表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/96

黄泉比良坂のアイドル

二人は穴川大樹の案内で雑誌社に隣接しているスタジオへと出向いた。

そこでは照明のスタッフが忙しく動き回り女の子らしいスカートをきた有栖川美玖がメイクをしていたのである。


大樹はカメラマンの時任英雄を見つけると

「先生、こちらです」

と小声で二人を誘った。


そして、30代くらいの少し若いカメラマンに

「時任さん」

実はこちらの方はうちの雑誌で漫画を描いていただいている神蔵火無威先生で

「カメラマンのお話を今回描かれるかもしれないということで」

と告げた。


火無威は笑むと

「お忙しいところすみません」

と告げた。

「いや、カメラマンが出る予定はないが…考えよう」

そう心で突っ込んでいた。


巳湖斗はそれを理解しつつ

「叔父さんごめん」

と心で合掌していた。


時任英雄は火無威を見ると

「いえいえ、私で良ければ」

いま丁度待ちなので

と告げた。


火無威は首を振ると

「実はカメラマンの人と思ってサイトで探していて…射場明二という方からと言ったら穴川さんが貴方の方が素晴らしいと言ってご紹介を」

と告げた。


英雄は「ああ」というと

「彼は俺も良く知ってますよ」

こう言っては何ですが…脅迫とか恐喝と

「良くない噂を聞きますね」

と告げた。


巳湖斗はすぅと顔を覗かせると

「その、最近…また何か写真で脅すことをしているかもと聞いたんですけど」

知ってますか?

と聞いた。


もちろん、カマかけである。

情報が少しでも欲しかったのだ。


英雄は少し考えながら

「そう言えば、5日前に一緒に仕事をしたんですが」

3日前に電話がかかってきて

「あの時撮った写真見たか?って聞かれて」

見たけど何か?って言うと

「気付いてないなら良いって笑いながら切られたなぁ」

まあ関わり合いたくなかったから良かったけど

と告げた。


それに巳湖斗は

「あの、その言われていた写真見せてください!」

と告げた。


自分が黄泉比良坂で彼を見たのは昨日だ。

その射場明二が死ぬ運命にあると考えたならばその切っ掛けになるは近日中にその原因があると考えられる。


彼は話を聞くところによると『写真をネタに脅迫や恐喝をしている可能性がある』ということはそのネタを5日前の写真で見つけ誰かを脅した可能性が考えられたのである。


英雄は驚きながら

「あー、待ってくれ」

と横に置いていた鞄からメモリを取り出すと予備のカメラに差し込んで巳湖斗に渡した。


巳湖斗は受け取り

「すみません」

と答え、写真を見つめ始めた。


その姿をメイクをしていた有栖川美玖は見つけ目を見開いた。

「彼…」


二日前の事故の時の夢で見た人物と似ている。

『有栖川美玖!』

そう叫んで手を掴んでくれた…彼。


美玖はメイクアーティストの桜庭かおりに

「あの、あそこの人は?」

と聞いた。


かおりは指の方を見て

「ああ、カメラマンの時任さんと…んー、誰かしら?」

私も初めて見るわ

「もしかして新しいモデルさんかしら?」

カッコいい子ね

と笑って告げた。


美玖は曖昧に笑って

「モデルの子…」

と言い

「そうか、今日は男の子となのね」

と呟いた。


火無威は巳湖斗がまじまじと写真を見ている横でふぅと息を吐き出すと

「すみませんね、甥っ子を連れてきてしまって」

と言いながら

「時任さんがこの道を目指そうと思った切っ掛けとかはお聞きしても?」

とインタビューに乗り出した。

というか、乗り出すしかなかった。


「今度はカメラマンと売れっ子アイドルの秘密の純愛でも描くかなぁ」

そう考えていたのである。


巳湖斗は射場明二と共に写したという写真を一枚一枚拡大したりしながら見つめ、途中の一枚で手を止めた。


まさかである。

よもやである。


蒼褪め乍らチラリと時任を見た。


「確かにかなり小さいけど…というか被写体に被ってないし…よく見ないと分からないと思うけど」

気付いてないのかな?


