 わかった事と言えば、泥は以外と粘っこい性質がある事位だろう。


 ぴゅーと勢いをつけ、クリスは戻って来た。

「ごめん無駄だった!」

 楽しそうな声をクリスはそう言葉にする。

 どこかやりきった感を醸し出していた。

「ん、次は私が」

 そう言ってから、一歩て敵の傍に移動。

 まるて瞬間移動かの様な速度であった。

 そのまま即座に剣を振り一瞬で切断――は、出来ていなかった。


 手応えはほとんどなく、まるで水。

 斬った傍から完全に再生していた。


 鈍器の様な物だとクリスの時の様にぷるぷると半固形となってダメージを受けず、鋭利な刃物だと水の様に再生する。

 随分と都合の良い体質をしているらしい。

「……困った」

 リュエルは呟き、頬を掻く。

 以前ならこの手の輩は白の魔力を用いて強引に突破していた。

 だが今は封印状態でそれが出来ない。


 斬りつける事と魔力を込めて斬りつける事。

 リュエルの手札はそれだけ。

 蛮族染みた選択しか持たなかった自分に少しだけ後悔した。


「スライムとかと同じでコアがある感じかなー」

「なるほど。クリス君、魔力が濃い部分とか見える?」

「あー……見た方が良い?」

 背後から聞こえるクリスの声は、どこか困った物だった。


 それなりに一緒に居るからリュエルは少しだけ、クリスの事を理解出来ていた。

 それは手加減という訳ではない。

 クリスは何時だって全力である。

 だけど、何かが理由で使いたくない手札を持っている。


 お願いすれば、きっと使ってくれるだろう。

 だがそれは逆に言えば、お願いしない限りギリギリまで使いたくないという彼の意思を汚す事となる。

 だったらどうするかなんてのは、考える必要さえもなかった。


「いや、別に良いよ」

「ごめんね?」

「大丈夫、気にしないで」

「ただまあ、魔力を感じる感覚的には、何となくだけど背中の肩甲骨辺りが怪しい気はするかな。違ったらごめんね」

「ありがとう」

 リュエルは試しに背後に周り右肩甲骨辺りに突きを放つ。

 それでも特に変化はない。

 今度は左肩甲骨を突いてみて――。


「何か感覚が違う。だけど――」

 硬度が違うのか粘度が違うのか、明らかに違う感触がする。

 とは言え違うのは感触だけで、それ以外は他の部位と同じく貫通してもすぐ再生した。


 少し考えてみるものの……そもそも考える必要がある程の手札をリュエルは持っていなかった。

「まあ良いか。ごり押し(いつもの)で」

 押して駄目ならもっと押せ。

 そんな蛮族マインドでとりあえず感満載に、リュエルは適当な斬撃をぶちかましまくった。


「おおー。息も飲めない連続斬撃。何かの必殺技?」

「え? ううんごめん。ただの乱切り」

「そかー。おっ。上手くいったっぽいよ」

 そうクリスが言った直後に、泥が形を保てずぐずぐずと崩れ出した。

 肩甲骨の先端を切り落とす様に斬るのが正解だったらしい。


「やっぱりこの手に限る。考えるのはクリス君とかに任せるよ」

 そう言ってから剣を振りはらって泥を落とし、鞘に仕舞って――。


「リュエルちゃん。まだ早いみたい」

 そう言ってクリスは木の枝を自分の後方に向ける。


 後ろ二十メートルあたりに、先程と同じ現状が起きていた。


 たん――と、一足で飛び新たな泥男の背後に。

 そのまま抜刀一閃にて泥男を切り伏せた。


「対処がわかればこの位」

「おおー。さすがー。じゃ、次行ってみよう」

「――え?」

 今度はリュエルがいる真下をクリスは指し示す。

 先程の泥男が崩れる傍から、新たな泥男が生み出されていた。




 五度……いや最初の加えて六度程泥男を倒した後、クリスは呟いた。

