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もふもふ元大魔王の成り下がり冒険譚  作者: あらまき


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黄金議場


 ここではない、どこか遠い場所。

 空間としては存在しているが、この世界に実在しているのかどうか定かではない。

 神域ほど聖なる物ではないのだが、人が住まうにはあまりにも神秘的過ぎる。

 不可思議でかつ、理解不能な場所。

 そこに立ち入れるのは、強者のみ。


 彼らはそこを、『黄金議場』と呼ぶ。


 暴威とも言えるだろうか。

 その場に流るる空気は、もはやそういう代物だった。


 全員が無言である。

 それでも、それは静寂とはまるで異なっていた。

 荒れ狂う感情と魔力にて牽制しあっているとわかる程度には、彼らの間には緊張感が走っていた。


 ある者はわかりやすく睨んでいた。

 心からの憎しみを込めて、殺意を隠そうともせずに。 


 ある者は誰も観ず、ただ不敵に笑っていた。

 己こそが頂点であると自賛する様、他者を見下しながら。


 またある者は仮面の裏で憎悪を高めていて……。


 この集いに参加した彼らの間に一切の友情はない。

 故にその関係性は敵対者と呼ぶのが最も相応しいだろう。


 そんな彼らの間には、たった一つだけ、共通点があった。

 大国の王から孤独な孤島の主まで幅広いが、皆揃って為政者と呼ぶに近い立場の者達だ。

 だが、そこではない。

 為政者に等しいが為政者でない者も混じっている為、それが共通点とはならない。


 もっと単純な、彼ら『だけ』の共通点が存在していた。


 即ち……『魔王』。

 この場に集いし九人(くにん)の強者は、魔王十指と呼ばれる、この世界の頂点たる存在。

 そして今この場に彼らが集う理由はまさにそれだった。

 集いし数が十ではなく九である事。

 それこそが、この場に彼らは集うべく理由であった。


「助けるべきです。ええ……あまねく神の愛が、それを望んでいるのですから」

 清楚という言葉が似合いそうなうら若き乙女は、祈る様両手を握りそう言葉にした。

 その外見通りの内面でないと知るからこそ、ピリッとした空気がその一言で発生していた。


 修道女を豪勢にした様な服装。

 もしくは、女王のドレスを宗教的にした様な恰好。

 彼女の服装はそういう物で、それ故にその立場もそうであると想像しやすかった。 

 宗教のトップと国のトップを兼ね備えていると。


 誰も何も話していないのに、本題さえもすっ飛ばし結論さえも無視して、目的だけを口にする。

 故に、その中身が外見通りの物ではなく腹黒いと誰もが理解出来ていた。

 その言葉は純粋な綺麗事であるのは確かだが、心の底にある欲望は隠しきれていなかった。


 三つの大国の内の一つ……『フィライト』。

 その『宗教統治国家フィライト』の統治者である女教皇、それが彼女『カリーナ・デ・リア=フィライト』である。


 カリーナの主張に対し、大国の一つ、騎士国とも言われる『ヴェーダ』の若き騎士王は苦笑を見せた。

 騎士王ヤー・ゴドウィン。

 彼は外見だけはうら若き乙女であるカリーナと異なり、本当の意味で若い。

 あまりにも若い為、ヴェーダの名が背負えなかった位に。


 大国の名を背負う事。

 それはそのまま国の顔になるという事。

 実力もあり、民に認められても威厳が足りぬなんて理由で、王でありながら彼は『ヤー・ゴドウィン=ヴェーダ』と成れていなかった。


「もう少しその腹の底を抑えてはどうだろうか? 美しき教皇猊下」

 ゴドウィンの嫌味をカリーナは微笑みで受け流した。

「おや? どの様な意味でしょうか騎士王様。まるで意味がわかりません。私はただ、救いを求める声に従っただけなのですが……」

 ニコニコと、聖人君子の仮面を被って。


 そんな事しなくともカリーナの腹の中が真っ黒な事位ここの皆が知っている。

 それでも尚、カリーナはその仮面を剥ぐ事はない。

 例え建前であっても、その正しい事をするという建前の仮面の効果が強力であるという事を知っているからだ。


 正しい事に逆らう事は非常に難しい。

