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お見舞いいかなきゃ


「えっほ、えっほ」

 クリスは走った。 

 骨折した右腕は医療班により添え木を添えられ腕を吊られ。

 その状態でも、クリスは前向きに、楽しそうに走っていた。


「お見舞いいかなきゃ。ラウッセルのお見舞い行かなきゃ。えっほ、えっほ」

 やたらご機嫌でぴょんぴょんと走りながら、お土産を持ってクリスは走る。

 もちろん、お土産は揺らさない様最大限の配慮をしつつ。


 その直後、クリスは自らに襲い来る水を感知する。

 魔力反応の後に来る真水は、正面から。

 さっと体でお土産のケーキを庇い、クリスの背中は水浸しに。


 そしてそれをやったであろう彼らはクリスの前に姿を現した。


 魔法使いらしいローブを身に着けた三人組の魔法使い。

 彼らは杖を持ち、魔法の煙で顔を見えない様にしていた。


 とは言え、今のクリスの目で見抜ける程度の拙い魔法でしかなく、クリスにはその顔は丸見えとなっているが。

 その三人、貴族らしい不遜な表情と不安を押し殺した様な顔をした彼らに、クリスはまるで覚えがなかった。

 何度かクリスにちょっかいをかけてきたというのに覚えていない辺りで、彼らがどの程度なのか推し量る事が出来た。


「これで貴様は無防備となったという事だ。犬畜生の分際で随分と調子に乗っていたバチが当たったのだよ」

「はぁ」

 どうでも良さそうに反応するクリスに、彼らは怒りを覚えた様子だった。

「舐めているのか? それとも状況がわかっていないのか。……我らは寛大だ。一度だけは許してやろう」

「はぁ」

 きょとんとした顔で、クリスは間抜け面を見せる。

 馬鹿にしている訳ではない。

 彼らが何を言いたいのか、まるでわからなかった。

「き、貴様! そんなに死にたいのか!?」

 叫び、男はクリスに杖を向け呪文を唱える。


 随分遅い呪文で、いつでも止められる様な、そんな拙い物だった。


 そもそもの話だが、感情に支配されて魔法を使うなんてのは愚の骨頂でしかない。

 発動は遅く威力も出ない。

 可哀想な事に、どれだけ熱くなろうとも心はクールにという名言を彼らは知らないらしい。


「や、止めろ! 殺してしまうぞ!」

 仲間の二人が魔法を使おうとする男を止める。

 完全に見当違いな事を口にしていて、クリスは何とも言えないむなしい気持ちを覚えた。


「あのさ……」

「な、なんだ。それとあまり挑発をするな! 我らは義憤を持ち、耐えて耐えてここにいるのだ。それを理解し……」

「そんなに怒ってるんなら好きにして良いんよ。別に逃げも隠れもしないから」

「――は?」

「というか義憤とか言ってるけどお金目当てでしょ? そういうのわかりやすいよ? 顔を隠してお金を脅し取るのが誇り高い行為なの?」

「――随分と吼えるじゃないか。水が欠点と割れている分際で。狡い卑怯者でしない分際の癖に……。あの無能もまあ、そこだけは褒めてやるべきだろう。卑怯者の虎の威を剥いだのだからな」

