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わたしの転生初日

 

身体が重い。はやくランちゃんにご飯をあげなきゃいけないって思ってるのに、身体が言うこと聞かない…。風邪…かな、だとしたら職場に連絡をいれないと…。

あぁ…でも今すごく気持ちいい。深海の奥深くに落ちていくような…そんな感覚。


空気はないけど息ができる…。深海にいるのに圧力を感じない…。

……このまま、漂い落ちていきたい…このまま、ずっと……。



「…ル…ねが……き…だ…」


なにか…聞こえる…。


「わ……ここ…て…」


人の声…?私の右側…誰かがそばにいる。どうしよう、瞼が重い…。


わたしの周りをパタパタと歩きまわる音が微かにするし、誰かがそばにいて手を握っている感覚も、なんとなくだがわかる。女性の声が一番近い。おそらくさっきから話しているのは、今手を握ってくれている人だと感覚でわかる。


「…エル……ル…き…ル…」


とてもあたたかい手の心地。心配しているような声と鼻をすする音が聞こえる。

起きた方がいいんだろうけど、なんか身体が泥沼に沈んだように重く鈍い。


誰かよんでる、起きなきゃ…


「…くぅっ……はっ……」


なんとか息をし声を出そうと努力するが喉も口も干上がったようにカラカラで、自分の口じゃないように思えるほど、なかなか上手くできない。


な、なんで…、さっきまで心地よかったのに…。起きようとすればするほど、苦しくなる…


「…っ!?ノ…エルッ…?」


少しずつだけど息を吸うと同時に目も意識を向け開けようとし瞼の内側をごろごろうごかす。


「…っふっ…すぅ……」


やっぱりすぐに声は出ないものの集中すれば息は吸えるようになってくる。薄ら目でほとんどまつげしか見えない状態だけど人影がなんとなく何人かぼやけて見えた。


「た…れ…」


早く起きて、誰なのか確認しなきゃ…もしかしたらお母さんかも…


やっと発せられた声は不完全ではあるが聞き取れないこともない。この声に驚きの声と表情、さっきよりも慌ただしく動き回る人が増えた。


「あぁ、エル…!!よかった…!あなた、エルが…エルが…!!」


薄ら目で見る限り女性は手に何か持っていて、それに話しかけていた。だんだんまともに聞こえるようになってきた為話している内容も聞き取れる。

ずっと傍にいてくれた女性の髪が、綺麗な少し透明感のある金色をしていた。まるで夜の水面に映し出される水平線から顔を出す月のようだ。


手に何かを持ってお祈りでもしているかのようだった女性が話し終わると、誰もいなかった場所からいきなり男性が現れた。


え…、ひとが、いきなり…?手品…?


「ノ、ノエル…。ようやく目が覚めたんだね…。うぅ…。よ、よかった…」


金髪の女性はこの人を呼んでいたのかな?となんとなくそう思った。

この男性の人は髪が空色だ。夏の明るくあたたかい昼間の空色。

目元に隈があるのは寝不足のせいだと思われる。


「医者を!フィルランドを早くここへ…!!」


明るい空色を揺らしながら、後ろに控えていた使用人に指示を出す。


女性の横にいる男性は誰だろう?医者を呼ぶということはやはり自分は怪我か病気か何かかなと思考を巡らせる。


男性は女性と一緒にわたしの右手に手を添えてくれている。とてもあたたかい。人のぬくもりは久しい。ようやく宙に浮いていた意識がわたしのところに降りてきて、ゆっくりと目も開けられるようになり周りを見渡す。


「こ…ここは…?」


ずっと私の手に添えてくれていた手の先を見ると、薄ら目で見ていた時と変わらず綺麗で透明感ある金色の長い髪にゆるいウェーブかかった女性と、明るくあたたかな印象の空色でこちらも少し癖っ毛のあるふわりとした髪の男性だ。


二人の美しい顔が涙でくずれても、美しいままだった。なぜ部屋にいる人たちが泣きながら笑みを浮かべているのか分からないままでいると、突然扉のノックが聞こえ、女性が許可を出し部屋に新しい人を迎えた。

髪が少し乱れた様子で早歩きで入ってきた彼は、先ほどフィルランドと呼ばれていた人だ。


「失礼します…!遅れまして大変申し訳ございませんっ。ノエルお嬢様のご容態を伺いにまいりました」


完全にしっかりとした意識では無い為、頭がぼーっとしていてリアルな夢だなとかのんびりそう思ったりしていた。こんなはっきりと声が聞こえたり、ふわふわのベッドや手のぬくもりの感触がリアルなのは初めてだったが、疑問を抱かず、結論をだすまでに行かない。

医者のフィルランドと呼ばれた男性の髪色は水色に近い銀色で髪が肩の少し上で綺麗に切り揃えられていてこの人も美しい顔立ちをしていた。


夢でこんなにも奇麗な人達を見れるなんて嬉しいなぁ。

それにしてもとても部屋が広いけどここは病院って場所ではなさそう。

もしかしてわたしの部屋?夢だからわたしの妄想全開なのかな?


