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トライアセンション


 三寮対抗戦『トライアセンション』。


 元々は各寮にて和気あいあいと競い合い、共に成長しようなんて楽しいイベントであった。

 だが寮の関係性や時代と共に変化していき、気づけば寮予算や待遇に差を付けるなんて殺伐とした順位争いのイベントとなってしまった。


 それと三寮と言っているが、どの寮にも所属していない四つ目のチームが存在する。


 寮に加入しない、出来ないけれどお祭り事には参加したい。

 そんな彼らの為の用意された、存在しない四つ目の寮。

 一応名前は『ネームレスホワイト』となっている。

 白寮は順位争いに関係なく、その上有力な生徒も少ない為本来ならば居ても居なくても気にならない程度の存在である。

 そんな存在だったのが……今白寮は、最悪な存在が加入し、三寮にとって厄介極まりないパブリックエネミー状態と化していた。


 勇者候補、クレインである。


 白という色である事に加えどこにも所属しても波風立てると考えた彼が白寮に所属してしまった事により、優勝候補に絡めないけれど場をひっかきまわす一種のトリックスターかつ盛り上げ役と化している。

 観客にとっては楽しいイベントだろうが、優勝目指す真っ当な参加者にはたまったものじゃなかった。




 競技は大きく三つに分けられる。


 得点率の高い主競技五つ。

 得点率の低い副競技五つ。


 それに加え、競技合間の準備時間には娯楽オンリーで一切得点に依存しない競技も幾つか行われる。


 三種目を除いた二種十種目の競技での合計点を最も多く集めた寮が優勝となる。


 まず、『主競技』と呼ばれる得点率の高い対抗戦の目玉競技五つについて。



『迷宮競争』


 教師により生成された擬似ダンジョンを攻略し、その奥に到達し宝を回収し持ち帰ったタイムを競う。


 五人一組の攻略パーティーで構成され、各寮三パーティーまで登録出来る。

 ただし、これだけは白寮参加不許可となっており三つの寮のみ。


 また同時に、各寮から一名ずつ妨害要員を参加させる事が出来る。

 妨害要員は自分寮攻略以外の時にダンジョン内にて潜み、直接攻撃以外で攻略チームの足を引っ張り時間を遅延させる事が許されている。

 ただし、攻略チームに見つかり捕縛された妨害要員はリタイアとなり、攻略チームの得点としてカウントされる。



攻城(アタック)防衛(ディフェンス)


 五メートル程度のハリボテかつ擬似的な砦を各寮は用意し、それを互いに崩し合う。

 各寮十人で防衛し、攻撃要員は四人出す。

 砦には教師の用意した防護障壁が貼られ、遠距離から砦を破壊する事は出来ない。


 砦をどれだけ護れたかと、どれだけ他寮の砦を壊せたかで得点が加算される。


 特殊イベントとして、時間中盤に白寮……というかクレインが主催者サイド協力者として単独で参加し、ランダムに暴れまわる。

 クレインは砦を攻略出来ないがその代わり攻撃防衛両要員を捕縛する方向で動き、クレインが誰かを捕まえる度に白寮に得点が入る。

 反対にクレインが捕縛された場合、砦を攻略したのと同じ位の点がその寮に与えられるが、出来る人はいないだろう。



『シューティングハント』

 魔法で動く的を遠距離から撃ち落とすターゲットシュート。

 つまるところ『的当て』である。

 魔法でなく矢でも投石でも構わないが、的の動き方が非常に複雑であり、魔法の知識を持つ方が優位だろう。

 具体的に言えば的に刻まれた『分裂する的』とか『小さくなる的』とかそういった術式を事前に見極める事で得点に差が出て来る。

 射撃精度に反応力、魔法の知識、そして状況対応能力が求められる。


 制限時間内にどれだけ的を壊せたかに加え、命中率も採点基準となってくる。

 個人種目で参加は自由で、勇者パーティー等一部殿堂入りを除いて十位以内に入れば、その寮は得点対象となる。



『クライム&スプリント』

 崖登り、短距離直線、崖下りを繰り返す山を主体としたリレー。

 登り、頂上ダッシュ、下りを一周とし、それぞれ各寮を表す道具をバトン代わりにして五週分、つまり十五人でバトンを運びきれば勝ちとなる。


 魔法やそれに準ずる物の使用は一切の禁止。

 純粋に己の肉体のみで勝負しなければならない。


 またその過程により魔力が豊富な種族並びに純粋に身体能力が高すぎる種族、飛行出来る種族は参加不可となっている。



決闘(フェーデ)


 事前に変更となった今回の目玉競技。

 五人一組の団体戦と個人戦の二種がある。


 特に団体戦の得点は高く、他競技の倍を超える。


 魔法使い以外も参加できるようになっているが、魔法使いの決闘である為魔法使いが非常に有利。

 更にフェーデのルール自体でも、遠距離魔法使いが有利なルールが多く採用されている。


 故に不満の声も多い。




 副競技は以下の五つ。


 人間を駒にしたボードゲームで戦う『戦術指揮遊戯』。

 召喚物、ゴーレム等での命令合戦の『召喚バトル』。

 歴史のマニアックなテストを行う『歴史探求試験』。

 各寮でオリジナル暗号を作り解き合う『暗号製作、解読バトル』。

 そして、今年は盾オンリーで戦う事となった『武器限定バトルトーナメント』。


 若干ネタに寄っているのだが見世物としては面白い物も多い。


 ただし歴史探求試験だけは例外で、あらゆる意味で不人気だった。

 これに参加する生徒は常に最少人数であり、参加する人を羊と呼ぶ程度には嫌われている。

 なにせただ歴史のテストを行うだけなのだから。

 そして単なる歴史テストである為、観客も基本ゼロ人である。


 後は余った時間か舞台準備の時間の合間に『女装借り物競争』とか『他寮裏切り応援ダンス』とか『ゲテモノ魔物限定料理バトル』とか色物一色なイベントが開かれる。

 寮対抗としての点数には全く関係ないけれど、だからこそ逆にはっちゃける生徒も多い。

 ぎすぎすし過ぎて息が詰まるというのが生まれた原因だが、今では大道芸の様におひねりも貰える為一種の稼ぎ場ともなっていた。




「と、私が調べたのはこんな感じね。当日のプログラムは貰ってるから後で確認して頂戴」

 帰って来たナーシャはクリスにそう伝えた。

「うぃ……ありがとうなんよー」

 そう口にするクリスはテーブルの上でぐったりしていた。

「……お疲れモード?」

「ユーリは、スパルタなんよ……」

 その言葉にユーリは怪訝な表情を見せた。

「当たり前だろ王城での勲章授与式だぞ? 失敗でもしようものなら一生の恥だぞ良いのか? 最悪侮辱罪で死罪もあり得るというのに……」

「別に多少の失敗位は良いかなって……」

「良くねーよ。と言う訳でこっちの方は僕が何とかしてそれらしくはしておく。そっちはそっちで調査の方頼むよ」

「はいはい任されました。私達は仲良くイチャイチャしたもんねー」

 そう言ってナーシャはリュエルに声をかけるが、リュエルはそんな声を無視しクリスを抱きかかえるいつものお仕事に戻った。


「……ありゃりゃ。もう振られちゃった。ま、しょうがないわね。頼まれた新聞関連には声かけておいたわよ感謝なさい」

「ありがとうございます。対抗戦に関しては参加出来そうな感じでした?」

「うん。意外な位に寮長も乗り気だったわ。メイン種目でも『迷宮競争』以外ならどれでも参加出来るわ。特に『決闘』に関してはね……」

「何やら思うところがある感じ?

