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まるで結婚の様に難しく

「よぅ。ファッキンクソジャリ共。昨日よりも減ってなってなくて安心したぞ。つかむしろ増えてるじゃねぇか。昨日サボってやがったな。まあどうでも良いけど」

 やたらとファンキーな老婆は笑いながらそう言った。

 何かわからないが、妙にテンションが高かった。


「先生ー何か良い事でもあったんですかー?」

 前列からのご機嫌取りみたいな一声に、彼女は笑って答える。

「オールナイトでダンスパーティーでな、まだ酒が抜けてねーだけだ。安心しな、すぐにテンションも気持ちも下がってく。なにせババアだからな。徹夜で平然とする体力なんざありゃしないのさ」

 そう言って、彼女は笑う。

 周りの呆れた空気なんて気にもしないで。


「さて……そんな訳でさっそくだが朝の授業としゃれこもうじゃないか。ババアの余力がある内にな。今回は金にならねーが真面目に聞けよ。死にたくないならな。最初の話は『処分』についてだ。あたいはさ、昨日よりも減ってなくてって言ったろ? あれ、比喩じゃねーんだわ」

 周りの空気がどんどん冷え込む事も気にせず、彼女は説明を続ける。


 この冒険者学園はハイドランド王国内にあり王国が管理している為国内法を順守する立場にあるが、同時にそれと同じ位強力な学内法を備えている。

 要するに、国内施設であると同時に治外法権の様な立場も兼ね備えていた。

 それだけ強力な権力を付属する為に四天王が学園長として派遣された。

 学園は独自に生徒を処刑する権利があり、更にその権利を他者に付与する事さえも許可されていた。


「だからまあ、処理ってのは言葉通りの意味って事だな」

 彼女は自分の首を親指で横切り、ベロを出して小馬鹿にする仕草をしてみせた。


 そう……本当に言葉通り、減ってなくて良かったと彼女は思っていた。

 毎年初日から馬鹿やって処分される生徒は少なくなくて、そしてそのうちの大半がDクラス以下。

 だからこそ、彼女は必死に、初日に彼らが食らいつく様な餌を見せびらかした。

 馬鹿共を、少しでも死なせない為に。


「あー、ちなみにだけど、当冒険者学園は冒険者を排出するだけでなく『駄目人間更生施設』でもある。だから稼ぎ方を教えてるんだ。迷惑かけずに生きて貰う為にな。ただ……稼ぎ方を教えて尚迷惑をかけると判断されたら……。な? お前らが片足つっこんでるって意味わかったろ?」

 他人事でケラケラ笑っているが、場の空気は最悪だった。


 ぽつりと『相部屋の奴、帰って来てないんだけど……』とか『俺のダチEクラスなんだけど……』とか、そういう言葉が聞こえる。

 だけど正面に立つ彼女はそんな事どうでも良さそうにあくびをして、そしてとんとんと頭を抑えだした。


「やっべ。二日酔い始まっちまった。ああクソ……なあここで迎え酒して良い? 駄目? はいはい駄目ですよねわかってますって!」

 誰も何も言ってないのに彼女は半ギレでそう叫んでいた。


「これ以上頭が馬鹿になる前に大切な事だけ話しておかないと……。これから三か月、つまり一期の内に幾つかイベントがあるけど、その内の二つ『合同狩猟祭』と『学期末試験』。この二つが最重要だ。死ぬ気でやれ。そんで出来るだけ良い成績を残せ。どうしてかわかるか?」

