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思惑と相棒

 夜が明けてきた。

 少しはやく目覚めたポポルカは左腕の意思決定支援AIと眼前のウィンドゥを通じ情報の整理を行う。


『現状の最善策はミュケを利用することです』

 猫耳型人類種の戦闘力、当地に関する詳細な情報を有すると推測され、何よりもポポルカAx100001に対して友好的かつ協力的な姿勢が推奨理由という。

「なるほど」


 トモダチ、相棒。彼女はそれを望んでいた。

 人と人のつながり、知的生命体なら誰もが持つ普遍的な感覚だ。

 ポポルカにとってもその提案は喜んで受け入れたい。

 都合がよいからだ。

 利用できる。

 ミュケはまだ寝息を立てている。抱えた刀剣は彼女にとって大切な武器らしく常に身に着け、今も抱きしめるようにして眠っている。

 金属を精錬して鋭さを増した(やいば)(さや)に納められ、血と泥で黒く汚れた布でぐるぐる巻きにされている。


『分析、制圧対象惑星――以後テラドと呼称――における支配体制は、衛星軌道上からの物流観測、排出される二酸化炭素などの測定値から、唯一の超大陸アムゲリナを支配する帝国と特定。支配中枢の都市と推察される地点までミュケを利用し案内させ、ポポルカの身の安全を確保させつつ、帝国の支配者階級の者に接触するプランを推奨します』


「現状では彼女に頼るしかないね」


『同意。ミュケとの会話により情報を引き出しつつ、協力をおこなってください。多くの文明系において対人交渉スキルの基本はギブアンドテイク、与えた分だけ与えられる。等価交換、エネルギー質量保存の法則と同じであることをお忘れなく』


「流石にそれぐらいは理解できるよ」


『追記。救援要請のプランBに加えてプランCも立案しました』

「……試しに聞かせて」


『惑星全土を武力制圧します。しかし可能な戦力を有していない現状を鑑み、安全な月面裏側に兵器工場を建設、惑星表面制圧兵器を量産し侵攻するプランです』

「それ、どれぐらいかかるの?」

『資源の採掘、精錬、製造、最短工程で七百惑星周期(※七百年)ほど必要となります』

「却下」

 やはり対惑星支配層攻略に特化した工作員、ポポルカが頑張るほうが効率的だ。

 そのためにはミュケとの関係を維持したほうが得策、ということになる。


「むにゃー……」

 昨夜与えた簡易食料の丸薬が、ミュケの肉体に良い影響を及ぼした。


 ただ、しばらくすると「けほっ」と毛玉と共に消化しつくしたバイオフィル(※自己増殖して栄養を供給する合成バイオ食品)を吐き出していたが……。あれは種族特性によるものだろうか。

 傷つき疲労していたミュケの肉体が完全回復、含まれた自己修復型ナノマシンは生物種を越えてその効果を発揮することが証明された。


「そうだ」

 ポポルカはある考えに思い至る。自分にとってはただの栄養補給薬だが、この星の生物にとって肉体を強化する効能が見込めるなら、都合の良い「兵隊」を作り出せるのではないか?


 チュウ。

 部屋の片隅で小型の動物がカサコソと動き回っていた。敵意のない下等な動物種ネズミだ。昨夜ミュケは「美味しそう」と言っていたが。


 丸薬を一粒、放り投げてみる。

 これであのネズミを強化できるなら、残り97粒分の兵隊が組織できるはずだ。

 チュ……? とネズミは丸薬をかじり、暗がりに消えた。

「あ」

 しまった。

 逃げられては効果が観測できないではないかとポポルカが肩をすくめた直後、

『ビッギャァアアアア!?』

 ものすごい悲鳴がしてバチュッと家の外で血煙とともに肉片が飛び散った。


「いっ!? 今の何にゃ!」

 ミュケがガバッと起き上がった。

「さっ……さぁ? ミュケのほうが詳しいんじゃ」

「あんな鳴き声の生き物知らないにゃ!」

 ミュケは警戒していたが、やがてブクブクに膨らんで砕けたネズミの死骸をみつけて悲鳴をあげていた。


 実験は失敗。

 ミュケはたまたま「適合」しただけのようだ。

 流石にちょっとポポルカは申し訳ないと思った。

 恩人のミュケに安易にヤバイ丸薬を提供したことを。


「ところでミュケ、君って白かったんだね」

「え? あー私はもともと白っていうか銀髪にゃ」

 指先で胸元までの長さのある髪の毛先をつまむ。

「薄汚れていただけだったのか……」

「にゃはは……」

 ミュケの髪はまるで白銀のように綺麗だった。朝日が壊れた窓から差し込み髪が光をつかまえてキラキラ輝いている。

 翡翠色の瞳には力強い光も宿り、肌の色は薄く日焼けしたような色合いだが、小麦色で健康的そのもの。頬には朱色も差している。

「昨夜、ポポルカからもらったお薬ですごく調子が良いにゃ!」

 完全回復、元気いっぱい。

 今のミュケは驚くほど調子が良かった。


「そ、そう……」

「弟にも飲ませられたら治ったのかにゃぁ」

 いまさらどうしようもないことだけど、すこしだけ考えてしまう。

「それはどうかな、体質の合うあわないもあるし」

「そうなのにゃー」


 思わず目を泳がせるポポルカ。

 あとで適当な人間にもう一粒だけ試してみよう。


「ところでミュケ、私はこの星……いえ国で一番偉い人に会いたいの」

「おー? 王様……武帝ジ・ゼロ・アドヴァンシアな! 私もいつかブッ殺……いや、会いたいと思ってるにゃ」

 一瞬ギラリとした顔つきになった。


「なら案内してくれる?」

「うーん。流石にそう簡単に会ってくれる人じゃないし」

 ミュケは腕組みをしている。

 白い耳がすこし斜め方向を向く。思考と感情に連動しているらしい。


 だがミュケの悩みはすぐにAIが「低レベル文明圏における支配階級はピラミッド状で、王を頂点として階層にわかれ、上位の者には容易に合ったり意見を述べたりすることが難しい。ミュケは低階層の身分と推測。上位階層との橋渡しを可能とする身分の高い人物を探しましょう」とフォローしてくれた。