「これ、何かおかしくない?」

「うん。おかしい。今更だけど、手応えがなさすぎる」

 それがどの様なモンスターにしても倒せば何かあるし、こんな連続で現れるという事もない。

 というかこれだけ隠れていたのなら、最初から纏めて出現する。


 だが今までは一度に必ず一匹という制限がある。

 クリスも一匹ずつしか魔力を感じ取れていない。

 まるで、倒した傍から復活しているみたいに。

 つまり……。


「これ、倒した訳じゃなくてただ再出現してるだけ?」

「ああ、たぶんあってる。すっと腑に落ちる感じ」

「というと?」

「手応えが敵というよりも人形とか簡易召喚獣とかのそれ」

「ほむほむ。だったら……ごめんリュエルちゃん。ちょっと集中したいから出現位置言わなくなるけど大丈夫?」

「問題ないよ」

「ありがとう。じゃ、ちょっとごめんね。大丈夫と思うけど危なくなったら助けて」

「もちろん」

 リュエルの返事に微笑んでから、クリスは手に持った枝で地面に何かを描き出した。

 魔法陣……という様な代物には見えない。

 どっちかと言えば地図とかそっちの気がする。


「枝、大活躍だね」

「拾っておいて良かったんよ。えっと……こっちからなら……でもこれだと角度が……だけどここはそんな都合が良く……いや、でも……」

 あーでもないこーでもないと地面とにらめっこするクリスを見ながら、リュエルは泥男を処理していく。


 動きが鈍重でかつ一撃で壊せる人形。

 そんな物何も怖くはなかった。


 どうしてこの沼男の情報がないのか、リュエルは察しがついた。

 こいつは対処方法がわかれば新人冒険者で何とかなる範囲の敵であり、その対処方法を自らの手段を持って調べる事もこの先に進む為の資格の一つなのだろう。

 つまるところ試験の一種である。


「……んー。あ、もしかして! リュエルちゃん!」

「ん」

「あの辺り斬って!」

 クリスが示したのは二十メートル位少し離れた先にある曲がり角、その天井付近。

 リュエルは泥男を無視して突っ走り、壁を蹴り三角跳びのままクリスが言われた天井まで跳ぶ。


 そこに色で背景と完全に同色である、靄の様な物があった。 

 大きさは手の平大位で薄い茶色の靄を放ち、茶色く輝いている。


 リュエルはその靄の様な何かを剣で刺し貫いた。


 確かな手ごたえと、霧散する魔力の感触。

 その直後に、地面で蠢いていた泥男はその場にて一瞬で崩れ去った。


「土を操作してたぽいねこれ。つまり土の精霊っぽい感じの敵だ。なるほどなるほど」

 事後分析するクリスを見ながらも残心を切らず周囲の気配を散策。

 そして特に何もなかった事に気付くと今度こそ、剣を鞘に仕舞った。


「……ところでクリス君。これ、何かわかる?」

 リュエルは土の欠片の様な物をクリスに見せた。

「んーん。これは?」

「さっきの奴が落とした」

「ドロップアイテム! そういうのもあるのか! まあ、たぶんただの魔石の欠片だろうけど」

「なるほど。まあ一応持って帰るね」

 リュエルは布袋の中にそっと入れた。

「うぃ。時間はどう? どの位ある?」

「一時間以上あるよ」

「じゃ、もう少し奥まで良い?」

「もちろん」

 リュエルの答えににこっと笑い、クリスはまっすぐ歩きだした。

「棒、大活躍だね」

 同じ言葉をクリスは繰り返す。

 棒を振るクリスが可愛くて仕方がなかった。

「うぃ。折れず曲がらず良い棒なんよ」

 リュエルはそっと微笑を浮かべ、すぐ表情を元に戻す。

 にやけ面をするのは、一人ベッドに入ってからとリュエルは決めていた。


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