 少し間を置いて、彼女はぐるりと回りを見渡した。


「優秀な冒険者になれるから?」

 クリスがそう呟くと、彼女は鼻で笑った。

「十点」

 クリスがしょんぼりすると、遠くに座っていたアルハンブラが傍によってとんとんと肩らしき部位を叩き慰めた。


「正解は……『担任教員の給料がアップするから』だ! だからお前ら死ぬ気でやれ! マジで死ぬ気でやれ。賞金がっぽり出るし焼肉位ならおごってやるから死ね!」

 一瞬で、生徒の大半が飽きれ顔になった。

 クリスとアルハンブラはきょとんという顔をしていた。


「クリス。もしかしてミセスは……」

 耳元で囁く様に、周りに聞こえない様にアルハンブラは呟いた。

「うん。全部嘘だと思う」

 クリスも同じ音量でそう口にする。


 そう、彼女は嘘吐きだ。


 酒を飲んでと言ってるがその様子はない。

 給料が増えるもたぶん嘘。

 本当なのは、徹夜で体調が悪い事と生徒が処分されずにほっとしていた事。


 つまり……。


「良い先生だね」

 クリスの言葉にアルハンブラも頷く。

「ああ。良い教諭に巡り会えた」

 小さく、だけど微笑みながら、確かにアルハンブラは頷き同意した。


「あとついでに狩猟祭、試験共にがっつりスカウトの視察が来るぞ。大企業とか軍とか冒険者ギルドとか色々な。運良きゃ一発スカウトもあり得るかもな」

「そっちが本題じゃねーか」

 生徒がそう突っ込むと、彼女は笑った。

「あたしの金以上に大切な事なんて世界にゃないんだよ」

 あまりにも堂々と言うものだから、生徒達はそれ以上何も言えなくなっていた。




「狩猟祭も学期末試験も、またその内詳しく説明してやる。代わりに今最も重要な事話してやるから耳かっぽじって良く聞け!」

 机をバンバンと叩いて、ゆっくりと、睨む様に、続きの言葉を口にした。

「さっき言った二つのイベント。そのどっちもが『パーティー単位』での評価点で測定される。つまり……パーティーを組まないと参加出来ないって事だ。一応ソロで参加は出来るがメリットは何もないな」


 冒険者にとって最も重要な事で、そして最も手にする事が難しい宝。

『パーティー』

 それこそが本日の本題であった。


「実際に冒険する仲間の事を『パーティー』と呼ぶ。ただ単にチームを組むだけとかギルド加入とかは違うぞ。一緒に行動し銭儲けするのがパーティーだ。人数は二人から六人。まあ、四人位がベターかな。お前ら無能なら五人の方が良いかもしれんが」

