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仇討ち宣言

「……ミュケ、ギルドを追放された翌日に復帰たぁ、良い根性してるじゃねぇか」

 顔面入れ墨のギルドマスター、ザグラムは眼光を鋭くした。カウンターごしに革張りの椅子にどっかと腰かけたまま、小綺麗になって色白になった猫耳少女のミュケと子供のような相棒を観察する。


 ミュケはともかく、相棒のちんちくりんは吹けば飛ぶような頼りなさ。血なまぐさい闘いの場で役に立つのか……。いやまてよ、そうじゃねぇ。フードで顔を隠しているが顔立ちの良い娘だ。そこらの貧民街のゴミとは違う。育ちの良さが見てとれる。


「登録料は銀貨一枚だぜ」

「せちがらいにゃ」

「決まりは決まりだ」

 チャリンと残り僅かな日銭をカウンターに載せる。これで今夜の宿とご飯代を支払えば残りは銅貨数枚。なんとか血闘(デュエル)で勝って賞金をゲット、金貨が貰えればしばらくは暮らせる。無論、負ければゼロ。おまけに怪我でもしようものなら治療もできないどん詰まりだが。


「相棒の名前、それと顔を見せな」

「ポポルカ、顔を出していいにゃ」

「今度は見せて良いのですね」

 渋々とボロ布のフードを取り去るポポルカ。

 さらりと流れ落ちる金髪、透けるような白い肌。端正な輪郭につぶらな瞳。その場にいた誰もが、荒くれ者もギルドマスターも思わず息を飲んだ。

「「「お、おぉ……!?」」」

 可愛い、美しい!

 カウンターの周囲には数人の血闘士(デュエリスト)と相棒たちが興味深く眺めていたが、どよめきが起こった。

 ポポルカは可愛い。この世のものとは思えない美しさ、愛らしさに目を奪われる。耳が長い点は誰も何も気にしていない。

「にゃはは! これが私の新しい相棒にゃ。弟の敵を討つため協力してくれたにゃ」

「ミュケ、話が見えないのですが」

 不安になったポポルカがこそこそ耳打ちする。

「いまから適当なヤツらと決闘するにゃ。あ、ポポルカは何もしなくていいから心配いらにゃい」

「決闘って太古の先史文明で行われていた殺しあいですよね? 大丈夫なのですか?」

「大丈夫にゃ」

 何が、どう?

「偉い人と引き合わせてくれるお話は」

「目の前にいる怖いオッサンが、ここで一番偉いにゃ」

「いっ!?」

 なんだか話が違う。


「よろしくなお嬢ちゃん。ミュケが死んだらギルマスの俺が身元引き受け人だ。知り合いの良いところに売り払ってやるから安心しな!」

 強面(こわもて)が口元をニカッと歪める。笑顔が恐怖感しか生まない。ミュケにはさっさと死んでもらい、ポポルカという娘の身柄を確保。奴隷商人に売り払ったほうが金になりそうだとギルマスは考えていた。


「そりゃないぜギルマス! そこの可愛い子ちゃんはオレっちが貰うぜ!」

 ミュケが死ぬ前提である。

「は!? お前の相棒は俺だろうが!」

「クソむさ苦しいおめぇより、あの子がいいんだよ!」

「なんだとてめぇ! 誰のお陰で勝ててると思ってんだコラァ!」

「うるせぇ!」

 ボカスカと喧嘩がはじまった。

「ミュケの相棒なんてもったいねぇ!」

「そうだそうだ!」

「今すぐ血闘(デュエル)だ! ミュケをぶっ殺して相棒をゲットするぜ!」

「てめぇの相棒はアタイだろうが浮気者!」

「うるせぇブス」

「あんだって!?」

 あちこちで好き勝手なことを言い合い相棒との揉め事に発展する始末。


「野蛮人しかいない」

 ポポルカがすっかり怯えミュケの腕にしがみつく。

「このまま殺し合えばいいのににゃー……」

 ぼそっとミュケは気軽に願いを口にする。ささやかな願いを叩き潰したのはブチ切れたザクラムの大声だった。

「うるせぇぞテメェら! ミュケとはランクが違うだろうが! だまってろぁ!」


 ミュケは再登録なので最下層のFランカーからやりなおしとなる。

「くそ、そうだった!」

「ミュケ、はやく勝ち上がって来やがれ!」

 騒いでいる連中はCランクBランクのそこそこ強い血闘士(デュエリスト)だ。血闘(デュエル)は隣接するランクの相手としか行えないルールがある。

 無論、例外もあるが。


「私の相手はアイツにゃ! 黒犬のボロウザ! どこいきやがったにゃ!?」

 最愛の弟を殺した血闘士(デュエリスト)

