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狩猟祭が終わって(後編)


 見舞いの時間が過ぎて皆が帰ったその日の夜、当たり前の様にヒルデが夕食を運んで来た。

 ここが病院で、しかも彼女は色々忙しいはず。

 そんな事はどうでも良い。

 我が主にお夕飯を食べさせる事に比べたら万物全てが些事であるとさえ言っている様であった。

「すいません。こんな物しか出せずに」

 そう言って、ヒルデはテーブルの上に大量に皿を並べていく。


 並ぶ皿の数はカートの中に入っていたと思われる量を遥かに超えており、またその全てが全く冷めていない。

 ついでに言えば病院という環境に喧嘩を売っているとしか思えない程豪華で、同時に味が濃く体に悪そうだった。


「ヒルデ、体調の方は?」

「ご配慮、痛み入ります。単なる魔力失調ですのでご安心を。もう問題御座いません。さ、冷めぬ間にどうぞお召し上がりを」

「ヒルデのご飯で冷めた事一度もないんだけど?」

 ヒルデは微笑を浮かべ、ぺこりと頭を下げた。


 ヒルデの体調は、あまり芳しくない。

 確かに単なる魔力失調であるのはそうだが、その度合いが全く違う。

 念の為用意した魔石十個を全て消費しても尚体中の魔力を全て抜かれ、内蔵にまでダメージが残っている。

 その位、彼女でも黄金の魔王の時間を逆行するというのは無茶であった。

 故に本調子からは程遠く、現状は正直ほとんど空元気である。

 それでも、その矜持故主の前にに出す物に一切手を抜いてはいない。


 用意された食事は高級レストランのフルコースを思わせる様な豪華さと皿の量だが、これはただ単純に品目が多いだけで特に食べる順番とか工夫とかそんな物は一切ない。

 ただ単純に今の健康状態に適したクリスの好物をこれでもかと詰め合わせただけである。


 魔王でなく一冒険者となり封印状態となる事をヒルデは好ましく思っていない。

 だが……これだけは、ヒルデにとって嬉しい誤算であった。


 左手でフォークを突きさし、大きな肉を一口でがぶり。

 嬉しそうな顔のままもっもっと小動物の様に咀嚼し、次のお皿に。


 クリスが食事を普通に楽しむ様になった事。


 前も別に無頓着であったという訳ではないが、間違いなく今の方が美味しそうに食べている。

 自分の用意した物を心の底から喜んでくれる。

 この歓喜を味わえた事だけは、今の状況にヒルデは感謝した。




 気に入った物を何皿かお代わりし、デザートとして特大パフェを食べながら、クリスはヒルデからの報告を聞いた。

「正直、あまり芳しくありません」

 主の前に『出来た』『終わった』『問題ありません』以外の報告をしなければならない事。

 それはヒルデにとって屈辱に限りなく等しい苦痛であった。


 報告はあの場所、狩猟祭にてクリスが見つけた場所について。

『地下より自分と同じ魔力を感じた』

 そのクリスの報告により優先レベルが限りなく高い対処案件となった。

 具体的に言えば三大国家全てがハイドランドに戦争をしかけて来たという想定よりも二段上に指定された。


 なにせ事象にその魔力の一片でさえ大災害を起こすに十分な力となる黄金の魔王が関わるのだ。

 それだけでもう都市崩壊規模の厄災レベルに確定される。


 この手の騒動は今回が初めてではない。

 最近はいなかったが、昔は同様の事を考えた馬鹿がそれなりに現われていた。


 黄金の魔王の力を手にしようと魔力を自分に埋め込む奴。