「……無能?」

「ああ。魔法使いの風上にもおけぬラウッセルだ。弱点を見抜いたというのに何も出来なかった、あの敗北者の事だよ」

「――怒る気にもなれないの」

「我らは事実しか言っていないからな」

 そう言って、三人は自尊心を高める様な笑みを浮かべた。


 情けない。

 自分の実力の程もわからないというのが、何よりも情けない。

 ラウッセルより強いなら、どれだけ偉そうに言っても良いだろう。

 それが真実なら、その言葉にも価値は出る。

 だが、彼らは三人合わせてもラウッセルの足元にも及ばない。

 それなのにラウッセルを見下せているのは、ラウッセルの技量さえ彼らが理解出来ていないからだ。

 だからこそ、ただただ情けなかった。


 黄金の魔王だった者として、この国の未来を一応程度には考えていた存在として、無念さえも憶えていた。


「……はぁ。もう面倒だから攻撃してきて良いんよ」

「ば、馬鹿にして! 貴様もあいつも……私を馬鹿にしやがって!? 凍て尽くせ我が深淵よ! 『氷矢(アイシクルアロー)』!」

 その魔法使いの詠唱と共に、大きな氷の矢の様な物が生成される。

 それがクリス目掛け襲い掛かって、そしてクリスに突き刺さる事なく砕け消えた。

「つめたっ」

 氷を背に当てられた位の感覚を覚えクリスは背をこわばらせた。

「――は? な、何故……。ちゃんと濡れた部分に当てて……」

「あのさ、ただ濡れただけで効果ある訳ないじゃん。普通に考えて。そんな単純な欠点ならもっと前にバレてるんよ」

 そう、あの時のラウッセルはただの水ではなく、特殊な調合をした水を使っていた。

 その原理は不明だが、彼なりに何か正解を導いた理屈があった。

 それが出来たからこそ、ラウッセルは偉大であるというのに、その事実さえ見えていない。

 彼らにはラウッセルは『偶然運良くクリスの弱点を見つけた』としか理解出来なかったらしい。


「き、聞いてないぞ!? そんな事あいつは全く……」

「そりゃ、ラウッセルが決闘相手の弱点をみだりに叫ぶ訳がないじゃん。私が頼んでからようやくヒントを教えてくれた位だし」

 そう言ってクリスはドヤ顔をしてみせた。


 不安な表情のまま、じりじりと三人は距離を取りだした。


「逃げるなら別に良いよ? お好きにどうぞ? 次はもう少しマシになってから出て来てね」

 別に嫌味のつもりはない。

 誰かの襲撃は彼にとって当たり前の事だし、学園でのイベントはむしろバッチこい。

 嫌われ者の自分がレイドボスとなり周りの皆に狙われるというのも一興。

 だからその言葉は、クリスの掛け値なしの、心の底からの本音だった。


 それが、彼らの繊細過ぎるプライドを傷つけた。


「ば、馬鹿にするな! 魔法も使えぬ猿風情が!」

 叫び、一人が杖をクリスに向けて――。

「お前らもやれ! この非魔法使いに眼に物を見せてやれ!」

 言われ、残り二人も慌てた様子でクリスに目を向ける。


 そして彼らが自分に魔法を放とうとするその瞬間……ぴこーんと、クリスは何かを閃く。

 これは……あの漫画の再現シーンぽく出来るんじゃないかと。

 そう思ってしまったら、動かずにはいられなかった。


 クリスはお土産のケーキの箱を折れた右手で持ち、左手をフリーに。

 そして一瞬で彼らの傍まで移動し三人の杖を全て奪い取ってみせた。


 日頃の鍛錬の賜物と、ライバルとの足場の悪い中での実戦の効果だろう。