 犬耳族のオス、相棒の名前はサーシャルという人間の魔女。顔も名前も絶対に忘れない。


「ミュケ、その人を探して戦うのですか」

「もちろんにゃ、あいつは弟の仇、絶対に殺す」

 ふごーと毛を逆立ててミュケが血走った目でギルド内を見回した。休憩スペースに武器の調整屋、酒屋兼フードコート。

 見たこところどこにもいない。

 見つけ次第襲いかかりたい衝動に駆られるが、どんな事情であれギルド内での戦闘はご法度だ。

 以前、ルールを守らずイキっていたAランカーが、ギルマスに首を捻られ180度首が回転した死体と化したことは全員が知っている。


「おいミュケよ。ボロウザはDランクに昇格したぜ、おめぇを倒したからな」

「にゃにぃい!?」

 頭が沸騰しそうになる。この前まで同じEランカーだったくせに、卑劣な手で勝って……手の届かない所に逃げるなんて。ギリリと奥歯を噛み締める。


「おめぇさんにゃ早いとこ死んでもらって、可愛い相棒ちゃんを自由にしてほしいがルールはルールだからな。それにボロウザは休暇中だ。明後日にならねーとギルドにゃこねぇぜ」

「うぐぅ」

 ギルマスを睨み付けるが仕方ない。まずはFランクから昇格することが優先だ。


「まぁおちつけよミュケ。そこでまずはメシでも食って休んどきな。あと銀貨一枚出せば二人で宿泊とメシ代にしてやるよ」

「わかったにゃ」

 もう一枚、最後の銀貨を指で弾く。


「試合は明日の予定で組んでやる」

「嬉しいにゃ!」

「丁度Eランカーで空いてるのがいるんでな」

「恩に着るにゃ」

「期待してるぜミュケ」

 やけに親切なギルマスがニヤリと嫌な笑みを浮かべるが、ミュケは気にする風もなかった。ポポルカの手を引いてフードコートへ向かう。ポポルカ目当てで周囲に群がってくる男どもをシャーと威嚇しながら。

「おらー邪魔にゃ!」


<つづく>

【ステータス】

なまえ/ミュケ・マーシグラン

性別 /女性

年齢 /15

種族 /猫耳族

    顔立ちはほとんど人間と変わらないが猫耳が特徴。牙が鋭いので笑うと「犬歯(猫だが)」が特徴的。小柄ですばしこい者が多い。村や集落単位で暮らし特定の国家を持たない。そのため帝国の遠征軍により容易に捕虜にされた。


髪肌色/白で毛策は白銀

肌の色/淡い小麦色。健康的な色るつや


瞳の色/翡翠色(光彩はやや縦長でネコを思わせる)

尻尾 /しなやかに動く。戦闘中に捕まれるとヤバイので気を使う。

体調 /両行。満腹、元気、前向き

体臭 /良い。日なたの猫の匂い

服装 /貧相な服(布に首を通して腰ひもで結ぶだけのもの)

    まぁまぁの下着(昨日洗った)

    革の鎧(硬い革を繋ぎ合わせたボディアーマー)胸、肩、ひじ、ひざ、爪先はおなじ素材の防具をつけている。紐による固定。

    貧しいサンダル(日本の「わらじ」とおなじ構造。だが足を保護するため、尖ったもの対策として分割した鉄の板を挟んでいる)


武装 /片刃の剣(状態錆び付いている)

    日本刀を思わせる鍛造刀。ミュケの装備しているのは刃渡り60センチほどの太刀タイプ。切れ味は抜群だが、魔法による()ぎと維持が不可欠で取り扱いが難しい。


職業 /血闘士デュエリスト

    レベル12

    ギルドランクF(再登録につき最下層へ)


    上位ランカーとなれば帝国公認のお抱えとなれる。帝国公認はナンバリングされた上位百名(ギルドランク換算ならA、もしくはSクラス)となる。


スキル/刀剣戦闘術(通常斬り)レベル3


所持金/銀貨0枚、銅貨9枚


    パンがひとつ銅貨1枚

    エール酒なら銅貨3枚

    肉料理なら銅貨5枚から

    都市内の宿(血闘士くずれの護衛付き安心のお宿組合所属)は最低でも銀貨1枚。もちろん裕福層はこの相場の宿は利用しない。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 惑星征服を狙うポポルカでありましたが、いつの間にか決闘の商品に。それから一皮むけて美少女になったはずのミュケですが、周囲からは相手にされず、|剰《あまつさ》え決闘に負けて殺される事が望まれ…
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