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もふもふ元大魔王の成り下がり冒険譚  作者: あらまき


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デュアルオリジン


 入学式の後に適正を調査し、連携を含む協調行為が取りやすい様適した少数クラスに分ける。

 そう入学生達には伝えているが、それは限りなく建前に近い。

 それを信じているのは、入学生側でもよほど純粋な奴だけ。

 つまり今回はクリス程度しかその戯言は信じていない。


 異なる水で生きた者を一緒の空間には置けない。

 いや、もっとわかりやすい言葉がある。


 腐ったミカンは、他のミカンを腐らせる。

 クラス分けというのは、つまるところそういう事だった。


 Aクラスはシンプルにエリート。

 あらゆる角度から見て高水準で上を目指せる人材。

 多少苦手が事があれどそれをカバー出来るだけの能力を持ち、その上で『格式高い家柄』を持つ者が多数となる。

 低くても豪商やエリート軍人家系。

 高い場合貴族や領主、果てには王家の関係者まで。

 その為、良い意味でも悪い意味でも彼らはプライドが高く、そして大小はあれど己が特別であるという選民意識を持っている。


 Bクラスは普通の優秀な人達。

 よほど優秀でない限り一般の生まれの秀才はAこちらになる。

 事実上最高評価と言っても良い。

 親が冒険者の者が多かったり貴族らしくない貴族だったりが多い為、Aと異なり選民思想はない。

 AがエリートならBはたたき上げと言うべきだろう


 Cクラスは極めて普通である。

 ただし、この場合の普通は悪口ではなく誉め言葉の方。

 それは『普通に優秀』という意味であり、十分に期待を受けている。

 貴族の場合はここに堕ちたら恥となり、一般の生まれの場合はここに来れたら当たりと言われる。

 特徴的な特徴はないものの、もっとも数が多い。

 同時に教師視点から見たらもっともやりやすいクラスでもある。

 Bの様に現場経験が多い訳でもなく、Aの様にプライドも高すぎず、それでいて学習意欲も高い。

 上を目指す気概があるのは当然として、能力が高すぎないから現実がしっかり見えている。


 事実、Cクラスからでも英雄と呼ばれる様な冒険者も少なくない。


 ここまでが、平均以上の評価のクラス。

 つまりここからが、平均以下と言う事になる。

 つまり、プラス加点よりもマイナス加点が勝ってしまった側。


 Dクラス。

 実の事を言えば、このクラスはB、Cクラス以上に成功者を排出している。

 だが同時に最も多くの退学者も出している。


 つまり、このクラスは本当の意味での『問題児クラス』と言う事である。

 クラス選択の基準は割と曖昧なのだが、このクラスだけは選択の際明確かつ厳しい基準が設けられていた。


 一つ、基本的な成績がすこぶる悪い事。 

 二つ、性格に何かしら問題があると判断させる事。

 そして最後……何かしら突出した一芸を持っている事。


 単なる落ちこぼれと切り捨てるにはもったいないと感じた生徒を集める場所。

 限りなく低い成功者への可能性、最後の蜘蛛の糸。

 故に、結果は両極端な者が多くなる。

 それが、このDクラスだった。


 Eクラスは単純に落ちこぼれ。

 一芸のもたないDクラス。

 悪い意味での普通の能力、つまり全体的に平均以下。


 そして最後のFクラスは、ゴミ箱である。


 教師の診断や評価が絶対的に正しい何てことはあり得ない。

 それどころか教師が故意に成績を歪めた過去だってある。

 能力があるのにDやEに堕とされる者や、その逆に能力もないのにAに配属される者などもいる。


 また同時に、入学し学ぶにあたって急激に伸びる者だっている。

 

