賢い冒険者は稼げる冒険者
ウィードが疲れ弱った胃を更に傷める事となった勇者クローン事件よりも半日程時間が戻って学園内。
リュエルが教室を出た瞬間、入れ替わる様にその女性は現れた。
年齢で言うなら老婆となるだろうが、正直その言葉は外見的にはあまり適さない。
老婆という言葉を使うには、女性は少しばかり元気過ぎる外見をしていた。
その外見に適した言葉で表すなら少々乱暴な言葉となるが『やたらとファンキーな婆さん』となるだろう。
まあ、革ジャンだったりやたら若者向けな帽子だったり全体的にピンクだったりとファッションセンスが限りなく独特で、老婆特有の落ち着きが皆無。
というかタバコの吸い方が渋いおっさんのそれ。
やたらと堂に入り過ぎて恰好良かった。
『よう。ロクデナシのクソジャリ共。入学おめでとさん。まあ予想は出来てると思うが、てめぇらは全く期待されちゃいない。こんなしわくちゃババアが担当教員に選ばれる位にはな。ご愁傷様』
教壇に立ってからやけにパンチの効いた一言を放ち、そして次に何を言うかと待ってみれば……。
「ああ、めんどくせぇ」
溜息をわざとらしくついてから当たり前の様にタバコを口に咥え……。
「ちっ! 教室内だけは禁煙する約束だった……クソみてぇな約束しちまった。んで、何を言うんだっけお。ああめんどくせぇ……」
比喩でもなんでもなく、本当にめんどそうにタバコを口に咥えながら器用に女性は言葉を続けた。
限りない無礼であるはずなのに、教室内の荒くれ者共は誰も何もしない。
あまりの傍若無人さに怒るタイミングを逃し、ただただ茫然とする事しか出来なかった。
「んでまあ、もうわかると思うけどこのクラスは出来損ないの中から最低限でも使えそうな屑だけを集めている。簡単に言やマシなクソって奴だ。……あーあA……はうざいからB当たりで楽したかったなー。あーあーなんでDなんだろうなー。ほれお前らこれ後ろに回せ」
女性はそう言ってから、書類の束を前列の生徒達に配っていった。
「あの……先生、名前を……」
前列の生徒は自己紹介さえしてない先生にそう告げる。
ただ、女性は最初からそんな事するつもりさえなかった。
「先生とか担任とか、その辺りのありきたりな呼び方が嫌ってんなら『親鳥ババア』って呼んでろ。お前らぴよぴよひよこちゃんを一人前にする大変な仕事を受け持った私を労ってな」
そう言って、女性はケラケラと笑った。
「困った。割と嫌いじゃない」
小さな声で、アルハンブラは呟く。
それにクリスも同意し頷いた。
「わかる」
破天荒な口調なのにやってる事自体はそこまで変じゃなく、むしろ真面目側。
更に言えば能力も十分にありそうというおまけつき。
この見た目や口調で強いなんていう漫画中盤盛り上げてくれるキャラみたいでクリスは割と彼女の事を気に入っていた。
少ししてから前列より配布資料が配られ、受け取ってから後ろに回そうとして……。
「ああ、私が代わりに」
手の短いクリスの代わりにアルハンブラはそれを受け取り、後列に回した。
「うぃ、ありがとう」
「どういたしまして」
そんなやりとりの後、配布された資料の束に目を向ける。
大体十枚位のホッチキスで止めた資料。
その中身は剣のみとか弓とか特定の属性魔法とか、そういった一点特化の能力を有料にて強化してくれる特別授業を行う教師と、その依頼方法、期限、予算等についてだった。
「あー……今回はいないと願いたいが、文字がよめねぇって奴は今すぐ教室出ていって一階受付で読み書きの講習参加希望出してこい。流石にそこまではここじゃ面倒見切れん。安心しろ。それは無料だ」
少し待ってから誰も教室を出て行かなかった事に安堵の溜息を吐き、女性は会話を続けた。
「んじゃ、続けて良いな。先にも言ったが、お前らは出来損ない判定された。腐ったミカンって奴だ」
そう言って、女性は親指を下に突き落とす仕草をしてみせた。
「とは言え、クソの割にゃあまだマシって判定でもある。もっと言えば、『一芸』にだけ期待されてるんだよお前らは。んで、自分の得意がわかって、この資料の中にその得意があるなら……時間作って、通常授業より優先して、特別授業を受けろ。基本有料だが、借金してでも受けろ」
