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夕飯はこの後仲良く食べに行った


 授業の最後に、先生は質問攻めにあっていた。

 最初こそ『なんやこのファンキー過ぎるババアは!?』という顔で皆がドン引いていたというのに、その内容は最初から最後まで儲け話だった。


 当然の事だが、儲かる話なんて物は本来存在しない。

 そんな物があれば身内だけで独占するからだ。


 冒険稼業において儲かる基準なんてのもその一つであり、今回の授業は通常秘匿情報と呼ばれる程度には重要度の高い物だった。

 BはおろかAクラスでさえも、ここまで特化した話を聞く事は出来ない。

 それをこうもぺらぺら話すのだから、生徒達が興味を惹かれない訳がなかった。


 そうして盛り上がった授業も終わり、クリスが寮の部屋に戻ると、昨夜と同じく、リーガはそこで待っていた。

 前と同じ様にソファに腰を下ろし、本を片手に。


「おかえり」

 そう言って、優しく微笑みかける。

「ただいま」

 クリスもそれだけを答え、小さなバッグを降ろしリーガの隣に座った。


「初日お疲れ。どうだった?」

「楽しかった」

「ははっ。その感想が出るだけで君が普通でないとわかるよ。素直に尊敬する」

 そう言ってリーガはクリスの首元当たりを撫でた。

「えへへー」

 そう言ってクリスもまたされるがままになる。


 何となくだが、互いに距離感が理解出来た様な気がした。

 遠慮し合うとギクシャクするが、近すぎる事にはあまり気にしなくても良い。

 どれだけ距離感が近かろうと、互いに忌避感を覚えないからだ。


 互いに、性根に似た部分があるからそう確信出来た。

 例えどれだけ親しくなろうとも、それこそ親兄弟であろうとも、必要ならば何の躊躇いもなく殺せるというその性根の部分が。


 ――やっぱり彼、普通じゃない。

 リーガはここに来て確信を持った。

 外見や能力だけじゃなくて、その精神もまた異常であった。


 自分の様な学園の掃除屋(スイーパー)に片足突っ込んでいる社会から外れた存在と同じ様な慣性を持っている。

 明らかに戦闘力の低い、正真正銘の素人が、殺し屋の感性に共感する?

 しかも赤子の様な純真無垢な状態で?

 それは比喩でも何でもなく、異常性しか感じられなかった。


「あのさ」

「うん?」

 クリスは首を傾げ、見上げる様にリーガを見た。

「どっかの幼い頃から家庭の事情で電撃受けていた人みたいな生まれだったりしない?」

「あはは。そんな事ないよ。そもそも親知らないし」

「そか。何かごめんね」

「ううん。気にした事もないし良いよ。」

「そか。じゃあ失礼な事聞いたお詫び代わりに、僕の事も少し話そうか。僕もまあ……ちょっと親が特殊でね」

「別に気にしなくても良いよ。それに、嫌な事は言わなくても良いんよ」

「でもさ、結構面白い話だよ?」

「なら聞きましょう」

 すん……と、クリスは話を聞く姿勢になった。


「あはは。まずね、僕はお父さんと」

「うぃ」

「お父さんがいます」

「……うぃ。まあ、色々な家庭があるよね。産みとか育てとかそういう……」

「それと」

「う、うぃ……」

「お父さんとお父さんがいます。つまり、お父さん四人です」

「多夫一妻……ま、まあそういう家庭もない訳じゃあ……」

「お母さんはいません」

「えっ」

「死別とかじゃなくて、最初からいません」

「えっ」

「更に言えば貰われっ子とか拉致して孕ませてとか、そういう事でもないそうです。四人のお父さんの内誰かが生みの親らしいですが、誰なのか未だに知りません」

「父子出産……ま、まあそういう種族もいるから……」

「全員普通の獣人です」

「えっ」

「普通の、ただの獣人ですちなみに集落の他の家庭は全部一夫一妻でした。おかしいのはうちだけです。なのに集落の誰も何も言わず疑問にも思ってません。ね? 笑えるでしょ?」