 黄金の魔王のクローンを作ろうとする奴。

 黄金の魔王の魔力をエネルギーに大規模のロボットを作ろうとしたマッドサイエンティスト。


 最後の一つは黄金の魔王も割とノリノリだったのだが……まあ、どうでも良い事だろう。


 そういった実験は成功しようと失敗しようとそれなり以上の騒動へと変わる。

 成功したら大いなる力を使って暴れ回り、失敗したら爆発や暴走等のトラブルへと変わって。

 そしてその度にヒルデ達はてんてこ舞いの後始末をする羽目となった。


 とは言え、そういう事が多発したのはもう数千年以上昔の事。

 四天王のメンバーも今とほとんど違う位遥か昔の出来事である。


 過去の馬鹿達をノウハウとし、今ではそういう事象が起きない様対策がされている。


 例えば……黄金の魔王に関する『認識阻害』。

 大魔王ジークフリートの事を忘れやすく、話題に出し辛く、そして気にしなくなる。

 そんな認識阻害が、()()()()で行われている。


 黄金の魔王に関心を持たなくなる様な世界改変をされていると言っても良いだろう。

 だから黄金の魔王は新聞等であまり話題にならず、同時に忘れられ架空の魔王だなんて言う声も出て来た。


 とは言え、この認識阻害はそう強い物ではなく、あくまで無意識にほんの少し働きかける程度の物。

 ただ何となく忘れやすいというだけの事である。

 大魔王ジークフリートに実際に出会った者はその存在を忘れる事はないし、その畏怖に震えぬわけでもない。


 ただ、大多数の市民からの関心が減って、大勢の馬鹿が黄金の魔王を利用しようとしなくなるというだけ。

 それでも、この数千年大魔王の肉体や血等を利用し何かを為そうとした馬鹿はいなかった。


 故に、ヒルデからしてみればこの騒動への危機意識のレベルは相当高い。

 どこで、どうやってジークフリートの力を抽出し、利用したというのか。

 封印状態の今のクリスから力を抽出する事は叶わず、封印前は数百年以上ほとんど引き籠っていたというのに。


 そもそも、大魔王の血の一片、肉体の一欠けらを手にするというだけでも正直偉業も偉業である。

 そう容易く行える事ではない。


 正直ヒルデはそんな事不可能であるとしか思えない。

 だからこそ、奇妙であった。


 どうやって黄金の魔王の魔力を手にしたのか。

 そして、どうしてこのタイミングまでそれを隠し通せたのか。


 不安要素があまりにも多すぎる。

 それ故に、ヒルデは自分自身で調査を担当したのだが……悲しい程に、何の成果も持ちかえれなかった。

 クリスに地下にあるとまで教えられたというのにこの有様。

 クリスの前でただただ己を恥じた。


「確かに、地下に何かある様です。対して強くはなかったですが我が主と同等の魔力波長も私の方で感知出来ました。ですが……」

「ヒルデが駄目だったって何があったの?」

「単純に突入対策の防護が堅かったです」

「ヒルデが破れない位に?」

「正しくは、破ってもキリがない位に」

 無数の防護障壁に足止めのトラップ。

 そこまで質が高いという訳ではないのだが、何年かけて用意したのかとにかく数だけがおかしい。

 もう完全に時間稼ぎに特化している。

 ヒルデの最高速で攻略を進めたとしても、目的の地下最奥までおおよそ三年はかかると推測され、計画の見直しとなった。


「……ふぅむ。もしかして、私の封印解いた方が良い状況?」

「いえ、今のところは。ただ……しばらくはその……申し訳ありませんが……ご報告の方は遅れるかと……」

