4、世界の基準とノエルの能力
この世界の魔法は主に〔火・水・木・土〕の四大元素で成り立っている。
基盤はこの四大元素だが、〔光・闇〕といった比較的珍しい魔法、あとは〔氷、風、雷〕などの派生魔法もある。
これらの魔法は火は赤・水は青というように色で分けられ、通称属性呼びをする。
この〔火・水・風・土〕属性を持って産れてくる人は、国の人口半分以上を占める。他属性は大体5人に一人くらいの確率だ。
また、生まれつき備わっている先天的能力のほかに自力で習得できる努力型能力、成長していく中で突然目覚める突発性能力がある。
2属性持ちはよくあるが、3属性以上はごく稀である。
これらを踏まえると今回わたしが行った属性診断の結果が問題であるのは明らかだ。
「……とまぁ、この世界の魔法の摂理は簡単に言うとこんな感じなのですが…。先ほどノエル様が行った属性診断で、魔晶石に映し出された色は二色のみならず、何色も映し出されました」
「虹色だったってことは、全属性もあり得る…と?」
「はい…恐らく全属性に近い物かと…。こんなことは初めてです…ありえない程に」
わたしは薄らと察していた。二人の会話を聞いたわたしは目の前に置いてある、ジェイン司書官が新しく入れてくれたお水を一口飲む。
ふむふむ、説明を聞いてる限りやっぱり虹色に光ったのは結構能力高めなんだね?転生にはこういうのが付き物だよね!結構嬉しいけど、後が大変そう…
「……。」
一人自分の世界に入ってニヤニヤしているわたしは、横に座っているユランお兄ちゃんに見られているのを知らないまま。
「ノエル様のこのお力の存在を知られれば、国の権力から下町の人攫いまでもが目を光らせます。上層部は権力を使い、なんとしてでも手に入れたがるでしょう…」
「そうですね。国を発展させるために何かしら手を打ってくるか、私利私欲のために…か」
うっ、やっぱそうなるのね…。絶対危ないじゃん。いつの時代になっても権力で物言わせない人とかいるもんなんだね…。争いの火種になりたくないし、人攫いにも遭いたくないよ!
つまり…強くなるしかないなこれ。
わたしの二度目の人生に誰にも邪魔させない為強くなると決め、幼い小さな拳をきゅっと結んだ。のだが。
「となれば、ノエル様の能力を隠す必要がありますね」
「えっ、」
…あれ…?いまなんて言いました?隠すってことは使うなって事?じゃ、ないよね?また別の意味を指してるんだよね?あれ、でも別の意味って最悪この家から一歩も外出禁止になったりとか…!?いや、考えすぎだよ!落ち着いて、わたし!
「うん。そうだね、そうしよう。僕としても、大切な妹をゲs…。薄汚い奴らに渡って政治の駒にはさせたくないからね」
へっ…?え?…今聞き間違えでしょうか?ゲ…。まさか天使のユランお兄ちゃんがそんな言葉を笑顔で言う筈無いか!聞き間違い、空耳だぁ!
それにわたしも誰かのもとに就こうなんて微塵もおもってないし。
でもですよ、魔法、使いたいのですよ、わたしは。
するとジェイン司書官は咳払いを一つし、曲げた人差し指で眼鏡をクイッとあげる。
「ユランシス様。ノエル様のことになると言葉選びが少々…。まぁ、わたくしとしても否を唱えることはありませんが、良しとしてもいませんよ」
「大丈夫、ジェイン司書官の前だし。人と場所は選んでるから」
ニコリと微笑む彼の笑顔を音声なしで見ると、純真無垢な天使のような顔で、全く陰りがない。
ジェイン司書官は溜息をつき「それならいいのですが」と一言こぼし、「それで」と続けてわたしに向かい口を開く。
「ノエル様には今後のため、今からご自分の属性を選んで頂き、他の属性に関しては信頼出来る方以外秘密にして頂きたいと思っております。…出来そうでしょうか?」
「えっ…っと、ですね」
え、まってまって。勝手に話進んでるけど、わたしめっちゃ魔法習いたいのに!断固拒否、断固拒否ですよわたしは!
「決して無理にとは言いません。ですが今後の為にも、と」
このままYESと言うことはしたくない。国のことは把握できてない為、どう言おうか考えてしまう。
「あの、信頼出来る方以外に隠すこと自体は賛成なんですけど…。ただ、一人隠れて練習するのだけは良いって事ですよね?」
ここでNOを出されたら一人でコソ連しちゃうもんね!
若干不安を顔に滲ませつつジェイン司書官に伺う。
「ふむ…。まぁ、怪我をしなければ問題はないですが」
やった!
「練習部屋はノエル様のお部屋に作った方がよさそうです」
「それは僕がまた教えておくよ」
「そうですか、ではよろしくお願いします。領主様や奥様にはわたくしから説明しておきますのでご安心下さい」
ほぉぉ!この部屋みたいに、わたしの部屋に空間を作るって事でしょ?初魔法じゃない!?楽しみすぎる!
