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央照天の試練


 総勢七十六人。

 最終計画は、想定以上に少ない人数で実行することとなってしまった。


 理由は、条件の問題に尽きる。

 命を賭けられて、なおかつ信仰を捨てられる者は、このフィライトにそう多くはなかった。


 リュエルのように、もとより信仰心の薄い者なら信仰を捨てずとも支障はないだろう。

 捨てずとも良いし、仮に捨てても拾い直すことは容易い。


 だがそうでなければ、レオナルドの配下として認定されるには、信仰の放棄が不可欠だった。

 ――勇者候補のくせに信仰が薄いリュエルも、それはそれで別の意味で問題児ではあったが。


 参加できない強い信仰を持つ者たちも、一応、合図一つで遠方から救援に駆けつけられるようにはなっている。

 千を超える大部隊。フィライト国防の要を担う、選りすぐりのエリートたちによる最終決戦仕様。


 とはいえ、即応できない状況に加え、一度呼べば敵の襲撃が激化するリスクがある以上、どこまで役立つかは未知数ではあるが。


 だが、それでも、彼らを抜きにしても問題ない程度には戦力は揃っていた。

 リュエルは当然、頼りになる。

 実力もあり、才能もあり、神殺しの経験さえ持っている。

 レオナルドの配下でないという点も、評価ポイントになるだろう。


 彼女はフィライトに属しておらず、精神的帰属意識もない。

 単なる冒険者である以上、命を懸けてまで動いてくれるとは限らない。

 ――ただ、それも一つの利点にはなり得る。


 彼女の本国はハイドランド王国。

 計画完了後、その存在が国交の足掛かりになる可能性は高い。

 まあ……それを考えるのは、カリーナの役目ではない。

 カリーナはこの計画の、その先までは、この国に付き合うつもりはなかった。


 アルハンブラらレオナルドの配下たちも、癪に障るほど優秀だった。

 主の能力とはまるで釣り合わぬほど、有能ぞろいとなっている。

 中でもアルハンブラは、死を恐れず、むしろ自ら最初に命を投げ出す覚悟まで決めていた。

 今作戦において、彼がもっとも重要な立ち位置を担うことになるのは、ほぼ確実だろう。


 ――ただし、そんな少数精鋭として成立する彼らにも、最悪かつ致命的な欠点があった。


 いや、『欠点』などという甘い言葉では足りない。

 彼らの運用における、最大の障害。

 そして計画の根幹にすら支障をきたす、絶望的なトラブルが発生していた。


 そう……レオナルド(馬鹿)である。


 要するに――馬鹿が、ついて来てしまっていた。

 この総勢七十六名の最終決戦チームに、『+1』の足手まといが。


 しかも、自分が総指揮官であると信じて疑わない状態で。

 何をどう勘違いしたのか、この最終決戦は『自分が王になるための踏み台だ』なんてことをのたまっていた。

 たぶん、最初から最後まで話を理解出来ていない。


「ロロウィよ。思えば俺も、遠くまで来たものだな……。こうして貴様らを引き連れ、ついに俺は国王の座まであと一歩。貴様らも、誇るが良い。この――偉大なる男の背を」


 得意げにポーズを決めるレオナルドに、部下たちは何も言わない。

 何を言っても調子に乗ることを、彼らはもう知り尽くしていた。


 ――よく、これの部下をやれますね。

 その言葉を、カリーナはそっと飲み込んだ。




 そうして旅に出てから三日目。

 死ぬほど認めたくないし納得もしたくないが、レオナルドのおかげでここまで順調だった。


 もちろん、彼の部下が有能であったことは要因として非常に大きい。

 サバイバル能力、探知能力、医療やトラブル対処等々――。

 主導であるはずのカリーナとしては恥ずかしい話だが、彼らが旅の主体であったと言っても過言ではない。


 だが、それだけではない。