「うぃうぃ。私は気にしなくても良いから。そして本当にどうしようもなくなったら私に回してね」

「はい。無能を晒すのでその時が来て欲しくはありませんが、もしもの時はお力をお借りします」

 そう言葉にし、ヒルデは食べ終わった器を片付け、クリスの口元をハンカチでぬぐってから、一礼し病室を後にした。




 ほんの僅か程度だが、ヒルデは後悔していた。

 珍しく……ヒルデにしては本当に珍しく、主に隠し事をした。

 説明するべき事を意図的に黙った。

 その可能性を説明しなかった。


 それは那由他よりも低い可能性であり、奇跡に祈るのと何ら変わりはない。

 それでも、ヒルデはその可能性を信じ自らが調査を行った。

 その可能性があったから、自分が今作戦の主導を握った。


 黄金の魔王を利用出来ない状況化にて、黄金の魔王の魔力波長を持つ物が存在するその理由……。

 つまり……因果が逆の可能性である。


『黄金の魔王の魔力ではなく、黄金の魔王を形成に至らしめた物の魔力』

 分かりやすく言えば、親やそれに類する物と言っても良いだろう。


 黄金の魔王ジークフリートは、小さな頃の記憶を持たない。

 少なくとも、数万年前ヒルデが出会った時は既に黄金の魔王として『完成』されていた。


 故に、その出自や理由は明らかになっていない。

 誰が生んだのか、どうやって誕生したのか、そもそも本当に人として生み出されたのか。

 それを知る者は本人含め誰もいない。

 なにせ神さえもが、黄金の魔王の出自を知り得ないのだから。


 その謎を解くヒントが、この地下に眠っている……かもしれない。

 あくまで小さな可能性に過ぎないけれど、それでもその可能性は確かに残っていた。


 ヒルデは主にその事を伝えるつもりは全くない。

 例えそれが真実だったとしてもだ。


 黄金の魔王は自分の出自になど興味はない。

 今更親が誰とかどこで生まれたとか作られたとか、そんな事知ったところで何の意味もないからだ。

 その出自に強い関心を持つのは黄金の魔王を愛する者と、黄金の魔王と敵対する者と、そして神位の物だろう。


 そしてヒルデは、誰よりも強い関心があると自負している。

 誰よりも黄金の魔王を敬拝し、誰よりも黄金の魔王を愛しく思い、そして……誰よりも、黄金の魔王の異常さを理解して……。


 ヒルデと出会った時から、黄金の魔王は完成していた。

 世界のあらゆる問題を単独で解決し、平和に導こうとしていた。

 それが異常でなければ何だと言うのか。


 ヒルデが出会った最初の時、黄金の魔王ジークフリートは……一切の我欲を持っていなかった。

 彼が動く理由は世界を平和にする為のみ。


 自分の為に一銭たりともお金は使わず、得た収入は全て最大多数の平和の為に。

 常に最大多数の幸福の為に動き続ける最強の暴力装置。

 全ての善行に見返りを求めず、幸福の為誰かを殺しても感情一つ動かさない。

 そうやって、彼はハイドランドと言う国を作った。

 戦争を終らせる為だけに、国家を形成した。


 それが黄金の魔王であり、そしてそれ故に、ヒルデは当初、黄金の魔王という存在を()()していた。


「……懐かしいですね、本当に……」

 魔王十指なんて言葉もなく、あらゆる国が生まれすぐ滅ぶ様な戦乱の時代。

 そんな時代に敵として出会い、殺し合い……そして、ヒルデは彼の為に生きる事を誓った。

 数万年経とうとも変わらず忠誠を彼女がその胸に秘めたのは、そんな時の事だった。

  

 




