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もふもふ元大魔王の成り下がり冒険譚  作者: あらまき


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彼と彼女の事情


 目覚めた時、動けない様拘束されている事に男は気付いた。

 軽く手足を動かし、状況を確認する。

 椅子に座らされた姿勢で両足は椅子の脚に、両手は後ろで纏めて縛られ。


 関節一つ位なら外せるが、脱出は出来そうにない。

 ただ、目隠しはされてなかった。

 男はそっと顔を上げ、状況を確認する。


 狭く寂れた部屋で中にいるのはクリスとリュエルの二人だけ。

 場所的に学園の外かと思ったが、流石に気絶した男を外の世界まで運ぶのは難しいだろう。

 いや、外じゃなくても二人が運ぶのは難しいはず。

 だったら、誰か協力者がいたと考えるのは自然な事だ。


 まあそこは考えても答えが出る様な事じゃあないから、今考えるのはこの場所の事。

 学園内でかつ寂れた場所で、新入生であまり学内の事を知らない彼らが使える部屋。

 だったら……。


「一時寮か」

 男はそう呟く。

 という事なら相部屋のリーガが協力者なのだろう。

 それなら話は納得出来る。


 気絶させた後自分を確保し尋問する権利を得る。

 その位の権限なら彼の立場なら叶うだろう。


「おはよう。まずはごめんね? 乱暴な事しちゃった。リュエルちゃんも」

 クリスの言葉にリュエルは合わせ、ぺこりと頭を下げる。

 ものすごく悪びれてないのがわかる態度だったから、思わず男は笑いそうになった。


 男は彼らの言葉に返事をせず、静かに目を閉じる。

 誰が見ても『何も話す気がない』とわかる程に。


 自分の行動は怪しかったのは間違いないが、逆に言えばただ怪しいだけ。

 それで出来るの対応はここまでが限度。

 長期の拘束も拷問もその権限は彼らにはない。


 故に、情報を与えない黙秘こそが安定の行動となる。

 彼らと敵対するのは好ましくないが、彼らを味方とする理由も既になくなった。


「私はジーク・クリス。好きに呼んで。それで、私にどんな用事だったのか教えてくれないかな?」

 もふもふナマモノの言葉をあえて無視。

 それは気絶する原因となった『適当な法螺』への仕返しでもあった。


「……うーん。そういう態度なら、人を呼ばないといけないんだけど、大丈夫?」

 心配そうな態度のクリスに対し無視を続行する男。

 男はそれを口を割らせる為のデタラメな脅迫として受け取っていた。


 どうせ呼ぶのはリーガで、そして虎の威を借るなんとやらをするのだろう。

 そしてリーガの地位を持ってしても、出来る事なと精々数日の自宅謹慎が限度。

 その程度なら、情報など与えてやるものか。


 そういう発想だったのだが……。


「うぃ……。じゃあ残念だけどナーシャ呼んで来るんよ」

 男は驚きながら目を見開き、慌てて体を動かし椅子をガタガタと揺すった。

「ちょ、ちょっと待て! どうしてそこであの方の名前が出て来る!? 関係ないだろ!?」

「でも、君の事情には関係あるでしょ?」

「それは……それ……は……」

 良い淀んでしまった。

 そんな事はないと言おうと思ったが、突然想像していなかった名前がとんで来たショックで嘘を考える余裕さえもなかった。

 だから男は、自分の敗北を理解した。




「ごめんクリス君。どうしてこいつがあの女と関してるってわかったの?」

 うなだれる男を前にリュエルは尋ねた。

「慌ててたから」

「どういう事?」

「ナーシャと話した後尾行が露骨になったんよ。それまではもう少し慎重に尾行してたのに」

「気づいてたの?」

「うぃ」

「そか。クリス君は凄いね」

「そうでもないよ。という訳で、君の名前と、そして君の事を教えて貰えるかな?」

 クリスはやけに嬉しそうに、そう男に声をかける。

 それが無性に憎たらしくて、悔しかった。

 それでも、男に選択肢はない。

 彼女に迷惑をかける事だけは、したくなかった。


「ユーリィ。ユーリィ・クーラだ。出身は……」

「メイデンスノーでしょ?」

 クリスがそう言うと、ユーリィは嘲笑めいた笑みを浮かべた。

「何でもお見通しかよ。クソが」

「ううん。何でもじゃないよ。だからさユーリィ、君がどうして私を見ていたか、教えてくれるかな?

