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2、兄、ユランシス



「とっても美味しかったですね」


まだ慣れない顔ぶれで緊張はしていたものの、用意された料理が美味しくて皆より先に食べ終わってしまったが、わたしは満足してホクホクの笑顔になっていた。


「ふふ、そうだね。今日はエルのお陰で特に美味しく頂けたよ。それで、エルはこの後の時間は何をするつもりだい?」


エリアスお父様から満面の笑みが溢れていて、どう接していいか分からなくなるが今後の行動について考え始め、直ぐに思い立った。


「少しお屋敷の中を散歩しようと思います。体力回復の為に少しづつ動かないといけませんので」

「それは良い考えだね、何か思い出すきっかけがあるかもしれないね」


この家のことゆっくり見て回りたいし、散歩でもして少し運動しよう。


「そうなの?じゃあ僕が一緒についていくよ」

「えっ」


思い掛けない言葉に本音が漏れてしまい、口元が引き攣った。


「あら、それは良かったですねエル。お兄ちゃんがエスコートしてくれるみたいですよ。病み上がりで心配ですが、ユランがいれば問題ないでしょう。エルのこと頼みましたよユラン」

「エルは少し危なっかしい所もあるからね、しっかり注意して見ておくんだよ」

「はい、お母様お父様。もちろんです」


えっ、えええ!!話進むの早いって!気遣いは嬉しいけど!まだ少し気を使うというか、緊張するというか!!


「心配しないで、僕がついてるからね。何が起こっても大丈夫」


ユランお兄ちゃんが居るからとても心配なんです…


チラリと顔を上げ三人の顔を確認すると、皆綺麗な顔立ちで微笑んでるから断れなかった。


「…頼りにしてます」

「ふふっ、とても楽しみだ。じゃあもう行こう?」


イエス・ノーの選択肢が無くイエスしか答えられなくて返事したら「僕も食べ終わったから」と言って部屋を出ようとする。


もう断れない雰囲気だなぁ…これ。ぐすん


「は、はい…」


まぁ妹想いの素敵な子だし、断る理由はないかな?

少し過保護ではあるけど…


「決まりですね。ではお母様、お父様。僕たちは先に失礼いたします」

「うん、気をつけるんだよ。いってらっしゃい」


両親に笑顔で見送られてユランお兄ちゃんに手を引かれたまま部屋を出る。


「あの、ユランお兄ちゃん。まずどこに行かれるのか訊いてもいいですか?」

「んー、そうだねぇ…」


歩む足を止めることなくユランシスは考え、一つ思い出したようにノエルに質問をする。


「エルちゃんは何か知りたい事とか興味ある事ってないかい?」

「興味あること?」


急に質問を質問で返されるとは思ってなかった…。


「そう。事故以前の記憶がないのは理解してるつもりだし、知りたい事があったら何でも訊いてね。出来るだけの範囲だけど応えたいんだ。それにこの前エルちゃんのお部屋に行ったときに言ってたじゃない?早く魔法を学びたいって」

「あ、そういえば」


ユランシスがノエルの部屋に毎日通っていた為すぐに打ち解け、その時に魔法が使えるのかユランに訊いたことがあった。その些細な事を覚えててくれて、ほんわりと胸が温かくなった。


「それで図書室に向かおうと思うんだけど、どうかな?本当はエルちゃんの記憶を元に戻せる魔法があれば良かったんだけど、フィルも両親も方法を知らないみたいで…。ごめんね」


歩めていた足を止めノエルに向き合い手をまた握り直すと、彼は眉を下げすごく哀しそうで寂しそうな表情をした。


うぅ、なんて優しいのかしら…。ごめんなさい、ユランお兄ちゃんの知るノエルはもうここには居ないのです…。って伝えたい。いつかその日が来るかな…。

今考えても仕方ないけどね…。というか魔法だよっっ!魔法習いたい使いたい!


