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二対一


「喰らえ鉄拳! マイティ・パンチ!」

 スカイマン・マイティの鋭い拳が命導天に襲い掛かった。

 ぶっちゃけ単なるパンチである

 しかも技量的に見て上手いかどうかで言えばむしろ下手な方。


 だが、全身を無数の聖遺物で固めた上に、聖遺物との適合率百パーセントという奇跡によって繰り出される攻撃である。

 直撃すれば地図を書き換える必要がある程度の威力は出ていた。

 あくまで、まともに喰らえばだが。


「ほいっ」

 命導天は杖の切っ先を向けると透明な障壁が張られ、攻撃は障壁一枚で防がれ完全に無効化される。

 それでも、その余波で遥か下方の海はまるで爆弾が投げ込まれたかのような巨大な水しぶきを巻き起こしていた。


 命導天は杖の切っ先でマイティの手首を外側に反れるよう叩く。

 こつんと軽い力なのに、遠心力で腕が流れ、身体がねじられる。


 そうしてマイティの心臓ががら空きとなり、命導天は杖を槍のように叩き込もうとして――。

「させん! フレンドガード!」

 スカイマン・レオは杖を掴み、受け流し、そしてへし折った。


 その杖も立派な聖遺物なのに、まるで単なる小枝かのように綺麗にぺっきり容易くへし折れる。

 そして直後、杖は爆発した。


 レオが杖を掴み壊すと予め予想していた命導天は、杖に細工を施し爆弾と変えていた。

 己の聖遺物が壊れるのは惜しいと言えば惜しい。

 だが、どうせ壊されることが確定しているのなら、せめてダメージを与えておこう。


 その程度は損切りが出来るくらいには、命導天は理性的な性格をしていた。

 とはいえ、それは命導天にとっての聖遺物が他の神と違うから出来ることではある。


 聖遺物とは神が持ちし秘宝。

 神が神であることを示す神器。

 時に戦いに使い、時に人に与える。

 言うなれば、神の格を示す証明である。


 人で言えば、社交界に着ていく服や宝石が最もそれに近い扱いとなるだろう。


 手にする手段は様々であるが、どれも一朝一夕でどうにかなるものではない。

 時間か、手間か、素材か、金か。

 必ず、何らかのコストが膨大に消費される。


 神とは言え容易く用意出来ないからこそ、聖遺物には価値がある。


 だが、命導天はそんな聖遺物を製造する権能を持っていた。

 それも、限りなく安価なコストで。


 事実、へし折られた杖もこちらの世界に来てからの数日で作ったものだった。

 少々品質に問題はあるが、それでも並の武器よりもはるかに優れた、聖遺物の名にふさわしき代物ではあった。


 そんな聖遺物の爆発である。

 弱いわけがない。


 通常の爆弾とは比較にならぬ火力を、半径一メートル程に圧縮し、叩き込まれた。

 それでも、レオは無傷だった。

 爆風を受け流すなんて人外じみたことを成し遂げて。


「お主が人というのは、もう無理があろう」

 苦笑しながら命導天は木の棒を取り出す。

 曲がり、歪みのないまっすぐな木の棒。

 それは先ほどの杖よりも、強い力が込められていた。




 戦いは、一進一退の攻防が続き、拮抗していた。


 ユピルとクリスの二人は、全力でぶつかりながらも、巧みに連携を取っている。

 一見すれば各々が自由に動いているように見えるが、その実、互いの隙を的確に補い合っていた。

 特にクリスは、ユピルのカバーリングを最優先とバックアップに努めている。

 その方が勝機をつかめると、彼自身が判断していたからだ。


 そこまでやって、ようやく拮抗。


 正しくは数度の攻防のたびに命導天の聖遺物を破損させているのだが、そのたびに新しい聖遺物が出てくる。

 百を超えてもなお余裕な素振りを見て、在庫は無限であると考えた方が良いと二人は理解する。


 故に、拮抗。

 こちらが優れた二人であると同時に、あちらは一人であっても優れた無限の武器を持っていた。


「それでも、我は負けぬ! 新型のレオには劣るだろう。だが、ロートルと言えども元祖! 侮るな!」

 きりっとした顔で決めポーズ。

 真面目ではあるが、ふざけないわけではない。

 真剣に、マイティはマスク男ごっこをしていた。


「いや、むしろお主の方が力は強いじゃろうて」

 命導天はそう呟く。

 レオと呼ばれる狼仮面よりも、バチバチ足が光ってる派手なマスク男の方が圧倒的に力は強かった。


「なんと。我の方が上なのか」

「力だけはの。あちらの方は恐ろしいほどの技術やかけひきの力がある。相方が居なければ、お主、とうに死んでおるぞ」

 命導天は委縮させる意味も込め、そう脅す。

 ただ、あながち嘘というわけではない。

 殺せると思ったチャンスは、レオにことごとく潰されていた。


「なるほど。つまり……力の一号!」

 びしっと叫び、決めポーズ。

 レオも隣で、決めポーズ。

「技の二号! こうしてみると、三号が待ち遠しいな」

「貴様らのような変態がもう一匹出て来るほど汚染されておるならば、この世界を滅ぼしてやるわ」

 命導天はそんな冗談みたいな言葉を、本気度百パーセントで口にした。


 変態姿の馬鹿を相手にすることを、本気の本気で嫌がっていた。


「とは言え……まだ余力を残しているな。我らが宿命のライバル、命導天よ」

 レオは指を差し叫んだ。

「すまぬ。宿命のライバルだけは止めてくれ」

「えー」

「えーじゃないわ。そして、余力に関してはそちらもじゃろ」

「まあ、そうだな」

