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もふもふ元大魔王の成り下がり冒険譚  作者: あらまき


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人を慈しみ愛する白の神


『神卓議会』


 それは神々が争う事は不本意であると判断し、対話にて問題の解決を志す会合の一種である。

 とは言え、過半数の神が当事者になるという一大事件の時にしか開かれないが。


 荘厳ながらもどこかわびさびの様な風情と気品あふるる四つの銀席。

 豪華絢爛で格式高い三つの金席……とは言え、今は一つ空席となっているが。


 基本的に冥府神クトゥーは議論に参加しない。

 その知能と未来予知に等しい推理能力からわざわざ現場に参加せずとも一通文をしたためるだけで済む話であるからだ。

 いや、もっと根本の理由を言えば、彼はその処理しなければならない仕事の量から仕事場を離れる事が出来ない。


 冥府を司るという事は死を司るという事。

 即ち人間という生物の死そのものが彼の仕事となる。

 年がら年中戦争して殺し合う生物の死を司る神。

 忙しくない訳がなかった。


 最後の一つは、小神の銀席よりも気品があり、大神の金席よりも雄々しい。

 一際大きく作られたそれは、一目で特別とわかる王席。

 その席に彼、人の王たるクリストフが座っていた。


 ただし、色だけは不思議と地味な物だった。

 その王席の色は灰色。


 とは言え、それにも理由はある。

 白にも寄らず、黒にも寄せずという、神の思惑が。


「さて……議論を始める前に、この議論に参加するに相応しくない者がいる。そこから始めようか」

 足を組みながら、まるで見下すかの様にユピルは囁く。


 その瞬間、神々の視線は一つの銀席に注がれる。

 クリストフもその席の方に目を向けた。


 その瞬間だった。

 見つめられた神が席を立ったのは。

 そして静かに、おもむろに……ポージングを取り出した。


 自分の手首辺りを掴み、ぐっと力を入れて上半身の筋肉を膨張させぱぁーんと破裂音を出し上着を爆散される。

 所謂『サイドチェスト』と呼ばれるボディビルのポージングを、その神は堂々と行っていた。


 確かにまあ、ユピルも半裸だし神々の世界において露出というのは地上よりも遥かに多い。

 それこそが神性の一つとさえ感じられる。


 だけど、これは何か違う。 

 これは神性とか荘厳とかそういうの一切関係なく、ただ単純に筋肉を自慢しているだけだった。


 クリストフの様な調和のとれた完璧と異なり、それはどこまでも磨き上げられた肉の厚み。

 戦う為でない筋肉であるからこそ、それは恐ろしくボリューミーであった。


「アテクシは……誰よりも美しい!」

 その上半身裸の神はそう叫ぶや否や再び別のポーズを取る。


 上半身を見せつけたから次は二の腕とばかりに両腕を持ち上げると。


「良いから、話を進めろ阿呆」

 呆れた顔のユピルに言われ、酷く残念そうな顔でポージングを止めた。

「そうね。アテクシのイカしたマッソゥ! エェンド! ビューティワールゥド(巻き舌)を開くにはこのお話の時間はいささか短過ぎるものね」

 外見や声帯は男性のそれだが、その神の話し方はどこか女性に近い。

 どこか甲高く、そして何故かおねぇ口調。


 神である以上性別に囚われる必要性は薄い。

 薄いのだが、むしろこの神は性別を自己主張している様だった。


 男としての美しさ。

 女としての美しさ。

 両方を兼ね備える己こそが、最も美しき神である。

 つまり自称美の神である。


 筋肉粒々でかつメイクがバッチバチのいかついお姉口調。

 これが美の神だったら世界の美は悍ましいという言葉の代名詞となっていた事であろう。

 そんな神の髪の色は――白。


 こんなトンチキの極地とも言える色物こそが、人類に最も優しく、人類に最も寄り添っていると言われる白の神ホワイトアイであった。


 神々の中で、彼(彼女?)だけ特別な事情がある。

 彼(彼女?)は願いより生まれたとされている。

 そして。それは事実であった。


 人々の願いより生まれた最新の神。

 つまるところ、ホワイトアイは人より生まれし唯一の神という事である。


 ただし、ホワイトアイの姿を人々は知らない。

 おおよその似姿が絵画となり展示されている大神とは異なり、小神は己の姿を地上に残す程の力を持たないからだ。


 まあ、ホワイトアイの場合はそれだけが理由ではないが。

 小神であっても、うまく波長の合う人間が見つかった時夢を通じ干渉する事が可能である。

 特に人々と密接な神であるホワイトアイの場合は波長が合いやすく、啓示を下した回数も既に百を超えている。


 あくまで夢という形だが、それでも直接その姿を見せられるのはホワイトアイが人の神であるから出来る所業であった。

 そんな事をしているのだから、地上にその姿が出回ってもおかしくないだろう。

 だが……残念な事にその夢を見た人のほぼ全員がホワイトアイの姿を神ではなく変態として受け取り、最終的に啓示は『うなされる様な悪夢』として切り捨てられている。


 数百の啓示は一度たりともまともに受け取られていない。

 ただ彼(彼女?)は、愛する人々の夢の中で己の美を小三時間程見せてあげただけだというのに。


 そういった事情で、ホワイトアイの本当の姿を知る者はこの世界で唯一、クリストフだけであった。


「さて、少しお話をしましょうか。アテクシはその為にこの場に参加しているのだからね」

 そう言ってホワイトアイはぱちっとウィンクをする。

 おぞ気さえ走るその姿にもクリストフは一切気にしない。

 それどころか……。


