黄泉比良坂の人質
目に映らなくなると…疑心暗鬼になる。
見えないモノは信じるか信じないかと己の心で決まってくるのだ。
巳湖斗は足を進めながら美玖の手を握りしめて
「ちゃんとついて来てくれてるか…心配になるよね」
だけど
と呟いた。
それに声が返った。
「巳湖斗君、私いるよ」
大丈夫
「だってずっと巳湖斗君が助けてくれていたんだもの」
巳湖斗君の温かい手が
巳湖斗は美玖の言葉に笑みを浮かべると真っ直ぐ坂の頂上を見つめた。
信じる。
世界は自分を拒絶していない。
自分を大切に愛してくれている人たちがいる。
叔父の火無威も。
親友の武士も。
三笠八重子も。
そして…彼女も。
巳湖斗は坂を上り切り暫く歩いて立ち止まると息を吸い込んで振り返った。
瞬間に先まで感じていた『何かの気配』が消え去り、目の前に有栖川美玖の姿があった。
いや、テレビで見るよりも初めて会った時よりもずっとずっと綺麗な微笑みを浮かべる彼女の姿があった。
巳湖斗はその瞬間に彼女が生の領域に辿り着いたのだと理解した。
同時に神蔵という一族の中で自分が持つ役割の一つが終わったのだと感じたのである。
きっと自分の中にいる神は待っていたのだろう。
黄泉比良坂にいる何かを救うために人の身に入って時を待っていたのだろう。
美玖は振り返った巳湖斗にペンダントを見せると
「貰ってからずっとつけてたの」
嬉しくて
「ありがとう、巳湖斗君」
と微笑んだ。
巳湖斗は抱きしめると
「ありがとう、美玖ちゃん」
プレゼントつけてくれて
と言い
「もう、大丈夫だ」
と告げた。
美玖も抱きしめ返すと
「ん、巳湖斗君がくれた未来なんだよね」
と言い
「私、頑張る」
と答えた。
そこに後から武士と八重子が坂を登ってきたのである。
武士は巳湖斗を小突きながら
「やったなぁ、巳湖斗」
と告げた。
八重子も美玖を見ると
「良かったわね」
と笑みを見せた。
美玖は頷いて
「無理を聞いてもらってありがとう」
と頭を下げた。
巳湖斗は武士と八重子に
「今日も見た」
俺、助けようと思う
と告げた。
「これから先も」
武士は息を吐き出し
「わかった協力するぜ」
と答えた。
八重子と美玖も
「「私も」」
と告げた。
武士と八重子は坂を下ってそれぞれの自宅へ戻り、巳湖斗は叔父の家に美玖を連れて行った。
火無威は美玖を歓迎して招き入れた。
そして、彼女はマネージャーの黒川に携帯から電話を入れると
「すみません、今日オフだったので出雲探偵事務所の舞台になる出雲市に来てしまって」
今から戻ります
と告げた。
米子空港へ行ってそこからフライトすれば今夜中に帰れるのだ。
夕食を食べると美玖は米子空港に向かって東京へと戻ったのである。
『到着しました(*’▽’)今日は巳湖斗君に会えて嬉しかった』
『大好きだよ(/ω\)ロケの時は会おうね』
巳湖斗はそれをベッドの上で見ると微笑み
『無事について良かった。俺も美玖ちゃんに会えて嬉しかった』
『4月から楽しみにしてる…俺も同じ気持ちだから』
と返した。
美玖が帰ると叔父の火無威は巳湖斗から話を聞いて
「そうか、でも続けていくんだな」
と告げた。
巳湖斗は頷いて
「うん、迷惑かけるけど」
と告げた。
火無威は首を振ると
「いや、応援する」
と言い
「あ、それから…彼女やっぱりお前が送ったペンダントつけてたな」
25日の隠し撮りの時も付けてたからずっとつけているんだな
と告げた。
巳湖斗はそれを聞き
「え!?」
俺あの頃ちゃんと見てなかった
と驚いたのである。
巳湖斗は思い出しながら目を閉じると
「明日から頑張る」
笹倉啓二…6歳
「救ってみせるからな」
と呟いた。
恐らく神蔵の力が平坂を下る人を見せるのだろうと巳湖斗は感じていた。
神蔵の家の役目の一つが終わったが…何故神蔵の人間に見えるのか。
それを解く鍵はこの先も下る人を助けるその先にあるような気がしたのである。
翌日から巳湖斗は笹倉啓二と言う少年について調べ始めたのである。
新年も終わり少し落ち着いた頃であった。
学校に行くと巳湖斗は武士に
「それで昨日は見たんだろ?」
と声をかけられた。
昨日は有栖川美玖もいてバタバタとしていたのでゆっくりその話を聞けなかったからである。
巳湖斗はそれに頷くと
「見た」
と答え
「笹倉啓二っていう6歳の子供だった」
と告げた。
それに机に鞄を置いてやってきた三笠八重子が
「笹倉?」
と問いかけた。
巳湖斗は彼女を見ると
「三笠、もしかして知っている人?」
と聞き返した。
八重子は頷くと
「んー、その笹倉かどうかは知らないけど」
私のお父さんの会社の社長の苗字がそうだから
と告げた。
「でもそんなちっさな子がいるかどうかも分からないけど」
武士はそれに
「確認するとか…出来ないか?」
と聞き返した。
八重子は腕を組むと
「子供のことが聞けるほど立場的に近くないから」
と冷静に答えつつも
「でも一度聞いてみるわ」
と答えた。
巳湖斗は「ありがとう」と答え
「確か、三笠のお父さんってIZUMO精機だったよな」
じゃあIZUMO精機の社長が笹倉って人?
と聞いた。
八重子は頷くと
「そうそう」
でもお父さんは課長だから
「社長とはそれほど近く無いのよね」
と答えた。
武士は「なるほど」と答えた。
八重子は頷きながら
「でも、一応聞いてみるわ」
6歳くらいのお子さんがいるかどうか
と告げた。
巳湖斗は両手を合わせて
「サンキュ」
と答えた。
3人はその後、タブレット授業を受けて終わると三笠八重子の返事とそれぞれパソコンで調べるという事で分かれた。
しかし、ネット上の情報に家族情報はなく三笠八重子の情報待ちとなった。
最後までお読みいただきありがとうございます。
続編があると思います。
ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです。




