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もふもふ元大魔王の成り下がり冒険譚  作者: あらまき


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ハイドランド三大がっかりスポットの一つ


「み、見習いでしかない貴方の為にわざわざ依頼を持って来てあげたわ! 当然受けるでしょ!?」

 小さな少女は同じ位小さなクリスに指を差し、そう叫んだ。


 廊下の中での騒ぎで注目が集まる。

 それでも少女は気にせず……というよりも、周りが見えていない様であった。


 少女の必死な様子。

 それを最後のキーとし、担任は事情の粗方を理解した。

 二、三年という短い期間ながらも英雄と呼ばれた古の経験に加え、教師としてのこれまでの経験。

 この二つによる推測によって。


「……あー。クリス、先に言っておく。こういう依頼は百害あって一利なしだ」

「そうなの?」

「ああ。まず、ギルドなり学園なりを通さず学生への直接の指名はマナー違反でありルール違反でもある。トラブルの元だからな。そしてその上で、何も通さずの直接の場合ってのは大体依頼人の金銭問題に直結する。要するに正規依頼する資金がないって事だ」

 少女はびくっと体を震わせた。


「更に言うなら、そういう依頼を受けるってのは先輩冒険者のこれまでの苦労を台無しにする行為に近い。何故かわかるか? ……安い給料で依頼を受けるって行為は、冒険者全体の価値が下がるに等しいからだ。食い扶持がなくなり死者さえ出るだろう」

 仕事が欲しいから給料を減らす。

 それ自体が悪いとは言わない。

 だが、それを重ねていった先は冒険者を使い潰す未来に他ならない。

 それをなくす為に、当学園の様に冒険者を護る組織が幾つも作られた。

 もちろん、悪質な冒険者を駆逐する役割も負っているが。


 つまりまとめるとこうだ。

 あらゆる意味で限りなくブラックに近いグレーの依頼であり、報酬はまるで期待出来ない。

 同情で受けたところで他の冒険者に迷惑がかかる。

 そして、この手の輩はこれまでも、そしてこれからも吐いて捨てる程現れキリがない。


「それと……他にお前が厄介な事情を持っていないんだったら、まず間違いなく海洋神エナリス関連の話題となるだろう。宗教絡みは面倒だぞー。特に弱者側はな。正しいかどうかは関係ないんだ。権威が関わると大体話が面倒でこじれる上に得がない。そう、得がないんだよ。ガキが持ち込んで来た厄介事なんてのは、未来ある冒険者にとって何一つな……はぁ」

