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6、大きな繋がりを持つ



『いつからこの場所に…?真っ暗で何も、見えないなんて…。それにいつの間に気を失ってたんだろう…』


横になっている体を起こし、状態を確認する。


『魔素感知を習得するために集中してたのは覚えてる…。…そのまま気を失ったのか…』


体は何ともない。痛くもないし、むしろ軽いくらい。


一つだけ違和感があるとするなら。

声が発せない。

喉や腹に力を入れようが、声が出せない。

呼吸は出来るのに、なぜ。喉に手を添え痛みを感じるかなとも思ったが何も痛みは感じられなかった。


『夢っぽいなこれ…。周りが暗い…。何すれば、どうすれば夢から覚める?』


行動は出来るのと体がふわりとした感覚で重いと感じる事が無く、痛覚も無い。そして声が出せないという点も含めて現実では無いという結論に至る。

明晰夢の可能性を考えてみるが、思い通り体を動かす事が出来るし夢なら何故真っ暗なのか。現実味も帯びてる。その場に座ったまま考えることにした。


手を顎に当てどうしようか唸っていると、前方が徐々に光を放ち始めた。

道標のようにわたしに伸びた細く眩い光が太くなっていく。


『あの光…なんだろう』


出来る事が限られている今の状況では、一つの変化だけで体が動かせられてしまう。

眩しさから手を前に出して小さく影を作り、目を擦り細め凝視してると突然声が私の耳に届いた。


「ねぇ~。どぉして精霊達にあんなに愛されてたのぉ~?」

『…え?』


声が届いた。少し低めのハスキーさが混じった声はどちらかというと恐らく男性の声だ。

どんな人が立っているのか確認したいが、逆光のせいでシルエットしか見えない。


「ねぇ~?聞こえてるよねぇ?」


少し不満の色が窺える声色で話しかけてくるが、そもそも人が居るなんて思わなかったし声が出ない。せめて相手に伝わる手段があればいいんだけど、紙もペンもここには埃一つ何も無い。つまりどうする事も出来ない。


『聞こえてるけど声が出ないんだよぅ…。それに眩しすぎて前の人見えない、一体誰が話しかけて来てるの?』

「あーーっ!やぁっぱり聞こえてたんじゃーんっ。もぉ、聞こえてるなら返事してよー!」


声が出せない状態でどう返事をしようか考えてるのに、相手には聞こえていたという事実に困惑する。


『声、出してないのに…。どうやって通じたの?』


さっぱり理解できない現状に頭が整理つかない。時間は待ってくれないという様に光の向こうの男性も歩みを止らせる気配もなく近付いてくる。


「それはねぇ、俺が教えてあげる~」


声の主は言葉を言い終えると同時に目の前に立っていた。いつの間にか、だ。彼はわたしの鼻先まで顔を近付け「んばぁっ」と、無邪気な笑顔を浮かべながらわたしの目の高さまで腰を低くしていた。

そして柔らかくサラリとした彼の髪が、私と彼の顔の左右を覆った。


『っっ゛!』


つい先刻まで暗闇の中から逆光線のシルエットを細くした目で見つめていたのに、眩しさから堪らず一度瞬きすると彼が目の前に居たのだ。

わたしは反射的に細めていた目を何倍ほどにも見開いた。

一瞬何が起きたのか理解できず呼吸する事すらも忘れる程に驚いた。目の前の彼はその反応が面白かったのかクスッと満足そうに口元を緩めた。


「キミの心の声が聞こえる仕組みなんだぁ~、ここは。現実世界じゃないからねぇ。移動は出来るけど声は出せないんだよぉ」


「内なる声で会話可能だよ」と言いながら彼の身体が中腰から通常に戻る。現実世界じゃないのは何となく理解した。それに彼の言う通り確かに移動は出来るみたいだし、実際に声は出せない。彼の話す事は正しくその通りだ。だとしたら彼はいったい誰?という疑問が浮上する。


『内なる声って、思った事聞こえちゃってる…ですか?さっきのも?』

「うん、そうだよぉ。テレパシーみたいな感じぃ。ねぇ俺のこと知りたい?あ、教える前にさ、この演出眩しいよねぇ?ごめん今光の調節するからねぇ~」


立ったまま彼はパチンと指を軽く鳴らし、二人の周りが円形に丁度良く光が帯び始めた。

未だに暗闇の中である事は変わりないが、さっきよりはとても見えやすくなった事で彼に感謝をする。


「これで俺のこと見えるよねぇ?初めまして。俺は、夢と幻想の神・ウォルムンティア。精霊達がやたら力を貸すなぁって思って、俺遊びに来ちゃったぁ~」


神だと自分から名乗りにこりと笑む彼は、白い肌で彫刻のような綺麗な顔立ちをした20代後半くらいの若い男性だった。紺青色と紫のグラデーションがかった髪と瞳の色。服装は純白のコートらしき物着ていて襟はふわりとしたファーが付いてる。彼の髪はにこりと笑んだ時に緩く揺れて耳に着けてるアクセサリーも一緒にシャラリと小さく音を鳴らせた。