 一年目は素行が悪かったのに、たった一年で神の教えを理解し、立派な神官となり教会を受け持つまでに育った生徒もいた。

 まあ、冒険者関係ないから自主退学の末だが。


 その反対に、成績不振でクラス堕ちする事だってあり得る。

 A以外ならクラスの移動はさして珍しい事ではない。

 Aの移動の場合は、親が没落したか懲罰の二択しかないが。


 だけど、あらゆる意味での、そして唯一の例外がこのFクラスだ。

 ここだけは、教師が故意や判断ミスで堕ちる事もなければ別クラスから移動してくる事も別クラスに上がる事もない。

 ここに選ばれるのは、入学からたった一日で学園が完全に見切りをつけられた者。

 真なる意味での腐ったミカン。


 大半が入学までに何かしら問題行動を起こしている上に、伸びしろも期待出来ない。

 自意識ばかり高いのに大した努力もしない。

 だからこのクラスに堕ちた場合は、犯罪は駄目だという常識を体に叩き込み、最低限の稼ぎ方を伝えてとっとと退学させる。

 学園の為にも、本人の為にも。 

 それでも、毎年半数近くの処分を行わなければならないのが、このFクラスであった。




 基本的にだが、入学式までにはどのクラスに入るか大体決まっている。

 願書の内容と推薦状、面接と入学テストの成績……だけではない。

 学園に入って来てから受付の様子、そして入学テストの後の行動まで。

 ずっと、学園側は生徒を監視して評価している。


 だからクラスなんてのは早々に決められるのだが……学園長ことウィードは静かに頭を抱えていた。

 ついでに、もう一人の男ラーファも。


 洩れる情報は限りなく少ない方が良い。

 だから悩むのは、この二人だけ。

 学園長と、実際に入学テストを行った者。


 そう……入学式も終わり既に皆が選ばれたクラスに向かっているという状況であるというのに、まだクリスをどのクラスにするか決められていなかった。

 

 恒例で言えば、入学好き後に軽い面接を行った者がクラスを定める。

 だけど、その面接官がまさかのギブアップ宣言をしてしまった。

 はっきり言って前代未聞である。

 それでも、ウィードには面接担当を責められなかった。

 自分が同じ立場だったとしても、相当苦悩した上に同じ判断をするだろう。


 頭を抱える理由は、それはもう沢山存在する。

 その一つ、面接官がギブアップした最大の理由がこれ。

『入学式後に行われる簡易調査』


 身長や体重、握力といった簡単な身体測定と常識的な基礎学力の調査……というのはただの建前。

 実際はこの時同時に生徒個別の能力を測っていた。


 身体測定の間に『魔導性能判断式撮影機』にて身体能力情報を調べ、抜き出す。

 その機械は対象が意識を機械に向けておらず平常心で、その上数十秒停止した状態でないとうまく診断出来ないから、建前として身体測定と行う事となっていた。


 学力調査の裏では、クリスタルを活用した魔力、魔法関連の能力並びに才能の調査。

 こちらは精神状況が良い時と悪い時両方の状態でチェックしないと上手く診断出来ないから、難易度高低入り交じりの学力テストを建前とする事となっている。


 おおよその簡易調査な上にプライバシーもある程度配慮しているからそこまで詳しくという訳ではない。

 それでも、普通に生きたら知る事の出来ない能力までも学園側は把握出来る。

 一生日の目を見る事のない才能や、得意な事が。


 そしてそんなのでクリスを調べ上げたその結果……。


 一枚目『筋力を中心とする力関連』『技量や経験を含めた器用さ』『スタミナを中心した体力』『反射神経と速度両面から見た敏捷性』『恐怖等の耐性を含めたメンタル強度の精神力』の五項目チェック。


