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もふもふ元大魔王の成り下がり冒険譚  作者: あらまき


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調子に乗った馬鹿王さん


 強い力は、それそのものが責任を伴う。

 そんな事実をカリーナは、痛いほどに理解していた。


 自慢ではないが、カリーナは己の力が他の魔王よりも遥かに上であると熟知している。

 当然、真なる魔王である、黄金の魔王を除いて……だが。


 戦闘力という意味ではない。

 政治力という意味でもなければ、何か特別なことが出来るわけでもない。

 総合力という意味で言えば、自分は魔王の中で最も劣った魔王となる。


 それでも、自分が一番だという自信を持っている。

 それは、借り物の力で……となるが。


 だってそうだろう。

 凡夫でしかない自分が魔王十指の一本であり、三大国家の一つの国家元首なんて地位に居るのだ。

 その力が特別でないわけがない。


 その力は予言に等しく、予知に等しく、全ての答えに等しく、勝利に等しい。

 だが、そのどれともイコールというわけでもない。


 決して無敵の能力というわけでもなく……そもそもそれ以前に、この力はカリーナがコントロールできるものでさえなかった。


 例えば、百ある道の中から正解の一つを見つけろ。

 それならば、カリーナの力は機能する。

 見事たった一つの正解を一度で引き当てるだろう。


 事実、そうやってカリーナはフィライトを発展させてきた。

 選択肢を絶対に失敗せず、統治者として百点以上の答えを叩き出し続けた。

 だから、カリーナは己こそが最も強いと評する。

 最も国を豊かにしたという自負が、そうさせた。


 だが、カリーナの力は答えがない時には意味を為さない。

 例えば、『二択の中でどちらが正解かを選べ』という問いの場合。

 ただし、『二択どちらにもメリットデメリットがあり、総合的な回答もまた未来の選択により変更される』というようなあやふやなものには反応しない。


 あくまで答えがある時のみ、有用である。

 もっと正しく言うなら、答えがある場合は『回答が本に載っている』となる。


 代々受け継がれた一冊の本。

 それがカリーナの力の源であり、そしてそれこそが、本当のフィライト国王とも言える。

 カリーナはただ、その本に書かれたことを、その通りに実行しただけなのだから。


 この『答えを持つ本』は、今現在ではカリーナにしか使えない。

 そしてこの力は恐ろしいことは、代償が全く存在しないという点にある。


 未来を見るために寿命の半分を捧げるということもなければ、大いなる力の代償として肉体や肉親を奪われることもない。

 本来この手の力には必ず、代価や代償が求められるというのに。


 何の代償も代価もなく、理想の王となるその力をカリーナは授かった。

 使用制限もなく、必要な時は常にその恩恵に預かれる。


 ただし……代償も代価もなくとも、デメリットは存在する。


 答えを記した書物ということは同時に、その書物に書かれた通りのことをしなければならないということを意味する。

 それではまるで、本体が書物の方みたいではないだろうか。


 そう……主導権は常に書物にあった。

 そういった、自分が自分でない時間を、ずっとカリーナは受け続けていた。

 答えを得る代わりに、国を発展させる代わりに、カリーナはずっと、本の奴隷となり無敵の国王を演じ続けた。


 普通の人と呼ばれて喜ぶ程度には、我慢しながら……。


 だからこそ……書物に記された通りのことが起きている今を、カリーナは何ら不安に思っていなかった。


 この先に、頼れる協力者がいる。

 その協力者と、カリーナの用意した少数精鋭軍と、リュエル。


 これだけの力を持って、空の孔を閉じ、神に対抗する。

 不安なんてある訳がない。

 そう……何とかなるに決まっている。


 これが……最後なのだから……。


「おのれ! 俺の街に何用だ偽りの王カリーナよ! まさか我が覇道を邪魔しようなどと言わんだろうな! いや、きっと己が命を狙う俺を亡き者にしようというのだろう! そうはいかんぞ!」