 正しい事に逆らう事は悪い事。

 だから、正しい自分に従え。


 そんな風に、正義という棍棒で相手をぶん殴るのがカリーナの交渉スタイルであった。


 彼らが火花を散らし話し合っているその本題、カリーナの言う『助けたい人』というのはハイドランド王国の民の事である。

『大魔王ジークフリートの追放』

 それが事実かどうかの確認とそれによりどうするかを話し合う事がこの議題の主な内容であった。


 ハイドランドという国は、立地で言えば最悪を極まりきっている。

 なにせ大国三つ全てとの境目、所謂緩衝地帯だからだ。

 普通の国だったらどうあがいても蹂躙され国なんて体を為さない。


 紛争地帯にしかなり得ないからこそ、もはやその場所そのものが厄介事である。 

 そんな場所なのに最も平和な国であり続けられたのは、大魔王ジークフリートの威光に他ならない。


 だがもし、その威光がなくなるとどうなるか。

 ……考える間でもない。

 ハイドランドは、大国に蹂躙されるたんなる道でありトロフィーと成り果てる。


 だからこそ、カリーナは声高らかに叫んでいたのだ。

 彼らを救わねばならぬ、厄災を退けなければならぬと。


 まあもっと直接的に言えば『私の物だからお前ら手を出すなよ』と二大国に圧力をかけていた。


 つまるところ『ハイドランドを削り取る事』がカリーナの狙いであった。

 鬼のいぬ間になんとやらと。


 一方ゴドウィン……というより騎士国ヴェーダは今回の大魔王ジークフリート騒動については『静観』するというスタンスを取る予定だった。

 そりゃあ、取れるのなら取りたいとは思う。

 ハイドランドという土地は頭が痛い程に邪魔である。

 ほんの十キロ……いや、五キロだけでも削り取れたら国の防衛的にかなり楽になるだろう。

 それこそ、年間の防衛予算が一割近く削れる位に。


 だけど、ヴェーダにはそれを実行出来る程の情報がなかった。

 恥ずかしい事に、大魔王が追放されたという情報さえこの招集されるまでゴドウィンは知らされていなかった。


 逆に言えば、これだけ派手にマウントを取り動くぞと脅しているカリーナは大魔王追放についての確証と確たる情報があると考えて間違いないだろう。

 ゴドウィンは戦う前の情報戦から既に敗北していると理解し、苦々しい気持ちを押し殺した。


 とは言え……宗教キチ(フィライト)にハイドランドを削られるのは好ましい事ではない。

 他国が有利となるのは自国が不利となるのと同じ。

 特にフィライト……というか女教皇カリーナは見ての通り欲しがりさんである。


 こんな国にハイドランドをかすめ取られ、マウントを取られたらどうなるかなんて考えたくなかった。

 だからゴドウィンは残りの大国を話しの舞台に上げようと会話を降ろうとして……。


「そんな下らん事は良い! つまらんことは俺様がいなくなった後で好きにやれ!」

 空気を読まない声が一つ。

 テーブルの上にどんと足を乗せ、少年の様な姿の彼はそう叫んだ。

 部外者……ではない。

 この場にいるのは三大国の指導者だけでなく、九人なのだから。


 短い手足に出来上がっていない身体。

 その姿は紛れもなく子供であり、百人に聞けば九十九人が『生意気そうな男の子だな』と思うだろう。

 だけど残り一人は、彼に対しきっと『ヤバい』と何かを感じるだろう。


 その位、彼からは覇気が漏れ出していた。

 その恐ろしさ、怖さは大国を持つ彼ら三人に決して劣らない。

 むしろ攻撃的な分、三国の王よりも戦力的には脅威に見える位だった。


 彼は大国どころか己の国さえ持っていない。

 そんな文化的な理屈を彼は持ち合わせない。

 彼の中にあるのは原始的な理性と本能と、そして力。


 だから彼は国なんて高尚な物に興味がなく、彼が支配する圏域は単なる『なわばり』であった。

 

 いや、そんな理屈さえ彼にはない。

 ただ自分の寝床を自分で確保しただけで、そして欲しい物を持っている奴からタカっているだけ。

 生きたい様に生きて、食いたい様に食って、好きな事だけをし続ける。

 強者である己は好きに生きる権利がある。

 つまるところ、少年はその実力以外は単なる我儘なだけの、底の浅い子供蛮族であった。


 悪鬼シュバーリ。

 