「いいえ、大丈夫ですよユランお兄ちゃん。それよりもわたし魔法にすごぉーく興味があります!是非聞かせて下さい!図書室行きましょう!」

「っ…!」


思いもよらぬ反応に驚き、彼の髪が揺れ妖精のような美しいブルーの瞳は、ふんすっふんすっと鼻息が荒くなるノエルを見てそのまま動かなくなった。ノエル自身は気付かないがこの瞬間のノエルが可愛すぎてすぐに反応できなかったのだ。


「ユランお兄ちゃん…?」


なんだろう?どうして急に無言になったのかしら?…まさか以前のノエルと性格ずれてたのかな?


「あの…」

「…あ、いやごめん、なんでもないよ。僕の事よりも図書室、行くんでしょ?さぁ行こう」


行くけど!図書室行くけども、絶対何か隠したよね?すごーく話逸らされた気がする…。まぁいいけど。


「そ、そうですね。いきましょう」


大人10人でも余裕に歩ける広い廊下をユランお兄ちゃんとわたし、その後ろにマリーやエリーなど従者が計8人付き従って図書室にむかう。

長い廊下の突き当たりを右に行くと図書室の扉が見えてきた。


「ほらみて、あの扉の先が図書室だよ」

「中がどうなってるのか楽しみですっ」

「あははっ、お気に入りの本が見つかるといいね」


従者が開けてくれた扉をくぐると左から右まであるたくさんの本棚にぎっしり詰められた本が大量にあった。正面には司書が使うであろう四角いテーブルが置いてあり、右側には2階へ続く螺旋階段があった。


「ここがフランドール家の図書室だよ」

「わぁ…!とっても、とっても広いのですね…!」


見た感じ本棚が5…10…20…すごい、1階だけでも50台はある!

こんなに大量の本を一度に見たのは初めて!!


辺りを見回しながらゆっくり進むと誰かが本棚の影から誰か出てきた。


「おやおや、誰かと思えばユランシス様と…ノエルさ、ま…」

「…え?」


彼は両手で数冊本を抱えていたが、思いもよらない訪問者に手元から積み上げられた本を落としそうになり足取りが乱れ倒れそうになった。


え、なに?なんでわたし見て固まるの?それに声震えてない?まだこれといって変なことしてないけど…。まさか一瞬で見抜ける千里眼的な力があったりする!?だとしたら本物のノエルじゃないって判るんじゃない?すっごくまずいんだけど!?


「あ…いえ失礼いたしました。おはようございます、ユランシス様に…ノエル様。ノエル様の意識が戻られていたのは存じておりましたが、中々お会いする事が出来ずに申し訳ございません…」


手に持っている本を近くの机に置き、眉をハの字に落とした表情でお辞儀をしながら挨拶とお詫びの言葉を発した。わたしは誰だろうかと疑問に思うが、さっきの取り乱し方はわたしへの罪悪感から来ていたのかも知れないと腑に落ちた。


「あっ、いえ…。お仕事が忙しそうなので仕方ないと思います。お気持ちだけ受け取っておきますね、ありがとうございます」


わたしも目の前で項垂れている悲愴な面持ちの彼に、心配してくれた感謝の気持ちと疑った事の謝罪を込めてペコリと頭を下げた。


「おはようございます、ジェイン司書官。…信頼できる貴方に少し話があるのですが、今お時間よろしいでしょうか?」


ユランシスはそう言いながら胸ポケットから小さな古びた金メダルを取りだし、それをジェイン司書官に見せる。


なるほど、この眼鏡をかけている人はジェイン司書官というのね?若草色の長髪男性で金色の瞳…。風貌からして優しそうだなー。髪を三つ編みにしてるのが好印象ですっ!