 大した成長のなかったクリスだが歩行術に関してはなかなかに伸びた実感があり、偽『縮地』程度の簡単な短距離高速移動が可能になっていた。


 ――さ、後はこの杖を返せば……。


 そう思いクリスは微笑み杖を返そうとしたら……三人は背を見せ一目散に逃げていった。

 両手を挙げて慌てて去っていくその姿は、漫画の悪役の逃げるシーンそのものだった。

「……ありゃ?」

 クリスは首を傾げ、左手で無理やり持っている三本の杖を見る。

 これをどうしたら良いか、割と本気で困っていた。


「窃盗したかった訳じゃないんだけど……はっ! そうだ!」

 ぴこーんと、二度目の閃き。

 魔法使い絡みで困った事があったら、彼に聞けば良い。

 その位、クリスの中で彼という存在は大きくなっていた。


「えっほえっほ。ラウッセルのところいかなきゃ。この杖返さなきゃ」

 言い訳が一つ追加で増え、クリスはご機嫌な様子でウラッセルの病室に向かった。




 丁重にノックをして、ゆっくり静かに戸を開ける。

 そしてクリスは、ひょこっと顔だけを扉から出し中の様子を伺った。

「お見舞い……お邪魔じゃない?」

 その姿にラウッセルは困惑を覚えた。

「……いや、別に邪魔ではないが……」

 病室のベッドの上から、ドアの向こうで顔だけを出すクリス。

 そのらしくない控えめな様子が酷く不気味であった。


「えと……お邪魔して良いかな?」

 その姿はドングリを持って待機する童話のリスの様だった。

 眉を顰め、ウラッセルはどこか困った様子で答える。

「……別に遠慮なく入れば良いだろうに」

「あ、ありがとうね。はいこれお土産」

 そう言ってクリスは奪った杖を三本ラウッセルに渡した。

「……使い古しの杖? しかも見覚えがある様な……」

「あ、間違えた。そっちはお願いの方だ。こっちこっち。クリームがだれる前に食べてね」

 そう言ってクリスは箱入りのケーキを手渡す。


 受け取ったラウッセルは、想像の何倍も重たい紙箱に目を丸くした。

「あ、ああ……感謝する。……いや、多いな。私一人でこれを今日食べるのか?」

「え? 五個くらい一度に食べられない?」

「考えるだけで胃がもたれそうなんだが……」

「じゃ、一個好きなの選んで欲しいんよ。後は私が食べるから」

 そう言ってクリスはやけに綺麗な白い皿と小さなフォークをラウッセルの脇にあるテーブルに置いた。

「じゅ、準備良いな」

「えへへ」

「というかこの皿結構良いやつでは……いや、何でもない」

 聞くのが怖くなって、クリスは質問を止めた。

 こういう高級の食器を当たり前の様に出す時点で、その背景は大体厄介事である。


「そ? ああそうそう! ラウッセルにお願いがあって来たんよ」

 キラキラした期待の目に困惑しつつも、ラウッセルはそれを素直に受ける。

 クリスの事は今も嫌いだし次こそはぶちのめしてやると思っている。

 だけど、クリスの頼みを断るという発想は何故か彼の中からは消えていた。

「頼みとは何だ? 何をして欲しい」

「その杖誰のかわかる? 落とし物だから返しておいて欲しいんだけど」

「杖の……落とし物? しかも三つも? 何があった? 事情を話せ」

「えっとね、かくかくしかじかなんよ」

「普通に話せ」

「うぃ。襲って来た三人の杖奪ったら返す前に逃げちゃって」

「すまん。私の言葉が足りなかったな。もっと丁寧に、一から事情を話してくれ」

 クリスは頷き、偶然見かけたテントでのケーキショップのケーキがいかに美味しくてラウッセルに食べて欲しかったところから、ながながとこれまでの事情を話した。




