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勲章授与式


 緊張し過ぎたら真っ白になり、更にその先に行くと吐き気がする。

 そこまではユーリも経験がある。

 だけど今日――その先を知る。


 緊張のリミットが超えると、心臓が痛くて死にそうになる。

 そんな知りたくもない事実を、ユーリは今体験していた。


 不整脈でも何でもないはずなのに、物理的に心臓が痛い。

 うるさくて痛くて、そして意識が途切れそうになる。

 以前もヒルデに相対したが、今日はまた色々な意味で状況が異なっている。


 正式な式典の場で、正装したヒルデとその背後にいる四人。

 つまるところの四天王勢ぞろい。


 そして主賓としてヒルデに名前を呼ばれ、ユーリは返事をして前に。

 緊張し過ぎてもう自分が何て返事をして何をしているのかわからなくなっている。

 それでも体が動いているのは、間違いなく日々繰り返しの反復の成果であるだろう。


 もう何でも良い。

 とにかく無事に終わって欲しい。

 そう願いながら、前を見る。


 ヒルデが何かをしゃべっている。

 自分の功績とか何かだろうが、心臓の音が煩くて何も聞こえやしない。


 何もかもがわからない。

 ヒルデの背後にいる四人が誰なのかもわからなくなってきた。

 並び的に四天王序列四位だろう人は式典の場に相応しくない位何かちゃらちゃらしていた。

 三位のウィードはまるで親目線でうるうるしていてちょっとうっとおしい。

 二位の女性はどうでも良さそうにそっぽを向いている。

 そして、一番わけわからないのは序列一位。


 見た事もないはずの綺麗な顔の男性が、もの凄くフレンドリーにニコニコしている。

 それこそ、まるで友達の様に。

 というか時折手を振っている。

 何もかもがわからない。

 一位は女性じゃなかったのかとか、何でそんな友達面しているのかとか、というか四天王何か社会不適合者っぽくないとか、そんな事がぐるぐる頭を駆けまわる。


 頭痛が痛い。

 心が痛い。

 というか何もかもが痛い。

 そんなタイミングで賞状を渡されたのを確認し、それを丁寧に受け取ってから一礼し、下がる。


 一応、作法は正しいはずだ。

 そう思いたい。


 そうして自分が席に戻ると、続いてクリスが呼ばれる。

 市長である自分が賞状を受け取り、パーティーリーダーであるクリスが勲章を直接授与される。

 事前にそう取り決めていた。


 そうしてクリスは前に出て……一歩目ですっころんだ。

 かこんと、無意識のうちにユーリは顎が外れそうな程口を開いていた。


 そうしてクリスはコロコロと転がり周り、ヒルデの足元に。

 ヒルデにそっと抱きかかえられた辺りで、ユーリは意識を失った。

 立ったままで、式が終わるまで誰にも気づかれず、ユーリは静かに、気を失っていた。





『翠耀盟約光円章』

 それがユーリ達四人に与えられた勲章。

 それに加えユーリは『盟約結環章』という勲章も受け取っている。


 前者はパーティーで協力し、衛星都市をハイドランドの為に用意した故の四人に与えられた勲章。

 翠色の円盤形状は都市の繁栄を意味し、それに準じる働きをした者に与えられる。


 後者は衛星都市の長としてハイドランドに忠誠を誓った事に報いる意味で与えられた物で、早い話が『裏切るなよ』という釘差しである。


 それらの勲章を受け取り、ユーリの胃痛タイムは終了となった。

 まあ、気を失った所為で四人はそのまま王城に泊まる事となり、早朝の朝食タイムwith四天王プラスヒルデというショックを再び味わう事となったが。


 そうして朝食を終えてから逃げる様に出発し、エナリスの庭ならぬ正式にクリスシティとなった街に四人はイグニスにて移動した。


 本音を言えば寮対抗戦の準備や連絡の為ここまま学園に、もっと言えば準備期間を楽しむ為寮の仲間に差し入れとかクリスは持って行きたかったのだが、ユーリからストップがかかった。