 光と海の世界、ここではないどこか。

 存在する事を否定出来る者はいないが、存在すると断言する事もないあやふやな場所。

 つまり……夢の世界。


 彼は、クリスは夢を……見ていた。

 うとうとすやすやと眠っているそんな彼の前に現われたのは、世界中全ての誰もが振り向く絶世の美女。

 世界全ての美人を足して割らないスーパーでグレートなビューティフルパーフェクト。

 美という言葉さえ彼女の前にはまだ足りないなんて伝説級の神話。


 その名も世界最高の美女、エナリス。

 そんな彼女と一緒に居られて今日も幸せが最高潮で――。


「エナリス。変な夢を見せるの止めて欲しいんよ」

 げんなりした顔でクリスは呟いた。

 珍しく、割と珍しくクリスは本当に嫌そうな顔をしていた。

「失礼、つい私の願望おっと私の信者の見ている世界が現れてしまいました」

 そう、海洋神エナリスは微笑みながら謝罪する。

 謝罪してはいるが、まるで悪びれてなかった。


「まあ、要件はわかってるんよ。でもその前に、ありがとうね。手を貸してくれて」

「いえいえ。頼られたら何時でも力をお貸し致しますよ。なにせ貴方は私の信奉者なのですから」

 エナリスは随分とご機嫌な様子であった。

 それもそのはず、黄金の魔王が仮初でも何でも自らの信徒となり、しかも力を貸せなんて弱みを見せたのだ。

 ご機嫌にならない訳がなかった。

「ありがとう。それで、代償はいかほどに?」

 そう……クリスは神より直接力を借りたのだ。

 人が神に願い、力を借りるというのは普通ではない。

 故に、普通でない代償を与えられるというのは至極当然の事である。


 クリスなら、黄金の魔王なら代償なんて幾らでも握りつぶせる。

 だけど、ここをなあなあにする位ならクリスは冒険になんて出ていない。 

 ずっと城の中に籠り延々と好きな事だけをして自堕落に生きている。


「そうですね。……では、一つちょっとした依頼を受けて貰いましょうか」

 微笑みながら、エナリスはそう告げる。

 まだ初回であるのだから、あまり仰々しい事を頼むのは良くない。

 そこまで難しくない事を頼み、頼りやすい状況を作り自分の力をしみこませる。

 理想は傀儡化だがそれは高望み。

 そこまでいかずともクリスが自分に何度も頼り、自分の影響を受け、自分の魔力を纏う程度でも十分過ぎる恩恵がある。

 それだけで、神としての格は一層高まるのだから。


 そう思って見ていると……クリスがとても不満そうな顔をしているのを見て、即座にエナリスは既存の計画を破棄した。

 相手の顔色を見て臨機応変に対応する。 

 本来は弱者の武器であるその顔色伺いこそが、エナリスの得意な交渉術であった。


「ちなみに、非常に……これでもかと言う位難易度の高い依頼です。それこそ吟遊詩人が語る程に。……普通の冒険者には少々厳し過ぎるかもしれないですね……」

 困った顔を作り心配そうに呟いてみる。

 クリスの顔がキラキラしだした事で、方向性を決定し、正式にその『依頼』をエナリスはクリスに授けた。




 依頼はハイドランドより北西の方角にある三大国家の一つ、『宗教国家フィライト』について。

 事件についてあまり詳しく語ると事象が固定化されてしまう為曖昧にしか言えないが、そこで近い将来、フィライトを揺るがす大事件が発生する。

 それを未然に防ぐ事が、クリスに与えられた使命であった。


 正直言えば、大国が亡ぼうが人が大勢死のうがエナリスにとってはどうでも良い事である。

 強いて文句を言う存在が居るとするならば、死者の管理を司るが所以に仕事量が激増する冥府神クトゥー位だろう。

 だからこの依頼は当然、エナリスの善意などではない。

 彼女が求めているのは人の世界を救う事などではなく、純粋に信者の割合を維持の部分だけ。


 フィライトは宗教に重きを置き、漁業を大切にし、水を敬っている。

 つまり、エナリス信仰が非常に強い国という事である。


 海の権能である為海に関する人以外で信仰される事の少ないエナリスにとって信者の多い国というのは非常に重要な意味を持つ。

 信者が減るとそれだけで神としての力や存在感が減るのもそうだが、あまり下がると小神にマウントが取れなくなってしまう。 

 それはエナリスにとって由々しき事態であると言えた。


「んー。ちょいと聞いても良い?」