 なるほど、ミュケは身分の低いヤツなのか。

 元々「身分」はよくわからない。

 ポポルカの星系では超統合意志に人々は接続し平等に生きていた。大抵の仕事はアンドロイドか奴隷種族がやっていたし。


「とにかく大きな街まで案内して。誰かほかの偉い人に会わせて」

「わかった、丁度いまから行こうと思ってたにゃ」

 自信満々のミュケはポポルカを引きつれて街へと向かう。

 ただ銀色ピカピカの服はあまりにも目立つと、廃屋からボロ布を見つけてマント代わりに羽織らせた。

「……光学迷彩の一種」

「めーさい? とにかくポポルカ目立つから、変な奴につかまると奴隷にされるにゃ」

「奴隷」

 流石にそれは理解できる。

 街をずんずん進んでゆくミュケに頭からボロ布のフードをかぶったポポルカがつづく。

 バラックの立ち並ぶ外輪は、不潔で目も虚ろな住人たちが昼間からゴロゴロ道端に転がっていた。

 老婆や中年男性、初老の男、子供が次々に寄ってきては物乞いをし荷物を盗もうとする。

「退かないと刀の錆にするにゃ!」

 と怒鳴って追い払いながら進む。

「ひいい」

 未開惑星が怖すぎる。

 とポポルカはミュケの背中を掴んで進む。


 建物がましになってくると住んでいる人たちも少々まともに思えてきた。

 荷物を抱えて行き来する人々、往来で談笑する奥様方。

「これが……文明」

 雑多でめちゃくちゃでうるさくて、それでも人間たちが生きている。さまざまな肌の色、髪色、瞳の色。種類が違うことに驚く。

 何よりも驚いたのはミュケのような耳ではなく、丸く短い耳の人間種族が一番多いことだ。 その証拠にミュケをまるで珍獣のようにジロジロ見る人間がいる。


「……私ら猫耳族は珍しいにゃ」

「そうなの!?」

 でもほかにも獣じみた顔つきの人間とも野獣ともつかない者もいる。

 ミュケと耳の形が若干違う。

「一番多いのは人間だけど、次は犬とか狼系の人にゃ。あいつら乱暴で好きじゃないけど」


「金を出せオラァ!」

 裏路地から強盗が突然現れて刃物をちらつかせた。

「ななな、何!? えっ!? はっ!?」

「こう見えても血闘士だけど、やる気にゃ?」

 状況がまったく理解できずに混乱するポポルカに対し、ミュケは一切動じる気配もない。

 静かに背中の剣の柄に触れると、相手は目を泳がせて慌てて逃げ出した。


「す、すごいね」

「ここじゃ常識にゃ」

 どんな常識なの。

「お願いだからボクを一人にしないで」

「まかせるにゃ、相棒!」

 ポポルカは苦笑を浮かべつつ「身分の高い人」まで案内してくれるというミュケに頼るしかない。こんな場所ではぐれたらどうなるかわかったものじゃない。

 まずは身分の高い人間を交渉(洗脳)し乗り換える。

 ミュケとはそこでお別れだ。


「ここにゃ!」

「はぁ」

 やがてミュケは街の中心部にほど近いある建物にたどり着いた。

 大きな黒々とした宮殿らしき建物の近く、武装した人間が多く出入りしている。今までの場所とはまた雰囲気が違う。

 字は読めないがポポルカもついていく。

 ザワッ。

 空気が重い。

 鋭い視線が一斉にミュケに向けられた。

 けれどミュケは気にする風もなく一番奥のカウンターまですたすた向かってゆく。

「ちょちょ、ミュケ」

 中には剣や斧を背負った見るからにヤバそうな人間たちが酒を飲んだり、お金の勘定をしたりしている。


「なんだおめ……ってミュケかぁ!?」

 顔面入れ墨の大男が驚いて叫んだ。

 これが身分の高い人間だろうか。ポポルカは迫力に尻もちをつきそうになるが、ミュケがぱっと肩を抱きとめた。そして、


「ギルド登録するにゃ! これが相棒のポポルカ!」

「と、登録って……何を!?」


<つづく>


【ステータス】

なまえ/ミュケ・マーシグラン

性別 /女性

年齢 /15

種族 /猫耳族

    顔立ちはほとんど人間と変わらないが猫耳が特徴。牙が鋭いので笑うと「犬歯(猫だが)」が特徴的。小柄ですばしこい者が多い。村や集落単位で暮らし特定の国家を持たない。そのため帝国の遠征軍により容易に捕虜にされた。


髪肌色/白で毛策は白銀

肌の色/淡い小麦色。健康的な色るつや


瞳の色/翡翠色(光彩はやや縦長でネコを思わせる)

尻尾 /しなやかに動く。戦闘中に捕まれるとヤバイので気を使う。

体調 /両行。満腹、元気、前向き

体臭 /良い。日なたの猫の匂い

服装 /貧相な服(布に首を通して腰ひもで結ぶだけのもの)

    まぁまぁの下着(昨日洗った)

    革の鎧(硬い革を繋ぎ合わせたボディアーマー)胸、肩、ひじ、ひざ、爪先はおなじ素材の防具をつけている。紐による固定。

    貧しいサンダル(日本の「わらじ」とおなじ構造。だが足を保護するため、尖ったもの対策として分割した鉄の板を挟んでいる)


武装 /片刃の剣(状態錆び付いている)

    日本刀を思わせる鍛造刀。ミュケの装備しているのは刃渡り60センチほどの太刀タイプ。切れ味は抜群だが、魔法による()ぎと維持が不可欠で取り扱いが難しい。


職業 /血闘士デュエリスト

    レベル12

    ギルドランクE

    上位ランカーとなれば帝国公認のお抱えとなれる。帝国公認はナンバリングされた上位百名(ギルドランク換算ならA、もしくはSクラス)となる。


スキル/刀剣戦闘術(通常斬り)レベル3


所持金/銀貨2枚、銅貨9枚


    パンがひとつ銅貨1枚

    エール酒なら銅貨3枚

    肉料理なら銅貨5枚から

    都市内の宿(血闘士くずれの護衛付き安心のお宿組合所属)は最低でも銀貨1枚。もちろん裕福層はこの相場の宿は利用しない。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 無事に相棒!? を見つけたミュケ。 この世界では弟を亡くしたことを嘆く暇もないらしい。(汗) [気になる点] 誤字・脱字等の報告 六件報告しました。 [一言] ①抱えた刀剣は彼女にとって大…
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