「……わかった。これは私が責任をもって、持ち主に返しておこう」

 無表情で、ラウッセルはクリスとそう約束をする。

 クリスは気にしていない様子だが、ラウッセルとしてはこれ以上身内である青寮の恥にクリスを巻き込みたくなかった。


 十中八九、その三人とやらはアーティスブルーに所属する二年二人と三年だろう。

 その杖の趣向と傾向には見覚えがあった。


「やっぱりお貴族様的な感じだと杖でわかる感じなんだね」

 なんか勘違いしワクワクした口調のクリスにラウッセルは苦笑を見せた。

「そうだな。使用感の拘りは当然だが、上流階級を自称する場合外見の拘りにも必要性が出て来る。また趣向には家柄も影響を受ける。だからまあ、わかりやすい時もあるな」

「そかそか」

 そう言いながら、ケーキを手づかみで食べるクリス。

 小さな体、小さな腕、小さな口。

 ワンカットのケーキが遠近法で大きく見える位なのに、クリスは飲み込む様にケーキを食べていた。

 正直言えば、見ているだけで胃もたれしそうである。

 だが、せっかくの好意を無下にするのは失礼だから、ラウッセルは選択したチョコレートのケーキを口に運んだ。

 クリスが言うだけあって、こんなお祭り騒ぎの出店で出たとは思えない程上質な物であった。


 これを当たり前に食べる事、これを当たり前に買う事、そして高級ケーキに何の愛着も感動も持っていない事。

 それはつまり……。

 ――やはりこいつは貴族関係者だな。

 そうラウッセルは確信するが、クリス自身が己の出自に興味ない以上、それを口にするつもりはなかった。


「さて……こちらからも話したい事があるのだが良いだろうか?」

「うぃ? 何でも聞いて欲しいんよ」

「……質問の前に、そのフレンドリーさについて尋ねても良いか? 大分不気味なんだが……」

「うぃ! 喧嘩しわかりあったら友になるんよ」

「――そうか。とは言え、あまり仲良くするつもりはない。ジーク・クリス。貴様のパーティーに入る事は今後もないし、あまり交流を持ちたいとも思わない。何故なら――」

「いつか私を倒してくれるから、でしょ?」

「――出来ないと思っていると?」

「ううん。期待してるから、嬉しいんよ」

「……そうか」

 ラウッセルは一旦立ち上がり、ドアの前に『立ち入り禁止』を示す立て札を立てる。

 その上で部屋の中に防音の魔法を張ってから、ベッドの腰を下ろした。


「内緒話?」

「ああ。お前の『オリジン』についてだ。あの時はぼやかしたが、貴様の今後の状況に大きく関わる。だから今のうちに詳しく話しておきたい。一応実証はされた事だが、部分的に違う事もあるだろう。間違っていたら修正してくれ」

「うぃうぃ。聞きましょう」

「ああ。まず、お前のオリジンだが本来の性能はそこまで高い物じゃなかったと推測している」

「うぃ? どゆこと?」

「オリジンが『大幅にブースト』されている。元々でも強力ったのは間違いない。だが、絶対防御の如くの能力を発揮しているのは『とある要因』が起因している」

「とある要因? それは一体……」

「ジーク・クリス。お前に戦術を語るというのはケンタウロスに走り方を教える様な事で正直無駄に感じる。それでも、一応は説明しよう。例えば、矢が飛んで来た状況を仮定してくれ。それを平面の盾で受ける時、垂直で受ける時と斜めに受ける時では状況は異なる。どちらが優れているかという訳ではないが、斜めに受ける方が受け流しやすいのは間違いない。わかるな」

