家族
「今日から俺たちは家族だ!だからもう、盗みなんてするなよっ!」
ガサツそうな男性に頭をぐしゃぐしゃにされながらも、不思議と悪い気はしなかった。
ーーー少女は生まれてすぐに捨てられた。
ここでは抵抗できない赤ん坊は容赦なく餌にされる。
それを知ってのことだろう。森の真ん中にぽつんと寝かされていた。
泣きじゃくる赤ん坊。
その泣き声に集まってきたモンスター同士が争っている。
怒号と血飛沫が飛び交う中で、赤ん坊はいつしか泣き止んでいた。
少しずつ静かになり、争いに勝ったモンスターが近づいてくる。
赤ん坊はこれからどうなるかは知らないまま、そのモンスターを見つめる。
そして近づく、何倍もの大きさのモンスターの口。
……ペロッ
なぜか赤ん坊は嬉しそうに笑い出した。
すると、モンスターは赤ん坊に果物の汁を与え始める。
同情したからなのか、大きく育ててから餌にするのか、それを知る者はいない。
赤ん坊はすくすくと成長し、立派な少女となった。
生まれつき丈夫な体で、野生的な勘も鋭かったため、幼い頃から他種族のモンスターを狩りながら生活していた。
時が経つにつれ、育ててくれたモンスターも少しずつ弱っていった。
いつものよう食べ物を調達して戻ってくると、争った跡が残っており、そこにモンスターが横たわっていた。
少女は不思議そうに見ていた。
そして、目から溢れる水滴の意味がよく分からなかった。
それからの少女は狩りを続けながら彷徨っていた。
ある時、これまで見たことのないモンスターが集まっている場所を見つけた。そこからはとても美味しそうな匂いがした。
「???ガブッ……んんん!!!はわわぁ〜」
「なに、あれ?モンスター?」
「子どもじゃない?」「捨て子かなぁ」
ーー!ムシャムシャムシャ!
「お、おい!なにしてる!」
「!?」
スタタタタッ!
威嚇されたと思い一目散に逃げてきたが、食べた物の美味しさが忘れられなかった。
それ以来、何度も現れてはいろんな食べ物を盗む毎日を過ごしていた。
「ダンナ、あのガキですぜ。この街で盗み働いてるやつは」
「汚ったねーガキだな。まー奴隷にくらいにはなるだろ。捕まえてこい」
「待て!このクソガキ!」
「!?」
シュババババー!
「な、なんじゃありゃ!すばしっこすぎて捕まりゃしねー」
何度か同じようなことがあり、少女は身の危険を感じていたが、簡単に食べ物が手に入るこの場所を気に入っていた。
また、お腹を空かせて食べ物を盗みに来た少女。
いつものように食べ物を手にしようとした瞬間。
ーーーゾワッ
気づいた時にはもう、背後にいた敵に捕まっていた。
必死に抵抗したが全く歯が立たない。
「あーこの子かー、最近食べ物盗んでるってガキは」
「シャーーー!!!!」
「どうどうどう〜俺はお前さんを取って食おうって思ってるわけじゃねんだぞ〜……って言葉通じてないのかな?」
「ヴゥゥゥ!」
「とりあえず、この中に入って大人しくしといてくれ」
敵に捕まってしまい、とうとう食われると悟った少女だったが、つれてこられたのは暖かい建物のなかだった。
そしていきなり数人がかりで、いい匂いのする訳のわからない物で身体中をこねくり回され、綺麗な布を体に巻きつけられた。
突然のことで理解が追いつかない。
「???」
「おー!綺麗になったじゃねーか!」
「ちっこくて意外と可愛い顔してるんだな〜」
「ほら!私の目に狂いはなかった!この服似合ってるでしょ〜!」
何を言っているのかわからなかったが、敵意は感じられないため、少し様子を見ることにした。
ぐぅーーーっ
いつの間にか緩んでいた緊張を、少女のお腹の音が知らせてくれた。
男はにやけながら、食べ物を差し出してきた。
食べ物にかぶりついた少女を優しく撫でる大きな手。
不思議な感覚がした。
それはモンスターと一緒にいた時と似ている。
とても懐かしい感覚だった。
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