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もふもふ元大魔王の成り下がり冒険譚  作者: あらまき


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面倒な王女様


 リュエルは激怒した。

 必ず、かのやさぐれ系あざといマンのユーリをボコらねばならぬ。

 リュエルに難しい話は良くわからない。

 けれどクリスきゅんの興味の対象だけは人一倍敏感であった。


 そう、ついに恐れていた事体がやってきたのだ。

 あの普段はオラオラ系っぽいのにときおり儚げな雰囲気を醸し出す姫様片思い系あざといマンの所為で、とうとう二人だけのパーティーでなくなってしまった。

 いや、それどころかあいつはきっとクリスきゅんを狙っている。

 ただの妄想だがそうに違いない。

 世には腐女子という男性同士で絡むのを楽しむ猛者もいるが、その性癖を持たぬリュエルはただただ怒りだけを感じていた。


 あんな押して駄目なら引いてなんて高度な駆け引きを(仲良くしたくないだけ)を行って、あまつさえプレゼント(筋トレ用のただの重し)まで贈りやがった。

 そう、このままでは不味い。


 築き上げた地位は揺るがない。

 ファーストパーティーメンバーは幼馴染位には強力なカードである。

 だが幼馴染だからといって安全地帯にいると思えばかっさらわれるのも世の周知する事実。

 というか幼馴染って案外弱いカードの気もすると今更に思い直しちょっと危機感を増やす。


 そう、この有利に胡坐をかかずクリスきゅんをメロメロにする為一層努力し、そのついでにあのあざといマンをボコって自分が上だと格付けする。

 そんなこんなを考えリュエルは……。


「という訳で、私はどうしたら良いか教えて」

 その相手に、何の脈絡もなくそう尋ねた。

 事前の説明もほとんどなしである為相手は当然、困り切っていた。

 というのかそもそもその相手は……。


「それで、どうして私の元に? 私、あまり暇じゃあないんですが……」

 困り切った顔でその男、ウィードは呟いた。


 男の名前はウィード。 

 ウィード・フィラルド。

 この王立冒険者養成学園フィラルドに当たる人物……つまり『学園長』である。

 リュエルから見れば気軽に声をかけられない位には偉い人で、同時にクリスとは無関係。

 だというのに、彼女は何故かウィードに相談していた。


「どうしてと聞かれても……何となく?」

「な、何となくですか」

「うん。何となく、貴方に聞くのが一番良い気がした」

 ウィードは内心で顔を顰める。

 少しだけだが、主の言う『勇者という存在の恐ろしさ』を理解出来た気がした。

 何の脈絡もなく真相に気付いているかの様に最適解の行動するこの様は、確かに不気味であった。


「そう言われても……。まあ、一般論として、パーティー同士の仲を深めるなら……」

「なら、何? メモした方が良い?」

「別に要りませんよ。一緒に冒険に行って、一緒に食事をして、お酒でも……いえ、それはまだ早いですね」

「そう、彼には早い」

「え? ……ああいえ何でもありません。とにかく、君達はまだ新入生で、そしてまだ何も挑戦していない状態です。何かに挑戦してみると良いかと思いますよ。まあ、一般論的に」