『ギリギリまで我慢しろ』

 馬鹿がトラブルを起こす事が用意に想像出来るから、そう言わざるを得なかった。


 二日後のその日、寮対抗戦『トライアセンション』当日まで。

 その時まで、クリスの学園入りはあおずけとなった。




「と言う訳で、短いけど修行タイムなんよ!」

 びしっと元気良く、クリスは叫ぶ。


 リュエルは相変わらず無表情でぱちぱちと手を叩き、ナーシャはその横でニコニコしながら拍手を合わせる。

 ユーリは少し……というかかなり疲れた顔だが、それでもナーシャの隣に座っていた。

 自分は無能である事は知っている。

 だがそれは努力しない理由にはならない。

 少なくとも、無能を言い訳にする様なダサイ事はしたくなかった。


 それにクリスはクレインが先生と呼ぶ程の指導力を持っている。

 才能が枯渇した自分にも何かアドバイスがあるはずだ。

 そう考え、疲れたきった体に鞭を打った。


「はいしつもーん! 結局何するの?」

 ナーシャは手を上げ尋ねた。

「何でも良いよ? どういう風に成長したいか方針教えてくれたら。でも答えだけは言わないよ」

「ふーん。じゃあ私が魔法じゃなくて肉体の方伸ばしたいって言ったらどうする?」

「それで良いんじゃない? でも既に単純な体力は相当ありそうな感じだから、ここからは目的もって鍛えた方が良いと思うよ」

「魔法使いなんだから魔法鍛えろって突っ込まないの?」

「バランスは大切なんよ」

 ナーシャは急にニコニコしだした。

「うん。やっぱりここは居心地が良いわ。リュエルちゃんは可愛いしもふもふちゃんも良い事言うし」

 そう言ってナーシャはリュエルの頭を撫でる。

 撫でられるを嫌そうにするリュエルの様子はどこか猫の様だった。


「あー、俺の場合はどうする? 正直鍛えようがないんだけど……」

「ほい」

 そう言って、クリスは一冊の本を見せユーリに手渡した。

「……これは?」

「個人戦用戦術指南書。ユーリの場合は焦らず、現状の能力を維持しながらじっくりと知識蓄えていくのが良いと思うの」

 そう、クリスは伝える。


 正直言えば、答えはわかっている。

 眼が負傷する前にユーリの事は見ているからだ。


 確かに、ユーリは戦闘関連ならギリギリ近くまで潜在能力を引き出している。

 一度も失敗出来ぬ実戦を潜り抜けたのはその証左でもあるだろう。

 それでも、才能が枯渇したというのはまだ早すぎる。


 そしてそもそもの話だが、才能が枯渇してからが成長の本番となる。

 その枯渇という限界を何度越えられるかが英雄と一流の差と言い換えても良い。


 だからクリスには、ユーリにどの程度のびしろが残っていて、そしてどうすれば更に成長出来るかわかっている。


 わかっているからこそ、それだけは伝えられなかった。

 自分が指導すれば間違いなく成長する。

 だけど、それをやればユーリは『100%』という限界に苦しむ事になる。

 良くも悪くもクリスの指導とはそういう類の物であるからだ。

 だから、甘く方針だけ。

 残りの才能が乏しいユーリだからこそ尚慎重にならざるを得なかった。


「……これ、どこで手に入れたんだ?」

 即座にクリスは顔を反らした。


「……おい。これ本来なら門外不出とかそういう類の物じゃないか? まじでどうやって、しかも何時手に入れた?」

 クリスは下手くそな口笛を吹きだした。

「……ったく。まあ良い。ありがたく使わせて貰うよ」

 追及するのを止め、苦笑しながらユーリはそう口にする。


 クリスとしても『ヒルデに貰ったんよ』なんて事は言える訳がなかった。


「じゃ、次は私の方かな。魔法についてはどう? 教えられる?」

 ナーシャの質問にクリスは短い腕を組み首を傾げた。

「んー……純粋な強化という意味なら無理かな。使い方のアドバイスとか成長の方針とか、無駄な部分のカットとかは出来るけど」

「ふむふむ。んじゃ命中精度の強化お願いして良い?」

「ほほー。って事はあの競技に出るんだね?」

「ええ、お願いされてね」

「うぃうぃ。出来る事少ないけど見る位はするんよ。リュエルちゃんは?」

「私はこれしかないから」

 そう言って、リュエルは剣を握った。

「うーん。教えられる事はないなぁ」

「大丈夫。何時も教えて貰ってる」

「そう? 一緒に筋トレしたりジョギングしたり素振りしたりしてるだけじゃない?」

「それで十分。……それすら()()()いないから、課題は見えているよ」

 その回答が嬉しくて、クリスは微笑み頷く。


 誰でも出来る素振りが出来てないと断言出来る。

 それは、本物だけが見える世界の話であった。


 筋肉の一ミリまで、指の先の先まで。

 全てを理想通りに動かすという事、肉体全てを完全にコントロールするという事。

 そんな事は不可能だ。

 だけど、そうじゃない。

 そうじゃなかった。


 人に限界はない。

 そう、リュエルは知っている。

 なにせその不可能を、クリスは毎日当たり前として行っているのだから。

 たった数度の素振りで汗だくになったり、ふらふらになったり。

 それだけの物を一振りに込められるクリスを、リュエルはずっと見て来た。


「そかそか。じゃあリュエルちゃんは自主トレで良い感じだね」

「うん」

「じゃ、ナーシャの方に集中するんよ。魔法使うから少し離れた場所に移動しよか」

 そう言ってクリスとナーシャが二人で歩いて行って……リュエルは、自分の過ちに気が付いた。


「……ぬかった。手伝ってって言えば……良かったんだ……この場合は……」

 ぽつりとそう呟くリュエルを、ユーリは残念な生物を見る目で見つめた。




 木の枝のあちこちに的をぷらんぷらんとぶら下げ、クリスはナーシャの方に目を向けた。

「それで、ナーシャは普通の魔法はどの位扱えるの?」

 ナーシャは的の一つに手の平を向けた。


「『氷針(アイスニードル)』」

 ぽつりと呪文を口にし、手の平から魔法が発動され、細長い氷が的に向かう。

 だが氷の針は的に当たる直前でぴたっと止まり空中浮遊しそのまま消えた。

「ほほー。二文字とは言え素敵なアレンジ」

「下級は得意なの。後氷も」

「じゃ、マックスワード数は?」

「四文字。ただし氷だけね。後は三文字よ。ああ、実戦想定でね。非実戦なら更にもう一つワードを足せるわ」

「一年も経たずにそれかぁ。本当に優秀だね」

 しみじみと、クリスは呟く。


 ハイドランドで使われる魔法は『力ある言葉』を組み合わせる事で効果を発揮させる。

 最も低い基礎魔法は力ある言葉二文字で構成され、初等階級とも言われる最下級となる。


 そこから一文字増やす事に、魔法の難易度は乗算で上がっていく。

 例え最下級の二文字であっても戦いながら使う事は難しく、三文字の魔法を実戦で使えたら十分魔法使いを名乗って良いだろう。

 つまりナーシャは、一年足らずの内にハイドランド式の魔法の基礎部分を習熟し更に上級にまで足を踏み入れたという事である。


 とは言えそれは彼女がメイデンスノーの王族であるという部分も大きいが。


「じゃあさ、メイデンスノー式の魔法だとどんな感じ?」

「杖使って良い?」

「もちろん」

 ナーシャは一メートルを超える長い杖を持ち、的に向ける。

 杖の先端に魔法陣が展開され、その魔法陣の周囲からひし形の氷の結晶体が生成された。

 後は合図一つで結晶体は的を打ち砕くだろう。


「威力は『三文字(スリーワード)』クラスだけど連射に優れるわ。他にも氷系なら色々出来るけど、的当てならこれが一番便利かしらね」

「なるほどなるほど。その氷特化な感じがナーシャの王族特有の力なんだね」

「いえ、違うわよ。単純に氷と相性が良いだけ」


 人の持つ魔力という物には必ず属性が帯びた状態となっている。

 大体の人が曖昧な属性なのだが、ナーシャの場合はそれが極端な物であった。

 普通の人は若干寄っている程度の物なのに、ナーシャの場合は氷単体極振りに近い。

 常時氷魔法に強化がかかった状態で、氷魔法なら本来の実力よりも一つ上の魔法が使える。

 その代わりに、炎魔法の適正は一つ下がる。


 意識せず魔力を放出するだけで、常に氷の属性を帯びる位にナーシャの属性は氷に偏っていた。


「じゃあ、ナーシャの王族特有の……というか固有的な魔法って何?」

「これ」

 そう言って、ナーシャは杖の構えを解く。

 それなのに、先程作った魔法陣はずっと宙に浮き続けていた。


「ありゃ。消えてないって事は……ずっと維持されてるんだ」

「ええ。意識してる限りはずっと。当然、魔法も使えるわ。多少離れても維持は可能だから魔法陣を空中に産み固定砲台みたいに使える事。それが私固有の特殊能力よ。……まあ、地味なのは否めないわね」