部屋に入ったらまず魔法の試し打ちとかして何ができるか把握しておかないと。
この手袋を嵌めている限り、さっきみたいに魔力が溢れ出して壊してしまうって事は無いはず。
まぁ、ブラコンのお兄ちゃんに頼めば手袋の一個や二個貸してくれそうだけども!
「あの、ユランお兄ちゃん。この手袋しばらく貸して欲しいのですけど…?」
魔晶石に魔力を流し終わってからもずっと嵌めていた黒い手袋。見るからに高そうな手袋は、肌触りも最高に滑らかだった。少しサイズは大きいが着け心地が良かった為、そのまま着けていたのだ。
手袋の甲の部分にはこの家の家紋と思われる紋が白い線で記されてあり紋の周りに小さな装飾が、宝石が均等に円に合わせて装飾されている。市販の物でなく、特注の手袋。
特注の魔晶石もそうだけどきっとこれも高い。
さすがにこれ高そうだから、了承してくれるかは微妙だなぁ。
手をグーやパーにして肌触りなど再度確認してみた。
これはシルク製なのか内側も外側もサラリとしているが薄い布ではないので、手のサイズが合えば簡単に脱げることはない。
今のわたしの手の大きさじゃすぐ脱げそうになるが。
魔力が暴走する為、無いよりあった方がいい。
「あぁ、構わないよ。でも、サイズが少し大きいでしょ?エルちゃんがもう少し成長してから手袋を作ろうかと思ってたんだけど…。早急に手配したほうが良さそうだね」
手袋を嵌めた状態のわたしの手を取り、親指で撫でながらそう言ってくれた。
「こんな高そうな手袋をわたしにも作ってくれるのですか?」
「もちろん。だって今のエルちゃんには魔力制御出来るものは一つでも必要だろう?大切な僕の妹だから、これくらいさせて欲しいな」
「ありがとうございます、ユランお兄ちゃん!」
この手袋一つ幾らかは無粋なので聞かないでおこう。それに聞いた所できっと気軽に使えなくて、お部屋の飾りになってしまいそうだから。
大体の話がまとまり、わたしの能力は両親や側近の一部以外には話さない事と、回避不能で外部に話さなければならなくなった場合は家族会議で話し否か決めるようにする事。フランドール家内の極秘案件として決定した。
1、他人に能力のことを自分から説明したりしない事。
2、もし家族以外の人に目撃され、話さないといけない状況になった場合、わたし一人で決めずに家族でどうするか話し合い、結果に応じて契約書を相手と結ぶ事。
3、どうしても能力を使わなきゃいけない状況が無いとは断言できない為、状況に応じて判断し問題を最小限にする事。
4、予想できなかった件は、順次追加。
まぁ、要するになるべく一人で判断しずに相談するようにと、軽々しく能力の事話したり使わないって事らしい。
今回の属性診断の件から三人で話し合って、両親にはジェインが話を通してくれる。その後にまた家族とジェイン司書官とフィルランド医師にも同席してもらい話を進める事になった。
大凡話が纏まりジェイン司書官にお礼を言って、秘密部屋を造るべくわたしの部屋に向かった。
入口入って見まわし、正面右側。端奥からドレッサー、机、クローゼット。
左側にはベッド、タンス、本棚がある。
「どこに部屋を造ろうか?」
秘密部屋を作る場所はもう決めてある。ベッドとタンスの間だ。
理由は単純。起きてすぐ秘密部屋に行きたいから。と、入口に近いから。
「ここに部屋を作ります」
部屋の左側、、ベッドとタンスの間に移動した。
「わかった。じゃあまず右手を出して、壁に当ててごらん」
「こうですか?」とユランシスに教えられるまま、手袋を嵌めた状態の右手で壁に手を当てる。
「そう。そして部屋のイメージをしながらこう言うんだ。『フランドール家の守護者達よ、わたしの名前はノエル・フランドール。フランドール家の血筋の者であり、この部屋の主だ。』」
「フランドール家の守護者達よ、わたしの名前はノエル・フランドール。フランドール家の血筋の者であり、この部屋の主だ」
「『我望むのは秘密部屋。我以外の者は許可なく入ることを禁ず。望みを聞き届けたまえ』」
「我望むのは秘密部屋。我以外の者は許可なく入ることを禁ず。望みを聞き届けたまえ」
聞きなれない言葉を発し終わると、手の平から壁にエネルギーが伝わっていくのがわかる。魔力が流れているのだ。
手袋のおかげで壁の破壊は免れヒビの代わりに綺麗な模様の木製の扉がふわりと現れた。
「成功だね」
「やったぁ!教えてくれてありがとうございます、ユランお兄ちゃん!」
「ううん。教えるのは大したことないよ。僕もこの部屋に入ってみたいんだけど、いいかな?」
「もちろんいいですよ、どんな部屋になったのか見てみましょう!」
ワクドキな気持ちでドアノブに手を掛け扉を開けた。