黄泉比良坂の人質
クリスマスからの過大な報道。
押しかける記者や年末年始の番組の出演と全く時間がなかった。
有栖川美玖はそれを気合いで乗り切ると1月12日のオフの文字を見つめた。
「仕事終わった!」
よし!明日…頑張るからね
「巳湖斗君」
そう言って気合いを入れると鞄に荷物を詰め始めた。
漸く記者の数も減り特番の収録ラッシュも収まった。
久しぶりのオフである。
美玖は強行突破を決めていたのである。
「私、出雲に行って直接巳湖斗君と話をする」
その時、インターフォンが鳴り見知らぬ女の子が映っていたのである。
彼女は緊張した面持ちで
「あの、私…出雲市に住む三笠八重子と言います」
そう名乗ったのである。
空は少し赤みを差し夕刻を教えていた。
黄泉比良坂の名探偵 @黄泉比良坂の人質
1月に入って直ぐの三連休。
所謂成人の日である。
が、まだ17歳の巳湖斗にはただのお休みであった。
巳湖斗は武士と共に部屋で勉強をしながら今日の平坂の話をしていた。
巳湖斗はあっさり
「勿論、行くよ」
と答えた。
「呪われたら怖い」
…。
…。
武士は「おいー」と言い
「それだけでこれだけ続けられないだろ」
気持ちと向き合え、と言いかけて巳湖斗の言葉に留められた。
巳湖斗は静かに笑むと
「冗談、分かってる」
ちゃんと向き合ってそれで振られても美玖ちゃんを助けて行きたいと思ってる
と答えた。
「それに最近は…そこを行こうとする人で助けられる人は助けて行きたいと思ってる」
そう告げた。
武士は肩を竦めつつも笑みを浮かべると
「そうか」
それなら俺も手伝うからな
「巳湖斗が頑張る間ずっとな」
と告げた。
巳湖斗は笑顔で
「ありがとう」
と答えた。
巳湖斗の中でちゃんと吹っ切れていたのである。
その時、武士の携帯が着信を知らせた。
三笠八重子からであった。
武士は着信の応答ボタンを押すと
「もしもし」
と答えた。
それに八重子は唇を開いた。
「実は今隣に美玖ちゃんがいるんだけど」
もーびっくりびっくり
「美玖ちゃん変装して抜けてきて」
私…思わず美玖ちゃんに平坂のこととか全部話したらショック受けてたけど
「明日行くって」
うちの家族も帰るから一緒に連れて行くから
「宜しく!」
着くの夕方の4時ごろ
武士は驚きながら
「マジか!」
と言い巳湖斗を見ると
「美玖ちゃんが明日来るって」
と告げた。
巳湖斗は驚いて
「え!?」
大丈夫なのか?
と聞いた。
それに武士が
「いや俺そんなの分からないから」
と突っ込み
「それから八重ちゃん全部美玖ちゃんに話したらしい」
平坂のことも
と告げた。
巳湖斗は驚いて
「!!」
マジか
と呟いた。
しかも、明日は平坂に見に行かないといけない日なのだ。
巳湖斗と武士は顔を見合わせて同時に深い溜息を零した。
翌日。
武士が出雲市駅へと迎えに行き巳湖斗は平坂で死にゆく人を見ることにしたのである。
平坂でも見られるのは逢魔が時だけ。
時間は限られているのだ。
火無威は巳湖斗を玄関まで送ると
「巳湖斗、待ってる」
と微笑んだ。
巳湖斗は火無威を見ると頷いて
「行ってくる」
と踵を返して歩き出した。
逢魔が時に平坂で振り返ると死にゆく人が見える。
何故?
何故見えるのだろう。
巳湖斗は息を吸い込み立ち止まると振り返った。
空の赤が坂に雪に反射して彩りを与えている。
坂は相変わらず除雪車が避けた雪が両サイドに積もり壁のように高くなっていた。
その道を小さな子供が下っていた。
巳湖斗はその子を見ると
「笹倉啓二…6歳だ」
と呟いて、踵を返しかけた。
その時、坂の下から声が響いた。
「巳湖斗君!!」
巳湖斗は慌てて振り返り坂を登ってくる美玖を見つめた。
が、その姿はテレビで見る彼女ではなかった。
いや、彼女なのだが…巳湖斗は驚くと目を見開いた。
そう、恐らくあのタクシーの事故にそのまま遭った姿なのだと直感した。
「み、くちゃん」
美玖は足を進め逢魔が時の平坂を登ってきた。
そして、あの時巳湖斗が感じた存在の影が彼女に重なった。
美玖は巳湖斗を見つめ送ってもらった太陽のチャームの付いたネックレスを握りしめた。
勇気が必要なのだ。
両親と離れた時に自分は声を出せなかった。
「一緒にいたい」
「寂しい」
「離れたくない」
全部全部飲み込んだのだ。
だけど、本当の願いは口に出して言わないと心の中で寂しい悲しいと言っていても届かないのだ。
「巳湖斗君が好き」
私、今度のドラマが出雲の撮影だって
「巳湖斗君に会えるの嬉しいと思ってた」
それがテレビに流れると思ってたの
巳湖斗は酷い姿に映る彼女を見つめ火無威が言っていた神蔵家の話を思い出していた。
『神蔵家は神を宿す蔵…自らの中に神を宿している』
それがどんな神かは分からない
『ただそう言われている』
…だからその神眼で平坂を下る人が見れるのだと思う…
巳湖斗は自分の中にいる者を感じながら美玖の元へと足を進め、黄泉比良坂を降り始めた。
そして、彼女の前に立ち手を伸ばした。
「美玖ちゃん、俺の手を掴んで」
俺は君を守りたい
「これから先も」
それは役目だとか
「それは宿命だとか」
そういうモノじゃなくて
「俺も美玖ちゃんが好きだから」
美玖は巳湖斗の手を掴んだ。
「巳湖斗君」
巳湖斗は微笑むと
「登り始めたら振り向かないで」
俺の背中だけ見てて
「俺も振り向かない」
二度目は間違わないよ
と踵を返して歩き出した。
最後までお読みいただきありがとうございます。
続編があると思います。
ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです。