女性はそう言い切った。
とは言え……それは正しい。
はっきり言えばここに選ばれる奴は落第ギリギリの崖の上に居る状態であるからだ。
まだ落ちていない『だけ』とも言える。
そう、Dクラスは堕ちるまで時間がないのと同時に、まだ可能性だけは残っているのだ。
冒険者として大成する可能性が。
「先に言っとくけど、欠点埋めて何とかしようってのは止めとけ。それが出来そうな奴はCクラスに行ってる。ここにいるのは生半可じゃない位偏った奴か、欠点が消せない様な愚図ばかりだ。下手な事すりゃ器用貧乏の雑魚の出来上がりになる。まあそれならそれで悪くないけどな」
クリスはそっと手をあげた。
「せんせー。得意がわからない場合はどうしたら良いですかー?」
そのナマモノを見て、一瞬きょとんとした顔をする。
その後すぐ、顔を顰め後頭部を掻いた。
「また随分とトンチキなのが来たもんだ。んで、得意がわからない? そういう奴は得意を探しながら普通にひよこやってりゃ良い。目が出なくても真面目にやりゃ、冒険者の真似事で稼げる位にゃしてやる……ってやけに時間が押してんな。何でだ? って、わたしが遅刻したからか。あっはっは」
悪びれもせずの笑いに、生徒達は何も言う事が出来なかった。
十分程資料を読む時間を与えた後も、教師は言葉を続けた。
「それで、ホームルームぶっちぎって最初の授業だ。予定にない? 知るかタコ。他のとこは自己紹介とかレクリとか色々やってんのは知ってるけど、、ああうちは特別だ。なにせ今日中にいなくなる奴がいるかもしれないからな」
ニヤニヤと嫌味っぽく彼女はそう口にする。
逆に好き放題自由に発言する彼女だからこそ、それが単なる事実でしかないと生徒達は気付く事が出来た。
自分達は本当に今、ギリギリの場所に立っている。
その事実を今伝えられたばかりであった。
「という訳で授業内容は……冒険者についてだ。さて、誰でも良いから答えな。『冒険者とは何ぞや』」
生徒の一人が手を挙げた。
「冒険者と認定される資格を有した人」
「はい残念。資格だけあっても冒険者じゃないし資格のない冒険者もいまーす。無資格が好ましくないから学園が出来たってのは事実だけどな。三十点」
また、別の生徒が手を挙げた。
「その名の如く冒険をする人達ですか?」
「はい残念三十点。冒険をしない冒険者もいまーす」
クリスが手を挙げた。
「冒険者という浪漫を求める事!」
「はいゼロ点」
クリスはしゅんと落ち込んだ。
アルハンブラはぽんぽんと頭を撫でた。
他にも幾つか意見が出たが、彼女はそのどれもを答えとして認めなかった。
中には不良が『つぇぇ奴』なんて発言して『十点』なんて評価も受けていた。
そうしてしばらくして煮詰まって来ると……彼女は、ニヤリと笑った。
「わからないだろ? それこそが冒険者だ。役割の幅が広すぎるんだよ。だけどな、どんな冒険者にも一個だけ絶対な共通点がある。『金を稼ぐ事』だ。金稼ぎを気にしない冒険者なんてのは単なる趣味でしかない。という訳で、今回は冒険者として稼ぎやすい『役割』の紹介だ。出来るなら、今回の授業で自分が何をメインにして活動するかも定めておけ。目的意識を持つだけで状況はぐっと良くなるぞ」
教室が、しんと静まり返る。
それはマイナスの影響ではなくむしろ逆。
生徒全員が、『金』という文字に釣られて意識を向け、彼女の言葉を一言一句聞き逃さない様な姿勢に入る。
特に、この手の嗅覚はガラの悪い生徒が鋭かった。
これから彼女のする話は、金の卵であると……。
「銭ゲバ共め……ああ、悪くない。その嗅覚は大切にしな。稼げない奴は冒険者じゃないからな」
そう言って、彼女は楽しそうに笑った。
『冒険者』
一言で表せる職業だが、その内容は一言じゃあ表せない。
冒険者の種類を分類する方法は幾つかあるが、これから説明されるのは一般的な分類ではなくどちらかと言えばマイナーな考え方。
その中でも彼女は学園としてもあまり話したがらない『稼げる冒険者』だけを彼らに紹介しだした。
