旅立ち
「……怖かったよね、来るのが遅くてごめん………アイリー……」
薄暗い雨の中、赤黒い視界の先で、人を乗せたモンスターが飛び去ってゆく。
そして、ぼんやりと男の人の姿が見えた。
(………なんで私の名前を………あなたは……)
抱きしめられながらそう考えているうちに、視界は暗くなっていった。
―――目が覚めるとそこでは、見覚えのある人たちが話をしていた。
「誰がこの子を育てるんだい?」
「私は嫌だよー?」
「あんた、その子の母親の義姉でしょ?」
「それはそうだけどー…」
「1人増えたって変わりゃしないだろ?」
「それじゃ頼んだよ」
話終わったのか家から人が出ていく。
「厄介ごとが増えて大変ね」「あの子、かわいそうに…」「これからどうするんだろうね〜」
(私のことで話してるんだろうな……お父さんとお母さんはどこなんだろう?全然思い出せないや…)
「やっと起きたかい?はぁ…今日からここで生活してもらうよ。まったく、お前の母親もあんな男と一緒にならなきゃ死ななくて済んだのにさっ」
「……!?……………えっ?………いたっ!」
頭痛とともにぼんやりとだが、血腥い凄惨な記憶が蘇る。
(……そんな……いやだっ!…いやっ…………)
横たわる両親が思い出されると同時に、あの男の人の姿も浮かんだ。
それからは義姉のもとで必死に家事を行った。
家事は慣れていないため、食器を割ってしまったり、掃除に時間がかかったりと要領の悪さが目立った。その度に義姉やその子どもから毎日のように罵倒され、嫌がらせを受けるようになっていった。
しかし、ここに住めなくなると行くあてがないことをアイリーは知っていた。
何も考えないように、感情を押し殺しながらただ従う毎日。
そんな生活をしている中、ふとある噂を耳にする。
「聞いたか?あの聖騎士様が新しいダンジョンを攻略したらしいぞ!」
「ほんとかい?この村から出た剣士がここまで成長するとはね〜」
「この前も、たまたまここにきてた聖騎士様がモンスターを倒してくれなきゃみんなやられてたしな〜!」
(もしかしたらあの人は聖騎士様だったのかな…………会えたらお母さんたちのことも聞けるかもしれない…)
その頃から、聖騎士の話題だけはよく聞き耳を立てるようになっていた。村にいた頃の話、剣士学校での逸話、現在の功績など、、、
いつしか、アイリーはいつも聖騎士のことを考えていた。
日に日に聖騎士への憧れは強くなり、いつかは感謝を伝えたいと思うようになっていた。
そのためにも自分も冒険に出なくてはいけない。
そして、アイリーは剣士を目指すことを決意する。
剣士を目指すようになってからは、毎日に潤いが生まれたように感じていた。使い古された剣を拾い、暇を見つけては日々剣術の鍛錬に勤しんだ。
聖騎士に感謝を伝えるために。
そんなある日、いつものように鍛錬をしていると若い男性に声をかけられた。その人は昔、アイリーのお父さんにお世話になったからその恩返しに来たのだと話した。
お父さんが亡くなったことを伝えると少し悲しそうな顔をしていたが、すぐ優しい表情に変わった。その恩をアイリーに剣術を教えることで返そうということとなった。
「あなたのお名前は?」
「えーと…そうだな、"バート"とでも呼んでくれ」
「バートさん…は、お父さんとはどんな関係だったんですか?」
「うーん、お父さんの教え子ってところかな?」
その日から修練が始まった。夜に抜け出しては一人で鍛錬し、時折、バートに稽古をつけてもらった。
会うたびにアイリーはみるみる上達していった。元々、剣術の素質は十分にあったが、剣士への憧れや直向きさ、意志の強さが要因となっているとバートは感じていた。
修練で教わった体の使い方は、日々の生活にも活きるようになっていった。
義姉からの嫌がらせも華麗に捌き、雑用のミスも減っていき、義姉もとうとう口を出せないほどにまで成長していた。
そんな日々が3年ほど続き、アイリーは12歳になった。
「アイリー。剣士学校って知ってる?」
「剣士学校?」
「名前の通り、剣士を育てる学校なんだけど、君のお父さんもその学校に通ってたんだよ!」
「わ、私でも入れる?」
「お偉いところの子どもばっかりで大変だろうけど、君ならきっと入れると思うよ!」
(やった!聖騎士様にまた近づけるかもしれない!)
「でも、本当に剣士でいいの?」
「どうしてですか?」
「あーいや、やっぱりなんでもないよ!頑張っておいで!(自分では気づいてないのか?)」
「??ありがとうございます!」
ーーー数日後
「私はここを出て、剣士学校で剣士を目指します。これまでお世話になりました」
言葉少なに義姉の家を後にして、「戦士・剣士育成学校」を目指し中央都市へと向かった。
「戦士・剣士育成学校」は12歳になると剣士・戦士の見習い試験を受けられる。その試験に合格すると剣士・戦士としての教えや剣術・技術について学べるのはもちろん、成績優秀者への優遇制度も備わっているため、生徒同士で鎬を削りあっている。
また、この学校を卒業しなければ冒険者として冒険に出ることができないため、冒険者の登竜門として数多くの受験者が集まる。
試験では、受験者10人を1グループとし、木刀での試合を行い、最後まで残っていた者が合格するという単純なものとなっていた。
「どいつもこいつも弱そうな奴らだな〜」「女も混ざってんじゃねーかよ」「あいつが例の田舎モンか?」
「女相手なら余裕ありそうだな」
「よ、よろしくお願いします…」
「それでは、試合を始める!」
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