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思いがけない再会


 十数分という時間をかけ、ペガサスはフィライト首都からミューズタウンへ移動する。

 そしてルナは震えながら、だけど逃げる様に馬車を降りた。


「で、でででは……私はこれで失礼します。皆様にエナリス様のご加護がありますように――」

 真っ青な顔で限界ギリギリだというのに、ルナは猫を被っていた。

 誰が見ているかわからない。

 ルナはこの生まれ故郷ミューズタウンでは、清廉潔白でたおやかな百合の様だと評されている。

 その偽りの仮面を捨てる訳にはいかなかった。


 そしてルナを降ろした後、再びペガサスは空に戻った。


「それで、クリス様。どこに向かいますか?」

 ペガサスの背に乗り、フォニアは尋ねる。

 リュエルの膝の上にいるクリスは考える仕草を見せた。

「んー。まずはどこに行こうかなぁ……」

 その表情はどこか楽し気であるように、フォニアには思えた。


 今回、フォニアがカリーナに与えられた使命は馭者役であった。

 もっと正しく言うなら、タクシー兼配達、連絡係。

 戦闘には参加しない。

 いや、むしろ必要となるまでするなと厳命されている。


 その理由は、何となくわかる。

 フォニアは『天空神神官騎士高速飛翔部隊長』という立場を持つ。

 端的に言えば、空軍のトップオブエースである。

 若き女性で、神官としても高位の地位を持ち、カリーナの従者役にもなれる程度には礼儀作法もマスターしている。


 そのフォニアが表だって動けば、その手柄はクリスではなく自然とフォニアのものになる。

 それが好ましくないから、自重せよと言う事なのだろう。

 事実はどうであれ、フォニアはそう捉えていた。


 ――元々は彼らの仕事を奪う予定だったのに……一体どういう心境の変化があったのでしょうかね。

 カリーナの急な変転を不審に思いつつも、それをフォニアは顔に出さなかった。


「じゃあ、一つ目から順番に行こうかな。『ダーダトリー大聖堂』の方にお願いして良い?」

「了解です」

 そうとだけ答え、彼女はペガサスの手綱を握った。




 カリーナとの相談の結果、クリス達は『外部要員治安部隊』という役職と共にフィライト全域でのフリーパスと捜査権を受け取った。

 言葉だけで見れば、クリスがカリーナに屈したという形だろう。

 だが実際で言えば、むしろ逆の意味となる。


『カリーナはクリスという信奉者に()()と同等の権利を与えた』

 それは信仰に篤いフィライトにとって最大の名誉と言い換えても良いだろう。

 宗教権威があるとは言え他国の人材である事を考えたら、行った事は土下座外交に近い。


 きっとそこに深い理由や信仰、もしくは裏での取引があったのだろうと人は邪推する。

 実際は、クリスの『自分で解決したい』という欲求をカリーナが聞き届けただけであっても、それを理解する事はクリスを知らない限り難しいだろう。


「ところでクリス様、移動の暇つぶしに、今の計画や方針を教えて頂けませんか?」

 フィオレはそう尋ねた。

「うぃ? 何を聞きたいの」

「最初から最後までを。クリス様がどの様にして動き、どの様にしても目的を為さんとするかを」

「……うーん。難しい事は苦手なんだけどなぁ……」

 そう言った後、顔を見上げリュエルの方に目を向ける。

 リュエルは下を向いてクリスに目を合わせ、首を傾げた。

「どうしたの?」

「……ううん。何でもないんよ。頭を整理するついでに話してくね」

 そう言って、クリスは今持つ情報をフォニアと共有する。

 ただし、黄金の魔王関連の事以外を。


 始まりは、神の言葉。

 海洋神エナリスより直接授かった神託、神からの託された使命。

 フィライトに『大いなる危機』が迫っている。

 それが何なのかは『わからない』。


 神が言葉にするとその危機が確実に起きてしまうから、エナリスもその詳細は語っていない。

 それ以前に、そもそも詳細を知っていないような素振りさえあった。


 目的は『大いなる危機』を未然に防ぐ事。

 だけどその手段が今のところわかっていない。

 だから『なんか怪し気な事件』に片っ端から頭を突っ込んで、解決させるというのがクリスの今の方針であった。


 運良く本命に当たればそれで良し。

 外れても事件を片付けていけば、そのうち本命に当たるだろう。


 そんなふわっとして理由で今動いていた。


 今現在、クリスが介入を狙うカリーナから聞いた『なんか怪しい事件』の数は三つ。

 そしてそのうちの一つ目の話を聞きに『ダーダトリー大聖堂』の方に、今ペガサスで移動している。