 担任はそこまで説明してから、もうこれ以上ない程盛大に溜息を放った。


 わかっているのだ。

 長年Dクラスの様な石混交共を相手にしてきていると、本当に厄介なのは屑石の方でなく宝石の方だと、彼女は嫌な程知っていた。

 スペシャルな輩って奴は、感性どころか生きる法則も常識から外れている。

 何一つ理屈が通用しないのだ。


 勝手に生きて勝手に育って勝手に好き放題する。

 そいつらと比べるなら、無能な石の方がまだ教えがいがある位だ。


 そう……わかっていた。

 わからない訳がない。

 クリスのキラキラと輝く目を見れば、こいつがどんな行動を取るかなんて事位は。


 だから……担任教師として出来る事は……。


「……依頼受注書用意してやる。繰り返すが、報酬は期待するな」

「めるしーなんだよ」

 そう呟いてから、クリスは少女の元に向かう。

 気づけば泣きそうな顔であった少女を慰めようとするかの様に。




 担任の想像通り、報酬面は雀の涙であった。

 いや、小さ女の子が必死にかき集めたと考えたら十分に多い金額ではある。

 ただし、人を雇うには全然足りないだけで。


 だから、報酬面は空白のまま依頼を成立させた。

 学園の受付側は非常に渋い顔をしたが、それでも受理してくれた。

 この手の事はそう少なくないと言わんばかりに。


 そうして、依頼先に向かう為彼らは馬車に乗った。


 そこ居るのはニコニコの少女とその膝の上に座るニコニコの獣。

 そして無表情ながら羨ましいと嫉妬心を燃やすリュエル。

 パーティーならば共にしないと意味がないと強引に押し寄せる形でリュエルは話に潜り込んだ。


 そしてもう一人、この場にいる訳がない人物がそこに……。


「良かったの? 先輩まで」

 クリスはそう彼に尋ねた。


 彼の名前はリーガ。

 学園には六年在籍し、一時寮にてクリスと相部屋である先輩である。

 ついでに言えば、学園長の極秘指令にてクリスの様子を見張ってもいる。

 見張るというか、見守るという方が近いが。


「うん? ああ、構わないよ。何やら楽しそうじゃないか。丁度休みの時期でね、暇だったんだよ」

 本を片手に微笑を浮かべ、リーガはそう答える。

 当然、全て嘘である。


 クリスの依頼の為であり、同時にクリスという個体に興味を持つリーガは本日行われる筆記テストをブッチしてまでこっちに参加していた。

 とは言えこれでどうにかなる事もないとリーガは高を括っている。

 学園長の依頼という建前に勝るものは存在し得ないからだ。


 そんな微笑を浮かべるリーガの横顔に、少女はぽーっとした憧れの様な目を向けた。


 儚げで美形で、だけど自信に溢れている様で。

 彼は吟遊詩人が語る乙女向けのお話の主役の様に美しかった。

 獣人の魅力が力強さや野生に依存する事を考えれば、リーガの様な儚い美形は非常に稀なケースと言えるだろう。


「でも、良いの? こういうのは受けるだけで迷惑がかかるって言ってたけど?」

 クリスの質問に、リーガは苦笑で答えた。

「先輩としてのアドバイスだ。冒険者って生物は、大なり小なり迷惑をかける生物だ。それ以上の功績があって許されてると言い換えても良い。つまり……」

「つまり?」

「好きに生きて良いんだよ。駄目なら潰されるだけだ」

「なるほど! そっか!」

 何を納得したのかクリスは満面の笑みで頷いた。

 それを見てリーガも満面の笑みで頷き返した。


 若干のジト目で、リュエルは嫉妬の範囲を広げた。



 ハイドランド王国は三つの大国の丁度緩衝地帯。

 完全に大国に囲まれたなんて通常ならば道にされかねない最悪の立地をしている。

 その場所であっても武力を背景にし三つの国全てと対等に渡り合い、それどころか文化を吸収しながら経済発展までしている。

 故にハイドランドは、世界で最も安全な国であった。


 とは言え、ハイドランド王国は安全ではあっても完璧でもなければ無敵の国でもない。

 戦力的に言えば大魔王補正にて無敵だが、それは使ってはいけない禁忌の力の様な物。

 簡単に使う事は出来ず、更に言えば戦力以外ではハイドランドはそれほど優秀ではない。

 特に政治的駆け引きについて。

 ヒルデというトップはこれでもかという程有能であり、三大国の王にさえ勝る。

 だけど、優れているのはヒルデだけで、それ以外は三大国にまるで届いていない。

 技術や知識はともかく、マンパワー。

 これだけはもうどうしようもなく、ハイドランドはスパイ行為がある事を多少見逃してでも人材を輸入しなければならない程であった。


 ただ、ここで語りたい『ハイドランドの足りない部分』というのは国同士のパワーバランスとか政治的情勢とかそういう複雑な事ではなく、純粋たる地形の話。

 三大国に囲まれきっているという事はつまり、ハイドランド王国にはこの国にのみ存在しない物がある。


 つまるところ……『海』。


 内地であるハイドランド王国には海がなく、それ故に海洋資源の入手が難しい。

 特に真珠の値段は三大国に露骨にボラれ他国の二倍や三倍の値で市場に出回っている。

 そして海がないという事は当然……エナリス信仰も弱いという事となる。

 海が中心の神であるのだから、海がない限りその恩恵は非常に薄い。

 信仰が乏しいのもしょうがないと言えるだろう。


 そんなハイドランドにも一つだけ例外的立地が存在している。

 そう……なんと内地であるはずのハイドランド王国にも海があるのだ。


 それが今クリス達が向かっている場所である。


 首都リオンから直通馬車にて四、五十分。

 周囲に何もない未開発地帯にぽつんと存在するおおよそ五メートル程の小さな水たまり。

 なんとこれの分類は水たまりでも小池でもなく、海であった。


 理屈や理由は誰にもわからない。

 これの底がどうなっているかの不明。

 だが、このプールよりも小さな範囲の水たまりは海水であり、時折海の生物がひょこっと顔を出す。


 ここが有名なハイドランド三大がっかりスポットの一つ、『世界一小さな海』であった。


 わいやわいやと十数名位の観光客達が楽しんでいた。

 普段は一日四人も来れば良い方だから、今日は珍しく人の多い日であった。


 本当に小さい。

 人工小池じゃん。

 なんで来たんだろう。

 あー笑った笑った。

 土産もちっさ。


 そんな馬鹿にする声の方を、少女は唇を噛み悔しそうに睨みつけていた。



ありがとうございました。

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