黄泉比良坂の詐欺師
「わかった、待ってる」
私からも時間があったら電話する
そう告げて携帯を切った。
巳湖斗は息を吐き出し
「寝ぼけてたー」
と言い
「でもこれでわかるよな」
と目を閉じた。
今日叔父から渡された本に書いていた話。
あの平坂が黄泉比良坂の候補になったのは鎌倉時代の風土古書が代々続く老舗の酒店から見つかったからである。
『黄泉の女神が呼び寄せる者が陽の力が消える時に平坂に姿を見せる』
『黄泉の女神が呼び寄せるものを1000人奪えば平坂より呼び戻した者は黄泉の女神から諦められ現世に留まることができる』
『但し、月が極に達するごとに黄泉の女神の力も極に達する。その間に必ず1人は奪わなければ反対に女神が呼び戻した者を平坂より奪い取りに訪れる』
そう言う内容であった。
叔父の火無威はこれを読み
「恐らく月が極に達するというのは満月と朔…新月だと思う」
と告げた。
巳湖斗はベッドから降りるとインターネットで調べて印刷した月齢カレンダーを手にした。
「この風土古書を信じるなら今回の朔は乗り越えれるってことだよな」
問題は次の満月か
「10月29日までに誰かを助けなければ彼女は死ぬってことになる」
そう呟きベッドに座り自室の窓から外の月を見つめた。
今は細い糸のような月だ。
それが次は満月になるまでにまたあの平坂を歩く人を助けなければならないのだ。
1000人。
気の遠くなりそうな人数だ。
しかも怖い。
黄泉比良坂の伝承に擬えているだけに怖いのだ。
だけど。
『電話、ありがとう』
『また電話します』
巳湖斗は有栖川美玖の声を思い出し己を鼓舞すると
「よし!頑張ってみよう」
助けたんだから最後まで手を離さずに助けたい
と呟いた。
翌日、学校に行くと何時もと変わりのない光景が広がっていた。
気付けば金曜日。
今週は色々なことがあり過ぎてあっという間に過ぎ去った。
巳湖斗は平坂を下り学校の門前に立つと
「よし、今日からはいつも通りの日常を取り戻す」
と決意し足を進め掛けて横手からに呼び声に顔を向けた。
「巳湖斗!」
軽い足取りで親友の浅見武士が駆け寄ってきたのである。
巳湖斗は手を振り返して
「武士、おはよう」
と笑顔で返した。
武士は手前で立ち止まり2,3秒ジッと見つめて
「よし!」
何時も通りの巳湖斗だな
と告げた。
「なんか今週凄く変だったから心配した」
変な電話かけてきたし
巳湖斗はハハッと乾いた笑いを零して
「確かにな」
と答えた。
射場明二のことで確かに電話しました。と心で突っ込んだ。
最後までお読みいただきありがとうございます。
続編があると思います。
ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです。