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臆病者の戦い


 さて、問題です。

 可愛いの伝道師を名乗り、ハイドランドの首都リオン――しかも王城付近という最高の立地に店を構えるルルクレアに対し、何もない村未満の地での支店開設を命じたら、彼女はどう反応するでしょう?


 答え。

『もう出した』


 天才の感性は、常人が理解出来るそれではなかった。

 そして同時に、ユーリもリーガも知らなかったのだ。

 天才に、フリーハンドを与えてはならないという事を――。


 ユーリははっきり言って凡人である。

 彼に誇れるものがあるとすれば……『己と愛する者を護るために奪った命の数』そして、『自分の無能さを認める冷静さ』。

 このたった二つだけだろう。


 ユーリと異なりリーガは天才と呼べるかもしれないが、彼はまだ未成熟である。

 その真価を発揮するには長い歳月を要する。


 じゃあ……ルルクレアはどうだ。

 彼女は文句なしの天才である。

 そのルルクレアとリーガの違いは何か。

 一体どんな差があるか。


 その差を端的に表すなら—―彼女は、目的の為手段を選ばない。

 己の欲望を叶える為なら一切の労力を厭わず、苦労さえも感じない。


『で、一体どこまでやって良いの?』

 それが、交渉に来たリュエルに対しての問い。

 そしてリュエルはフリーハンドを与えた。

 結果がどうなるか予想出来た上で、与えてしまった。


 彼女はまごう事なき、天災であった。




 ここは、エナリスの小さな庭。

 海洋神エナリスが愛したとされる、神聖なる場所——。


 その一角に、やけにファンシーな区画が誕生してしまっていた。

 神聖なる空気なんて知らんとばかりにパステルカラーで世界を満たし、女性の甲高い声と笑みで溢れる、そんな場所。


 スペースは決して広くない。

 せいぜい店が一つか二つ入る程度。

 だが、問題はその外観と装飾にある。


『巨大クリス銅像』

『妙にファンシーなクリスデザインのポールクロック』

 そんな物がパステル色の敷地やらファンシーな道やらにどんと置かれているなんて店の外でもやりたい放題。


 店自体もクリス推し全開のデザインで、その辺り一帯だけまるでテーマパークの一部を切り取ったかのようだった。

「……よくまあ許可が下りたもんだ」

 ユーリは呆れ果てる。

 この土地の家族が許可を出したのは分かる。

 エナリスの小さな海からは離れているから肝心な部分の外観は壊しておらず、セレンもその母も可愛いものが好き。

 近所に店が出来て喜ばないわけがない。


 だが、この区画整理はハイドランド直々の許可であり、しかも最高管理者である『ヒルデ』の名のもとに署名されていた。

 この結果をわかった上でヒルデは許可を出した。

 リーガが間に入ったわけでもないのに、ルルクレアはヒルデから直々に許可を得ていた。


 理解できない。

 どうしてと、どうやって、両方の面から理解をかけ離れている。

 生真面目なユーリには、ルルクレアという天災を理解することは叶わなかった。

 しかし、一つだけ分かることがある。


 それは、邪魔さえしなければこちらの邪魔もしないという事。


 彼女は良くも悪くも自分の事にしか興味がなく、そしてその目的の可愛いは客寄せという意味では確実に役立っていた。

 ……もっとも、しょっちゅうクリスとリュエルを店員として連れ回すのはマイナスだが。

 それでも、ルルクレアのもたらした結果は確かだった。


 最低限の住民確保は完了。

 住居建設の土魔法が使える魔法使いも数名、住民として定着。

 生活必需品を取り扱う店と店員も揃った。

 首都との往復便の馬車も安定して確保。