「氷特化の方が凄い感あるけど、結構便利だね。色々出来そう」 

「魔法陣自体も私の魔力帯びてるから常に冷気が出てるわ。だから夏場はひんやりして便利よ」

「王族の魔法が冷房代わり」

「便利な物は便利に使ってなんぼでしょ? と言う訳でどう? 何か改善点あった?」

「んー……そうだねぇ」

 例えば、魔法陣はどの位距離を維持出来るのか。

 魔法陣からどの程度の魔法が使えるのか。

 メイデンスノー式は詠唱なしで発動しているけれどどういう術式なのか。

 色々気になる部分はある。

 今の傷付いた目では魔法を読み取る事など出来そうもないが、それでも指導出来る部分はあるだろう。


 だけど、今回の場合は命中精度。

 だったら……。


「とりあえず練習しようか。的を揺らすから正確に当ててね」

「え? その程度なら余裕よ? 簡単過ぎない?」

「そう、じゃやってみて」


 そう言って、クリスは紐を器用に使い、三つの的を同時に揺らした。

「じゃ、三つ同時に当ててね。壊さない様に」

「……あらやだ。思ったよりもスパルタだったわもふもふちゃん」


 それぞれ別の木にある三つの的。

 それらを見ながら、魔法陣より三つの氷の結晶を作り出し打ち放つ。


 だが三つ同時と言う事の所為で集中しきれず、三つとも的とはまるで違うところに突き進んで行った。

 スパルタと言っては見たが実際は出来る自信はあった。

 なのに、結果は御覧の有様だった。

「……思ったより難しいんだけど?」

「良い訓練になるね!」

 クリスはにっこりと微笑む。

 それは暗にというか直接難易度を下げる気はないと言っていた。


 連続で当てるという作業なら容易い。

 だが、完全に同時となると難易度は一気に跳ね上がる。

 例えるならピアノの両手と片手。

 その位、魔法の同時発動というのは難易度が上がる。


 しかもクリスが求めているのは二つではなく三つ同時。

 三つの場合は三本目の手が求められる。

 そりゃ、難易度も高いに決まっていた。


 三つ同時に放つ魔法を一つ使えば良い。

 だけど、その場合個々の命中精度は確実に落ちる。

 命中精度を維持したまま三つ同時の魔法を放つには非常に細かい術式改良の技術が求められる。

 事前に的えの狙いをプログラミングするというのも手だが、揺れたり動いたりというアドリブに恐ろしく弱くない。

 だから出来るのはやはり、氷単発魔法を三つ同時に、それも別々の的を狙って放つのが一番マシなやり方だった。


 再び、三つの氷を飛ばす。

 今度は一つだけ的に当たったが、残り二つはあらぬ方角に。


「ナーシャちょっと力強すぎるかな。も少し下げてみようか」

「え!? これ以上下げるの? コントロール難しくなるんだけど!?」

「だから良いんじゃない」

「何か、思ったよりも地味なんだけどこんなもんなの?」

「基礎が足りないって事だね!」

「ぐぬぬ……凄く言われたくない言葉。でも何か効果ありそうだからやってあげるわよ! あ、揺らさなくても良いわ。正直今の段階じゃあんまり変わらないから」

「そう? じゃあ揺らさないけど、術式に固定位置へのホーミング付けるの禁止だからね?」

「ああ……ホーミング確認の為に揺らしてたのか。了解。でも、ホーミング駄目なの?」

「駄目じゃないけど、私なら的当て本選にホーミング妨害の術式仕込む。もしくはホーミングを逆に利用する術式を入れる」

「……確かにそうね。気をつけるわ」