垂れ目で睫毛の長いその印象は髪が長ければきっと女性と見間違うほどに美しい。


『えっ…神…様?神様って言った?いやいや、訳が分からない…え?』


突拍子も無い事を軽く言う彼に対し不信感が募るが決して悪い気は感じない。

ただ神様が自らわたしに会いに来るなんておかしいと疑問なのだ。

勿論彼の話す事が事実なら夢の中で会えること事態も光栄だし、飛んで跳ねて歌って喜びの舞をしたい程に会いたい人物。

だけど神様ってもっと仰々しくて神々しくて恐ろしく近寄り難い存在な訳で、こんなに簡単に姿を現すなんて。


「そう、俺神ぃー。えーっと君、フランドール公爵家のノエル…?でしょ?確か精霊達はそう言ってたぁー」


名前を知られているという事はやはり精霊と繋がりのある人物なのはよく分かった。先の言葉も「精霊達がやたら…」と話していた限り、元々わたしの存在(能力)を知ってて会いに来た訳では無さそうだ。あの草原の部屋を精霊達が創った事に関係していそうだ。

精霊に聞きに行って知ったのか、精霊の会話を偶然聞いたのか。前者はまず無いだろう。転生してまだ1週間しか経っていなくわたしの能力について情報も浅い。


どちらにしろ今重要なのはそんなことではない。

全く状況が整理出来ないが、神様に対しての礼儀はちゃんとしなくてはならない。例えこの世界に来て日が浅く正しい作法の知識が無くとも、日本ではこういう時手を重ねおへそ辺りに置き、背筋を伸ばして45度程度に頭を下げるのだ。


わたしは座ったままだった体を起こし立て背筋を伸ばす。


『あの…、夢と幻想の神・ウォルムンティア様。先程の言葉づかい失礼致しました。わたくしはフランドール公爵家の長女ノエル・フランドールと申します。お会いする事が出来きて光栄です…』


ゆっくりと丁寧に自己紹介をし間違えないように注意を払いながらお辞儀をした。

神様に最初から普通に会話をしてて無礼極まりなかったんじゃないかと記憶を辿ると気が重くなる。でも神様自ら名乗ってくれるまで気付かないフレンドリーさだったし、お咎めは軽いものでお願いしたいものだと心の中で独り言ちた。が、もちろんそれもウォルムンティア様には聞こえていたらしい。


「だぁいじょうぶ、だいじょうぶ~。勘違いしてるみたいだけど、なにも罰を与えたくてここに君を招いたんじゃ無いんだよぉー?」

『えっ』


目の前でくつくつと腹と口元に手を当て笑いながらわたしの懸念を感じてか安心させるように不安を解いてくれる。


「俺は君と友達になりたくて来たんだからぁ。できればさっきみたいに普通に話してくれなぁい?」

『友達…。なぜわたしと友達になりたいのでしょうか?…いえ光栄ですが…理由を教えてもらえればと』


まだ100%神様と信じた訳ではないけどこの人が同じ空間に存在して意思疎通が出来る、しかも精霊と知り合いとなると高位の存在なのはまず間違いないだろう。

その高位の存在の方がわたしと友達に、繋がりを持とうとするのは裏があったりするのだろうかとまた変な勘繰りを出してしまう。


「理由はねぇ、君が面白そうだからぁ~」

『おも…っ!?いっ…え?面白そうだからって…それだけですか?』

「そーう、本当にそれだけー。ねっお互い挨拶したからもう友達だよねぇ?」


ねっねっ?と楽しげに詰め寄る彼は青年の背格好をしているにも関わらず、顔が少年のように輝きを見せた。その様子に純一無雑で信じても良いような気がすると思えてきたわたしはウォルムンティア様と友達になることにした。


『…わかりました。天界の神様がわたしと友達になって頂けるのはとても光栄なことです。ですが友人関係を結ぶのでしたら、わたしの家族や今後出来る友達には危害を与える事はないと約束して頂きたいです』


神様と繋がりを持つということは容易ではない。普通は存在自体人間に見せない。

日本でも何千年、何万年前から存在していると聞くが現在日本で実際に会ったり目撃したというのはなく、存在を信じる者や逆に見たものしか信じない者とそれぞれで、不思議な能力を持つ人間だっていた。

それぐらい魔法や神様は考えられない程遠い存在だったのだ。


日本の神様はひっそりと見守るタイプで俗世に姿は現さない。だから魔法があるこの世界での神様は強大な力で何をするか判らなく不透明だ。


だから友達になりたいと自ら望んで来たウォルムンティア様に約束事をして少しでも周囲の安全を確約したい。しかしがっつり条件とか出すとそれはもう契約を結ぶ事になってしまう為、友達の立場としてお願い事を申し出したのだ。