 ぬいぐるみによるリオンでの混雑も、販売所をこちらに移すことで解決。


 最低限ではあるが、衛星都市としての形にはなった。

 これで後は……。


「きっと俺は、後世の歴史家にボロボロに言われるだろうな」

 他人の金とコネと権力で市長になった男。

 市長になった初仕事で都市を国に売り払った男。


 笑える位に酷い行いである。

 とは言え、引くつもりは全くないが。


 高嶺過ぎる華を手折りたいと願ったのは己自身である。

 身の丈合わぬ願いの為、善悪なんて物に拘る程余裕がある訳がなかった。


 書類を封筒に入れ、カバンに仕舞って立ち上がり出かける準備を行う。

 そのタイミングで、クリスが部屋に入って来た。


 彼は、何時もと違って黒の軍服に身を纏っていた。


「ユーリユーリ。ちょっと聞いて良い?」

「あん? 何だ? それとそれ良いな。何時もより二割程恰好良いぞ」

 ――その代わり、六倍ほど可愛いけどな。

 同じ男としての矜持で、その言葉は飲み込んだ。


「ありがと。えとね、結局この街の名前ってどうしたの?」

「んー? ああ。今は無銘の街にしてる。命名も一緒にヒルデ様に売ったんだよ。衛星都市に相応しい名前にしてくれるさ」

「どんなのになるかなー?」

「そうだな……。リオンに合わせてリリオとか……。いや『エナリス・シティ』みたいな体を表す名にするかもな。神の名を使う許可が出ればだが」

「なるほどなるほど。んで、行ってくるんだね?」

「ああ。……これだけは俺が行かないとなぁ……正直憂鬱だけど」

 一応肩書きは市長になったけれど、それでもユーリの性根は小市民である。

 国の最高責任者と会うのに緊張しない訳がなかった。

 しかもただ会うだけでなく、交渉というバチバチに争い合う関係となりに行く。


 想像するだけの今の時点でさえ、胃液を吐きすぎても収まらず胃そのものを吐き出し悶絶しそうになっている。

 正直もう全部投げ出したかった。


 それでも、引く事は出来ないしする気もないが。


「そんな頑張るユーリにプレゼントだよ」

 そう言ってクリスは封筒を丁寧に、机の上に置いた。

 手渡しを気にする仲じゃないし、そもそもクリスは誰でも気にしない。

 そんなクリスらしからぬ態度に首を傾げながらその封筒の中にある一枚の書類を見て……。


「お前……これ……」

 それは、本来ここにあってはならない物。

 ユーリがこれから戦いに赴く時間違いなく『切札(ジョーカー)』となる、そんな代物だった。

「本当は直々にユーリの頑張るところを見たいけど、残念ながら休憩時間は残り五分なんよ。だから、草場の影ならぬ()()()()()の影で応援してるんよ」

「……マナー違反だけど、一つ聞かせてくれ」

「なになに?」

「酒は飲める歳か?」

「うぃ。そこまで好きじゃないけど歳で言うなら」

「……だったら、全部上手く言ったら男だけで飲もう。野郎だけでバカ騒ぎをしながら」

「なんと。最高な提案なんよ。だったら……」

「ああ。行ってくる」

 そう言って、ユーリは先に部屋を出て行った。


 市長用の政務室として作られた小屋。

 その部屋から出て行くユーリの背は、男であると語っているかの様だった。


「ああ。やっぱりついて行きたかったなぁ」

 クリスは人が成長する姿を愛している。

 それが自分の想像を超えるなら尚の事だ。


 ユーリに才能はない。

 戦闘と言う意味だけでなく、あらゆる意味でもそうだ。

 故に当然、魑魅魍魎が跋扈し蹴落とし合う政治の世界に生きる資格はない。


 その彼が、国の代表相手にぶつかり自分の利益をかすめ取ろうとしている。

 無茶を通そうとしている。

 それはまごう事なきクリスの想像を超える行いだ。

 