 ギルドは組織化であり、チームはパーティー同士組む事もある為パーティーとは意味合いが若干異なる。

 つまるところ、パーティーというのは『最大効率が出せる最小単位での連携』である。

 数が少なすぎれば安定感が失われ、数が多すぎたら収入面が不安定となる。


 故に、パーティー活動は四人程度がベターであると言われていた。

 ただし、これは優れた冒険者が四人揃ったという条件が設定されている為、新人の場合は五人程度の活動が無難だろう。

「そんで、パーティーには『お試し』と『臨時』と『正規』の三種類だ。内容は字の如くだな」


 とりあえずで試してみる場合や、依頼者側からの指定で作られたパーティーが『お試し』

 書類は申請一枚と代表者の名前だけで事足りる。


 急な依頼で報酬のみでかき集めた場合や知り合いに声をかけられた場合が『臨時』。

 依頼内容に偏りがあり、特定の能力持ちのみを集める場合など特化パーティーを組む場合に重宝する。

 参加者全員の直筆サイン入りの署名がいるが、逆に言えばそれだけあれば問題はない。


 正規パーティーは何枚にも渡る正式書類を提出し、学園や国が認可を降ろしてようやく認められる物である。

 学園内だけの物でも相当にめんどくさいが、学外活動用の本当の意味での正式書類はもっと大変である。

 メンバーの連帯責任は当たり前。

 解散する時も面倒な書類が必要な上に為、安易に解散出来ない。

 その拘束力と強制力は、もはや結婚に等しい。

 だから正規パーティーは敷居が非常に高く、その関係性は家族に近いとさえされていた。


 前者程組みやすく分かれやすくて、後者程その逆。

 冒険者学園の真の卒業は学外活動出来る正式パーティーを結成した時と言われる程度には、真の仲間を作る事は難しかった。


「狩猟祭は臨時が楽だろうな。基本が狩猟、討伐となるからそれが得意な奴を探せば良い。何ならこの日までに銭を集め『俺とパーティーを組め』なんて依頼を出すのも手だ。だけど学期末試験はそうはいかん。色々緩くしているし当然学内限定の物だが『正規パーティーを組む事』も試験の内となっている。ソロパーティーでも構わんぞ? 五人分の実力が出せる自信があるならな」

 彼女は嘲笑う様にそう告げる。


 実際、それが出来るのがこのクラスには一人いる。

 昨日サボって、気づけば昨日今日共に公欠となっている勇者候補生の彼女。

 あれなら単独で上位入賞位訳ないだろう。

 幸い今いないから説明する必要もない事だが。


「当たり前の事だが、学期末試験の場合組む相手は本当に重要になる。学内だけとは言え適当に決める事は出来ない。今回の場合は、出来るだけ得意内容が似通った奴とパーティーを組むのが良いだろう。試験内容はパーティー単位で決められるからな」


『学期末試験』

 それは入学生半数以上の生徒にとっては最後の試験となる。

 大半が稼げると判断して見切りをつけ、一期で辞めていくからだ。

 そんな彼らにとっては、退学という名の卒業前の最終試験。

 つまり、冒険者として本当にやっていけるかの最終確認が学期末試験の主な目的であった。


 だから、パーティーの長所を試験内容とする傾向にある。

 メンバーが調査が得意なら調査依頼を、探索が得意ならダンジョン関連を、戦闘が得意ならば討伐依頼をという風に。


 極端な例を述べるなら、戦闘が得意な五人を揃えれば試験は容易く突破できるだろう。

 試験内容は確実に戦闘になり、難易度も単独では知恵と工夫がないと勝てない位の格上相手となるからだ。


「学期末試験でのパーティーそのまま活動する冒険者パーティーってのは案外多い。少なくとも、試験を熟せる程度には相性が良いって事だからな。というか、そうやすやすとパーティーは崩せない。相方を見つけるってのはお前らが思う以上に難しい話なんだ。何十年やっても見つからない奴だってざらにいる。実際の嫁を見つけるのと同じ位と思え良い。それを複数人だ。大変に決まっている」

 彼女は頭を抑えながらタバコを取り出し火をつけようとして……眉を顰め火を付けずに咥えるだけにした。


「そんで、ここからは試験の話でなく、実際に活動するパーティーを構築する上での注意点だ。例えば……近接戦闘が得意な戦士、遠距離が得意な猟師、魔法使いに錬金術師、商人なんてのは非常にバランスが良い。出来ない事がなく大体どんな仕事も請け負える。まさに理想だ。だけどさ……それって現実じゃありえねーんだわ。ぶっちゃ理想でしかない。これが出来るのは超絶上位の冒険者か企業勤めか、または勇者に関わった奴位だろう。つまるところ、お話の中だけの夢物語だ」