 ナーシャのアンニュイに近い表情に気付き、クリスは尋ねた。


「……うーん。何と言うか、私に出ろって空気がね……。これらの情報教えてくれたの寮長なのよ。おかしくない? 一週間前に移籍した私相手に寮長が丁寧にってさ」

「それだけ期待されたって事じゃないんですか?」

「まあ、そうね。確かに私はそれなりにやれると思うわよ。でも、たぶんそうじゃない。何か……別の意図があるんじゃないかなって気がするの。そしてそれが気に食わない」

「気に食わない?」

「ええ。他人の意図で動くのが嫌いなの。私」

「でしょうね。じゃ、決闘は出ない感じですか?」

「それはそれで……。青寮の奴らを相手の土俵でぎったぎたに出来るチャンスだし……でも……うーん。どうしようかなぁ。もふもふちゃんは出たい競技があったら教えて。明日学園に行く時についでに伝えておくわ。一応先方からは『戦術指揮遊戯』に出て欲しいってご意見頂いてるけど」

「うぃ。じゃ、それも含めて出来るだけ出れる様考えて欲しいんよ」

「はいはい。お任せ。ユーリィとリュエルちゃんはどうする?」


「僕はパスだ。当日いけるかもあやし……そんな顔するな」

 クリスとナーシャの酷く不満げな表情にユーリは顔を顰めた。

 そしてするなと言われたらからクリスとナーシャは続いて捨てられた子犬の様にうるうると目をうるませた。

 アイコンタクト一つなく合わせる彼らに呆れながら、ユーリは溜息を吐いた。


「あんまり疲れないに一つ参加する。それで良いですね?」

「じゃ、『攻城&防衛』の枠に入れておくわね!」

「アナスタシア様? もしや疲れないという言葉をご存知でない?」

「ユーリィの、かっこいいところ見たいなー」

「……まあ、何かお考えがある様ですので、お付き合いしましょう。リュエルはどうする?」

 ユーリィに言われ、クリスを抱きかかえながらリュエルは考える。

 特に参加したい物もないし自分の得意な競技もない。

 強いて言えば『決闘』位だろう。


「参加しないと駄目?」

「いえ別に良いわよ。無理に参加しなくても」

 ユーリは『僕の時とは随分違うな』みたいなジト目をナーシャに向けていたが、ナーシャは無視した。

「寮長は何か言ってた?」

「決闘」

「……うん。じゃあ、それで良いよ。……あんまり勝てないかもしれないけど」

「そんな謙遜しなくても」

 そう言ってナーシャは気楽に笑う。


 別に直感とかじゃない。

 単純にわかるからだ。

 自分の戦闘力は一、二年の学生と比べたら高いだろうが全体で見ればそれほど高い訳じゃない。

 だから今の自分が出ても……。


「リュエルちゃん。『封印(それ)』取る?」

 腕輪を指差し尋ねるクリスに対し、リュエルは首を横に振って答えた。

「ううん。必要ない。それに、あってもなくても多分そう変わらないよ」

 謙遜じゃない。


 最上をクレインと考えたら自分なんてそんな……。


「あ、リュエルちゃん先に言っとくけとたぶんそんな強い相手と戦わないわよ。トーナメント形式じゃないし」

「え? そうなの?」

「ええ。実力とか実績も加味されるけど……たぶん私達は上級生が相手になるわ。事前に挑戦状叩きつけるとかしない限りはね。勇者クレインは寮長達とよ」

「そう。まあ、それでもしんどいかな。リーガとか見るとそう思う。……クリス君。リーガって、何寮なの?」

「入ってないみたいだよ。良くわからないけど。……何かの組織に所属してるっぽいけど……ちょっとわからないなぁ」


 上に来れば会える的な事を言っていた気がするから、学園の何等かの組織に所属している。

 その代わりそれ以外の組織には一切所属していない。

 そしてそれは国の運営と二足に履ける程度に融通が利く組織であるという事。

 その位しかクリスも知らなかった。


「そう。まあ、彼クラスじゃないなら勝てると思う。……かな? ちょっと自信ないけど」

「まあ、とりあえず決闘に入れておくわね。ルールとか気になるなら教えてあげるし練習にも付き合うわ」

「ありがとう、ナーシャ」

「いえいえどういたしまして」

 ニコニコと微笑むナーシャに照れるリュエル。


 その様子をクリスはうんうんと何故か保護者目線で見ていた。


 

ありがとうございました。

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