「端的に言えば、冒険者の仕事場は三つに分類される。『街』『外』『ダンジョン』の三つだ。それぞれの場所で一つだけ説明していく。稼げる公算の高い役割一つだけをな。まずは『街』。これはシンプルに『依頼受注者』になれば良い」
街の冒険者、つまるところ何でも屋である。
幅広い知識を持ち知恵役として街を助ける者から、力仕事を任せられる体力自慢。
果てには臨時専用人材派遣事務所なんて事をしている冒険者集団もいる。
だが、街での冒険者の生き方にて最も安定しているのは酒場や宿屋に提示してある依頼を受ける冒険者である。
依頼掲示板をこまめに見て、自分に出来そうな仕事を見繕い、受注していく。
ただそれだけの、いわば日雇い労働者。
どうしてこれが最も稼げるのかと言えば……。
「これは他の冒険者稼業と異なりただ真面目にやるだけで評価される。そう、真面目にやるだけで良いんだぞ? それだけで評価される社会なんてそうないっつーのによ。しかも、しかもだ。コツコツ真面目にやって優良クエスター扱いされたら、率先的に美味い仕事回される様になる。更に更に、コミュ力があればそれにプラスで名指し依頼も飛んで来る。そこまでいきゃ街にとっちゃ居ないと困る人材になってるって訳だ。な? 稼ぎやすいだろ? だけど先に言っとくぞ。ここで一年以上学ぶ気がないのならこの街、つまりハイドランド首都で活動するのは止めとけ。理由? そりゃこの学園があるからだよ。先輩に勝てる自信があるならやってみりゃ良いけどな」
彼女はそう締めくくった。
そう……この冒険者学園があるという事はメリットだけではない。
このハイドランド王国の首都リオンには学園に通いながら現役冒険者を続ける自分の完全上位がゴロゴロと山ほど存在し、冒険者の質が非常に高くなっている。
真面目にこつこつという分野だけでさえ、新入生では勝てない位に。
同時に、この首都から離れた場所ならそんな上位互換を商売敵とする様な苦労をする必要はなくなって、不真面目な冒険者も増えて来るから真面目の価値も上がって来る。
その事を彼女は直接伝えず、敢えてにおわせる形で生徒に伝えた。
「んで次が『外』だな。つまり『街の外』。これはぶっちゃけ『行商人』絡みが鉄板だな、うん。自分がチンピラ崩れだと思うならこれ選んどけ。多少外見がアレでも強けりゃ尊敬される。後各地を転々とするからな、いろんな街の色町を楽しめるぞ」
下世話な顔でそんな冗談を。
だけど、その冗談に二割以上の生徒が露骨に目の色を変えた。
街の外をメインとして活動する冒険者は行商だけでなく狩猟や探索も含まれる。
街の依頼ではあるが外敵の駆除も外の活動側となるだろう。
サバイバルの様に過酷な状況となる事が多いが、過酷な反面どれだけ人手が供給過多となる事はない。
ぶっちゃけ力があってそこそこ信用出来たら他はもう全て度外視してでも重宝される。
ただし、外での活動の大半は収支が安定しない。
狩猟なんかわかりやすいだろう。
うまく上物が狩れたらウハウハだが、見つからなかったら準備分まるまる赤字だ。
というか狩猟で安定収入を得られる程の実力があるのなら、本業である猟師となるべきだろう。
「つー訳でだ。稼げるのはトレーダー。またはトレーダーの護衛を務める事だな。護衛ってのも上手くやりゃそのまま大手商会に高額で雇われるなんて一発逆転もあるからマジでオススメだぞ」
「すいません、一つ良いですか?」
前列の男性はそう声をかけた。
「あん? 何だ? 何かわからない事あったか?」
「いえ、単純な疑問ですが、賞金稼ぎの紹介はないんですか?」
「ない。内容を説明する気もない」
「どうしてですか? 私の知り合いにバウンティハンターの専属冒険者がいるのですが……」
「安定して稼げないからだよ。考えてもみろ。たった一つの獲物を大勢が奪い合うんだぞ? 兼業とかついでならともかく、それを主軸になんて出来る訳がないだろ。賞金稼ぎ専門とかもう稼ぐ手段として成立してさえいない」
「ですが……」
「んじゃどうしてそいつが成立しているかと言えば……そいつが人殺しのプロだからよ。悪い事は言わん。そいつを尊敬するな。関わるなとまでは言わん。だが……真っ当な人だと思ってるなら考え直しとけ」