 クリスは頬をぽりぽりと搔きながら尋ねる。

 依頼を受けたいという気持ちは非常に強い。

 だけど、今学園から離れたくないというのも本音だった。

「ええもちろん。ただ、事件についての詳細はまだ語れませんが……」

「それは別に。そうじゃなくて、依頼って今すぐ受けないと駄目なタイプ?」

「……そうですね。まあ、一年以内に受けて下されば十分時間的に余裕はあるかと」

「おー。意外と余裕あるね」

「はい。その代わり結構大きな事件が起きますので」

「どの位? ……って、聞かない方が良いね。ネタバレは悪い文明」

「ええ、下手に大きな事を言うと私の所為で事件が悪化してしまいますのでこれ以上口には……。それで……どうでしょうか?」

「うぃ。たぶん大丈夫。一番やりたい事が終わったら向かうんよ」

「ありがとうございます。ところで、もし宜しければ、その一番やりたい事というのを聞いても? いえ、ただの興味本位ですが」

「うぃうぃ。ある程度は私の事情知ってる?」

「事情というのは、どういう類の物でしょうか?」

「冒険者クリスの仲間とか」

「ええ、それならば。良く天から見させて頂いております」

「だったらわかるかな。ユーリの野望成就からのーナーシャちゃん婚約からのーパーティー勧誘にて四人目の固定パーティー化。それが今私が一番やりたい事なんよ」

「……ふむ。そんなにあのアナスタシアという彼女が気に入ったのですか?」

「それもあるけど、ユーリの気持ちを成就させてあげたいの。……あとはまあ、バランス的に?」

「バランス、ですか? 魔法使いを入れたいという?」

 クリスは首を横に振った。

「んーん。リュエルちゃんは大人しいしユーリは真面目だし私は地味だから、引っ掻き回す役が欲しいの」

「……じ、地味?」

 エナリスは一瞬自分とクリスで言葉の意味が違うのかもという錯覚に陥った。


「うぃうぃ。と言う訳で、上手くいくかどうかは別にして、色々アクション取ったりしたその後でも構わない? 後学校休みがちだからもちっと学校生活謳歌したいんよ」

「ええまあ……一年以内に動いて下されば……」

「じゃ、依頼は受けるんよ。大船に乗ったつもりでいるんよ!」

 エナリスはくすりと微笑んだ。

「ええ、是非そうであれば嬉しいです。それが船でしたら、私も助ける事が出来ますので」

「海の権能だもんね」

「はい。私は海を愛し海と共に生きる人を護る慈愛の女神ですから」

 そう答え、エナリスはクリスに向かいどこか妖艶な笑みを向けた。

 それこそ、誘っていると男側が思う程露骨な笑みを。


 夢の中とは言え、今はクリスとエナリスは直接繋がり合っている状態と言える。

 これはただの夢ではなく、この夢で結びつきが強まれば現実でも同様魂の結びつきが強固な物となる。

 だからエナリスとしては、このままクリスと体を繋げる事は非常に大きな意味を持つ。


 自分の美貌に自信があり、その手管を使い体の関係を作る事はそう難しくないのだが……。


 エナリスはクリスの姿を見た後……すっと目を細め、わからない程度の苦笑を浮かべた。

 一瞬迷ったけれど、エナリスはその選択を諦めた。

 美に準じる権能を持つ彼女だからこそ、それに気づく。


 誰もが溺れる絶世の美女、世界で最も価値のある女と言える女神との夢の一夜。

 だけど彼は……そんな事一切望んでいなかった。


 エナリスという美を司る女神でさえも……いや、そういう事ではない。

 彼には、誰かと肌を重ねたいという欲求さえ持ってなかった。


「では、これで私は失礼しますね。……最後に、クリス様を信奉者であり冒険者として一つだけ、苦言を申しても宜しいでしょうか?」

「うぃうぃ。どうぞなんよ」

「もう少し、教会に顔を出しお祈りをして下されば私は嬉しいです。こうして直接語りかける事も出来ますけれど、やはりこう……神としては周りの模範になって欲しいと言いますか……」

「あー……。ごめんね忙しくてなあなあにしてたんよ。近い内に行くって約束する」

「ありがとうございます」

 そう言ってにこりと微笑み、エナリスは消えていく。


 それと同時に、クリスの目も覚めた。

 夢の所為だろう。

 何時もよりも少しだけ、クリスは朝寝坊していた。



ありがとうございました。

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