 それがこの永劫幼き少年魔王の名前である。

 我儘で好き放題している事に違いのない彼だが、そのシュバーリのなわばりに住む者達にとって少年は意外と評価が高い。

 理由は単純で、シュバーリはわかりやすいからだ。


 彼が何を望むかが容易に想像出来、そしてそれを用意する事はそう難しい事ではない。

 ぶっちゃけ味の濃い肉料理と甘いお菓子。

 それにジュースなんかを用意して、後は強いかっこいいと褒めたらシュバーリはそれで満足する。

 逆らわなければ暴力を振るう事もないし、酒やら宝石やらも欲しがらない。

 小さな悪行は行うが大きな事は行わず、迷惑も精々いたずら程度。

 女性に対し乱暴を働く事もなく無理やり手籠めにもしない。

 それは別に子供だからではない。

 ただ単に、シュバーリは弱者にさほど関心がないからだ。


 良くも悪くも弱者に興味のないスタンスであるからこそ、彼のなわばりは国にさえ居場所の作れなかった弱者にとって最後の逃げ場となっていた。

 そんな少年だから、シュバーリのこの場でのスタンスもわかりやすい。


 誰が強者か。


「でだ……誰だ? 誰からやる? 決めようじゃねーか。最強が誰なのかをよぉ!」

 だんだんと何度もテーブルを足蹴に踏みつけ、握りこぶしを見せつける。


 外見が生意気なガキで、態度はクソガキそのもので、しかも目的までガキっぽい。

 だというのに、その実力だけは十指でも上位に食い込むというのだからもう面倒な事この上なかった。


 カリーナはニコニコと微笑み続ける。

 カリーナにとってシュバーリという存在は敵ではなかった。


 なにせ力はあってもただの馬鹿な子供である。

 扱いやすい子供なんて、カリーナにとってはもはや味方にさえ等しい。

 また同時に、最強である必要がないというのもあるだろう。

 いざとなれば『私は弱いから~』という方法で戦いを避けられる。


 余裕を見せるカリーナとは反対に、ゴドウィンの表情は苦虫をかみつぶした様な、困り切ったものとなっていた。 

 若き騎士王が王である事を認められているのは民からの認知とその実力によって。

 そんな彼に戦わず逃げるなんて『恥ずかしい行為』は許されておらず、そしてもしシュバーリに敗北しようものなら良くて王座返還、最悪騎士国そものが吹き飛んでしまう。


 そうこうしてカリーナが有利となる状況となるその時に……。


「なるほど。最強をお求めになっていると」

 九人ではない来訪者が現れ、そう口にした。

「誰だ? 俺様は誰の挑戦だって――げぇっ!」

 シュバーリは露骨に嫌がるそぶりを見せた。


 そこに居たのはヒルデ・ノイマン。

 ハイドランド王国の実質的な支配者である。

 魔王でない彼女がこの場『黄金議場』に訪れる資格はない。

 だが、事実を知るという意味で言えば返す事が出来ない程度には関係者であった。


 ヒルデはにっこりと微笑んだ。

「いえいえ。私などが最強などと烏滸がましい。その様な事とてもとても……」

「ああいや、別にあんたに戦えなんて言っているつもりは……」

 シュバーリはあたふたとそう口にする。

 彼は子供である。

 それ故に、彼の感性は未来予知に等しい程敏感であった。

「ですので、我が主をお呼びしましょう。確かに、我が主は今この場に出る事は出来ない状態です。ですが……皆様が『戦いたい』なんて言って下さるのでしたら……ええ、あらゆる障害を無視しこの場に訪れて下さるでしょうとも」

 その言葉で、その場全員の顔が真っ青な物となった。


 彼らが知らない訳がない。

 真なる魔王のその実力を、大魔王(アークデモン)なんて呼ばれるその訳を。

 勝つとか負けるではなく、戦いにさえならない。


 魔王達の瞳が、シュバーリに降り注ぐ。

 それは明確に『お前の所為だぞ』と責め立てる目だった。


「おや? どうなさったのですか? タイマンをご所望なら今すぐでも我が主を呼んできますよ? タイマンで勝負を挑まれるなんて経験早々ありませんから、きっと何よりも優先して、文字通り飛んできてくださいますよ?」