 クリスの望む姿、即ち黄金の魔王を倒すべく偉大勇者とは異なっているが……それでも、やはりユーリの姿はクリスにとって美しい物であった。




 あらゆる事象が、心臓を締めつけてくる。


 黄金の魔王の住処たる雄大なる巨城に足を踏み入れるときも。

 VIP待遇として整列した軍人たちが、一糸乱れず敬礼し、微動だにしない光景も。

 見たこともない程丁寧な礼節で応対し、傍に寄りそう蠱惑的な美貌を持つメイド達も。


 すべてが、恐ろしかった。


 だが、そう感じることこそがユーリの才能の限界であり、また武器でもあった。

 身に余る権力を拒絶できる人間は、実のところそう多くはない。


 恐怖という護身術を持つからこそ、ユーリはこれまで生を繋ぎ留められていた。


 ここで何かに反応すれば、どこかを欲してしまえば、その瞬間、ユーリの破滅は決定した。

 特に、メイドに擬態した篭絡用の諜報員に心を動かされた場合は——―。


 ヒルデは無能を嫌う。

 故に、彼女はユーリを快く思わなかった。

 リーガはヒルデが気に入ると考えているが、今のところはそんな事なくむしろ逆。

 この程度の罠にかかるような男ならそれまで――これはそう判断するための『テスト』でもあった。


 そして、仕掛けられた罠という名の試験を乗り越えた先に、ユーリは彼女と対面する。


 粗末な応接室に、ヒルデは待っていた。

 氷のように冷たい表情で、凍えるような瞳を向けながら。

「ようこそいらっしゃいました、ユーリィ・クーラ様。どうぞ、お掛けになって下さい」

 感情の欠片も感じられない口調で、ヒルデは促した。


 ユーリは席につき、何を語るべきかを考える。


 事前に伝えるべきことは既に伝えてある。

 だが、こういった場では改めて口にする必要があった。

 特に、最終的な結果が交渉にて前後するこの場合では。


 だからこそ、話の内容、順序、そしてヒルデが何を望んでどこまで相手に要求するかを考えて――

「必要ありません」

彼が口を開く前に、ヒルデはぴしゃりと言い捨てた。

「……え?」

「余計な考えは不要です。この場に貴方が来た時点で、すでに資格があると判断しました」

「それは……どういう意味ですか?」

「説明するつもりはありません。必要なのは一点。貴方が何を要求するか。ただそれだけです」

 ハイドランドに多大な貢献をもたらした貴方は、一体何を報酬として求めるのか――。


 ヒルデは仮定をすべて排除する。


 時間が惜しい。

 それもあるが、彼女がユーリを気に入らないという理由も大きかった。


 無能だから? いや、違う。

 それだけじゃない。

 単純に、彼が『好かれている」からだ。


 主に多大な好意を向けられている

 その事実が、ヒルデの中の何かを刺激していた。


「いえ、それでは済みません。あの街について話し合うことも、ぼ……俺の仕事です」


 ヒルデの言葉を振り払い、ユーリは言葉を紡ぐ。

 自分の使命のためではなく、ただ責任のために。


 ヒルデはどうでも良さそうに、溜息を吐くかの様に一瞬だけ眼を伏せた。

「そうですか。それで、何を話し合うのですか?」

「まずは、街の名前を。どのような名とするのか。そして……これは、あの街の特産品です。活用の参考になればと……」


 そう言いながら、ユーリはカバンを開け――

 ばらばらと、その中身を全てひっくり返してしまった。


 頭が真っ白になる。


 大した事のない、挽回の簡単なミスでしかない。

 だがミスしたという事実を本能が拒絶し、緊張し過ぎて次の行動が出てこない。

 謝罪する余裕もなく、彼は固まったまま動けなかった。


 そして――

 ヒルデは、ユーリが散乱させた道具の一つ『それ』を手に取った。


 ルルクレアから『お近づきの印』としてもらった、『小さなクリス君マスコットキーチェーン』を。

 奥底にしまい、もらったことすら忘れていたそれを、ヒルデは真剣な眼差しで見つめていた。


「未販売……でも……契約では……ではこれは……」


 ユーリは弱い人間だ。

 だからこそ、人の弱さを誰よりも知っている。

 それは、偶然でも何でも、ヒルデの『弱い部分』が表に出た瞬間だった。


 これは切り込むきっかけだ。