 そこに居た『協力者であるはずの』男を見て……カリーナは生まれて初めて、書物を疑った。




 深夜……白亜の港町ミューズタウン。


 美しい宗教の街並みだったのは過去の話。

 外はバリケードやら難民やらに溢れ、周囲にはピリピリした軍人崩れが蔓延った、そんな避難場所となっていた。

 変わらず美しいのは、砂浜の夜景くらいのものだろう。


 そこで、カリーナはリュエルと共に、馬鹿王レオナルドの愉快な下僕たちと一室を囲っていた。


 尚、ここに当の馬鹿王本人はいない。

 今ごろすやすやと気持ち良くベッドの上である。

 別にカリーナが何かしたわけではない。

 ただ、眠くなったから寝ているだけだ。


 かと言ってそれに不満を持つようなことはない。

 こうした会合が深夜となったのは夕方前からずっと、カリーナ相手にレオナルドがキーキー叫び続け、まともに話し合いが出来なかったからであるのだから。


 レオナルドの名代として、そこに居たのはアルハンブラだった。

 何でもそつなく熟すことに加え、リュエルとも知り合いであるから彼が選ばれていた。

 同時に、リュエル達に対し裏切った罪を注ぐため、何かあるなら自分から死ぬために。

「夜分遅くとなり申し訳ありません。教皇猊――」

「過剰な挨拶は結構です。どうぞそちらの本題を。こちらの方は後にしましょう」

「いえ、話すべきことは多いのですが、直接猊下に伝える理由もないので今回は省略します。どうも、あまり時間はないようですので」

 相手の状況と態度から察し、アルハンブラはそう伝える。

 そんな時間のない相手に数時間も無駄にさせたのだから、アルハンブラも地味に必死である。

「心遣い、感謝します」

「いえ……時間がないのに……本当に、うちの馬鹿が申し訳ありません」

「良いんですよ。あれはあれで可愛らしいので。ええ……」

 味方でなければ、という言葉を、カリーナはそっと飲み込む。


 カリーナがレオナルドをずっと放置しているのは、あれが無能すぎて無害であるからだ。

 自分の敵対者でありながらわかりやすい嫌がらせ以外一切せず、そしてその嫌がらせもほとんどは未遂で失敗。

 幾つか成功した嫌がらせもあるにはあるが、彼の部下の貢献に比べたら些細なもの。

 だから放置していた。


 そしてそれは同時に、その事実も示している。

 敵として放置できる程の存在ということは、味方にするには頼りなさすぎると。

 それ以前に、全く信用できない。


 気に食わないという理由で直前に妨害工作でも仕掛けられたらその時点で国が終わる。

 表情には出していないが、この数時間ずっとカリーナは悩み続けていた。


「それで、猊下。猊下の来訪の理由はどのようなものでしょうか? ミューズタウンを直接管理なされるのでしたら、そちらの責任者方を呼んできますが」

「今こちらにいらっしゃらないのには何か訳が?」

「単純に忙しいからです。百近くの街から避難民が押し寄せてますから」

「そんなに……」

「ただ、街が壊れた割には死者が少ないということも意味してます。後、昨日今日は少し落ち着いてますから」

「そうでしょうね」


 既に報告で、謎の覆面男が星を一つ落としたとカリーナは聞いていた。

 覆面男が増殖したという報告もあるが、もうこの際無視することにした。

 ついでに、覆面男のファンクラブが出来たり信仰されてたり覆面男の歌が流行っている地区があるとかも聞いたが、もう全部無視だ。

 未来の教皇様がきっと何とかしてくれるだろう。


「あ、言い忘れたことがあった」

 そっと、リュエルがこの場で手を上げる。

 アルハンブラは小さく頷き、カリーナは落ち着かせるため、紅茶を口に。


「神とかいうの一人ぶち殺したよ」

 カリーナは口につけたままのカップを盛大に傾け、紅茶をだばーっと零した。

「……冗談……ですよね?」

 アルハンブラの控えめな質問。

 だけど表情は、化物を見るようなものだった。


「ううん。若い、緑色の剣と盾を持ってたやつ。ああ、私だけじゃないよ。協力者も一緒。誰とは言えないけど、凄い強い人」

 そう言ってから、リュエルは口元でバツマークを作る。

 震えながら、アルハンブラは思った。

 まさか、謎の覆面男に三人目が現れたのか……と。


 衝撃的過ぎる告白によってか、それとも単純に疲労が限界だったからか。

 緊張感のようなものが皆からぽきりと折れ、話し合いをする空気じゃなくなったことにより、明日、早朝もう一度内容をまとめ話し合うことに決まった。

 早朝の理由は、レオナルドが起きる前に終わらせようというアルハンブラの希望によるものであり、そしてそれに反対する意見はどこからも出なかった。



ありがとうございました。

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