「いや……その……」

 汗だくだく、眼は泳いで挙動不審。

 シュバーリはもう明確に慌てていた。

「その?」

「ちょっと、大魔王は……レギュレーション違反ですね、はい」

 ヒルデはくすりと笑った。

「レギュレーション違反ならば仕方がありませんね。という訳で、特に問題はありませんので皆様がお手を煩わせる必要がございませんと報告させていただきにまいりました」

 ぺこりと頭を下げ、ヒルデはそう言った後、明確にカリーナの方を見つめた。


 この中で明確に、事態に介入するという意思を見せたカリーナに。


「……偉大な方が姿を消し、国は混乱の中。救いを求める声がないなんてそんな事は……」

「ほぼほぼ数百年外出もしていなかった我が主が姿を消したなんて気づいている国民はそうそういらっしゃいませんよ。それとも……その様な声が聞こえたのですか? でしたら、どうかお教え戴けませんしょうか。こちらでも調査させてもらいますので」

「……いえ、差し出がましい事を口にしました。撤回します」

 カリーナが折れたのを見て、ヒルデは頷いた。

「いえ、何事もないようでしたらなによりです。という訳ですので、ハイドランドはお掃除の時間ですのでどうかお構いなく。いえ、お構い下さい。我が主が喜び跳びまわりますので」

 冗談なのか本気なのかわからない事を口にして微笑み、そして一礼しその場を後にしようとして……。


「ああそうそう。もしも我が主に挑戦、並びに暗殺を試みるのでしたら、どうか事前に私の方にご連絡ください。最大限の助力をさせていだきます。……そうでなければ、勝負にもなりませんので」