 それ以上に、レオナルド本人が役に立ってしまったのだ。


 というのも――レオナルドは変わらない。

 自分たちが決死部隊であるという自覚はなく、どれほど旅の道程が苦しかろうと泣き言は言わず(不満と文句は垂れ流しだが)、そして暗くならない。

 不愉快な笑みをいつでも浮かべ、相変わらず元気に我が儘放題。


 その姿に、カリーナの部下たちは救われていた。


 死の恐怖に晒され、いつ敵に襲われるかもわからない状況。

 初日から精神的に追い詰められ、ノイローゼ気味になっていた部下もいた。


 そういう者ほど、レオナルドの『変わらなさ』が効いた。

 理由は、部下によって異なる。


 その元気さ、明るさに純粋に救われたとか。

 苛立ちすぎて苦しいのを忘れたとか。

 考えなしすぎる馬鹿を見ていたら、悩むのが馬鹿馬鹿しくなったとか。


 いずれにせよ、彼のおかげでPTSD手前であった彼らの足取りが軽くなったのは、紛れもない事実だった。


 役立たずの屑っぷりがリーダーシップに繋がる。

 それは、カリーナには絶対に理解できない、新しいタイプの発想だった。


「塞翁が馬、というやつですかねぇ」

 古い言葉を持ち出し、カリーナはそう呟く。

 当然、その言葉をレオナルドは理解できない。


 それ以前に、今この場で言葉の意味を理解できたのは、アルハンブラだけだった。


「そこまで褒めるものでもないですよ」

「褒めたつもりはないのですけどね。それに、私はちゃんと評価はしていますよ。部下の評価も、上司の才覚ですから」

「ご勘弁を。あの馬鹿が調子に乗ると、苦労するのは我々ですので……」

「あら、なら、今のうちに覚悟をしておいた方がよろしいですよ? きっと、今の百倍は苦労することになりますから」


 そう言って、くすくすと笑うカリーナ。

 一体何の話なのか、それをアルハンブラが尋ねようとする前に、カリーナは逃げるように、彼の傍を離れていった。


 伸ばした手が虚空に残り、アルハンブラはそのまま後頭部を掻いた。


 平和だった。

 襲撃もなく、草木も少なく、道も平坦で――

 本当に、平和そのものの数日だった。


 そんな時に、彼女は現れた。




 言葉にするなら、異質以外になかった。


 唐突に現れた彼女に、別段おかしな部分はない。

 武器を持っているわけでもなければ、敵意や戦意も見せていない。


 ただ、そこで微笑んでいるだけ。


 それなのに、世界が切り替わったと感じる程、彼女は異質極まりない。

 こんな場所で、まるで友達に会ったかのように優しい笑みを浮かべる彼女の姿は、不思議な程に非現実的であった。


 何でもないはずなのに、足元がぐらつくようにさえ感じる。

 それはきっと、彼女が美しすぎるからだろう。


 長い黒髪は艶を見るだけで、男性陣の頬が紅潮しそうになる。

 いや、女性さえも、目を奪われる。

 露出しているわけでもなく、むしろほとんど肌を晒していないのに、妙な色気に包まれている。

 顔なんか、直接見るとつい目を逸らしてしまいそうになる。


 それほどまでに彼女が美しいから……彼女が普通でないと理解できた。


 まるで、この場そのものが異界であるとさえ感じられるほどに。

 ただ一人の、例外を除いて。


「む? お前は何だ? 邪魔だから道を開けろ」

 レオナルドはめんどうそうに、大きく手を動かし、その女性にどけるよう命じた。


 麗しき気品ある顔立ちに、身に着けている豪勢な服装。

 どう見ても特権ある身分なのだが、レオナルドにそんなこと関係がない。

 というか、女性の『神秘的な雰囲気』やら『異質な程の美しさ』やら『気品ある服装』やらについて、レオナルドはカブトムシの百分の一ほども興味がない。

 馬鹿の感性は、そこら辺で走り回っている子供以下であった。

 そんな無礼極まりない態度に、女性はくすりと楽しげに微笑む。