「ですが、その人は正義の為に本当に悪い人しか狙ってなくて……」
「だとしたら尚の事そいつはやべー奴だよ。『正義』に取りつかれている。ただでさえ狙うべき獲物は少ないのにそこから悪党だけを選りすぐって、それで暮らせる程稼げている? 私から言わせりゃ、そいつは化物でさえない。殺戮マシーンの一種だ」
それ以上、彼は何も言わなかった。
その説明に反論する事が、彼にも出来なかったらしい。
「会ってみたいな。その人に」
ぽつりと、誰にも聞こえない様にクリスは呟く。
正義に取りつかれた人。
きっととても素敵な人で、自分を絶対に許さない人だろう。
「さてと、話を戻そう。残り一個はダンジョンだ。ダンジョンはわかるだろ?」
『ダンジョン』
それは古代遺跡やら地下迷宮やらの総称。
ずっと昔から存在するものもあれば突発的に現われる事もある。
中からモンスターがあふれ出す事もあればそうでない事もある。
つまり……良くわからない何かである。
ただ一つだけ、確実な事はある。
ダンジョンという存在は国家にとって非常に厄介な代物であるという事だ。
突発的に現われて、その土地を台無しにする事もある。
これが街の外れとか街傍で出てくれるとかならばまだ良い。
街の冒険者や警察、軍が動き状況を整えてくれる。
だけど実際はそう都合良くいく物ではなく、誰も通らない様な土地に出来て手遅れとなるまでモンスターを増やしたり、町の中に出て来てパニックを引き起こしたり。
そして最悪のケースが、街の建設予定地にダンジョンが出来てしまう場合。
安全管理を徹底しようやく街作りといったタイミングで危険地帯と化し、建設プロジェクトそのものが完全に白紙化される。
何人が露頭に迷い何人が首をくくる事になるか考えるだけでも悍ましい事となるだろう。
確かに、ダンジョンには恩恵もある。
ダンジョン産の新素材が見つかったり、ダンジョン探索は通常のよりも成長しやすかったりと悪い事ばかりではない。
そのダンジョンが報酬的に美味しいとわかればゴールドラッシュならぬダンジョンラッシュで手遅れとなった廃村でさえも復活する程だ。
だけどやはり、コントロール不能という一点だけでダンジョンはリスクが大きすぎて、為政者視点は純粋に害悪であった。
ただまあ……為政者にとってはそうであっても、もっともわかりやすい冒険者ドリームであり、最もわかりやすい成功者を表す言葉でもある。
だから、冒険者イコールダンジョンに潜る人と考える人も決して少なくなく、ここでもまた五割程の生徒はダンジョンに潜り成功者と成る事を夢見ていた。
「うんうん。わかるよ。ダンジョン、良いよな。未知を進み、困難を切り分け、お宝を手にして成功者の仲間入り。わかるよ……うん」
やたらと楽しそうな彼女の声。
その反面、生徒達の空気は徐々に冷たくなっていた。
短い付き合いだけど、何となくわかってしまうからだ。
彼女が本気で、ダンジョンが良いと思っている訳ではないと。
彼女はそのまま説明を続けた。
今までの様に役割一つではなく、多くの役割を彼女は口にする。
ダンジョンに潜る事そのものが目的だったり国からの命令でダンジョンの調査を行る『探索者』。
ダンジョンの最奥を目指し、またダンジョンを破壊出来る場合は破壊を目的とする『攻略者』。
他にも地図を作る専門の『迷宮地図製作者』や学術的調査を行う『研究者』などがいる。
いるけれど……どれも安定しない。
何故ならば……。
「そもそも美味いダンジョンが少ない! 本物の宝地図位少ない! そしてもしそんな物があったら一瞬で話題になって大手の組織や冒険者チームが人海戦術で根こそぎ持っていく。新入りの冒険者が当たりダンジョンに入れる事なんて絶対にない。……今一瞬『他所の国なら国土も広いし良いダンジョンあるかも……』と思った奴、辞めとけ。この国が一番マシだ。外国は国が横からかっさらっていく」
そう、夢も希望もあるダンジョンなんて極僅かしか存在しない。
そしてそんなお宝がもし見つかったなら、その瞬間に誰かが抱えていく。