 ヒルデは嫌な静けさだけを残して、今度こそ本当に部屋を後にした。


 冗談に聞こえなかった。

 いやそうじゃない。 

 先の言葉が冗談でないとわかる程に大魔王の力は常軌を逸している。

 だからきっと、あれは本心。

 ヒルデは大魔王に戦いを楽しませるただその為だけに、本気で助力するつもりでいるという事だった。


「……挑戦するなら応援するけど?」

 ゴドウィンはシュバーリに向けそう言った。

「馬鹿言うな。俺様とてそこまで部を弁えていない訳ではない」

 ゴドウィンにとってシュバーリは厄介な相手である。

 だから少し優位に立たとうとこれみよがしに責め立てた。

「ならば安易に最強などと口を出すな。迷惑だ」

「男たるもの最強を目指さずして」

「ならば黄金の魔王に挑むと良い」

「だからアレはレギュレーション違反だ。俺様は同じ生命体同士での最強を目指しているのだ」

「……はぁ。大魔王の威光を利用するだけのヒルデ(彼女)に対しても腰が引けて。それで最強を口にするのか君は……」

 やれやれとばかりのその嫌味に、シュバーリはぴくりと眉を動かした。


「おいガキ。お前それ本気で言っているのか?」

 その言葉はゴドウィンではなく、シュバーリから。

 見た目がどう見ても子供であるシュバーリは、明確なまでに騎士王を子供扱いしていた。

「は? ガキってお前が……」

「お前、本当に本気か? 冗談とかじゃなく、マジなのか? 嘘だろ? マジでわからないの? 馬鹿なの?」

 怒っているのではなく、本当に『正気か?』みたいな顔でシュバーリはゴドウィンを見ていた。

「……まあ、失言であったのは認めよう。彼女の名誉の為に謝罪する」

「そうじゃねーよ。お前マジでわからないんだな。まあ、ガキだからしょうがないか。良いか、良く聞けよ。俺様が嫌いなガキ相手に教えてやるなんて早々ないんだから」

「はいはい。シュバーリ様。それで、何をお教えいただけるんです?」

「あいつ、俺様より強いぞ」

「そんな訳ないだろ。ハイドランド王国四天王にさえ入れてないんだぞ彼女は」

「見てわからないのかよ」

 シュバーリの言葉をゴドウィンは鼻で笑った。


 見てわかるに決まっている。

 魔力こそ多少は優れているがその身体能力は典型的な文官側。

 政治という意味においてはきっと格上だろう。

 是非ともうちが欲しいと望む人材だ。

 だが、戦闘能力という意味で言えば確実に見劣りする。

 そんなのが強い訳が……。


「ジジイ。あんたならわかるだろ?」

 シュバーリはそう、何も口にせずニコニコしているだけの老人に声をかけた。


 彼こそが三つ目、最後の大国『サウスドーン』の王である老骨『ウォドン』である。


 サウスドーンは大国とは言え、その国にはそう大きな特徴がある訳ではない。

 美しき女教皇のいる偉大なる宗教国家。

 騎士を主体とし若き騎士王が代表を務める秩序を持った騎士国。


 それらに比べたら華もなく、ひたすらに地味。

 優れた技術がある訳でもなければ特別強いという事もない。

 ただどの国よりも領土が広いだけの、そういう国である。


 そんなウォドンの会話への参加をゴドウィンは誰よりも心待ちにしていた。

 なにしろ『サウスドーン』と『宗教統治国家フィライト』は現在絶賛戦争状態にある。

 カリーナと相性の悪いゴドウィンにとってこれほど有難い相手はいなかった。


 その戦争の発端は知らないが、あまり情報を持たないゴドウィンでも予想は難しくなかった。

 どうせカリーナの何時もの欲しがり癖が出たのだろうと……。

 弱いのに領土の広い国。

 そんな国を見たらカリーナが何を願うかなんて考えるまでもなかった。


 そうして実際手を出すと……まあ、この有様だ。

『老骨』

 それはウォドンが自分を卑下する時に使う言葉だが、ゴドウィンは逆の意味に思えている。


 確かに、国家としてサウスドーンは強くない。

 だけど、かの国は(したた)かではあった。


 適当に切り取って領土を失う泣き寝入りするかと思えば徹底抗戦。

 その上カリーナを正しく侵略者として認知までさせた。

 カリーナの武器である正義をはぎ取り、侵略戦争だという汚名を被せ、長引く程に苦しむ状況に追い込んだ。

 おかげで他国からだけでなく、フィライトの中でさえこの戦争は『カリーナ唯一の失策』とまで言われていた。


 亀の甲より何とやら。

 だからゴドウィンはウォドンの事を戦上手としてひそかに尊敬の念を送っていりもする。


「ワシがどうしかたの?」

「あんたなら知ってるだろ? あの女がヤバい事位さ」

「ふぅむ。……あんまり口には出来ないのぅ」

「知らないじゃなくて、口に出来ないってどういう事だよジジイ」

「いやなに、ワシはアレじゃ。準身内みたいなもんなんじゃよ。ワシって実はハイドランドと割と直接交流あってな、ぶっちゃけ仲良しなんじゃ」

「ちょ、ちょっと待って! そんな話聞いた事がないんだけど!?」

 慌てた様子でカリーナは叫んだ。

 何時もの仮面を被り忘れ、ただの少女みたいな驚きよう。

 その位、その言葉は衝撃的であった。


 だってそうだろう。

 敵国の王が大魔王と親しいなんて聞けば、慌てない訳がない。


「だって言っておらんし」

 悪戯っ子の様に、ウォドンはそう言い放つ。


 カリーナと出会ったから百年以上。

 戦争が始まってから二年。


 そのどのタイミングでも口にしなかった最悪の事実を聞き、カリーナは真っ青になった。


「とは言え安心せい。かのお方が出張る事はない。あってはならぬ事よ。という訳で、ワシはワシらサウスドーンだけで戦うから安心してボコられりゃ良い」

 言い返せないのを良い事にニヤニヤとカリーナに口撃。

 それに対し誰も同情しない辺りで、カリーナが普段周りからどう思われているのかが理解出来た。


「そんで、ヒルデ様が云々のぅ。……うーん。下手に知っておるからどこまで言っても良い物か……。下手に全部教えよう物なら怒られてしまうし……」

「別にただこの場の誰よりも強いってだけ言えば良いんだよジジイ。下手に藪に手を突っ込むな。な? これ以上俺様の胃を傷めないでくれ」

「まあ、そうじゃの。という訳で話しても良い触りだけを説明しようかの。ヒルデ様の能力の一つは『時間停止』じゃ」

「……まじかよおい。というか、俺様は切札を話せと言ってないぞ! ふざけるな!」

 シュバーリは怒気を顕わにウォドンを睨みつける。


 強さを第一とする。

 だからこそ、知らぬ間に切札をばらすなんて姑息な事許せる訳がなかった。


「ほっほっほ。安心せよ若いの。ヒルデ様は別に隠しておらん。それに……何度も言っておるが触りじゃし、能力の一つに過ぎん。つまり……」

「もしかして! それと同格が幾つかあるって事か!?」

「ほっほっほ」

 シュバーリは静かに頭を抱えた。

 カリーナもそっと頭を抱えた。


 というか皆内心では頭を抱えていた。

 この中魔王十指の集まりの中でさえ、時間停止に対して安易な解決策を持っている者はいなかった。


「……じゃあ、ハイドランドはこれまで通り不可侵という事で」

 当然、カリーナの一言に反抗する声はなかった。


ありがとうございました。

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