「ああ。貴公の様な美しき者と話すのは私としても好ましい」

 そんな事を口にする。

 これは冗談や皮肉でもなければ建前でもない。

 クリストフはこの世界において数少ない、ホワイトアイと美的センスを通わせられる人間であった。


「嬉しい事を言ってくれるわね。諦めたのが惜しくなっちゃうわ」

「諦めた?」

「ええ。アテクシはこの争奪戦に参加しない。リタイアというよりは、別に欲しくないという方が正しいけれど」

「ふむ。貴公にとって私は魅力的ではなかったと」

「語り合うには至上。故に信者に向かず。そう言う事よ、美しき人」

「ふむ、美意識と言う事か」

「どっちかと言うとただの趣味よ。アテクシ最初から完璧な人に興味がないの。未熟を育てる事こそが人の美しさだもの」

「なるほど。流石勇者の生みの親。知見が深い」

「おーほっほっほ! アテクシほど人に優しく麗しく美しき神はいないもの! でもね、美しき人。一つだけ訂正するわ」

「ふむ?」

「アテクシは勇者を管轄している。けれど、生みの親はアテクシじゃないの。勇者の歴史はアテクシよりも古いもの」

「では、誰が勇者という制度を、勇者という英雄を?」

 静かに、ホワイトアイはその席を指差す。


 クリストフの座る席を。

 灰色とくすんだその席に本来座っていたのは……。

「ああ……彼女か。失礼した。訂正し謝罪しよう」

「別に良いのよ。もうどうでも。でもまあ、話の区切りには丁度良いわね。本題に入りましょうか」

 ホワイトアイがそう言葉にし、クリストフは小さく頷いた。


「まずは感謝を。良くパーティーを組んでくれたわ」

「ん? ああ……彼女か。やはり貴公は彼女、リュエルを見ていたのだな」

「ええ。見ていたわ。でもね、勇者候補生だからじゃない。というか勇者候補生(あんなの)に私は全く興味がないわ。勇者ってのはそういう物じゃないもの」

「一理どころか百理ある。全面的に同意しよう」

 勇者に対し一家言あるクリストフはこれでもかと盛大に同意する。


 クリストフは今封印が解き放たれ能力が完全開放されカリスマ溢れる状態だが、それでも中身自体はあのもふもふの頃とそう変わらない。

 あの性格は封印故ではなく地百パーセントである。

 だからだろう。

 溢れ出る才気にて上手く隠してはいるが、ところどころポンコツたるボロが零れ出ていた。


「アテクシがあの子を見ているのは違う理由。ただ、その事は大切なプライバシーだからこの場じゃ言えない。あの子の秘密をばらすなんてあの子の味方じゃなくなっちゃうわ」

「なるほど。……彼女が白の権能を持つのは、それほど貴公があの子を認めたからで……」

「ううん。偶然と才能。あれはあの子が運悪く持ってしまっただけ」

「運悪く?」

「ええ。これ以上は言えないけれど、その所為であの子は不幸になったとも言える。だからこそ、ようやくあの子が幸せになれそうだから貴方に感謝をしてるの、あとね、伝えて欲しい言葉があるの」

「……それは構わないのだが、その様な方法で干渉するのは神としてのルールに反するのでは?」

「それを許してもらう代わりに、アテクシは議会を降りたのよ。とは言え、そう難しい話を託す訳じゃないわ。あの子には自由に生きて欲しいし。だから、敢えて声をかけなかった訳だし」

「自分以外を信仰しても構わないと?」

「前も言ったけれど当然よ。あの子が自由に生きる事。それこそがアテクシの願いよ。だから伝えて欲しい一つ目は『自由に生きなさい。世界が否定しても、貴方の愛を白の神は肯定する』と」

「一つ目、承りました」

「ありがとう。それともう一つだけど……あの子のプライバシーに関わるギリギリだからここまでしか言えないけど……」


 ホワイトアイはいきなりポージングを取り出した。


「『アテクシは貴女を思っているわ! アテクシの事をパパンともママーヌとも思いなさい!』と伝え――」

「失礼。おぞま……気持ちわ……不気……フランク過ぎるのは神の沽券に関わりますでの、少しばかり伝える内容を改稿させていただきますわ」


 口元を抑えながら青ざめた顔で、エナリスは言葉を介入させる。

 クリストフとホワイトアイの一対一での会話というルールに接触しかねないというのにエナリスが間に割って入ったその行為の背景は、海洋神エナリスらしからぬ事に純度百パーセントの善意であった。


 もしも自分が人間で、そして勇者たる存在が最も尊敬する美しき神の姿が『アレ』だと知れば自害しかねない。

 そう思うからこその、彼女ならではの親心ならぬ神心であった。


 ちなみにだが、白の神ホワイトアイは地上では美しき銀髪の男神女神二柱セットの神であるという説が最も有力となっている。

 だから勇者信仰の場や白の教会では若き男女の神が対で描かれていた。

 その二柱は兄妹という説も夫婦という説もある。

 実体が二つを足して割らない姿というのだから喜劇を通り越して悲劇となっているが。


「ふむ。まあ、貴女程の神様が言うならしょうがないけど、どう改変するの? アテクシのこのパパンアンドママーヌ心を満たせない改変は納得しないわよ!」

 マッスルポーズに若干のくねりを加えながら、ホワイトアイは叫んだ。

 エナリスは更に顔を青ざめさせながら微笑んだ。


「そうですね。『私はリュエルの事を我が子とも思っています。どうか幸せに。それだけが、私白の神が貴女に対し願う事です』というのはどうでしょうか?」

「うーん言い回しがまあまあエレガントね。それならギリギリで妥協して認めてあげても良くってよ!」

 ぴきぴきと青筋立てながら、エナリスはにっこにこと笑顔を。

 それは、女性って本当に怒るととても良い笑顔になるんだなと言う事が、良くわかる姿であった。



ありがとうございました。

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