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四人目のパーティーメンバー


「それでは、面接の時間なんよ!」

 何の脈絡もなくのクリスの言葉に、ナーシャは椅子をクリスの前に動かし座ってから、びしっと背筋を正す。


 本当に、何の前触れも脈絡もなかった。

 ユーリがナーシャを連れて小さな庭に戻って来て、それでリュエル含めた四人だけの部屋となった瞬間にこれである。


「はい! よろしくお願いします!」

「元気があって大変結構! それでは、特技は何でしょうか?」

「はい。特技は絶対零度です」

「その絶対零度というのは何の事でしょうか?」

「魔法です」

「え? 魔法?」

「はい魔法です。敵全員を凍結させる事が出来ます」

「……で、その絶対零度はわが社において働く上でどの様に役立つでしょうか?」

「はい。敵を凍らせられます」

「いや、わが社は別に敵とかそんなにいませんよ」

「でも、国を護る事も出来ますよ」

「いや国を護るとかそういう問題じゃなくて」

「敵全員をかちんこちんに出来るんですよ」

「かちんこちんって何ですか」

「凍結状態とか、行動不能状態とも言います」

「聞いてません帰ってください」

「あれあれ? 怒らせて良いんですか? 使いますよ? 絶対零度」

「良いですよ。使って下さい。その絶対零度とやらを」

「運が良かったわね。今日は気温が高くて使えないわ」

「帰れ」


 そんな掛け合い漫才の後に、クリスとナーシャはちらっとユーリの方を見る。

 何を言いたいのか全くわからなかった。


「いえーい」

「いえーい」

 クリスとナーシャはハイタッチをして、そして再びちらっとユーリの方を。


 リュエルは我関せずと拍手をしていた。


「わからない……僕にはクリスもアナスタシア様の事も……どうしていきなりそんな意気投合してるのかも……」

 呟き、苦悩するユーリ。


 その姿を見て、クリスとナーシャは三度目のハイタッチをしてみせた。




「と言う訳で、アナスタシア様ことナーシャよ。変わらず好きに呼んで頂戴。そしてもふもふちゃん待望の四人目のパーティーメンバーよ。どやっ」

 ナーシャの言葉にクリスはやんややんとテンションをあげた。

「待ってましたなんよ! 貴重なボケ役兼魔法使いも入ってこれでパーティーもより一層厚みが増したね」

「ボケは余ってるんだよ! というかボケしかいないんだよここ!」

「え? 心外……。私は違うでしょ……」

「お前もボケ側だよリュエル! なんでそこで違うと本気で思ってるんだよ! お前はクリスの加速器兼ボケだよ!」

 ユーリの叫びを聞いて、クリスはこれこれと微笑みながら頷いた。


「お前さ、なんか僕の扱いどんどん雑になってないか?」

「そんな事ないんよ。ところで僕っ子だったんだね」

「その言い方止めろ。何か誤解されかねん」

 ナーシャはニヤニヤとした顔となり、クリスの方に近寄った。


「聞いて下さる奥さん。この子ったら恰好つけて俺って言ってただけで元々はこっちが本当なんですよー」

 ナーシャの言葉にクリスも合わせ井戸端会議風の雰囲気を醸し出した。

「あらあらまあまあ。お年頃なのね」

「ええ、そうなのよこの子ったらねぇ」

「でもさ、ナーシャ。それを止めたって事は本懐が叶った事ですよね? おめでとナーシャ!」

「……やるわねもふもふちゃん」

 ちょっと頬を染めて、ナーシャは目を反らした。


「うぃ。と言う訳で、野暮な事は聞かないけど状況だけは教えてくれる?」

 ユーリは頷いた。

「ああ。幾つかはそのまま想定通り。約束通りアナスタシア様もパーティーメンバー入りした」

「まだ様付けなんだね」

 ナーシャは再びチャンスとニヤニヤしだした。


「この子ったら、呼び捨てで良いって言ったのに照れるんですよ」

「ナーシャが?」

「ユーリィがよ!」

「でもナーシャも照れてそう」

「もふもふちゃん私もいじり倒そうとしてる?」

「うん!」

「なんて酷いリーダーなのかしら! 鬼畜! 鬼畜生!」

 クリスは紙をくるくる巻いて小さな角を作り、とんっと自分の頭に乗せた。


「あら、鬼で畜生になっちゃったわ」

「がおー」

「可愛さ百点ね、専門家のリュエルちゃんはどう思う?」

「一億万点だ。間違えるな」

「ひぇっ。相変わらず私に冷たいわリュエルちゃん。でもそんな氷な所が素敵。あ、氷タイプはお前だろうにっていう突っ込みは無視するわね」

 わいやわいやと騒ぐナーシャを横目に、苦虫を嚙み潰した様な表情を浮かべるユーリ。


 予想はしていたが、彼らとナーシャの相性は良すぎた。

 相性が良すぎて、おかげで会話が全く進まない。


 とは言え、これの対処方法を既にユーリは習得している。

 どうすれば良いか簡単な方法を理解していた。


 逆に言えば、それはつまり自分も彼らと相性が良いという事でもあって……その悲し過ぎる事実がまた彼の眉間の皺を増やしていた。


「……はい全員着席!」

 ぱんぱんと手を叩き、教師っぽくユーリは叫ぶ。


 たったそれだけで、彼らは大人しく席に着いて……想像通り過ぎる彼らの行動にユーリは、盛大に溜息を吐いた。




「まずは謝罪をさせてくれ。すまんクリス。どうしてかわからんがとんでもないミスをしてしまった」

 そう言って、ユーリはクリスに頭を下げる。

 流石に真面目な雰囲気になって、ナーシャは口を閉じた。

「うぃ? ユーリの計画に支障が出る感じ?」

「いや。そっちは完璧過ぎる結果だ。市長としての金は僕達パーティーの物となるし、衛星都市発展分の権力も上がり続ける。後日僕達四人に勲章授与式が開かれるからそれ以降徐々にクリスに対しての見方も変わるし味方も増える。ただ、その過程でクリスに想定外の被害が出た」

「ほほー。具体的には?」

「トラブルを嬉しそうにするな。……衛星都市のこの街の名前だ」

「……うぃ? どしたの?」

「――まじですまん。この街は、エナリスの小さな庭を含むこの衛星都市の名前は『クリスシティ』に正式に決定となった」

 そう言って、ユーリは頭を深く下げた。

 クリスはぽかーんとしていた。


「いや、別にいいけど……なんでそんな事に?」

「ヒルデ様がお前のファンだってよ。……いや、ぬいぐるみのファンか? もしくはエナリス神ではなくぬいぐるみを売る方に重きを置くスタンスにしたいからか? ……実の事を言えば、僕も良くわからん。どうしてクリスの名を付けたのだろうな」