 彼女はそう断言する。


 創作においては皆異なった職種でのパーティーというのは当然の事となっている。

 むしろ被った方がおかしいという話になる位だ。

 実際クリスも同種は割けバリエーション豊かな仲間が欲しいと願っている。


 だが、現実問題で言えば異なった職種だけのチームは難しいとされていた。


「例えば……去年の卒業生に近接防御特化のガードナーが居た。鉄壁ガチムチの頼れるアニキって奴だ。お前らならどんなパーティーにそいつを入れたいと思う?」

 クリスは静かに、自分の妄想の中に入り込む。


 シミュレーションで良くあるでかくてごつくて斧を持つ重層鎧のキャラ。

 派手さがない為お話においてその手のタイプはあまり強く描かれないが、それでも守りにおいては非常に頼りになる様描写される。

 足が遅く守りに長ける。

 ならば、魔法使いと組み合わせ砲台の様に使うのがベターだろう。

 戦いながら魔法を使える様な実戦型魔法使いでなくとも良いし、いくらでも魔法行使に集中出来る。


「という訳で私は魔法使いとの砲台コンボかな。そっちは?」

 クリスの質問にアルハンブラは苦笑し首を横に振った。

「残念。答えを知っているから回答する資格が私にはないんだ」

「そりゃ残念。ちなみに正解?」

「いいや。というよりも、新入生の知識では誰も正解出来ないよ。戦力で見ている時点で既に彼女の罠にハマっている」

 アルハンブラの答え通り、何人かの生徒が色々な想像を口にしているが、彼女はニヤリとした笑みを浮かべるだけだった。


「という訳で正解発表だが……先輩のガードナーに引き取られガードナー三人パーティーで絶賛活躍中だ」

 えー! という非難の声が沸き上がる。

 それが楽しいのか、彼女はくっくっと笑っていた。


「さて、どうしてそうなるかわかるか? わかる奴いたら答えてみろー。加点してやるぞー」

 クリスは迷わず手をあげた。

 アルハンブラに言われた事を踏まえた上で、ラノベ、ゲーム知識を総動員し、既にクリスは答えを見つけ出していた。

「はいっ! 互いに出来る事がわかって連携密度が凄く高くなるから!」

 彼女は驚いた様な仕草をした後、じっとクリスの方を見て……。


「三十点。創作物から離れろ」

 ばっさりと切り捨てられ、クリスはしゅんと落ち込んだ様な仕草をする。

 アルハンブラは苦笑しながらとんとんと慰めた。


「着眼点自体は悪くない。だけどお前らの実力は当然だが、数年学園に居た程度の奴が考える事じゃあない。そう言う事まで考えてパーティーを組むのは一流と呼べる程度の武器を持ってからで良い。そうだな……たとえ話をしよう。実際にあった事じゃあないが、同様の事は毎日起きている」

 彼女は臨時の冒険者パーティーについての話を始めた。


 村から出て来た三人組が、四人必要な依頼を受ける為ギルド側に派遣を要請する。

 そしてその結果届いたのが、大当たりの魔法使い。

 実戦経験もあり、実戦用の魔法を幾つも持ち、補助もこなせるという限りなく万能に近い優れた魔法使い。

 その甲斐あって以来は大成功を納め、報酬は期待額の二倍近くが貰えた。


「さて、問題はここからだ。基本的にだが、魔法使いってのは選民思想が強い。優れた者は魔法に選ばれし民であるなんて考え方だな。そうなると、どんな問題が出て来る?」

 流石に、この状況なら誰でも答えは理解出来た。


 冒険が終わって、報酬が貰えて、そして最後に報酬を分ける段階でどうなるか。

 事前に決めた内容とか、そんなんさえ関係がない。

 なにせ、自分が一番偉いのだから。


「実際さ、魔法使いが多く貰うってのは間違いな考え方じゃあない。なにせ準備段階でかかる金が違うんだから。でもさ『正しく準備金を要求する魔法使い』と『偉そうに余分に金を集る魔法使い』を見分ける事が出来るか? よほど魔法に詳しくないとわからんぞ」

 これは魔法使いだけが悪いという訳ではない。

 逆に徹底的に準備をし危険を避け続け活躍したサポート型の魔法使いが『今日攻撃魔法一度も使ってないし、つか全然役に立たなかったからお前の分はなしな』と言われた例さえもある。

 