「ちょ、ちょとホラーテイストですね……」

「あははははは。という訳で、僕が集落を出た理由はわかって貰えた? まあ、そりゃ両両親は尊敬してるけどさ……仲悪い訳じゃないし」

「凄い言葉の使い方を見た」

「という訳で、僕のちょっとした事情でした」

「ぱちぱちぱちぱち、でも笑えるよりホラー感が強かった」

「僕の説明能力不足だね。ごめん」

「たぶん、説明能力とかそんな小さな理由じゃなくてもっと違う理由だと思うの」




 その後、互いの読む本についてを少し話し合った。

 クリスは基本漫画やラノベという軽い物を好む。

 というよりも、ゲームが趣味の中心でそれに沿う様な物を好みやすかった。


 一方リーガはもう少しお堅い物を好んだ。

 ライトな物を嫌っている訳ではないが、純文学とラノベの間位の物が彼の好みに近い。

 ミステリーだったり医療政治系だったりとフィクションでも実際にありそうな話や、ノンフィクションの旅のエッセイだったり、そういう物。

 特に、風景描写に力を入れる物は彼は好んだ。


 互いに趣味は異なっている。

 とは言え……読書好きの間でそれはマイナスにならない。

 互いに異なる趣味嗜好だからこそ、互いにオススメをしやすいから。


 互いに数冊程相手に向きそうな物をオススメしあってから、リーガは会話を趣味から学園の話に戻した。


「ところでさ、今日はどういう話をしたの?」

 実際は全部聞いているし何があったのかわかっている。

 わかった上で、会話の切り口とクリスのスタンスを知る為に尋ねていた。


「んーとね、冒険者の方針について。えっと……『依頼受注者クエスター』と『行商人トレーダー』と『配信者ストリーマー』に成れって感じ」

「なるほどね。……うん、良い先生だ」

「そうなの?」

「うん」

 それだけは、全然違う方針の講義を受けたリーガも心から断言出来た。

「そか」

「その三つは専業でかつ安定して稼げるんだ。あくまで冒険者の中ではだけど。だからこそ、本来は教えてくれない話なんだけどね」

「どして?」

「稼げる話は普通、隠すでしょ? 皆がそれをやったら破綻するし」

「あっ。確かに!」

「そう、広まったら駄目になるからこそあまり口にされなかった内容だから、とても重要な情報だよ」

「そかー」

「それで、クリス自身はどうしたいの?」

「実はあんま選びたくない」

「どうして?」

「色々な事がしたいから」

「そか。それも良いんじゃない?」

「でも、先生はどれか一個に絞るべきって……」

「凄く言い方悪いけどさ」

「うん」

「稼げるのをやれって話は、大多数の出来損ないに対してだよ。凄く残酷な言葉だけど、出来る奴は何を選んでも上手くいく」

「私は出来損ないの部類だと思うけど?」

「僕はそうは思わない。というか、君みたいな変わり種は普通という型にはまらない方が良い位さ」

「そうなの?」

「うん。間違いなくね」

「そか。じゃあ私が目指すべきなのは……」

「とりあえずはオールマイティという事で幅広く活動して、出来る事と出来ない事と一番やりたい事を探せば良いかと思う。もしくは、冒険者以外の道を探すとかね」

「うぃ。とりあえず冒険者として一番やりたい事探してみるんよ。ありがとう」

「なぁに、先輩として当たり前の事だよ。それに……」

「それに?」

「本番は明日以降になるし」

「どうして――いや、やっぱ言わなくても良いかな」

「良いの?」

「うん。ネタバレは悪い文明だから」

「ああ、それは確かに、悪い文明だね」

 微笑みながら、話そうとした言葉を喉の奥に引っ込める。


 どうしてわざわざ先生が初日から方針を絞れと言ったのか。

 その理由を、リーガは予測出来ていた。


 要するに、あの先生は出来損ないである自分のクラスの皆にアドバンテージを握らせようとしていた。

 少しでも、多くの生徒を救い上げる為に。

 その為に初動をとにかく早め、周りが動く前にDクラスだけが動ける環境を整えて、自分のクラスの生徒が得をする環境を作り上げようとしている。


 だからこそ、本来なら数日かけて行われる授業を最低限だけにして初日で終わらせ、明日に備えさせた。


 他のクラスは一週間か一か月後に行うであろう行事を、Dクラスはきっと明日から始める。

 他のクラスを巻き込み、混乱させ、他の教師陣の授業予定表を崩し、文句を殺到するだろうが、そんな事もお構いなしに。


 明日から始まる本題……『それ』は冒険者にとって最も重要な事と言い切っても良いだろう。


 どれだけ才能あろうともそれに躓けば冒険者を廃業せざるを得ないし、逆にどれだけ無能であろうともその一点だけを乗り切れば大成する。

 そんな事をDクラスは明日始めようとしていると、リーガは確信していた。


ありがとうございました。

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