「うぃうぃ。角度は大切なんよ」

 どの盾も僅かな曲線を描いているのもそれ。

 垂直で攻撃が直撃すると盾でも何でも案外容易く砕けてしまう。

 だからまっすぐ受けるのではなく、受け流す事が重要になる。


「それと同じ事だ。貴様の肉体は完璧という程に整えられている。全身の体毛全てが調和し受け流しを実現している。それは黄金……」

 びくっと、クリスは体を震わせた。


「――どうした?」

「な、何でもないんよ!」

「そ、そうか……。黄金比率とも呼ばれる程にだ」

 クリスはほっと息を撫でおろした。

「えと、つまりどういう事?」

「貴様にはいるだろう。専属のトリマーが。究極のカット、究極のブロー、そして究極のブラッシング。それこそが、お前最大の秘密。お前の防御力の根源だ!」

 びしっと決めるラウッセルを前に、クリスはあまりにも馬鹿馬鹿しい『事実』にがくっと膝から崩れ落ちた。


 流石にヒルデの真心こめた日々の『お世話』が自分のこの防御力に繋がっているなんて想像している訳がなかった。


「今度はどうした?」

「な、何でもないんよ……」

「だが、心当たりはあるだろう?」

「うぃ。あるんよ。彼女ならその位するだろうって思えるの」

「だろうな。……正直羨ましい位だ。そのトリマーに連絡取れないだろうか? うちのペット達を預けたい」

「忙しい人だから……」

「ああ、そうだろうな。それだけの技量だ。まず間違いなく誰かのお抱えになっている。うちだって来てくれらどんな報酬を払ってでも居続けて貰おうと思う位だからな」

「見る目がある人は違うんよ。……私はぶっちゃけ良くわからないのに」

「わかる奴にはわかるというだけだ。気にしなくても良い。……話を進めるぞ。良いか?」

「うぃ」

「トリマー技術により優れた肉体となった。毛皮こそが、黄金の体毛こそが防御の根源であると把握出来た。故に……『これ』だ」

 ラウッセルは一センチ程の小さな水の球を魔法で呼び出す。

 二文字でさえない、単なる『水』一文字の魔力行使。

 魔法とさえ言えない原始的な魔力利用だが、それでもその水はあの時と同じくどこか不思議な香りが漂っていた。

 悪い香りではなくむしろ良い香りなのに、食欲は減衰する。

 花畑の香りを人工的にした様な香りが近いだろう。


「それが私の防護をはぎ取った……」

「そう。トリミングによる防御を一時的に機能不全にした物……つまり……『シャンプー』だ」

「――へ?」

「シャンプーだ」

「ほ、ほわーい」

「何故も何も、その毛並みが機能する程防御力があがる。その毛並みを一時的に無効化する為に水を弾かず汚れを落とす『高性能シャンプー』を使う。間違った事ないだろ?」

「……どこかで嗅いだ事があると思ったら、自宅にあるシャンプーに似てるんだ、その香り」

「だろうな。これはうちのペットも使っているしつこい汚れに効果のある毛深い獣人系用のシャンプーをベースに私が作った」

「ペット……」

「ちなみにシルバーウルフとゴールドベアだ」

「派手派手なんよ」

「貴様が言うか金色わんこが」

「えへん。目立ってなんぼなんよ」

「――まあ、何にせよ気を付けろ。今は使える奴は少ないが同じ事をする奴は絶対出て来るからな。シャンプーが欠点というのは気付かれたら一気に広まるぞ」

「どうして今は少ないの?」

「獣人用の高性能高級シャンプーの存在を知ってる奴が少ないからだ」

 庶民はシャンプーに性能があるなんて事さえ知らないし、冒険者の大半は石鹸で髪を洗う程度の衛星概念である。

 そして高級シャンプーにお世話になる大半の上流階級だってわざわざペットや獣人用のシャンプーの事に意識を回さない。

 その類の雑事は全てメイド達に任せて丸投げしてる。

 だから、その発想が出来るのは、よほどペットが好きな上流階級か毛深い獣人の上級階級か、もしくはラウッセル位仕事に責任感がある場合位であった。

「なるほどねー。ま、広まってもそれはそれで」

「……ま、そういうだろうな貴様なら。私も次に挑む時は通用しないつもりで別の手段を持って挑む。覚悟しておくと良い」

「うぃ! 期待しておくんよ! じゃ、私はお先に。何かの競技に出たいし。ラウッセルはどうするの? 何に出る感じ?」

「――お前、右手骨折(それ)で出るつもりなのか?」

「お祭りは参加しなければ損だからね。まあ邪魔したくはないからメイン競技には出ないつもりだけど」

 一瞬、ラウッセルは謝罪すべきかと思った。

 彼はこの寮対抗戦を祭りとして、全力で楽しもうとしていた。

 それなのに自分が無理を言って巻き込んで、そして骨折させて参加競技の大半を奪った。

 それは誇り高いとか以前に、彼の楽しみをただ奪っただけの醜い行為である。

 だが――止めた。


 謝罪する事こそが、決闘を受けてくれた彼にとって最大の侮辱になると考えて。

 その罪悪感を隠す事こそが、自分の正しい贖罪だとウラッセルは受け入れた。


「――しばらく休んで、その後で考える予定だ」

「そかそか。じゃ、お互い楽しもうね」

 そう言ってクリスは部屋から去っていく。

 ちらちらと若干名残惜しそうなのが、無駄にうっとおしかった。


ありがとうございました。

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