「……ありがとう。参考にする。で、それはそれとして一般論じゃない答えもあるよね?」

 ごごごごごと圧をかける様に、リュエルは学園長を見つめる。


 そりゃあるかなにかと言えばある。

 四天王序列三位のウィードが、黄金の魔王である彼の事を知り得ない訳がない。

 とは言え、それはそれで答える義理はなく……。


 ごごごごごごご……。


 いやそれどころかあのお方の正体が露見する可能性が増えるのだから言わない方が正しくて……。


 ごごごごごごごごごごごごごご……。


 というかこの子目力つっよ。


 ごごごごごごご……。


 ウィードは自分の中にあった何かがぽきっと折れた様な音を聞いた様な気がした。

「はぁ。まあ、そうですね。これはまあ、君達が冒険者としてそれなり以上に稼げた時の話です。具体的に言えば金貨より上位の硬貨を報酬で貰えた時位ですかね」

「それで?」

「一緒に買い物でも行って、ゲームでも買って遊べば良いと思いますよ」

「……なるほど。確かに、私は彼の趣味について無知だった。ありがとう。参考になった。そうか……ならプレゼントという手段もありか」

 ぺこりと頭を下げた後、ぶつぶつと言いながらリュエルは部屋を去っていった。

「……まあ……うん。頭を下げた分、前の勇者よりは礼儀正しいですね」

 そう、必死に良い所探しをするウィードは遠い目を窓の外に向けた。




 そうしてその後彼らと合流し、リュエルはアドバイス通りの提案をした。

「ふむ……。悪くないんじゃないかな」

 その提案を聞いて考え、ユーリはそう答る。


 午前中三人での相談の時間、リュエルからされた提案は『クリスと二人でダンジョンに行く』という物だった。

 提案の理由はダンジョンデートなんて下心百パーセントだが、内容自体は本当に悪くない。


 ダンジョンに行く理由自体は、正直言えばあまりない。

 少なくともユーリの目的である成り上がり一直線から考えたら、脇道に反れるに等しい。

 人気ストリーマーになるという方法もあるにはあるが博打が過ぎる上に、成功しても配信の方針次第では権力に結びつかない可能性もある。


 だが、ダンジョンの経験がないというのもそれはそれで一種のリスクであった。

 稀有な事体ではあるが、地上でもダンジョン酔いを誘発するような場所があるからだ。

 ダンジョン酔いはダンジョン経験の回数で緩和出来るし、ダンジョン環境にどの位適応出来るか知るのは今後に役立つ。

 そう言う訳で、ユーリからしてみればその提案は非常にありがたい物だった。


「ユーリは来ない感じ?」

 クリスの言葉にリュエルはじっとユーリを見つめ出した。

 それはもうわかりやすく、暗に来るなと圧をかけていた。

 ユーリは苦笑した後、首を横に振る。

「俺が行く理由がない。ただでさえ初回は入り口付近しか行けず単なるピクニックで終わる場合も多いからな」

「そかそか」

「ああ。とりあえず申請に行くぞ。こういうのは早い方が良い……って、お前ら、どこを見てるんだ?」

 会話の途中、クリスとリュエルが自分じゃないどこかを見ているのに気づく。

 そしてその視線が自分の背後である事に気付き、静かに後ろを振り向いて……。


「おはようユーリィ。随分と面白そうな事になってるじゃない」

 そう、かの主であるアナスタシア王女殿下は告げる。

 その笑みはにこりというよりもにやぁという様な、随分とサディスティック染みた物であった。


「あ、アナスタシア様!? ほ、本日はお日柄も……」

「ああそういうのは良いの。それで、随分と面白いパーティーを組んだみたいじゃない? どういう風の吹き回しかしら?」

「い、いえいえ滅相もなくて……」

 じーっと、ナーシャに見つめられユーリはあたふたとするばかり。

 逃げ腰で少しずつ離れるその姿を見て、ナーシャは溜息を吐いた。


「別に怒ってないし責めてもいないわ。だから落ち着きなさい」

「――いえ、それでも……アナスタシア様のご厚意を断った後ですので」

「どうでも良いのよ。……そうね、詫びというのなら――」

 ナーシャはユーリの手をそっと取り……銀貨を数枚握らせた。


「喉が渇いたから、これで四人分の飲み物を用意して頂戴。私とリュエルは女の子よ? ちゃんと気遣いを見せてね?」

 楽し気なナーシャに対し、ユーリは露骨に顔を顰める。

 苦しむ様な困る様な、そんな顔。

 その顔を見ながら、ナーシャはくすくすと微笑んだ。


「――行ってきます」

 そう呟くユーリの声は、苦虫を噛みしめるというのが良く似合う様な、そんな声だった。


 たったったと軽やかに走り、ユーリが去ってから……。

「さて、私の可愛いユーリィと組んだ理由を、こっそりお姉さんに教えてくれないかしら?」

「私達成り上がり隊なんよ!」

「……へぇ。あの子そんなに向上心あったかしら? 昔から『分相応に生きれたらそれで』という様な子だったのに……」

「男の子ってのは成長するもんなんよ!」

「そうなのね! 一体どういう心境の変化なのかしら。昔はもっと……」

「ナーシャ」

 リュエルのそれは、叱る様な声色だった。

「……えっと、何かしら?」

「私はあまり察しの良い方がじゃない。だから、本題があるなら普通に聞いて。あいつに内緒にしろって言うならそうするから」

 リュエルの言葉にナーシャは少しだけ、黙り込む。


 露骨な態度に焦りも見えていた。

 まだ全然知り合って間もないが、それでも『らしくない』と人に興味がないリュエルが感じる位に挙動不審であった。

 気づかないのはクリス位な物だろう。


 クリスはシリアスな空気を察知し、お口チャックした。


