黄泉比良坂の子供
それは愛らしいペンダントだった。
太陽の形をして右上に小さなアクアマリンが付いていた。
自分の誕生月の宝石である。
有栖川美玖は鏡に向かって小さく息を吐き出した。
「…ちゃんと、誤解を解かないと」
ううん
「ちゃんと誤解を解きたい」
そう呟いた。
昨日発売された週刊誌に昨日からのテレビ報道。
自分と辰見政次とのクリスマスデートの話題で持ちきりである。
美玖は泣きそうになりながら
「巳湖斗君…どう思ってるのかな」
誤解しないでほしいけど
とぼやいた。
黄泉比良坂の名探偵 @黄泉比良坂の子供
巳湖斗は身体を起こすと枕元の時計を見た。
12月27日朝の7時である。
「明日、また見に行かないとだよな」
平坂で振り返って死にゆく運命の人を助ける。
巳湖斗は小さく呟いて一度目を閉じると
「…そりゃぁ考えたら同じ芸能人だし」
俺はお助け係だから
「仕方ない」
と自分に言い聞かせるように言って大きく息を吐き出した。
瞬間に携帯が鳴り響いた。
巳湖斗は携帯を持って着信相手を見ると目を見開いた。
「美玖ちゃん…」
もしかしてペンダント…迷惑だったとか、かな
「いや!よく考えたら美玖ちゃんが言ってた俺が驚く事って辰見政次との恋愛だったんじゃ!」
そう言って応答ボタンを押した。
「もしもし」
言った瞬間に有栖川美玖の声が響いた。
「あの、巳湖斗君」
週刊誌とかテレビのことなんだけど
巳湖斗は慌てて
「うん、見たし、聞いたし…」
その、ごめん
「俺、美玖ちゃんが驚く事って辰見政次との交際だって分からなくて」
ペンダント送ってごめんな
「あー、その…普通のクリスマスプレゼントだから気にしないで良いから!」
友達としてのだからな!
と言い
「頑張れ!」
とぷちっと携帯を切った。
巳湖斗はそのまま前のめりに倒れると
「かっこ悪い」
悪すぎだろー
とベッドから降りて着替えを始めた。
『そうだったんだ、安心したー』なんて明るい声で言われたら、きっともっとショックを受けてた。
巳湖斗は目を閉じて深呼吸すると
「そうそう…彼女はアイドルだし」
俺はピープーだし
「元々愛なんて…叔父さんのためにだけ信じてるだけだから」
美玖ちゃ…いや有栖川さんを助けたのも呪われたら怖いからだからな
「呪われたら怖いから助けるんだ」
と言うと
「うしっ!」
と気合を入れて部屋を出た。
テレビをつけると超人気のアイドル二人の話題で持ちきりである。
巳湖斗は業と気にしないふりをして朝食を作り降りてきた火無威を見た。
「おはよう、叔父さん」
火無威は流れるテレビの画面にアップで映る有栖川美玖を見て
「…巳湖斗、ちゃんと見なくて良いのか?」
と言うと背を向けて洗面所へと向かった。
巳湖斗はそれにテレビに背を向けたまま
「大丈夫…現実逃避してないから」
有栖川さんはアイドルだって分かってたことだからな
「平坂効果も終了だ」
とハハハと乾いた笑いを零してテーブルの上にスクランブルエッグとパンとサラダとヨーグルトを置いた。
その画面に映る美玖の胸元に巳湖斗が送った太陽のチャームのペンダントが輝いていることを巳湖斗は知らなかったのである。
美玖は切られた携帯を手にじっと座って見つめていた。
「…巳湖斗君」
ショックであった。
天国から地獄である。
美玖は胸元の太陽のチャームを握りしめると
「違うよ~」
私、あの時断ったんだよ
と顔を伏せた。
12月25日に顔見せがあった。
出雲探偵事務所の役者や監督、プロデューサーとの顔見せであった。
その帰りに辰見政次に告白されたのだ。
確かに共演が多くて芸能界では一番身近にいる存在だった。
だけど。
だけど。
美玖は唇を噛みしめると
「でもね、私…心から笑えるようになったの」
巳湖斗君のお陰だよ
と手を見つめた。
「寂しくて寂しくて…死にそうな私を引き留めてくれたんだよ」
車の事故の時に初めて巳湖斗君を夢で見た時にそうなのかもって思った
「だって温かかったんだもん」
…握ってくれた手が…
美玖は立ち上がりかけて震えた携帯を見て目を見開いた。
「…お父さん」
有栖川優一からであった。
娘の大きな恋愛報道に心配になって電話を入れてきたのである。
美玖は父親からの電話の応対に出ると
「お父さん、びっくりした?」
そう言い唇を噛みしめた。
優一は彼女の声に静かに笑みを浮かべると
「美玖、お前は小さな頃から変わっていないな」
と言い
「言いたいことがあれば言いなさい」
会えなくても聞くことは出来るからな
と告げた。
美玖はポロポロ泣くと
「私、巳湖斗君に誤解された」
と告げた。
「…私、巳湖斗君のこと好きなの」
だから辰見君にお断りしたのに
優一は優しく
「美玖、大丈夫だ」
今少しだけ誤解されてもお前が本当に巳湖斗君のことが好きで
「彼と向き合って行こうとすればちゃんと通じる」
俺は彼のお陰で今こうしてお前と言葉を交わせるようになった
「彼はお前が大切だから俺を助けてくれたんだ」
応援しているからな
と告げた。
美玖は泣きながら頷き
「うん」
ありがとうお父さん
「私、頑張る」
今までみたいに立ち止まったままじゃダメだって思うから
と言うと
「ありがとう」
と言うと携帯を切って真っ直ぐ前を見つめた。
「頑張らないと!」
彼女はそう言うと鞄に携帯と財布を入れて部屋を出ようとした。
が、瞬間にフラッシュの光が入った。
慌てて戸を閉めた。
きっと階下ではもっと記者やテレビ局の人がいるのだろう。
玄関口で座る美玖の携帯が震えた。
マネージャーの黒川からであった。
最後までお読みいただきありがとうございます。
続編があると思います。
ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです。