 理性ではなく、感情を交渉に持ち込み、相手を揺さぶれ。

 そうしなければ食い殺されるぞ。

 相手はこちらを交渉相手とすら見ていないのだから。


 内なる自分が、そう囁いていた。


「失礼。それは俺の私物ですね。市長としてという事で特別に、知人から譲り受けまして」

 微笑みながら、ユーリは呟く。

「……失礼しました。非売品ならば希少なものでしょう。どうぞ、大切に」


 そう言って、ヒルデはキーチェーンをユーリに返そうとする。


 感情を消し、隠した。

 少なくとも、彼女はそのつもりだった。


 だが――


 ユーリは気づいていた。

 ほんの一瞬の隙も見逃さないよう注視していた彼は、ヒルデの手つきが 惜しそうに していることを。

「おそらく、未販売の没商品でしょう。もしかしたら、これ一つしか存在しないかもしれません。……ああ、こういうのって逆にレアになるんでしたっけ?」

「……そうですね。詳しくはありませんが、きっとそういうものなのでしょう」


 嘘だ。

 明らかに、彼女は『詳しい』。


 ユーリは心の底からクリスに感謝した。

 国家最高責任者であるヒルデが、自分程度でもバレる程の下手くそな嘘をつく程動揺している。

 それがどれだけの幸運かわからない程ユーリは耄碌していない。

 最悪の交渉相手に、ほんの僅かでも『隙』が作られた事。

 その事実が、何よりも心強かった。

「……あいにく俺はこの手の物にあまり興味がなくて。せっかくなら欲しい人に渡そうかと考えていました。……要ります?」


「……こほん。まあ、私のような堅物であっても、小物を可愛いと思う感性は持ち合わせています。他意はありませんが、要らないと切り捨てるほど感情を捨てては……」

「あ、でも仲間のリュエルが欲しがってたな。すごく欲しがってたみたいだし、やっぱりそっちに――」

「私の方が欲しいです!」


 ダンッ!!

 ヒルデの手が、テーブルを叩いた。


 静寂が落ちる。

 互いにきょとんとした後、ヒルデが小さく「あっ……」と呟いた。


「そ、そこまで欲しいなら。どうぞ……」

「あ、ありがとうございます」

 ギクシャクした空気の中、ヒルデは大切そうに両手でキーチェーンを受け取った。




 気まずい空気を切り替える為だろう。

 ヒルデはユーリの前にお茶と茶菓子を用意し休憩の提案をした。

 ユーリとしても頭が混乱しかけて有難い事であった。


 贈り物を受け取った。

 その事実は大きい。

 先の取り乱しようと合わせ、多少だが会話を有利に進められるだろう。

 少なくとも、冷血な鉄面皮に一方的に追い詰められるという事態にはならないはずだ。


 元々交渉自体は既に終わった様な物で、残りはいかに自分の取り分を増やせるかという部分のみ。

 衛星都市の『名前だけ市長』にどの位の値を付けてくれるか。

 その部分だけなのだが……。


 これはユーリにとって護身術でもあるが、同時に悪癖でもあった。

 平凡な能力を持つユーリがここまでたどり着けたのはその臆病という名の護身術による影響も大きい。

 つまるところ、違和感を拾う能力である。


 足元に危機を残さない。

 違和感という名の何かの正体が単なる気のせいなのか何等かの差異なのか、それを特定する。

 弱者として、そんな細かい生き方をしてきた事こそが無能である証左とも言えるだろう。


 そんなユーリの今勘じる違和感は、先程のヒルデについて。

 ハイドランドに住んでヒルデを知らない者はいない。

 ハイドランドの最高責任者にして全権を握る者。

 偉大なる統治者にして平等の代名詞。

 世界の緩衝地帯にて世界平和を導いた王。


 である彼女が、たかだかキーチェーン一つで叫ぶだろうか?

 あんなに慌てふためくだろうか。


 いや、そんな事はあり得ない。

 であるなら何か理由があるはずだ。


 実はクリスのファンである事。

 それはまあ、正しいのだろう。

 明らかに詳しそうだった。

 そうなると、ルルクレアをあれだけのフリーハンド状態にしたのもヒルデと思っても良いはずだ。


 だがそれにしても、あの慌てようはやはり普通じゃない。

 他に慌てる要因はあったか。

 誰かに取られるかもと誘導した部分はあるけれど、そこまで極端な物じゃあなかったはずだ。

 ならば何故?


