名家
「伝統ある"グレンヴィル"の名を汚さないように振る舞いなさい」
この言葉を、何度聞かされたか覚えていない。
代々修道者として活躍し、過去には教皇となった者もいたほどの有名な血筋"グレンヴィル"のもとにクレアは産まれた。
幼い頃から修道者としての英才教育を受け、その才覚を発揮させていた。
グレンヴィル家が育成学校として設立した修道院でも、司祭ほどの実力を持つまでに成長した。同時に、家族からの異常なまでの期待を一身に受けていた。
もちろん、それを快く思わない生徒もいる。
目の届かない所では嫌がらせを受ける毎日。
生きにくさに押しつぶされそうになっていた。
そんな中にもクレアの心の拠り所となっていたものがある。
可愛らしいぬいぐるみだった。
可愛い物好きは家族から強く否定されていたが、目を盗んではそれを愛でて、気持ちを落ち着かせていた。
高潔であれと厳しく育てられ、伝統やしきたりに雁字搦めにされる。さらに、周りからは有名一家の娘だからと疎まれ続けていた日々のささやかな癒し。それだけでクレアは十分だった。
そんな生活も終わりそうな卒業間近のこと………
「もう卒業っていうのに、この成績はなんです?グレンヴィルの恥よ、もっと気を引き締めなさい。」
「いつもその話ばっかり」
「なんですかその態度は!グレンヴィルにあるまじき振る舞いはやめなさい!」
「そんな名前なんてどうでもいいよ」
「なんてことを!そんなふうに育てた覚えはないわ!まったく、こんなものに現を抜かしてるからよ!」
「な、なんでそれを!?」
部屋から持ち出していたぬいぐるみを見せつけると、クレアの目の前で引きちぎった。
我を忘れて飛びかかるクレア。だが、周りにいた御付きに止められて話は終わった。
引きちぎられたぬいぐるみを抱きながら涙を零した。
(…これくらいも許してくれないの?………)
数日が過ぎ、クレアは修道院を卒業した。そして、それを境にグレンヴィルの血筋と修道者としての名を捨てた。
ギルドでの職業申請では、魔石の示す適正職以外の職種を選択することも可能となっている。
そのため、クレアはこれまで触れてこなかった職業で生きていこうと、戦士として登録した。
心躍らせ討伐に向かう。
しかし、戦士としての戦闘は苛烈を極めた。
経験したことのない想像を絶する過酷さに、早くも心が折れかけていた。
そんな時に見かけたのがアイリーだった。
ただただ可愛らしい姿に癒しを求めようとしていたクレアだが、自分と同じように苦戦しながらも、決して諦めない少女の姿に、いつしか心を奪われていた。
(きっとこの子となら……)
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