 何となく程度にしかまだ察していないユーリでは、『ヒルデの忠誠心が溢れ出した』なんて馬鹿な理由だって事は、まだわかるはずもなかった。

「ふーん。まあその程度なら問題ないんよ」

「そう言って貰えると助かる。まあ、それ以外に問題はない。そう……問題は解決した。だからこそ、ここで一つ明確な課題も見えた」

「課題って?」

「名声を背負ったからな。これから否が応でもこれから僕達は英雄の道を歩む事になる。クレインの背を追いかける様な道と言っても良いだろう」

 クリスの目がキラキラと光り、期待にあふれ出した。


「……わかりやすいなぁ。まあ、その為に一つ、最優先にて克服すべき点がある。わかるか?」

 三人とも首を横に振った。

「パーティーメンバーを増やすなら、次は音楽家かアイドルか医者が良いかな。料理人枠は臨時でも埋まった訳だし」

「しばらく増やす気はない。というか……見つからんだろ。今の状況でまともな奴は」

 そう言ってユーリは再び溜息を。

 癖になりつつあるとわかっているのに、止められそうになかった。




 問題点の提示。

 明確な欠点とその解消方法についてを、ユーリは述べていく。


 現在、クリスパーティーは実力にそぐわない名声を持っている状態である為、可及的速やかに実力を向上させなければならない。

 名声が独り歩きした冒険者というのは、格上にさえ妬まれる。


 その場合として、個別に問題点を見てみよう。


 ユーリは他の三人と問題点が少々異なる。

 実力が頭打ちとなっているからだ。

 出来る事は三人の専属サポーターとなる事位だろう。

 とは言え、ユーリは問題点に入らない。

 実力の差が激しくなれば市長という立場を利用しパトロンに成れば良いからだ。


 アナスタシアは環境が揃えば間違いなく伸びる。

 良くも悪くも魔法使いとしての才能に溢れ、その上で体力作りを嫌がらない。

 魔法至上主義の長所を持ちながら腐った性格と他者を舐める悪癖を抜いたのが彼女だ。

 弱い訳がない。


 リュエルはユーリの目から見てものびしろしかない。

 そして同時に、自分と同類だとも思っている。

 クリスの為ならば何でもやる。


 故に、この二人の心配もない。


 今この状況において提起すべき問題点を持っているのは、クリスだった。

 才能もある。

 実力も実績も大したものだ。

 指揮は天賦の才を持ち、指導力は教師顔負け。


 だけど……一点、致命的な欠点が彼にはあった。


「クリスの攻撃をどうにかする。それが目下の最優先事項だ」

 玩具の剣しか持てない。

 攻撃しても肉体オリジンのデメリットで誰にもダメージを与えられない。


 この長い事放置してしまった問題が、今最悪のボトルネックとなっていた。


 ダメージを僅かでも与えるのと全くのゼロでは状況で大きく差が出る。

 何より今後その部分を確実に突かれてる。

 暗殺や暴徒といった直接的手段から、嫌味や嫌がらせの間接的手段まで。

 これを放置すれば再びクリスを見下す事が始まり、そしてまた今回と同じ様な騒動に繋がるだろう。


 いや、次に同様の事件が起きれば今度はパーティー全体の傷となる。

 故に、クリスが物理的な破壊力を持つ事こそが最大の課題だとユーリは断言した。


「なるほど。正しい判断なんよ! つまり修行だね!」

 びしっと窓の外に向け、コッペパンみたいな手を向けクリスはやる気を見せる。

 だけど、その考えにはユーリは否定的だった。


「いや、別にそういう熱血な解決策求めてないから。というかお前トレーニング欠かさないタイプだろ?」

「うぃ。欠かさないタイプなんよ」

「だったらそんなすぐ結果は出ないだろ。いずれは必ず成果は出る。だから即席という意味なら修行とかじゃなく、何か工夫をした方が良い」

「しゅーん」

 熱血的な流れと思ったらちょっと違って、クリスはしょんぼりする。

 リュエルはよしよしとクリスの頭を撫でた。