 ……リュエルの名前。

 いや、そうじゃない。

 この場合リュエルの居場所に意味がある。


 考え過ぎだろう。

 だけど、一瞬でもその可能性に思い当たってしまった。

 リュエルと同様に、目の前のヒルデもクリスという存在を異性として――。


「そこまでです」

 ヒルデは、冷たく言い放った。

 今までの無表情じゃあない。

 その冷たさは明らかに、殺意であった。


「口にしなければ、私の弱みとしてこの場だけの内々にて処理出来ます。私が口止め料を払い、恥を掻くだけで済む話となります。ですが、もしも口にしてしまえば、()()()()()()()()をしなければならなくなります。賢い貴方なら、その意味がわかりますね?」

 ユーリは同意を口にしようとした。

 だけど、口が動かなかった。

 顎がかたかたと揺れ、口を閉じる事さえも出来ていなかった。

 本物の強者の威圧という物を、ユーリは初めて体験した。

 狩猟祭の時の奴らとも格が違う……本当の頂点と相対するか感覚を。


 まともに息も吸えない中でも必死に体を動かし、ユーリは小さく頷いた。


「ありがとうございます。……貴方の評価を改めましょう。貴方は無能じゃない。貴方は小さな牙だ」

 リーガやあの方の言葉通りに……という言葉は飲み込んだ。


「……街の名前はこちらで考えます。その他の問題も全てこちらで処理します。どうせ市長として働くつもりはないでしょう?」

 再び、ユーリは頷いた。


「結構。であるのなら、貴方の目的をおっしゃってください。……報酬と、狩猟祭の分と、そして今回の口止め料として、願いを聞きましょう。黄金の魔王の従者、ヒルデとして貴方と向き合いましょう。ユーリィ・クーラ様――」

「……よ、嫁……」

 必死に何かを呟こうとした結果、一番微妙な言葉だけが、口に出てしまった。


 ヒルデはぽかーんと、口を半開きにして驚いた。

「よ、嫁ですか? ……結婚相手探しの為に? ……一体どなたを……四天王位なら売り払いますよ? 不良在庫ですが」

「ち、違う! えっと……メイデンスノーで。俺は……」

「ああ。アナスタシア・ビュッシュフェルト様でしたね。失礼。そんな当然の事さえ忘れていました。つまり貴方の目的は……」

「彼女に王位を取り戻させる事。それと……俺が彼女の結婚相手になる事だ。……後者はここで叶えるべき願いではないが」

「そうですね。そちらは私にもどうしようもない事です。でも、前者なら確約しましょう。……メイデンスノー自体を取り戻す事を約束する事は難しいですが」

「……ヒルデ様でも難しい話ですか?」

「申し訳ありませんがそう言わざるを得ません。ハイドランドの土地を幾分用意し、メイデンスノー王朝代理国とし、メイデンスノー奪還への道を用意しましょう。ですがそこまでです。何分国際問題となる話ですので。そしてこれ以上の話は……」

「そうだな。そこまで進んでしまえば、もう俺がすべき話じゃないな」


 メイデンスノーが復興出来るまで功績は積んだ。

 ヒルデはそうすると約束してくれた。

 であるのなら、ユーリの為すべき事はもう終わりと言っても良い。


 ここから先は単なる平民のユーリではなく、王家に生まれた者がすべき話なのだから。


「ですので、後の取り決めについてはこの後にどうぞ。アナスタシア様は既に呼んでありますので」

「ふぁっ!?」

 ユーリは叫んだ。

「その方が話が早いでしょう? 色々な意味で。それとも、理想のプロポーズでもありましたか? そうならその場を用意しますよ? 食堂でも、高級レストランでも、バーでも、どこでも」

「な、何故アナスタシア様がここいるか、聞いても?」

「私は出来る従者ですので。……貴方とのお話で少し忘れてしまっておりましたが」

「……あのヒルデ様。もしかして怒ってらっしゃいます?」

「いいえ。ただ……」

「ただ?」

「これはただ、楽しんでいるだけです」

「……良い性格してますね」

「良く言われます」

 そう言って、ヒルデはぺこりと頭を下げた。


ありがとうございました。

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