そう思えるのは部屋にあるタンスやクローゼット、大きな姿鏡とメイク用鏡台。まだたくさんあるが極めつけは今自分が寝ているベッドだ。薄いピンク色と薄い水色がいい感じにミックスされている可愛く綺麗なベッドだ。大人3人程寝ころべそうな大きさに天幕付き。


「先に魔力診断から行います」

「はい、エルをよろしくおねがいします」


フィルランドは空色の髪の男性に一言伝え返事を聞く。

すると銀髪の男性は横になっているわたしを少し上体を起こしてからおでこにかざした手から光を放ち始める。


するとぼーっとして思考が回りにくかった頭が、動き始める。


「エル、私のことがわかりますか?ここが、どこだかわかりますか…?」


エル・・・。わたしに話しかけてるということは、エルってわたしの事…だよね?

でもわたしはエルじゃない…。えっ、どういうこと?

夢なのに知らない名前で呼ばれることってあるの?

それに魔力診断ってなに?


ファンタジー世界ではなんとなく聞いたことのある単語に思考が追い付かない。


「あ、あの・・・わたし・・・は・・・。ここは・・・」


混乱しながらもなんとか取り乱さずに冷静にいようとするが、頭が追い付かない。

手からわたしのおでこに光を放っていた銀髪の男性は心配そうで、数秒したら硬い表情からすこし安心したようなやわらかい表情を浮かべ、光を止め手を下げる。


「…診断が終わりましたが…。今現状では、命の危険…というほどの問題はなさそうですね。よかったです…ご安心ください」


どういうこと…?さっきから…命の、危険…?


「エル、私はあなたの母親です。マーシェル・フランドールですよ…?わかりますか?」

「エル、わたしのことも分るかい?…エリアス・フランドール、君の父親だよ…」


母親…?父親…?え、全然知らない人なんだけど…。


あれ、まって…これ夢…じゃ、なさそうだけど…え?

さっきの光って、これって…魔ほ…う?わたし仕事終わってお風呂に入って、それで……あの時に感電…死…?


そう、死だ。



「…ぇ…?ぅっ、ふっ…うぅ…ひぅ…」



その時確信した。やはりわたしはあの時お風呂で感電死してしまったのだと。

どうして今の今まで思い出せなかったの?どうして夢だと思い込んでいたんだろう?なんで気持ちよく眠っていられたんだろう。

あんなちょっとした油断のせいで。もう会えない愛犬、友達、大好きな母・・・大切な家族なのに。

最後に愛してるも最後にありがとうも言えてないのに…。


わたしの人生が終わりを告げた…取り返しのつかない人生を


「!?ど、どうした…!?」


「大丈夫!?どこか痛むのかしら…!?」


目覚めたばかりのわたしが突然泣き始めたから周りに控えていた人達がうろたえ始めた。

両親と名乗る金髪の女性マーシェルと空色の髪の男性エリアスは動揺し、フィルランドにどうなっているのか聞くが本人も原因がわからない仕草をする。


そりゃそうだ、自分自身の精神的なものだもん。


「う…うぅ…ひっ…ぅ」


どうすることもできず大粒の涙を流し続け、私が落ち着くまで皆そばにいてくれた。

マーシェル達はわたしの頭をなでてくれたり、手を取って握ってくれたりしてくれ胸が一杯になった。


それからしばらくして落ち着きを取り戻したわたしは皆に転生者だと気付かれないように細心の注意を払って会話を始めた。


わたしが誰なのか。ここはどこなのか。会話の流れでだからここまでしかわからなかったけどあまり無理をしてはいけないということで続きはまた次の日となった。


泣き腫らし赤くなった目と過去の思い出、この世界で生きていかなければならない覚悟と決心を胸に抱き、眠ることにした。



後悔するよりも今を大事に、大切に生きるために。




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