 意外な程に、ナーシャはしんどい訓練をほとんど愚痴も言わずに続けた。




 十数分程経過し、ナーシャは額の汗をぬぐう。

 普段あまりしない訓練の所為かあまり上手くいかず苦しんでいた。

 そんな中、クリスは再び声をかけた。

「ナーシャ。一つ聞いて良い?」

「何かしらもふもふちゃん。会話で集中力切らす訓練?」

「ううん。単純な疑問。どうしてそこまで体を鍛えてるの?」

「……ああ、見えるんだっけ? 私ってどの位鍛えられてる?」

「ユーリ以上。ちょっとした近接冒険者よりもかな」

 ナーシャは背丈こそあるが手足は細い。

 女性的に恵まれた体つきではあるものの、全く筋肉質には見えない。

 外見だけなら本当に嫋やかな淑女そのものである。

 だけど、クリスの目は彼女が相当鍛えていると見えていた。


「それで、鍛えたらおかしいかしら?」

「ううん。魔法使いメインにしてはちょっと鍛えすぎ。もちろんそういう魔法使いもいるけど、ナーシャは純魔法使いっぽいからちょっと気になってね」

「……問題はないのよね? 沢山鍛えても」

「もちろんないよ。むしろ良いと思う。これはただの興味本位だから答えなくても良いよ」

「……ユーリィには内緒にしててね」

「うぃ。約束するんよ」

「逃避行の時ね、私のひ弱さの所為で沢山死んだわ。そしてその中にはユーリィのお父さんも居たの」

 これが他の理由だったら納得出来る。

 だけど、自分がか弱さの所為で、体力不足の所為で迷惑をかけ犠牲にしてしまったとなると納得なんて出来る訳がない。

 未だに自分が自分を許せない。

 だから彼女は亡命に成功してから、ほぼ毎日持久力と体力を中心に鍛え続けている。


 早い話が……。

「トラウマなんだね」

「……ええ、そうよ。一日最低一時間は走らないと体がこわばる位には。……そういう意味で言えば毎日ジョギングしてるもふもふちゃんには助けられてるわ。おかげでユーリィに不審にも思われなかった」

「なるほどね。言い辛い事言わせてごめんね」

「良いわ。まあ、あまり気にしないで。最近は悪い夢もあまり見なくなったし、そこそこ改善されつつはあるから」

「うぃ。気にしない様にするんよ。とは言え困った事があったら言ってね。パーティーリーダーとして何でも聞くから」

「ええ、その時はお願いするわ。……あ、三つ当たったわよ」

「お見事なんよ。じゃ、もう一回ね」

「はいはい。でも、これって意味あるの? 本番でも同時射撃するの?」

「本番では一つに集中した方が良いかな。それでも意味はあるよ」

「そう。じゃ、信じてあげるわ」

 そう言って、頭の中で三つの術式を同時に組み、同時に作動させる。

 相変わらず命中精度は悪いが、術式組み上げから作動までのスパンは明らかに短くなっていた。




 リュエルがクリスに曲射や別の魔法など複雑な事を要求されている位のタイミングで、リュエルはとことことこちらに歩いて来るのをクリスは見つける。 

 そしてリュエルの方もクリスを見かけ、手を振りながら走って来た。


「クリス君! これ」

 そう言ってリュエルはクリスの手に先程届いた封筒を手渡した。

「お手紙? 誰から?」

「さあ? とりあえず開けてみたら?」

 クリスは蝋印のされた封筒を不器用に開く。

 中からは少し破れた手紙が入っていて、そして冒頭に、こう書かれていた。


『果たし状』



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