わたしの出した約束にウォルムンティア様はキョトンと一瞬目が点になってからまたニコリと微笑んだ。


「うんうん、もちろんだよぉ。君と俺はもう友達ぃ。君の大変な時は力になるし、家族や友達には大して興味が無いから心配要らないよぉー」

『そう、ですか。ありがとうございます。…なにかウォルムンティア様からお願いとかありませんか?わたしだけお願いするのは申し訳なく思いまして…』


わたしに出来る事ならと続けて言うとウォルムンティア様は少し考えてから返事をした。


「じゃあさっきも言ったように、普通に話して欲しいなぁ。堅苦しい話し方は止めてねぇ?」

『それだけ…ですか?』

「うんっ。俺からのお願いはそれだけぇ~」


もっととんでもない事をお願いされるかと思ったけど予想に反して単純だった事にホッと息をつき安堵し承諾した。

どうやらウォルムンティア様は堅苦しいのが苦手な様で、友人となった今敬語は無くして欲しいらしい。良い神様みたいで安心した。


「今日の目標は達成できたし、また会いに来るねぇ~」

『えっ、会いに来るってどうやって…?』

「夢の中が一番繋がりやすいけど、昼間とかは難しいよねぇ。今回みたいに強制的に眠らせて君の意識に入ることも出来るけど、毎回となると君の身体が大変だからねぇ」


目閉じ腕を組み首をかしげながら考えた結果、彼は指を鳴らしブレスレットを出し「はいっ」と見せ渡す仕草をした。

銀製のシンプルな作りで中心に一つだけ1cm程の紫色の宝石が埋め込まれていたブレスレット。

宝石一つでも高そうなのに神様からこのブレスレットを貰っていい物なのだろうかと気持ちが萎縮してしまいそうになる。


「これあげるから腕につけといてぇ~」

『…高そうな上に神様からの贈り物って……大切にします、ありがとうございます。因みにこれどうしたらいいのですか?使い方って…?』


ウォルムンティア様から手渡してもらったブレスレットを緊張しつつ右腕に着けて、眺めるように見てみる。ボタンとか仕掛けは見る限り何も無い。キラリと奥深く輝く紫の宝石だけが存在を現している。


「この宝石には俺の体の一部が混ざってるから手か指で触れて名前呼ぶだけでいいよぉー」

『い、一部が…!?神様の!?うっ…。宝石にウォルムンティア様の力が僅かに宿っている…という事ですね…。一気に重くなりましたよ…。いえ、大切にします、ありがとうございます…』


神の力が宿ってるという点でノエルの反応と表情がまた変わるのをウォルムンティアは面白くて口を少し開け上歯が見えながら笑った。


「君と俺はもう友達~。ふふ、これから退屈しないで済みそうで良かったぁ~」

『へ…?退屈しのぎの為に…?』


からかわれてるのかと思うとちょっと癪だ。


「楽しいのが一番でしょぉ~?君の事を教えてくれた精霊達にもお礼をしておくね~」


一歩ずつわたしに近づきブレスレットを付けている右腕を持ち上げた。


『…?何してるんですか?』


そう問うと腕を見つめている彼は顔を動かさずに瞳だけ動かし、一度わたしと目を合わした。それからゆっくりと瞳を戻し。


「…。ふぅー…」


わたしの右腕ごとブレスレットに息を吹きかけた。


『…っ!??』


ピクリと右腕を中心に筋肉が反射的に動くが、それきり硬直したように身体が直ぐに動かなかった。


「んじゃ君を元の場所に意識戻すから横になって目を瞑ってぇー?」

『いや今の説明はっ!?…あ』


予想外の事は立て続けに起こるってね…。彼の行動が異次元すぎて突っ込んでしまった…。


「っふははっ!そう言うの待ってたぁ!ふふっ、ごめんね?今のおまじない…だよぉ~」

『なんなんだ…この神様は…』


今日起きてそんなに時間が経って無い筈なのに、もうゲッソリする…。


「神である俺の気配が駄々漏れだと、困るのは君だ」


ヘラりと笑っていた彼はその言葉を静かに真面目な表情でわたしに伝えた。彼の顔が近いだけあって迫力も真剣さも伝わり、彼の表情の変化にこのまじないがどれだけ重要なのかが解る。


『……。』


その言葉に今一度彼に貰ったブレスレットを見つめる。


「なんで俺が君に…ノエルに会いに来たか…。その内分るさぁ~」


そういう彼の目は笑っているが実の所は分からない。


『あの――』

「おっと、もうこんな時間だぁ~。君を元の世界に帰さないとだねぇ」


明らかに質問しようとした所を遮られた。つまりこれ以上は話せない、ということなのか。それとも彼にはこの後予定があるから切り上げたのか…。真相は解らないまま。


時間だからと帰そうとするので彼の言う通りにする。

その場で横になり目を閉じた。するとだんだん意識が遠くなっていき深く沈んだ感覚になった。


ノエルの意識が元の場所に戻ったことを確認したウォルムンティア様はふとノエルに伝えようとしていた事を思い出した。


「あぁー、そういえばあのブレスレットに通信以外の魔法を込めた事伝え忘れたけどぉ…まぁ大丈夫かぁー」


「何かあれば話しかけて来るよねぇ」と予想して天界に帰って行った。


そのせいでノエルの存在にまた周囲が驚愕するとは知らずに。







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