「……そうね。じゃあ、はっきり聞くわ、あの子には内緒にしてね」

「ええ」

「聞きたいのは一つだけ。あの子は……私を恨んでいなかった?」

「――どうしてそう思ったの?」

「私達の事情はたぶん聞いてるわよね? どう聞いたの?」

「ナーシャと一緒にこの国まで逃げて来た」

「他は?」

「特には。少なくとも、貴女の事をどうこう言ってはなかった」

 嘘である。

 自分の物にする為に命をかけて成り上がろうとする位にはユーリはナーシャに惚れている。

 とは言え、それを口に出すべきでないという位の気遣いはリュエルにも出来た。

 クリスの事を愛してからはそうだと理解出来た。


「私ね、お姫様だったの。プリンセス。小さな国だけどそれでも私はその中でお姫様。皆が傅くのが当たり前。そういう生活だったわ」

 そう言って楽しそうに、ナーシャはくるりと優雅に回ってスカートをふわりと。

 そうしてニコニコと微笑んで……。


「だから私は何も出来なかった。自由と贅沢が当たり前だった私が彼らの足を引っ張って……そして皆死んだ。彼の両親も。いいえ、アレは私に殺された様な物よ」

 そう、ナーシャは呟く。

 ニコニコとしたその笑みの裏には、自分への憎しみがびっしりと宿っていた。



 逃走の旅路は、それはもう過酷な物だった。

 役立たずは自分だけ。

 迷惑をかけるのはいつも自分。

 ナーシャだけが、お荷物であった。


 ある日、ナーシャの体力的な問題で敵に追いつかれて……彼の母がそれを庇って死んだ。

 また別の日には、疲労で倒れてしまい動けなくなって、そんな自分を逃がす時間を稼ぐ為、殿となり彼の父は敵地に単身で突撃した。


 両親しかない彼から、両親を奪ってしまった。

 彼には他に何もなかったというのに、その寄る辺を奪い取ってしまった。


「それにも関わらず、あの子は最後まで私を助けてくれた。恨み事も文句もなく。どうせあの子の事だからちゃんと言ってないでしょう。あの子は本当に、最後の一人になって私を護り続けてくれたのよ」

「……一人?」

 クリスの呟き、ナーシャは頷いた。

「そう、時に私を護る為死に、時に私を見捨て逃げ出し、そして時には私を裏切り敵に差し出そうとし。気づけば味方は誰もいなくなった。そんな状況になっても、彼は私に良くしてくれた。たった一人となっても見捨てず、その責務を全うとしてくれたのよ」

 苦しそうに、ナーシャは呟く。


 正規軍の追手を二週間以上の間、たった一人で凌いだ。

 しかも足手まといを庇いながら。

 そんな事出来る訳がない。

 だけど、その出来る訳がないを命をかけ彼はやってのけた。


 その愚かな姫以外誰も知らない、その偉業を――。


「全てを奪って尽くされて……そんな価値もないのにね。……だからそのお礼にね、私と夜を共にする名誉をあげたの。どうせもう価値もないから。……そしたら断られちゃった。はは……私には食い捨てる価値さえなかったらしいわ」

 ナーシャは自嘲気味も笑って、そして元の明るい表情に戻した。


「さて、聞きたい事はこれで終わり。もしも恨んでたら……まあ、あの子になら殺されても良いから、そう誘導して頂戴。私の命じゃ詫びにもならないだろうけど」

「ナーシャ、一つ良い?」

 リュエルの言葉にナーシャは頷いた。

「ええ、どうぞ」

「貴女、すっごくめんどくさい」

「ええ、知ってるわ。そしてそんな自分が案外嫌いじゃないの」

 そう言って微笑を浮かべる。

 今度の笑みは自虐でも嘘でもなかった。


「あ、じゃあ私からも一言あるんよ」

「ええどうぞもふもふちゃん」

「ユーリはもう前を向いて歩いてるから気にしない方が楽しいよ?」

 きょとんとした後……ナーシャは困った様な笑みを見せた。


「喜ぶべき事だけど、寂しいとも思っちゃうわね。ま、それならそれで良いわ。あの子の人生だもの。さて……話はここまで。こんな話に付き合わせてごめんなさい。次はもっと楽しいお話をしましょう。最近学園に出るらしい『マッチョを女装させようとする女装おじさん』の話とか」

「その話は死ぬ程聞きたくないかな」

 リュエルの言葉にナーシャは「えー」と不満げな表情を見せた。


 そんな馬鹿話が始まった直後、ユーリはホットココアを四つ持って戻って来た。

 以心伝心でもあるのか、そう思う位ぴったりのタイミングだった。


「別に文句がある訳じゃないけど、どうしてそれなの?」

 リュエルはココアを受け取りながらそう尋ねた。

「お前はついでだ。アナスタシア様の好物なんだよココアは。」

「そう。本当に忠臣なのね。意外」

 リュエルの言葉にユーリは顔を顰めた。


 アナスタシアはゆっくりと口に含み、そのほろ苦さを味わい微笑む。

 ちゃんと自分の好みを覚えていてくれたと喜びながら。


 ホットミルクはハチミツ多めで甘ったるい位のが好きだが、ホットココアは砂糖控えめで普通の人が苦いと感じる位が好き。

 それが彼女の好み。

 だけど、ここで彼女が笑っているのは好みを覚えてくれた事だけじゃなくて、彼の可愛らしい部分が見れた事。

 ホットココアが好物なのは『私』じゃあなくて『私達』。

 どうせ何時もの様に甘さマシマシにして甘ったるくしているんだろう。


 子供よりも子供っぽいのが好きな癖に、自分を利用して誤魔化したユーリがどこか面白く可愛くて、ナーシャはくすくすと楽し気に笑っていた。


 皆が飲み終わり、クリスの口の周りが凄い事になってナーシャはもう一度、くすくすと笑った。


ありがとうございました。

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