巳湖斗は息を吸い込んで穴川大樹を見ると

「あの、この写真を拡大印刷できますか?」

と聞いた。


大樹は驚いて

「え?」

と聞いた。


時任も火無威も顔を向けた。

巳湖斗は火無威を見ると

「もしかしたら、この写真で射場明二さんは人を脅して殺されるのかもしれない」

と告げた。


それに三人は目を見開いた。

「は?」

「え?」

「どういう?」


時任は驚きながら

「すまない、見せてくれるか?」

とカメラを受け取り蒼褪めた。

「これは」

そう言って巳湖斗を見た。


巳湖斗は頷いて

「恐らく時任さんと射場さんは一緒に写真を撮っていたんですよね?」

角度は違っても同じように撮っていたらこのシーンが映っていた可能性がある

「だから、射場さんは貴方の写真にも写っているかもしれないと電話をしたのかもしれない」

と告げた。


そこには薄闇の中で屋上から女性が突き落とされている場面が小さく写り込んでいたのである。


英雄は蒼褪めながら

「どうすれば」

と告げた。


巳湖斗は固唾を飲み込み

「この写真のこの部分を拡大印刷して」

この映っているビルで5日前に転落事故か自殺か何か起きていないかを警察で調べてもらってください

「それで一刻も早くこの突き落としている人物を割り出すようにお願いしてください」

でないと

「この写真を盾に強請られていたら脅されている人物は射場さんを殺すかもしれない」

と告げた。


大樹は頷いて英雄からカメラを借りると出版社へと走って印刷し警察へと電話を入れた。


巳湖斗は英雄を見ると

「あの、射場さんが早まったことをしないように電話を入れてくれますか?」

もう警察に知らせたと

「そうすれば諦めると思います」

と告げた。


英雄は頷くと

「わかった」

と携帯を手に射場明二に連絡を入れた。


その頃、射場明二はUSBメモリを手に出掛けており

「…時任?」

と携帯を見ると列車を降りて応答ボタンを押した。


そう、万が一にでも5日前の写真に気付いていたら警察に言わないように口止めをしておこうと思ったのである。


「もしもし」

時任さんですか

「何か?」


英雄は射場明二に

「5日前の写真のこと気付きました」

今どこにいます?

と聞いた。


射場明二は入ってくる列車を見ながら

「ああ、その話なら今夜まで待ってくれ」

後で話す

と告げた。


巳湖斗はスピーカーになっている音声に

「…ひ、東池袋!」

どこ?