 つまるところ、パーティー構築において最も大きな問題というのはこれ、『金銭絡み』。

 相手の職種がどれ程金銭がかかりどれほどの成果が出せるかなんてのはわかる訳がないからだ。


 己が専門家であるという自負が足枷となり、他職への敬意と理解が薄れトラブルを招く。

 故に、バラバラな職種は最もバランスの良い理想だが、同時に最も金銭トラブルに発展する状態と言われている。

 戦士が怪我の分多く要求し、矢種や事前に調べた時間分多く要求し、商人が交渉分要求し、錬金術師が素材プラスアルファ要求し、魔法使いが準備と道具の分上から要求し……。

 一度そういう喧嘩の様な流れになると元に戻す事は難しく、そして一度金銭でこじれてしまえば修復出来る可能性はあまり高くない。


「だから、四人なんだ。二人ずつの異なる職種で構築された二種二人の四人パーティー。それが実際に活動する冒険者の最初の組み合わせで最も安定する……って話を聞け。ブーブー言うなブタ共が!」

 彼女は不満を口にして叫んでいる生徒達に怒鳴り返していた。


 その様子を笑って見ながら、アルハンブラは口を開いた。

「ちなみにガードナー三人だけどね『長所が完全に一致』『同職故に仲間の体調等の変化に敏感』『足の遅さという欠点も皆同じで問題にならない』という他所が重なって三人なのに四、五人相当の戦力と評価されている。そして給料も完全三分割だから問題にならない。とまあ近年稀に見る理想的なパーティーになったそうだよ」

「なるほど。面白いね……好みじゃないけど」

「何故?」

「少しばかり、浪漫がなさすぎる。発想が軍のそれだから」

 クリスにそう言われ、アルハンブラも納得する。

 確かに言われてみればその通りだ。

 同じ装備で揃えて特化させるというのは、軍の発想そのものだった。




「んで、ここまで本来一週間以上かかるけど早足にカットカットで無理やり終わらせた。何故かわかるか?」

 彼女はそう尋ねた。

「早く終わらせたかったからじゃねーの?」

 生徒の一声に、彼女は笑う。

「ま、それもある。でもそれだけじゃあない。わかるか? 他の奴はまだパーティーの重要性に気付いていないんだ。Bクラスは現役冒険者もいるだろうが、そいつらの大半も期末試験がパーティーを組む事だって知らない。お前らだけなんだよ。パーティーの重要性に気付いているのは」

 いまいちピンと来ていない様だったので、彼女はもう少し説明を付け足した。


「ここにいる奴は出来損ないの崖手前の奴ばかりだ。そんな奴らでパーティー組んで上手くいくか? 上にいけるか? つまり……今なら率先してBCクラスに声をかけられる。Cクラスはパンピー共だ。Dの汚名が広がり切っていない今ならまだ対等にパーティーを組めるだろう。臨時でも何でも一旦組んでしまえばコネが出来る。博打になるがBクラスの奴に声をかけるのも手だ。多少の不平等でもあいつらの実力を考えりゃ確実に特となるだろう。Aは止めとけ。貴族で魔法使いが大半。この時点で理由はわかるだろ?」

 ざわりと、騒動の波紋が広がった。


 言いたい事は理解出来た。

 ここにいる奴じゃなくて、他所のマシなクラスとパーティーを組ませる。

 それも、パーティーの重要性が広まっていない今のうちに。

 彼女がやらせようとしている事も。

 だけど、それを実行するにまだ足踏みしている様な状態だった。


「今だけだぞ。同期同学年の他クラスに対して『同じ新入生』として他クラスに声をかけられるのは。なにせ一月もすれば『悪名高いDクラス』ってレッテル以外何も残らねーからな」

 更に騒動が広がった。


「ちなみにだけど、気づいてるか? 新入生用の依頼も既に張られてるって。人だかりの出来てる正門入り口の掲示板じゃねーぞ。あれはもっと上の奴ら用だ。食堂とか受付とかそっちに小さな掲示板がある。あれは依頼という名目だが実質は学園側が用意したパーティーが機能するかのテストに近い。だから条件も大抵が人数だけになっている」

 言いたい事だけ言った後、彼女はパンと、教室に響く音で手を叩いた。

 静寂の中、彼女は告げる。


「後十分で昼休憩だな。ちなみにBクラスは三階の左奥。Cクラスはここを左にまっすぐ。Aクラスに行く馬鹿もといチャレンジャーは正門の方だ。じゃ、お疲れ。お前らは十分の間ここから離れられないけど、私は頭痛が痛いから皆より十分早くお休みの時間だ。バイビー」

 すたすたと歩いて行って、そのまま本当に、彼女は教室の外に出て行った。


 一気に、騒動が大きくなる。

 それと同時に、どこか戦場の様な荒々しい空気にも。

 要するに、ここにいるのは今だけは同クラスの仲間ではなく敵であった。

 少ないパイを奪い合う。


 BCクラスにどの位生徒がいるかわからない。

 だが、ここの全員がパーティーを組めるとは考えられない。

 Dクラスにあまり悪い印象がなく、その上で真っ当な冒険者。

 これがどれほどいるか。

 そしてそういう相手が見つからなければ、この学園ではやっていくのは厳しい。

 あの老婆教員の言い草を聞けば、嫌でもそう思えて来る。


 だから、彼らは皆敵意を示し合っていた。

 お互いを牽制し合う様に。


「クリス、貴方はどうする予定で?」

 周りと違いのほほんとした空気で、アルハンブラは尋ねて来た。

「んー……急ぐ気持ちにはならないから」

「同感」

「そちらはどうするおつもり? これはクジで決める様な『どうでも良い事』じゃあないでしょ?」

「ええもちろん。自分で決めるべき内容です。だからこそ、私はまだ誰とも組まない予定です。……いざとなればソロでもある程度は出来ますし」

「ありゃ。そうなのね」

「ええ。もしかして私に声をかけていただける予定でした?」

「ううん。君とも楽しそうだけど、出来たら他のクラスの人が良いかな。せっかく出来た同じクラスのお友達、競わないともったいないから」

「なるほど。素敵な考え方だ。同調しましょう。ですが、もし貴方に誰も見つからなければ、その時は私と組みましょう。クラスメイトは助け合う物ですから」

「それは良いね。まあ、お互いそうならない方が良いけど」

「ええ。そうですね。……さて、残り十……五、四、三、二、一……」

 チャイムの音の瞬間に、生徒が一斉に飛び出していった。


 大半の生徒が一瞬の内に飛び出して、残ったのはクリスとアルハンブラを除くと四、五人だけ。

 どうでも良さそうだったり挙動不審だったりタイミングを逃したり、後は杖をついて走れないだけだったり。


 そんな生徒達もゆっくりと教室の外に向かい、とうとう残ったのは二人だけ。

 そして彼らは顔を合わせて……。

「食堂とかどうです? 奢りますよ?」

 アルハンブラはそんな提案をしてきた。

「まじで? ちょー嬉しい」

 クリスはにこーっと本当に嬉しそうな顔をしてバッグを手に持った。

「そんなに喜んでいただけたなら提案した甲斐がありました。ついでに依頼とやらも見てみましょう。何なら二人で受けて見ますか?」

「悪くないねー」

 うきうきとした様子でぴょんとテーブルの上から降りるクリス。

 そしてアルハンブラが立ち上がった瞬間、扉が、乱暴に開かれる。


 そこにいらのはリュエルだった。


「良かった。まだ居た」

 そう言葉にする彼女の目には、クリスしか映っていなかった。

「どうやら、貴方にご用みたいですね」

「だね。どうしたんだろ」

 そう言っている彼らの元にリュエルは歩いて来て……。

「聞くけど、パーティーの話が終わったのは本当?」

 リュエルの言葉に二人はこくりと頷いた。

「そう、良かった」

 そしてリュエルはそのまま……跪く様にクリスに目線を合わせ……。

「クリスきゅ……クリス君。私とパーティーを組んで欲しい」

 リュエルはクリスに向かってそう宣言した。


ありがとうございました。

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