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もふもふ元大魔王の成り下がり冒険譚  作者: あらまき


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信奉者


 今回の問題について非常に、馬鹿馬鹿しい程に根本的な勘違いをクリスはしていた。


 今回の問題の相違点は、加護を受けられない事ではない。

 それだけならば、何とでもなる。

 クトゥーも加護についてだけならば、きっちりアフターサービスを行おうという意思自体は持っている。

 アフターサービスというよりも、神としての矜持と呼ぶ方が近いが。

 そう……神はクリスに対し矜持を持ち出さなければならない。


 大魔王ジークフリートは、冥府神クトゥーよりも強いのだから。


 人にとって死そのものであるこの部屋に、クトゥーそのものとも言える空間に、彼は生者のまま平然と出入りする。

 その事実にクトゥーは屈辱と憎しみに怒りをぶちまけた様な感情を覚えていた。


 高級レストランのシェフの前で、完璧に整えた料理にタバスコをたばたばかけながら説教されていると言えばその感情もわかるだろう。

 それでも、その事も彼への感情も顔には出さない。


 強者を称えるという神としての矜持と、己が役職に対しての誇りが、彼を衝動のまま愚かな事をしない様制御していた。


 その矜持により、クトゥーはクリスの願いを叶えるという意思自体は持っていた。


 だから……問題はそこではない。

 もっと根本的な部分に、その問題は隠れている。


「どうにかする事は出来る。だけど、それを君は望むのかい?」

 クトゥーの言葉に、クリスは首を傾げた。

「どゆこと?」

「君は我々に、特別扱いされたいのかって事」

「それは嫌」

 迷わず、クリスは断言する。


 そう、これがその根本の問題。


 他の誰でもなく、クリス自身が、この問題を解決策を拒絶している。

 特別扱いして加護を与える事は容易い。

 人々用に広く振りまいているそれではなく、直接的に加護を与えれば良いだけなのだから。


 もしもそれさえはじく様ならば、加護を与えた腕輪なりを渡せばそれで終わる話である。


 だけど、それで納得しない事をクトゥーは知っている。

 過去視の権能により、その過去を盗み見たクトゥーは。


 だが逆に言えば……加護そのものを与えなければ良いという話でもあった。


「一つ、解決策がある。聞いて貰えるだろうか?」

「うぃ。お願いするんよ」

「ああ。と言っても、難しい話ではない。教会で君に加護が渡せなかったのは、君は既に上位の契約を結んでいたからという事にする。つまり……我が『信奉者』とならないか? むろん、形だけだがね」

 訳がわからないとばかりに、クトゥーは首を傾げた。


『信奉者』

 それは契約者(コンダクター)とも呼ばれる上位信者の名称である。

 通常の信仰の様に神への一方通行とは異なり相互の契約であり、そしてもっと直接的に神と契りを結んだ者を表す言葉である。


 例えば、一族代々特別な墓守である。

 例えば、大教会の管理を受け持つ長。

 また例えば、神に見初められた英雄。


 特別な契約により、他の信者よりも神との繋がりが密接となった者の事を、信奉者と呼ぶ。

 通常の信奉者の場合は他の信者よりも強い加護が与えられるのが当然なのだが……。


「あくまで与えるのは、名前と身分だけで、特別扱いはしない。だから加護は与えず名前だけ。つまり『縛りプレイ』の一種だね」

 ぴくりと、クリスの耳が動く。

 ぴこぴこと、露骨に興味を持っていた。

 そう……クトゥーはクリスの過去を覗き見ている。

 だからこそ、クリスが興味を引く言葉を知り、敢えてその言葉を使っていた。

「ほ、ほほー」

「更に言えば、信奉者には神に命じられた使命を果たすという義務がある。つまり……強制参加型の依頼(クエスト)だね」

「なんと」

「そう。立場は与えられるのに恩恵は一切ないという縛りプレイで、しかも勝手にやりたくもない義務まで押し付ける。艱難辛苦だけを与え恩恵を出さないなんて、なんと酷い事だ。私なら人間だったら絶望しその命を絶つだろう。……で、やるだろ?」

「うぃ、前向きにがんばりたい所存です」

 ぴしっと手を上げクリスは宣言する。


 良い意味で特別扱いせず、悪い意味で特別扱い。

 それこそがクリスの望みであった。

 まるで、艱難辛苦そのものを望んでいると思う程に。

 実際は少し違うのだが……少なくともクトゥーはそういう風に扱う事が正解だと思っていた。


「さあ、話はこれで終わりだ。こちらで手配は整えておく。今日より君は私のしんぽ……ああ、くそっ。最悪だ……」

 クトゥーはやっと面倒事が終わったと一瞬笑顔になったのに、すぐその顔は落胆に染まった。

「何かあったの?」

「ああ……あったよ。面倒な事が……。やっと仕事に戻れると、厄介者を追い返せると思ったのに……」

「そう言う隠さないところ結構好き。それで、何があった感じ?」

「他の神々の介入だよ。その行為は冥府を司る神として相応しくないという弾劾。……という建前を使った神々の牽制がね」

「えっと、どういう事?」

「そうだね。今の君にわかる様に説明するなら……『それは狡いだろ』と他の神達(あいつら)が言い出したって感じ」

「ほむほむ。なんで?」

「だって君、どの神も信仰してなかったでしょ?」

「うぃ」

「その君が信奉者になるなんて狡い……というのが彼らの心情らしい」

「つまーりー?」

 この説明でもわからなかったクリスに、クトゥーはもっと雑な説明を贈った。

「神々の大ドラフト会議。見事優勝者にはもふもふ大魔王の神となる資格がプレゼント」

「なるほど! 神様って暇なの?」

「お前書類(これ)見てそれ言えんのかよ」

 今までの敬語が全て消し飛ぶ位には、クトゥーは切れていた。


ありがとうございました。

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