 落ち込むクリスきゅんが可哀想なのは確かだが、クリスの為を思えばユーリの言葉に一理どころか百理位あった。


「それでユーリィ。もふもふちゃんについて何か意見あるんでしょ? 貴方なら」

「実は微妙ですね。倫理とか色々無視すればあるにはありますが……」

「論理無視って言うと、具体的には?」

「クリスが爆弾を持って突撃する」

「……うわぁ」

「……わかってますよ。非道だって事位は。でも、こういうのはされて嫌な事をするってのがセオリーですから」

「まあ、そうね。ごめんなさい」

 そう言って、ナーシャは謝罪を口にする。

 自爆テロを受けた事があり、その原因が自分である以上ナーシャはそれ以上何も言えなかった。


「流石にそれはお断りするの」

「まあ、そりゃそうだな」

「悪評が過ぎるから」

「悪評だけの問題か」

「うぃ。効率良いのは認めるんよ。でも、冒険者らしい事がしたいんよ」

「そうか。だったら……そういう武具を探すべきだな。……僕が金を奪ってなければ大金使って伝説の武具を手にするとかも手段だったんだが……。前使っていたあれは駄目なのか?」

「あれって?」

「狩猟祭の時の衣服と一緒に出した短剣。切札か何かなんだろ?」

「ああ……それで思い出した。……うん。これ、一区切りだよねぇ」

 クリスは呟き、少し残念そうに溜息を吐いた。

「どうした?」

「ううん。あれ使うのにちょっと重たい代償があってね、それで、代償まだ払ってないんだよね」

 そう言ってから、クリスはエナリス神との約束について話した。


 直接神に言葉を投げかけ、神が答えたという奇跡。

 神託よりも深い繋がりであるが故に存在する、神から人への重き代償。

 そしてそれ故に、外国に向かい世界の危機を取り除かなければならないという事。


 そしてその説明にて、彼らはしばらく離れ離れになる事がわかった。


 ナーシャは王族としてハイドランドに亡命している。

 だから、ハイドランドの外に出る事が出来なかった。

 例外があるとするなら、メイデンスノーが復興した時位だろう。

 そしてナーシャが残る以上ユーリも彼女から離れるつもりはない。

 少なくとも、クリスは彼らを離れ離れにしたいとは思わない。


「うん。とても残念だね。あ、私は当然クリス君に付いて行くから」

 無表情で淡々と。

 だけどリュエルの様子は、二人っきりチャンスに誰が見てもわかる程に前のめりであった。

「ありがと。と言う訳でせっかくパーティー組んで貰ったのにごめんね」

「ううん。それは良いわ。期間はどの位?」

 ナーシャの質問にクリスは困った顔を見せた。

「わからないかな。問題解決するまでだから。予想では、半年を前後する位。一年にはならないと思う」

「そう……。学園の事は大丈夫なの? 試験とか」

「直接神の試練になるから、その辺りは問題ないと思う。というか問題ないという神託が下るはず」

「そう。それってさ、出発の時期遅らせる事出来る?」

「え? うん。たぶん大丈夫だけど、何かあるの?」

「ええ。せっかくパーティーに入った訳だからさ、皆でやりたい事があるの」

 ナーシャの表情は、何時ものソレだった。


 ニヤッとして、少し性格が悪そうな微笑。

 つまり、小悪魔……いや、いたずらっ子のそれ。


「やりたい事ってのは、何かな?」

 ニコニコしながら、クリスは尋ねた。

「私ね……パーティー申請が通ったから青寮から赤寮に移ったの」

「ほほー。それはつまり……」

「寮対抗戦、もうすぐ始まるのよ。興味ない?」

「しんしんなんよ」

 にっこりと、クリスは満足そうな笑みを浮かべる。

 ナーシャもそれに同意し頷いた。


「……ほどほどに」

 止める事を諦め、ユーリはそう呟いた。

「ええ。ほどほどに青寮を恐怖のずんどこに落としてみせるわ」

 そう、ナーシャはぐっとガッツポーズを握りながら宣言した。


ありがとうございました。

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