 本気ではある。

 だがそれは、余力を残していることと決して矛盾はしない。


 戦いはまだ序盤も序盤。

 互いに相手の出方を伺っている状態であった。


「ならば、戦い方を変えよう。マイティ・チェンジ!」

 マイティは光り輝き、姿を変える。

 どこか白っぽい装いとなり、そしてその手には巨大な青い三つ又の槍があった。

 マイティは三つ又の槍を深く低い姿勢で、構えてみせた。


「いやお主が持つんかい」

 命導天はつい突っ込んだ。


 命導天は聖遺物を製造する権能ゆえに、聖遺物を見ればその特性を大体理解できる。

 だからこそ、変態マスクマンズに嫌々付き合っていた。

 彼らが纏う馬鹿衣装が、恐ろしく質の高い聖遺物であると分かっているから付き合わざるを得なかった。


 そして新たなに出したその青い三つ又の槍もまた、相当高位の聖遺物である。

 海の神を司るもので、特殊な武器ではなく単純に戦闘力を大きく引き上げるという代物。

 単純に武器として優れたタイプの聖遺物ということである。

 相当高位かつ神性の高い聖遺物であるため、普通の人間なら持つだけで蒸発するような代物だが。


 単純に優れた武器……つまり力を補強する武器だ。

 それを、力だけは有り余っており技術が拙い一号が使う。


 裏方として武器供給役であった命導天としては、納得することが出来ない使い方であった。


「我が相方、レオはアレが完成形だ」

 マイティの言葉に合わせるよう、レオは徒手空拳を構え決めポーズ。

 一々ポージングをするのが非常にムカつくが、反応したらそれはそれでこいつら喜ぶような気がするから、命導天は無視を決め込んだ。




 素手で構えながら、レオは必死に自分を抑える。

 確かに、このスーツは凄い。

 人型に戻ったが、その実力は黄金の魔王当時の一割程度。

 相当の弱体化が成功している。


 とはいえ……気を抜くとぱーんと、制限が外れてしまいそうになる。

 本当に文字通り、ギリギリであった。


 だから、必死に抑え込む。

 スーツの中で、全力で自分を抑え、全力で戦った。


 楽しかった。


 自分を抑えるのに相当意識を集中させているが……それでも、全力を出せている。

 渾身の力を込めて拳を振るい、手加減せずに蹴りを放つ。

 それができる機会は滅多にない。


 だから、レオはこの戦いを心から満喫している。

 永い永い、永劫とも言える人生の中でも、一、二を争うくらいに楽しかった。




 戦闘が始まって、おおよそ一時間。

 相変わらず拮抗しているものの、若干、命導天が押されつつあった。

 理由はやはり、数の差だろう。


 逆に言えば、数的有利がありながらほぼ拮抗している辺り、ここが分水嶺であったとわかる。

 もっと遅く行動を始めていれば、命導天がもっと多くの信仰を会得していれば、二人だけでは対処できなかった。


 命導天は、呪文や聖遺物の発動に必要な言葉以外、一切口をきかなくなっていた。

 マイティとレオは相変わらず賑やかで、無意味な決めポーズを繰り返しながらも、戦いには一切の妥協がない。


 彼らは命導天の変化を『必死になったから、言葉も出ないのだろう』と考える。

 だが、それは少し違っている。

 実際のところ命導天は、ただ苛立ちを押し殺しているに過ぎなかった。


 怒っていた。

 敵である彼らではなく、味方に。


 ――まだか、まだ来ぬのか。あ奴めは……。


 呼んでいるのは当然、『呼羅』。

 自分の配下にも等しい存在である彼に救難信号を届けているのに、連絡がない。


 呼羅はそれほど仕事熱心なタイプではないから、きっと遊んでいるのだろう。

 人間達との戦いという戯れで。


 彼は良くも悪くも、武神でしかなかった。


 早く、早く気づいてこっちに来い。

 数的有利が解消されたら、間違いなく天秤はこちらに傾く。

 それが分かっているから、無言無表情を作りながら、焦りと怒りを命導天は感じ続けていた。




 その頃――。

 呼羅は命導天の想像通り、人間との戦いに勤しんでいた。


 ただし、それは決して戯れなどではない。

 呼羅は獰猛な笑みを浮かべていた。


 それは強敵を前にした歓喜。

 それは危機を感じ、猛る戦士の本能。


 闘争心に心を燃やし、全力を出すべきと見定めた獲物を前にして、武神に燃えるなという方が無理な話であった。

 それこそ、己が上位存在の呼び出しに気付かないくらいに。


 呼羅の前にいるのは、なんとたったの二人。

 くしくも命導天と同じであった。


 一人は、何故かそこにいるはずのないリュエル。


 そしてもう一人……。


 ごつい鎧を身に纏う、雄々しき剣を持つ美形の剣士。

 彼はリュエル以上に、この場にいるわけがない存在であった。


 彼の名前は『ヤー・ゴドウィン』。


 騎士国ヴェーダの若き騎士王。

 それが何故か、お供もつけずリュエルと共にフィライトの中で神と戦っていた。


 敵対する男達二人の表情は、非常に似通っていた。

 バトルジャンキーとでも言うのだろうか、心の底から楽しんでいそうな姿。

 正々堂々と言えば騎士道っぽくて格好良いが、ただ殺し合いをスポーツ感覚で楽しんでいるだけの異常者という方がきっと近い。


 だからだろう。

 リュエルはそんな二人に呆れを覚え、どこか冷めた目を二人に向けていた。


ありがとうございました。

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