 楽しそうに、ワクワクした顔で、クリスは尋ねる。

 その能天気さもまたユーリィにとっては気に食わない部分で、憎しみさえ籠ってそうに顔を顰めた。


 クリスからしてみれば、ここまではそう難しい事ではなかった。

 小さな雪の国であるメイデンスノー。

 その出身である姫のナーシャと同じ様に、男の肌は白かった。

 ただそれだけの話だった。


 そしてここからが完全に未知。

 メイデンスノーと全く関係のない自分が何故ついて来られていたのか、そして自分に何を求めていたのか、クリスはワクワクが止まらなかった。

 例え自分が関係なくても、面白ければそれで良い。

 そういう意味で言えば、既に楽しいと感じているクリスの目的は半分以上は果たされていた。




「……お前ら、アナスタシア様の事どの位知ってる?」

 試す様な口ぶりで、ユーリィは尋ねて来る。

 それは相手を探るのと同時に相手に情報を与えない為という捕虜状態とは思えない舐めた態度の質問であった。


 まあ、クリスもリュエルもそれに気づきもしないが。

 強いて言えばリュエルが直感でイラッとした位。


「んー。メイデンスノーのお姫様って事位?」

 クリスはそう返事をした。

「……あの方は、目の前でご両親が殺されるところを見ている。しかも、己が守り通してきた民に」

 当時の事は、ユーリィにとっても地獄であった。




『独裁の王を廃し平等な社会を』


 そういった綺麗事でそのクーデターは始まった。

 はっきり言ってそれは、馬鹿としか言いようがなかった。

 少なくともユーリィは、あまりの愚かさにメイデンスノーの国民を見限った。


 ユーリィは知っていた。

 アナスタシアの父ビュッシュフェルト国王はその平等を目指し日々努力していると。

 王の座を退き、民が政治を行う社会を作ろうとしていた。

 そんな夢物語を、王は本気で語っていた。

 その為に、メイデンスノーはどの国よりも教育を重視した。


 王が王政廃止を目指しているなんてのは、ある程度国政に関わっていると誰でも知っている事である。

 なにせ単なる兵士の息子に過ぎないユーリィでさえもそれを知っていた位なのだから。


 だから、平等な社会なんて言ってその王を襲って来た奴らはそれさえも知らない奴らという事になる。

 知ろうともせず、誰かが『王は悪者』と言ったそれだけを信じた愚かな民という事になってしまう。

 少しでも自分で知ろうとすれば分かる事も調べずに。


 国王が与えた学ぶ機会を放棄し、国政について学ぶ事もせず、ただ日々文句だけ言って生きて来た奴ら。

 そんな愚かな国民が、大多数であった。


 そしてそんな国民よりも、国王は愚かであった。

 そんな愚民を信じ城の防衛を最小限まで削っていたのだから。

 夢物語を信じすぎて、未来に希望を持ちすぎて、国王は今に殺された。


 そうしてアナスタシアの両親は殺され、極一部の信頼出来る兵だけを連れてのアナスタシアの逃避行は始まった。

 追手はただの民衆とは思えない程苛烈であった。

 いや、途中から民ではなく明らかに正規軍人が相手となっていた。

 クーデターのバックに誰が居たか、誰も口にしなかったが何となく理解出来た。


 そうして元々少なかった兵士の数もあっという間に減り、極少数だけとなる。

 それでも、アナスタシアは何とかハイドランドまで逃げられた。

 何か月もかけた彼らの逃避行は、アナスタシアを護るという事だけにおいて見れば成功と言えるだろう。

 その屍の数を考えなければ。


 そして、ハイドランドに到着した時、メイデンスノーは滅んでいると聞かされた。

 クーデターまでして得た国は、一月も保たなかったと。

 当然と言えば当然だろう。


 メイデンスノーの国政を知る者を皆殺しにして、それでメイデンスノーが生き残る訳がない。

 あのクーデターで国王とその妻を殺したその時に、メイデンスノーの末路は定まっていた。


 ここまでが、過去の不幸。

 つまり……たんなる前提である。


「大まかに言えばこんな流れだ。アナスタシア様の名誉やプライバシーがあるからぼやかしたが、大筋は理解したか?」

 クリスとリュエルはこくりと頷く。

 途中何度か難しくて質問したけど、ユーリィはそれを丁寧にかみ砕いて答えてくれた。


「オーケー。じゃあ次だ。……アナスタシア様はメイデンスノーを復活させる事を夢見ている」

 その言葉にクリスは否定しようとした。

 あれは夢を見る様な目ではなく、むしろ諦めた目でしかなかった。

 だがここで口を開くのは良くないと思い何も言わずにおいた。


「その為に……アナスタシア様は自分を売った。亡命の条件もあるが、それだけでなく己の意思で、国の未来の為に」

 憎々し気に、怒りを込め、ユーリィはそう口にした。

「売ったって言うと、どういう事?」

 リュエルの質問にユーリィは答えた。

「太ったおっさんの愛人という玩具になる事で金銭と血を残す事を、アナスタシア様は選択なされた」

 歯が砕けそうな程噛みしめ、呪いと絶望をまき散らしそうな程目を血走らせ、ユーリィは呟く。


 つまるところユーリィの目的は……。

「ナーシャを助けたいんだね」

「当たり前だろうが! 俺はアナスタシア様の配下だ! 俺はあの方々を護る為に生きて来た! そんな方が不幸になるのを、黙って見過ごせる訳がないだろう!」

 吼えた。

 男は吼えていた。

 憎しみだけでなく決意を込め、世界を呪いながら己を貫かんと抗っていた。


 それはクリスにとって、何よりも心地の良い熱であった。


「その為に、どうするの?」

 一瞬だが、男は考え込む様な表情をする。

 だがすぐに表情を平坦な物に戻し言葉を発した。

「俺が功績を稼ぎ、捧げそんな事せずとも良くする。アナスタシア様が幸せに生きながら未来を目指せる道を作る。その為に俺は……英雄にならなければならない。だからその手助けとなる協力者を探していて、お前らに目を付けた。まあ期待外れだったが。期待外れというよりは、方針の違いか。お前らは急いでなさそうだったからな」

 そう言って自嘲めいた笑みを浮かべる。


 つまり忠義の為にナーシャを助けたい。

 その為のタイムリミットが近いから焦っている。

 そう言う事だろう。


 姫を助ける兵なんて、それはそれはとても素敵な物語でリュエルが嫌がらなければクリスは手助けがしたいと考え――。

「待って」

 リュエルはそんなクリスの言葉を予想してか知らずか止め、会話に入る。


 今のリュエルは単なる剣士で何か能力がある訳ではない。

 強いて言えば、ほんの少し勘が鋭い位だろう。

 その勘が、先の違和感を拾っていた。


 ユーリィの言葉に大筋嘘はない。

 だけど……。


「最後だけおかしい。どこか誤魔化してる。――嘘をついたね?」

 リュエルの言葉にユーリィは否定も肯定もしない。

 だけどその沈黙が、何より真実を物語っていた。



ありがとうございました。

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