偶然最初の発見者になって権利を得るなんてのは宝の地図の本物よりも確立は低い。
だから残っているのは、夢も希望もうっすいダンジョンだけ。
頑張れば生活していく事は出来る程度の利益は得られるだろう。
だけど、それなら他の方法で稼いだ方がまだビッグになるチャンスはあるだろう。
「とは言え……実は一つだけ、ダンジョン関連であってもオススメの稼ぎ方がある。この中の大半……というかたぶん全員知ってるだろうよ。それが目的の奴はいないだろうが」
そう言って笑って、しっかり時間を溜めてから、彼女はその答えを口にした。
「『配信者』だ」
一瞬、場が硬直する。
言葉の意味がわからず皆茫然としていた。
それを冒険者と思った事はない。
どちらかと言えば大道芸人の様なパフォーマーに近いんじゃないか。
それ以前に、あれはただの、趣味の領域だろう。
そう、この場に居る彼らは思っていた。
『配信者』
それは魔導撮影機を扱いダンジョン攻略を放送し、それを専用の放送機にてリアルタイムで流す者達の事である。
視聴する為の道具も相応に高額である為個人視聴する手段を持っている者は少なく、大体がそういう視聴専用施設で見る事となる。
高額と言っても半年分のボーナス位あれば一般家庭でも視聴機材を買う事は叶う程度であり、意外と持っている人も多い。
ダンジョンは世界中の為政者にとって厄災である。
だからこそなるべく多くの人に地下に潜り、その謎を解明し対策手段を整えたい。
その為に用意されたのが、配信という手段である。
リアルタイムで動画を放送する事で知識を集約出来、現場に行けない学者の研究材料と出来る。
また直接文字を送り届けるという手段を持って冒険者への支援を行う事も可能である。
そしてどうしようもなく死を待つだけとなった場合、何時何処で危機に陥ったかわかる為救助の確立が大きく向上される。
そういうダンジョン踏破支援の為に生み出された物なのだが……今では何故か本来の意図以上に娯楽として普及していた。
「まあ、お前らの気持ちもわかる。なんでアレってな。だけど、ダンジョン関連でもこれだけは安定して稼げるんだわ……何なら大金持ちになるチャンスもある。わたしにゃわからない世界だけどな」
他のダンジョン系冒険者と異なり、ストリーマーだけに与えられた特権が三つ程存在していた。
一つ、救援を呼ぶ事が出来る事。
失敗イコール基本死であるダンジョン探索においてそれは紛れもなく大きな利点と言える。
一つ、臨時収入があるという事。
投げ銭という未知のシステムは、配信者が不幸である程に起きやすい。
有り金叩いた武器が壊れた冒険者は通常再起不能になるのだが、配信者の場合は何故か元金以上の金が視聴者から投げ込まれたりもする。
そして最大のメリット。
配信者専用ダンジョンの方が、純粋に儲けが大きい。
見つかる素材の質も、宝箱の発生率も、その当たりの可能性も、配信の方が明らかに高かった。
配信可、配信不可、配信専用。
ダンジョンはその内容、方針、管理者の意向により状況は変わって来る。
ただ、一般的に言えば配信専用の方が危険度は高く、リターンも強い方針にある。
配信行為によって情報を冒険者に独占される事はなく、また映像として残る為盗掘がしにくい。
そういった諸々の事情にて管理がしやすい為、一般的に『美味い』と言われるダンジョンは配信専用となりやすい。
そういう事情が重なり、配信者は他のダンジョン系冒険者よりも収益が得やすく、更に配信者としての知名度が得られたら国から直々にダンジョン攻略の依頼が来る事もあって、そしてその依頼に成功すれば見事国家指定冒険者、つまり冒険者の最上位ランク入りとなる。
ダンジョン何てと思う彼女でさえも説明せざるを得ない位にはそのメリットは大きく、そして実際そうやって今も稼いでいる卒業生も少なくなかった。
「まあ……見世物となる事は否定しない。ただ……ストリーマーやるつもりないなら、ダンジョンは止めとけ。うん……少なくとも学園に三年位残っている冒険者程度の実力がないならただ死ぬだけだ」
そう、彼女は言葉を締めくくった。
ありがとうございました。