「って感じなんよ。何か質問ある?」

「いえ、大丈夫です。そしてそろそろ到着しますので、ご準備を」

 フォニアはそう言いながら、ペガサスの高度を降ろしていった。




『ダーダトリー大聖堂』

 フィライトでは都市をその名前で呼ぶよりも、その建物や特徴で呼ぶ事を一般的としている。

 宗教の権威が高い為、主役が都市ではなく建物になるからだろう。

 だから今回も目的地は大聖堂ではなく、『ダーダトリー大聖堂を持つ街』の方が一般的となる。

 特徴は当然、ダーダトリー大聖堂。


 冥府神クトゥーを奉る荘厳な大聖堂で、裏庭が巨大墓地となっている。

 この墓地に入ればクトゥーによる死後の裁きが軽くなるなんて言い伝えもあり、多くの冥府神信者はこの墓地に入る事を夢見ている。

 その為、この大聖堂の街は冥府神信者が非常に多い。

 ただし、一般的な冥府神信者と異なり彼らは本当の意味で信仰を持っている。


 結果として、『便利だから』という理由で冥府神信仰するにわか信者を嫌悪する風潮がこの街にはあった。


「では、また三時間後に」

 そう言って、フォニアはクリス達を降ろし再び飛び立っていった。


 場所はダーダトリー大聖堂の街から一キロ程離れた場所。

 そのままペガサスで降りたら目立つだろうと考え、その様になった。


「さて……リュエルちゃん。今回の作戦のおさらいをしましょうか」

 歩きながら、クリスはそう口にした。

「うん。わかった」

「まず、この街に来た目的は?」

「カリーナ……様からの情報提供でここで変わった事件があったから。内容は……」

 リュエルの言葉に合わせ、クリスは「勇者」と、ぽつりと呟いた。


「うん。予言者とやらがこの街に現われて、勇者様が現れるとか何とか叫んでるらしいよ」

「別に勇者を騙るなんてのは詐欺として良くある手口なんだよねぇ。だけど……」

「大いなる危機、を訴えているから……もしかしたら……」

「関係あるかもねぇ。もしくは……本物か……」

 呟き、クリスはリュエルをちらっと見た。




 一時間後……。

 何とも言えないがっかりした顔のクリスと、溜息を吐くリュエル。

 そしてその後ろには、縄で両手を縛られた男が連行されていた。


 結論で言えば、単なる詐欺師。

 馬鹿が予言者を騙ってタダ飯食らって、危機を煽って金儲けしてただけだった。


 男は抵抗する気配も見せずしゅーんとなっている。

 まあ、抵抗出来る訳がない。

 労働するのが嫌で詐欺に手を出した程度の人間が、勇者候補と信奉者様のコンビに逆らうなんて考える訳がなかった。


「まあ、そうだよねぇ。本当にヤバい話だったり怪しい話なら、カリーナ様自分でやるよねぇ」

 クリスはぼやく様に呟いた。

「そうだね。実際カリーナ様に聞いたの単なる『噂話』だもんね」

「まあ、最初から当たりが引ける訳じゃないか」

「そうそう。一歩ずつ一歩ずつ」

「うぃ。じゃ、次の噂話……の前に二時間位は時間ね。思ったより早く終わったし、どうしようか?」

「――いや、待たなくても良いみたいだよ」

 リュエルがそう呟いた後、空から風が叩きつけられる。

 その風は徐々に強くなり、そして――風を巻き起こした主が姿を見せる。


 フォニアはペガサスと共に、空から舞い降りて来ていた。


「おや? お早いですね?」

「フォニアこそ予定より大分早いね。何かあったの?」

「はい。こちらの方をお連れしました」

 フォニアの言葉に合わせ、車体から降りて来た男に、クリスは見覚えがあった。


 やたらと雰囲気のあるダンディな中年男性。

 身なりもびしっと決め、いつも帽子を被っている。


 男の名前は『ロロウィ・アルハンブラ』。

 クリスとの間柄は、冒険者学園時代最初の友達となるだろう。


「アルハンブラ! どしてここに!?」

 ぴょんこぴょんこと飛び跳ね喜びを表現しながらクリスは彼の傍に。

 アルハンブラは微笑を浮かべ、背をかがめた。

「久しい……という程でもないが、それでも色々あったからだろう。懐かしく感じるね。我が友よ」

「そだね。色々あったねー。それでそれで、一体どの様なご用件で? 何かトラブル?」

「いや、そうじゃない。――私なんだよ。本来の案内人は。随分待たせてしまい申し訳なかった。我が友クリス、そしてミスリュエル。これよりはルナ・フィオレに代わり、私がこの国での案内役を務めさせて、いただきましょう」

 そう言って、彼は仰々しく頭を垂れた。

ありがとうございました。

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