「ふむ…お話、ですか…」


何か考えるようなポーズをしノエルにチラリと視線を流した。


「では司書室の奥に向かいましょう、ご案内いたします」


青色のマントを翻しジェインを先頭に司書室に向かい始める。

この広い図書室の奥に扉があり、その場所がこの図書室を管理している一部の者のみが使用できる司書室であった。

しかし司書室の部屋に入りこの場所で話をするのかと思ったが、まだ奥に足を進めるジェイン司書官とユランお兄ちゃんに視線を向けるがまるで当然の様に奥に進む。

そして彼の足が止まる時、目の前には真っ白い壁だけしか無かった。


「あれ?ジェイン司書官、ここには部屋どころか扉さえもありませんよ?」

「大丈夫だよエルちゃん。この場所が目的の部屋だから」


この場所?でも目の前には一面壁だけど…?座る場所なら後ろにあるし…。

んー、どういう事だろ?


「ユランシス様、ご存じとは思いますが…ここから先には従者が入れませんので…」


ずっと前を向いて歩いていたジェイン司書官が後ろに向き、申し訳なさそうに一言添えた。


「あぁそうだね、一度皆を下げよう」

「ご配慮いただき感謝いたします」


そう言うとユランお兄ちゃんはこくりと頷き、後ろに控えていた従者たちに向き直った。


「皆。ここからは僕とノエルだけでジェインと話すから、ここで待機していて下さい」

「畏まりました。では扉の横で待機しております」


従者達はユランお兄ちゃんの意思を聞くなり、自身の位置に就き始めた。


えっ、やっぱり皆には見えない扉が見えてるの?むぅ…なんだか今一人だけ空気読めてないみたいな、仲間外れ感がするんだけど…!


「ありがとう。ではジェイン司書官、よろしくお願いします」

「かしこまりました」


そういうとジェインは壁に手をかざし、そこから緑の魔法陣が浮かび木製の茶色い扉が姿を現した。


「わぁ…!これ魔法ですね!?ジェイン司書官すごいです!!」

「…っ。こ、これは個人の魔法陣型の秘密部屋でございます。壁に魔力を流し部屋を造るのです」

「壁に魔力を!?」


わー!もう興奮が止まらないねっ!!前世でわたしも秘密基地作った事あった!


「この部屋は造った本人でしか開けられないので、極秘事や自分の空間を大事にしたい時、又は身の危険を感じた時に重宝される部屋でございます」


なんと…!そんな便利なプライベートルームがあるとは!!わたしも絶対つくる!秘密部屋!!

その為にはまず魔法学だよ!早く習いたいよぉ。


ジェイン司書官の後に続いて部屋に入ると執務室にあった書斎の様な部屋が目の前に広がった。

部屋の左右壁側にある本棚にはジェインの個人用と思われる書物が収納され、中央はソファーと机が置いてある。さらに右には台所と思われる小室があった


「わわわ、こんなの初めてです…!」

「あははっ。今のエルちゃんにとっては総てに等しく初めてな筈だよ?今後もまだまだ驚きが絶えないね」


温かく柔らかく微笑んでくれるユランお兄ちゃんについ照れてしまう。


うぐぐ…その天使の顔で微笑まれると心臓に悪いよねっ!慣れなきゃね!!


「たっ確かに。その通りですね!」

「うん。ジェイン司書官、部屋に招いてくれた事に感謝します。それで今回話す内容というのは、恐らく察していると思いますが…」


ノエルから視線をジェイン司書官に移し、真剣な表情で本日の訪問について話し始める。


「えぇ。ノエル様のことでしょう?」

「はい。話が早くて助かりました」

「こちらにもノエル様の状態について少しですが聞き及んでおりましたので…。」


あー…わたしか。この個人の秘密部屋に入る時点で薄々気付いてはいたんだけど…なに話すのか心配だなぁ…。


「やはり、そうでしたか…。それで、本題なのですが…」


ユランシスはジェインに今のノエルの状態を詳しく説明し始めた。

事故にあって目覚めた後のこと、身体の外傷は無かったものの記憶に障害があり、フィルランドが魔法を施してもノエルの記憶に変化がなかったこと。


そしてノエルの身体に宿っていた魔力に僅かながら変化があった事。


ジェイン司書官は昔の記録や知識が豊富だ。この現状を相談する為に来たのだ。








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