「まあ。面白いお方。それに――良い色をしています。あの子が好みそうな、澄んだ色……」

 その声は、鈴の音のように清らかで、そして、どこか胸の奥をざわつかせるような響きを帯びていた。


 彼女の微笑みは、慈しみと母性に満ちている。

 近所の悪ガキに慈愛を見せる保母さんというような雰囲気も、持っていた。


「む? 色とかよくわからんな。言いたいことがあるなら、わかりやすく話せ」

「失礼しました。あの子の、呼羅のお気に入りを見つけたので、少し舞い上がってしまいまして」

「なーらー? 何のことだ?」

「あれ? わかりません? 若い方の神で、私の弟なんですけど……」


 その一言を口にした瞬間――空気が、一変した。


 空間を満たしていた柔らかな気配が、ひやりと冷たく、張り詰めたものへと変わる。

 いや、違う。

 今の今まで、それに気づけなかっただけだった。

 その存在があまりにも荘厳で、現実離れし過ぎていたから。


 彼女から発せられるものは神気そのもの。

 女神の気配を隠してさえいなかったのに、誰もそれに今まで気づいていなかった。


 彼女の神気は、空すら黙らせる。

 あまりに静かで、あまりに深く、そして、あまりに――美しかった。


 アルハンブラは反射的にレオナルドの首根っこを掴み、即座に引き寄せる。

 それと入れ替わるように部下たちが動くが、それより早く、リュエルは女神の前に立ち剣を抜いた。


 剣を向けられても、女神は一切の動揺を見せず、ただ静かに、楽しげに、言葉を紡ぐ。


「おや。貴女から、呼羅の神気が。……弟を殺したのは、貴女ですか?」

「違う。でも……最後は、見届けた」

「そう。あの子は、強かったですか?」

「私なんて、手も足も出ないくらいに。最後まで……正々堂々としてたよ。私にはわからないけど、でも、そう見えた」


「……ありがとう。貴女、優しい方なんですね」

 まるで花がほころぶように、彼女は微笑む。


 そして、ふわりと地を離れ、宙に浮かぶ。

 女神は空中に舞い上がると、距離を取り、緩やかに、けれど神々しく頭を垂れた。

 その姿は、もはや人の形をした概念とさえ見えた。


「お初にお目にかかります、人の子の皆様。――私は央照天(おうしょうてん)東雲(しののめ)。過ちを犯した神々を屠り、正しく皆様を導く、良き神様です」


 その声音は、告解を受け入れる聖女のように優しく、

 その姿は、断罪の天秤を掲げる裁きの神にも似ていた。


 にこやかに、柔和に。

 しかし、それだけで――潰れてしまいそうなほどの『圧』があった。

 そこにいるだけで魂を圧迫されるような、暴力的なまでの霊圧。

 カリーナたちの呼吸が、自然と浅くなっていた。




「私を信仰するならば、見逃しましょう。私に立ち向かうのなら、敵として歓迎しましょう。さあ、人の子よ。選びなさい。服従か、抵抗か。さあ!」


 ビリビリと肌に来る気迫。


 それはもう圧倒的であり、カリーナもリュエルも死を覚悟するほど。

 それでも、従うという選択はなかった。


 リュエルは息を整え、再び剣を構え、カリーナの方に目を向ける。

 カリーナはリュエルの隣に立ち、相対する覚悟を決める。


 そんな二人を見て、央照天が楽しげに微笑み、そして戦いの幕が開かれ――。


「ふざけるな!」

 レオナルドはそんな女性たちの間に入り、そしてカリーナを叱りつけた。

「リュエルはまあ良い。許してやる。だがお前は、見習い以下の底辺のくせに何主役面をしている。恥を知れ、恥を!」


 レオナルドは「ああん?」と苛立ちを顕わにしながら、リュエルの頬をぺしぺしと叩く。

 正直、人生で最もイラっとした瞬間だったが、カリーナは静かに飲み込んだ。


「にしても央照天とかいう貴様も、見る目がないな。そこの底辺を敵と捉えるとは。キキッ」

「底辺……ですか? そちらの女性が?」