「何処の駅??」

とキョロキョロと彼らに聞いた。


火無威は英雄を見ると手で話を伸ばすようにと指示して巳湖斗の手を掴むと

「隣駅だ」

行くぞ

と駆け出した。


英雄は思わず腰を浮かしたものの慌てて

「その写真の件ですが」

俺もその…気付きまして

としどろもどろと話を始めた。


スタジオを出た二人はちょうど警察へ知らせて戻ってきた大樹と合流し火無威は

「穴川さん、今から車で東池袋駅に!」

そこに射場明二がいます

と告げた。


大樹は慌てて

「は、はい」

警察にも知らせておきました

と言い二人を駐車場に止めていた車に乗せると東池袋駅へと向かった。


射場明二は時任英雄に

「気付いたのかぁ」

まあ、しょうがない

「ギリギリ間に合うか」

と笑いながら携帯を切った。


そして改札へと向かったのである。


英雄は携帯が切れるとそのまま前のめりに倒れかけた。

そこにメイクを終えた有栖川美玖が近寄り

「あの、先程の私と同じ年くらいの」

と聞いた。


英雄は息を吐き出し

「もう後は彼らに任せた」

後で顛末だけは聞かせてもらおう

と心で呟き

「ああ、少女漫画家の神蔵火無威先生と甥っ子の巳湖斗という子だ」

と告げた。


美玖は巳湖斗が出て行った方を見て

「神蔵…巳湖斗…くん」

と小さく呟いた。


英雄は笑って

「もしかして今日一緒にモデルをする子とだと思った?」

と聞いた。

「確かに二人とも整った顔をしていたけどね」


美玖は慌てて

「え、ええ」

かなぁと思いました

とニコッと笑った。


英雄は「そうか」と言い

「でもYOUGIRLの表紙だから美玖ちゃん一人だよ」

とカメラを構え

「さあ、撮影を始めようか」

と告げた。


美玖は頷いて

「はい」

と指示された立ち位置へと向かった。


巳湖斗と火無威は東池袋に着くと行き交う人々を見た。


巳湖斗はそのとき駅から上ってくる階段から現れた射場明二の姿を見つけると

「いたぁ!」

と指をさした。


その射場明二の少し後ろに立つ男が包丁を出すのを見て

「殺させない!!」

と走ると二人の間に飛び込んだ。


彼が殺されたら…彼女が死ぬかもしれない。


火無威は駆け出しながら

「巳湖斗!!」

と叫んだ。


包丁の刃が光り、同時に人々の悲鳴が響いた。

巳湖斗は目を見開いてそれが振り下ろされるのを見つめた。


まるでコマ送りのように目に映り、右腕に痛みが走った。


大樹は慌てて警察を呼び、火無威は男が更に包丁を振りかざしたその手を掴んで

「いい加減にしろ!」

とそのまま勢いよく地面へと押し付けた。


そして、後ろ手に回して包丁を奪うと

「穴川さん!」

と包丁を渡した。


そこへ警察が訪れた。


射場明二は震えながら

「お、俺を」

お前…

と男を見た。


それに腕を抑え巳湖斗は立ち上がると

「彼は貴方を殺そうとしたんです」

いや

「貴方は今日ここで殺される運命だったんです」

5日前の写真をネタにゆすった代償として

と告げた。


射場明二は男を指差し

「お前!なんてことを!」

俺を殺そうとするなんて!!

と叫んだ。

が、巳湖斗は息を吸い込み吐き出すと

「貴方にそんなことを言う権利はない!」

ときつく言うと

「貴方の行為は立派な恐喝脅迫罪です」

しかもカメラマンという仕事に付いておきながら

「それを犯罪に利用するなんて」

と睨んだ。

「俺が貴方を助けたのは…貴方の為じゃない」

貴方も貴方のやったことをゆっくり考えれば良い

「もう俺は貴方を救ったりはしない」

二度目はないですから


そう言って、踵を返すとフラフラと火無威のところへ歩きそのまま倒れ込んだ。

腕の傷は5針を縫う大怪我であった。

それを聞いたカメラマンの時任英雄が撮影後に病院へ訪れ

「いやぁ、びっくりした」

犯罪を止めたのはエライが君が怪我したら本末転倒だからね

と告げた。


そして火無威に笑顔で

「実は俺の妻が貴方の漫画の大ファンで…俺も読んでまして」

サインを貰おうと思っていたんですよ

と言い、意外と良い人であった。

「カメラマンの話ならいつでも!」

お答えしますよ


火無威はそれに

「あ、はい」

宜しくお願いします

と応えながら

「やっぱり次はカメラマンと売れっ子アイドルの純愛だな」

と心で呟いていた。


偶々一緒だった有栖川美玖も英雄に言ってついて来て巳湖斗を見るとそっと手を掴んだ。

「やっぱり、貴方のこと夢で見たことある」


巳湖斗は驚きながら真っ赤になり

「そ、かも」

と呟いた。


美玖はスキャンダル禁止のアイドルである。

『まあ、今回は成り行きもあるし見舞いぐらいは』と許してくれた黒川達治の手前もあってそっと手を離した。


「あの、話しを…聞かせて」

電話待ってていい?


そう小声で囁きぺこりと頭を下げると

「お大事にしてください」

と先の声を消すように言って立ち去った。


巳湖斗は彼女と握った手を握りしめたまま全員が立ち去るとそっと開いて火無威に見せた。

今は片手が動かないのだ。


火無威は開いて

「携帯番号だな」

とそっと巳湖斗の鞄の奥へと仕舞った。


巳湖斗は鞄を怪我した方とは反対の肩にかけて病院を後にしながら

「彼女、叔父さんの親友と同じで夢で見たって」

今回、あの人の命を助けたから…彼女の命も助かるかな?

と呟いた。


火無威はそれに

「二日後には分かる」

と告げた。


二人は一泊してその翌日、東京を観光して夜の出雲市駅行きのサンライズ出雲で帰宅の途についた。


車窓から見える夕陽を見つめ巳湖斗は

「…今日も…知らない誰かがあの坂を歩いているのかな」

出来ればもう見たくないけど

と呟いた。


しかし。

帰宅した火無威と巳湖斗の元に一冊の本が届いていた。

それは黄泉比良坂の伝承であった。

最後までお読みいただきありがとうございます。


続編があると思います。

ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