『

 力:F 才能なし

 器:G 経験皆無

 体:C 凡庸

 敏:B 伸びしろなし

 精:A 意外とメンタル強し


 備考

 肉体が小柄な為力や器用さは実数値よりも更にワンランクダウンする見通し。

 手足が想像以上に短くリーチという概念はもはや絶望的。

 また、乏しい腕力と絶望的な不器用さ、そして呪いにも等しい程の強制力を肉体が持つ為、基本的な武具を使用する事が出来ない。

』


 とにかく酷い。

 BやAがあるからそう酷くない様に見えるがそうじゃない。

 これはあくまで新入生を基準にしたチェックであり、毎年の新入生の平均値をBとした物である。

 もちろん、勇者候補など突出した才能持ちを除外した上での平均値だ。


 つまり……力、器用さ、体力関連の三項目は平均以下という事で素早さがギリギリ平均、精神力だけが褒められる数値という事になる。

 特に酷いのが力と器用さ。

 ぶっちゃけそこら辺の子供の方がはるかにマシである。


 せめてどっちか片方なら、まだどうとでもなりようがある。

 パワーか器用さかあれば、その方向性で成長方針が定められるからだ。

 逆に言えば、その両方がないというのは、割と話にならない。


「もう少し、素早く感じたんですがね。試験時は……」

 試験官だった男はそう呟いた。

 あの時はグダグダだったが、それでも速度だけは見る物があった気がした。

「純粋な身体能力ではなく種族的特徴や特殊能力による速度だったのでしょう」

「……そんなタイプにも見えませんでしたけど?」

「どうでしょうかね」

「学園長。やはり何か知って――いや、何でもありません。言えない事もあるでしょうし。それより、二枚目を見ないのですか?」

 調査結果の二枚目。


 それは魔法、魔力関連の調査結果となる。

 魔法という物は才能が全て……とまでは言わないが、才能に依存する比重が他の技能よりも遥かに大きいのは明確たる事実である。

 少なくとも、才能がない状態で努力する位なら剣でも振っていた方がはるかに大成するだろう。


 その二枚目の調査結果を、ウィードは見ようとしていなかった。

「……何か、不安な事があるのですか?」

 ウィードは沈痛な面持ちを見せる。


 ウィードはクリスに施された封印がどの様な物か知っている。

 ありとあらゆる能力が低下し、戦闘に関わるありとあらゆるが消滅する。

 魂を鎖で縛りつけ封じたそれは、生きる力さえも奪う最悪最高の弱体化の呪いである。


 だから、その結果が正しければ魔法に関する全ての能力、才能がなしとなる。

 実際、クリスは一ミリたりとも魔力を放出していない。

 薄皮程度も体に纏えず、魔力の魔の字さえも感じる事は叶わない。

 常人が無意識に行っている程度の魔力放出さえ、今の彼には出来ていない。


 だけど……それでも……本当にそうなのかという不満がずっとその胸に燻っていた。

 我々の努力である封印は、本当に黄金の魔王を封じる事が出来ているのだろうかと……。


 それでも見ない訳にはいかず……ウィードは勇気を振り絞り、二枚目の紙を表にした――。


『

 現時点での魔法適正:なし

 非魔法使いと断定。


 呪文適正:なし

 詠唱適正:なし

 特異魔力:反応なし


 魔法を習得、習熟する事は現時点では難しいとされる。


 魔力放出:なし。放出維持は一切行われておらず魔法耐性も皆無。


 潜在魔力:測定不能

 測定可能範囲を遥かに超えた数値を叩きだし、クリスタルが余波に耐えきれず爆発し粉砕された。


 備考

 前代未聞の事態である為、学園長に判断を仰ぐ。

』


「馬鹿野郎! 馬鹿野郎! ばかやろー!」

 机をどんどんと叩きながら、ウィードは叫んだ。


 最悪だった。

 ある意味において最も最悪だった。

 封印が失敗した訳ではない。

 ありとあらゆる手段を持って魔法が使えない位にちゃんと封印されているのに、その漏れ出す潜在魔力はこれでもかと馬鹿げた状態となっていた。


 封印が失敗した?

 いや、それはない。

 あのヒルデが、大魔王に関する事で失敗するなんて事那由他の可能性もない。

 であるのならば……封印した上で漏れ出した数値がこれだと考えるのが自然だ。

 というか封印が失敗していたなら測定不能程度では済まない。


 おそらくだが、この時点で潜在魔力だけは自分に匹敵している。

 四天王でかり冒険者学園の学園長でもあるウィードはそう推測した。


「これまた判断に困る結果が……。『どの程度の才能なし』かによって評価は最下位にも最上にも成り得ますね」

 ラーファは苦笑いの中そう呟いた。


 他が無能であってもこれだけの潜在魔力がある。

 ほんの僅かでも、その潜在魔力を利用出来たら間違いなく大きな武器となるだろう。


 例え魔法の様な術式を使わず、その魔力をただ前方にぶっ放すだけでも儀式級の魔法並の破壊力となる。

 僅かでも体に纏えたら身体能力は数十倍、いや数百倍に膨れあがる。


 術にも満たない簡易の魔法を習得出来れば、例えば『指先から種火を出す』みたいな魔法であっても、それは必殺の魔法と化すだろう。


 だから、その他の才能がゼロか一かの差は限りなく大きかった。


 そして絶望の淵に入る中、知りたくない事実に彼らは気付く。

 紙を二枚めくったのに、もう一枚その下に……。

 予定では二枚だけなのに、何故かまだ残っていた。

「見たくないなぁ」

 ごく普通の弱音を吐くウィードにラーファは苦笑する。


 それでも、見ないという選択はない

 もう既に皆クラスへの移動が始まっているというのにクラスが決まってないというのは完全な超過状態である。

 ゆっくり悩む時間さえも贅沢であって、ウィードはレモンでも齧ったみたいな顔で、勢いよくその紙をめくった。


『

 相部屋からの調査報告。


 極めて一般的な道徳を持ち、犯罪行為を行おうとした痕跡はなし。

 まるで貴族の様な生活をしていた様子で庶民生活に一喜一憂するものの、生活の落差にストレスを感じている様子もない。

 依頼通りもうしばらく調査を行うが、冒険者として問題となる様な要素は外見以外にはないと思われる。

 

 備考、初見の瞬間でこちらの正体が露見した。

 相手の力量、並びに能力をかなり鋭く見抜く力を持っていると推測される。 

』

「よりによってそれか……」

 ウィードは小さな声で呟く。


『オリジン』

 それは魔族にとっての才能の結晶体であり、極地の一つ。

 己だけの力であり、己の本質。

 努力し得られる純粋な技能と異なり通常の手段では決して習得出来ない。

 家族に引き継ぐ事もなく、誰かに教える事も出来ない。

 本当の意味での自分だけの力である。


 とても乱暴な説明だが『ユニークパッシブスキル』というのが一番近いだろう。


 当然、持っている者はあまり多くない。

 ここにいる二人は当たり前の様に持っているが、逆に言えば冒険者として大成したレベルでないと持っている者は少ない。

 そんな能力。


 成功者であるならオリジンを持っている者は多いだろう。

 だが、通常は一つしか持っていない。

 それを、黄金の魔王は無数に所持していた。


 だからまあ、一つ位封印を免れるオリジンがあってもおかしくはないと思っていたが……よりによって最悪の一つとはウィードも思っていなかった。


『プロヴィデンスの瞳』

 全知の浄眼(じょうげん)とも言われるその能力は単純明快。

 全てを見抜く。

 相手の能力も、力量も。


 封印分間違いなく劣化しているが、それでも元の性能が特別格であったから、どの程度の物となっているのか想像する事さえ出来ない。

 せめて普通のオリジン程度に収まってくれたら……なんて希望的観測を行うのが今の精一杯だった。


「……いや、それはおかしい」

 突然、ラーファはそう言い放った。

「何故?」

「だって、あいつのオリジンは肉体でしょう。または毛皮。でないとあの試験の結果は……」

 試験の時、ラーファは一分の間殴り続けた。

 武器を使い、ボコボコにした。

 試験としての手は抜いた。

 だけど、現役かつ大成している冒険者が、手足を切り落とす位の気概を持って一分間殴り続けたのだ。


 それを、完全に無効化された。

 毛の一本さえも切れなかったのだ。

 その能力がオリジンでなければ何というのか。


 男の言葉を聞いてウィードは……静かに頭を抱えた。

 考え過ぎて、試合の結果を完全に忘れてしまっていた。


 答えはわかっている。

 わかりたくないけれど、ウィードは仮にも四天王である。

 我が君の事が、わからない訳がない。


 一つは、封印しきれなかった物。

 瞳はきっと、封印した上で尚発現した。


 もう一つは、『黄金の魔王』を封印した為封印から逸れてしまった物。

 あの獣の姿ではなく、黄金の魔王とは麗しい男性の姿である。

 だから完璧の証明である『黄金の肉体』はきっと封印されたが、こちらの肉体の方は見逃された。

 言葉にするなら『黄金の肉体もふもふver』となるだろう。

 流石のヒルデも、これはきっと想定外の事態のはずだ。


 だからそれが答えだとわかっているのだが、それを口にする事は出来なかった。

 出来なかったけれど……学園長ウィードのその様子を見れば、男が答えに辿り着く事は簡単な事だった。

「両方強力な『デュアルオリジン』とか……学園以来じゃないですかね?」

「ですね……」

「ついでに言えば、赤子に匹敵する力F判定も」

「うん……」

「もうこれ、選択肢ないですよね」

「でも……せめてCクラスに……カバーが利きやすいCに……」

「このスペックでCに居れば逆に目立ちせんか? というか悪目立ちして浮くでしょう」

「正論ですね。とても痛いけど言い返せない」

 ウィードは静かに、落第手前のクラスであるDクラスの判を押した。



ありがとうございました。

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