 どう見てもこの中で一番強い……というか魔王にしか見えない。

 だが、レオナルドはそんな央照天を鼻で笑った。


「はっ! 底辺も底辺。召使い以下の役立たずのゴクツブシよ! 俺がこの部隊の中心。俺こそが決定権を持つ。貴様でさえない! 俺が決める!」


 びしっと自分を指差し、ドヤ顔をするレオナルド。


 その堂々っぷりが、ちょっとだけ――弟に似てた。


「そう……ですか。では尋ねましょう。服従か、抵抗か。貴方はどちらを選――」

「だから、決めるのは俺だと言っておろうが!」

「あ、ごめんなさい。えっと、これからどうしたいのか尋ねても良いでしょうか?」

 何故か央照天はレオナルドに下手(したて)に出だした。


「うむ! そうだな……貴様は神なのだな?」

 今更!? という言葉を飲み込み、央照天は頷く。

「それで……リュエルは貴様の弟を倒したと?」

「みたいな感じですね。はい」

「ならば決まりだ! 部下がやったのなら俺もやらねばならぬ! というわけだ――準備をしろ貴様ら。神殺しの時間だ」

 レオナルドの言葉に、央照天はにぃっと笑う。


 いつの時も、嬉しいものだった。

 人が試練を乗り越えようとする、その瞬間は――。


「あ、だが少し待て」

「はい。準備ですか?」

「いや、そこの馬鹿女。カリーナってんだがな。上の孔を塞ぐとかいう作戦に出てるっぽい? だからまあ、そいつだけは戦わず先に行かせる。どうせ役に立たないしな。構わんだろ?」

 唐突な言葉に、カリーナはあんぐりと口を開く。

 リュエルも目を見開く。


 アルハンブラ達は、お通夜みたいな空気を見せた。


 唐突に作戦をばらしたことに央照天はきょとんとした顔を見せる。

 これも作戦か? と思ったが、残りの人たちの空気からどう見てもそれは違う。

 ということは……。


「なるほど――ええ、了解しました」

 にっこりと微笑み、央照天は同意した。

「え? ど、どうして!?」

 カリーナは驚き尋ねる。


 もう終わったと思った。

 なにせ自分が死んだ瞬間、孔を塞ぐ手段がなくなる。

 自分が今作戦の切札で、自分を止めたら全ての計画が破綻する。

 それが、今しがた馬鹿によってバレた。


 それでも、神はカリーナを見逃すと言った。

 敵の最大の武器をスルーすると言った。


 その理由が、カリーナには全く想像できなかった。


「ふむ? どうしてか……ですか。では、わかりやすくこう言いましょう。私と戦うため残った人を、まず皆殺しにします。そしてその後追いかけ、貴女を殺します。つまり――そういう試練、ということです」

 カリーナはその答えにさらに混乱する。

 何を言っているのか、全く理解できなかった。


 いや、わかるわけがないだろう。

 神が人に試練を与えるその理由が、ただ好きだからということなんて。


「もっとわかりやすく言え。意味がわからん」

 レオナルドは呆れ顔で央照天にそう言い放った。

「あ、すいません。つまり、遊びはルールがあった方が面白い、ということです」

「なるほど。それならわかる。ああ、遊びにルールは大切だな」

 うんうんと納得し、同意を見せるレオナルド。

 当然、意味は十割理解できていない。


 周りが混乱する中、リュエルだけは少しだけ、その意味が理解できていた。

 視える感情と、神としての言葉。

 そして直感。

 わかったことは精々、嘘ではなく本心であるということくらい。

 だが、それだけわかれば十分だった。


「レオナルド様?」

「む? なんだリュエル」

「私、カリーナさ……カリーナの方に着いて行くね。えと、頼りなくて道に迷って泣いてそうだから」

「ぶはっ! ああ、そうだな。こいつは無能だから道にも迷うし鼻水だらだらで泣きべそかくだろうとも! そうだなリュエル。着いて行ってやって手を引っ張ってやれ! 迷子の子供を引くように、優しくな! キキキキキッ!」

