初めてのエスコート
そのままグレンに連れられて、城にある一つの応接室まで案内された。
様子がおかしいグレンと無言のまましばらく、城に仕えるメイドたちが用意してくれた紅茶を飲んでいると、静かなノックの音が聞こえてきて、グレンの返事と共に、ジェフリーとセドリックが入ってきた。
「本日はお越しくださり、ありがとうございますシャーロット嬢。隣にいるいつにも増して頭の悪そうな男はついに、頭が壊れてしまったのですか?」
「女性は準備もあるだろうし、朝から疲れたであろうシャーロット嬢。どうした?グレンは調子が悪いのか?ならば今日は帰ってもいいが。」
「帰っていだだきましょう。永久休暇を渡してもいいくらいです。殿下のことは私にお任せください。」
「セドリック殿下、ジェフリー様。こちらこそ、本日はお招きくださりありがとうございます。朝は比較的強いので大丈夫ですわ。お気遣い頂き感謝します。グレンお兄様は、生まれた時から頭がおかしかったので気にしなくてよろしいと思うますわ。」
部屋に入ってきた、ジェフリーとセドリックに慌ててシャーロットは立ち上がり、挨拶した。なぜか隣にいるグレンは一向に立ち上がる気配がないが、セドリックのことで頭がいっぱいなシャーロットの視界には入らない。
「どいつもこいつも言わせておけば勝手なことばかり言いやがって。俺が殿下の側を離れることなんて何があっても有り得ない。それに俺の頭は悪くない。自他共に認める天才だ。」
「自分で天才という者は基本バカです。実際の頭の悪さは数値では表せませんから。」
グレンが立ち上がり、ジェフリーと言い合ってる中、グレンの言葉にほんのり頬を染めたセドリックにいち早く気づいたシャーロットは、セドリックに釘付けになった。
(まあ、照れていらっしゃるんだわ。たまにはグレンお兄様も役に立つのね。)
朝から普段と異なった表情が見られてシャーロットは嬉しくなった。しばらく、シャーロットがセドリックを観察していると、不意に視線が合わさり、セドリックがハッとした表情を見せた。
「すまないシャーロット嬢。庭園を案内しよう。」
「はい、よろしくお願いします。」
セドリックの言葉で言い争いをやめた2人が、セドリックが通れるように応接室の扉を開けた。セドリックに促されるままにシャーロットも応接室を出た。
(エスコートはして下さらないのかしら?)
そう思いながら、セドリックの手をシャーロットが見ていると、その視線に気づいたセドリックは一瞬疑問の表情をした後、慌ててシャーロットに躊躇いがち手を差し出した。
「嫌でなければ」
「セドリック殿下自らエスコートしてくださるのに、嫌なはずがありません。嬉しいさしかありませんわ。」
そう言いながら、セドリックの手に自分の手を重ねて、完璧な笑顔をセドリックに向けた。
(嘘。私、セドリック殿下に触れてるの?確かにエスコートして欲しいとは思ったけど、本当に現実になるなんて思ってもいなかったわ。)
シャーロットはスキップしたいくらいに心が弾んでいた。
(手汗とか大丈夫かしら。急に心配になってきたわ。)
「あなたは、昔と変わらず優しいな。」
「え?」
「いや、独り言だ。」
手汗を気に過ぎて、ポツリと呟いたセドリックの声をシャーロットは拾うことができなかった。
(なんて言ったのかしら)
「では、私たちはこちらにいますのでお2人でごゆるりとお過ごし下さい。」
「え?2人だけで行かせるのか?」
「庭園は横幅も狭いですし、2人の方が何かといいしょう。」
「2人は来ないのか?そこまで狭くは無いと思うが。」
「狭いです。シャーロット嬢の侍女の方もよろしければ、こちらでお休み下さい。」
「ありがとうございます。」
なぜか当人抜きで物事が決まっていくことに2人は困惑した。セドリック同様に慌てたシャーロットの視線の先に、ティアの(チャンスですシャーロット様)という頷きが見えて、シャーロットも覚悟を決めた。
「分かりました。行きましょうセドリック殿下」
「え?ああ。シャーロット嬢がいいのであれば、それで良いが。」
「わざわざ別行動する意味なくな「行ってらっしゃいませ。午後は仕事が詰まってますよ殿下。」
「わ、分かっている。では、改めて行こうかシャーロット嬢。」
ジェフリーにより、グレンの邪魔が入ることなく、近くに人は当然いるが、シャーロットとセドリックが実質2人きりという空間ができた。そのことに、内心喜びとドキドキで頭がいっぱいになりながら、シャーロットはセドリックと手を重ねながら、庭園に向かって一歩踏み出した。