 ご機嫌な様子にリュエルは頷き、カリーナの手を引く。


「えと、リュエルさん。これは……」

「急いで。皆を生かしたいなら、早く」

 央照天はこれを『試練』と言った。


 戦う人を皆殺しにし、その後に追いかけると。

 逆に言えば、試練である以上、乗り越える術がある。


 はっきり言って、レオナルド達が央照天に勝つことは出来ない。

 実力とか才能とかでなく、存在が違いすぎる。

 カリーナとリュエルが残ったとしても、万が一どころか億が一にも勝機はない。


 だから、試練を達成するためには、全員が生きるためには、道は一つしかなかった。

 事前に申告した『孔を塞ぐ』という勝利条件を、『レオナルド達が死ぬ前に』達成すること。


 試練を成し遂げる。

 それ以外に、央照天に勝利する術はなかった。


 リュエルに遅れてカリーナもそれを理解し、二人は振り向きもせずその場を離脱した。


「キキッ! まるで脱兎だなカリーナの奴め。惨め惨め。キキキキッ!」

 嬉しそうに、その背を見つめるレオナルド。


 央照天はそんなレオナルドを見て微笑を浮かべるだけで、戦うそぶりを見せなかった。




「あの……央照天様。発言、よろしいでしょうか?」

 アルハンブラは跪きながら頭を下げ、そう言葉にした。

 それが本来、神に相対する人の正しい在り方だった。

 例え自分の信仰する神でなくても、それは最低限以下の礼儀である。


 それを央照天が好むかどうかは別だが。


「質問を許しましょう」

「ありがとうございます。先程試練とおっしゃいました。ですが、試練のはずなのに、央照天様は戦うそぶりを見せません。何故でしょうか?」

「待っているからですよ。あなた達が準備を終えるのを。ええ、ゆっくりで構いません。何なら食事をして、軽く休憩でもしますか? 逃げぬ限り、私は全然待ちますよ?」

 ニコニコと機嫌良さそうに、央照天はそう口にする。


 アルハンブラは、不思議な感覚を覚えた。

 それは決して、慈愛ではない。

 レオナルドやカリーナはどうも認めているようだが、それ以外の我々は『人の子A』程度にしか央照天は見ていない。

 だったらこの優しさは何だ。

 この違和感は何だ?


「お急ぎに、ならないのですか? 戦う前に、その……彼女達が達成したら……。それとも、それと試練は別で……」

「いいえ。彼女達が孔を塞げば、試練を為したと認めま潔く敗北を受け入れます。そもそも、孔が塞がった時点で私も存在を維持できるかわかりませんし」

「では、何故――」

「ふふ……。どうやら貴方は、相当疑い深い人のようですね。お可愛らしい……」

「えっと、それはどういう意味で……」

「では、貴方に合わせこう答えましょう。何故、制限時間があるはずの私が急がないのか。それは『急ぐ必要がない』からです。私は一言も、言っていませんよ。仲間がいないなんて」

「は……は!? だけど、神は三柱までと……二つの黒の孔は封じられ、残り二つの孔は消え、残りは一つで……」


 大きな空の白い孔。

 その傍に見える黒い孔こそ、央照天を示す星。

 他に神はいない。

 そうアルハンブラもカリーナも信じている。

 それを元に作戦を作った。

 だが、もしそれが違うのなら……。


「ええ、残された神は私だけ。それに違いはありません。私が死ねば孔も塞がります。ですが……ええ、私、こちらの世界に協力者はもういないなんて――一度も言ってませんよ? これで、疑問は答えられましたか?」

 微笑を浮かべ、央照天はアルハンブラにそう告げる。


 楽し気に、絶望させるように。

 アルハンブラは、ここに来てようやく、央照天の真実を一つ、理解する。


 彼女は、策略家だ。

 それも、自分達とは違う、本物。

 人の心さえも予測し、相手をその通りに動かすなんて魔性めいたものをを持つ、相当性格の悪い――。



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