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再会


シャーロットが会場に戻ると、ディーンが多くの女の子に囲まれていた。それに比べてセドリックの周りには、側近しかおらず、話しかけるのに絶好のチャンスだった。


(どうして、ディーン殿下ばかり人気なのかしら?)


ディーンとその周りにいる女の子たちをすり抜けて、シャーロットは無表情で疑問を投げかけた。


目の前にセドリックが現れた瞬間に、そんな疑問は関係なくなり、セドリックの良さを知るのは私だけという特別感に満たされた。


(絶対にセドリック殿下の心を射止めなくてはならないわ。今日が私の人生で1番の勝負所よ!まずは、挨拶して…)


「シャロ?どこに行っていたんだ?先ほどから、父上が探していたぞ。」


セドリックとの会話のシュミレーションをしていたシャーロットの耳に入ってきた声に、慌てて現実に意識を戻して声の主人に笑顔を向けた。


その声の主人が、自分と同じ母親譲りの銀色髪を持ち、父親譲りの薄みがかった黄金色の瞳を持った実の兄である次男のグレンだと確認して、慌てて作った笑顔を消し去った。


シャーロットの心の準備が終わるよりも先に、話しかけてきたグレンをこれでもかというほど、シャーロットは睨みつけた。


「わざわざ、ありがとうございますグレンお兄様。」


シャーロットは、睨んだまま適当にグレンに返事をした後、すぐに完璧な笑顔を作って隣のセドリック殿下に向き直り、昨日から何度も練習した挨拶を口にした。


「グレンお兄様がお世話になっております。フローレンス公爵家長女のシャーロットです。本日はお茶会にお招きありがとうございます。セドリック殿下にお会いすることができて、大変嬉しゅうございます。」


この日のために練習したと言っても過言ではない、完璧な笑顔とカーテンシーをセドリックの前でして見せた。


チラリと覗き見ると、キョトンという効果音が相応しい顔をしたセドリックが目に入った。


(え?可愛好きではなくて?)


シャーロットは、お礼のまま下を向きながら、チラリと見えたセドリックの顔に萌え死にそうになりながら、表情に出ないように必死に耐えた。


「殿下」


頭は切れるが、空気が読めない兄と違い、空気も読める優秀なモラレス公爵家長男のジェフリーがセドリックに声をかけた。ジェフリーは、深緑の髪に暗めな灰色の瞳を持ち、見目麗しい方で、兄の一つ上の18歳。


「シャーロット嬢、顔を上げよ。」


ジェフリーの声で状況を思い出したセドリックが、すぐにシャーロットに声をかけた。セドリックの言葉を聞き、シャーロットはゆっくりと顔を上げた。


セドリックは顔を上げたシャーロットを確認してから、凛々しい声色で話し始めた。


「私はプレギー王国第一王子セドリック・プレギーだ。今回のお茶会に参加してくださったこと感謝する。シャーロット嬢の話はよくグレンから聞いている。どちらかというと世話になっているのは私の方だ。シャーロット嬢、グレン含めこれからもよろしく頼む。」


かしこまった話し方で話しかけられるのは初めてで、少しドキドキしながら、やっと挨拶ができたことに喜びを噛み締める。


セドリックが兄とセットでよろしくと言われたことに少し、いやかなり納得いかないが、良しとすることにした。


ただ、今の短い会話で聞いておかなければならないことが一つできた。


「私について、グレンお兄様からどのようなことをお聞きになられたのですか?」

「そうだな…。菓子が好きで、特にタルトが好きだと聞いている。視察などで遠くに行く際は、グレンが両手にたくさんのタルトを持って帰っているのを目にするし、保存のために何度か私も魔法で手伝ったことがある。とても兄弟仲がいいというのが普段から伝わってくるな。」

「それは…」


(なんですって!?セドリック殿下にわざわざ魔法を使わせていたの?ってきり、グレンお兄様が使える魔法だと思っていたわ。今まで、セドリック殿下の魔法で保存されたタルトやお菓子を私が食べていたということかしら?信じられないわ。私のことを我がまま娘と思われたかしら、それとも食い意地の張った娘と思われたかもしれないわ。普通の殿方なら、周りに知られないようにさりげなく買うのが紳士ではなくて?お兄様、絶対許さないわ。)


シャーロットは、完璧な笑顔を保ちながら、頭の中だけで怒りを爆発させた。


(それに毎回グレンお兄様が私のためにお菓子を買ってきてくれてたのは、兄弟愛とかではないわ。普段から、お兄様と婚約したい多くの方たちの相手を私がしていて、その報酬としてもらっていただけだわ。今度、お兄様の悪いところを女性たちに聞かせて差し上げようかしら。)


怒りに思考が奪われているシャーロットの耳に、優しげな声が入ってきた。


「今回の茶会でも多くのタルトがあったはずだ。城にいるパティシエの腕はとてもよくて、きっとシャーロット嬢の口に合うと思うよ。私も好きなんだ。」


(もう一度好きと言ってくださいまし。は!いけないいけない。でもセドリック殿下の言葉で、醜い心が一気に浄化しましたわ。)


シャーロットは邪念を消して、完璧な笑顔を作り直して、再度セドリックに向き合った。


「まあ、本当ですの?まだ食べれてないので、後で食べてみますわ。セドリック殿下は甘いものがお好きですか?」

「男として少し恥ずかしいが、甘いものは昔から好きなんだ。」


(セドリック殿下から、もう一度好き頂きましたわ。)


「どのようなものが特にお好きですか?」


(セドリック殿下の好みを知っておかなければいけないわ。)


「アップルパイ…」


セドリックは少し照れ臭いのか、頬をかきながら、シャーロットから視線を外し、下を向きながら答えてくれた。よく見ると、少し耳が赤いのも見て取れる。


(可愛い。好みを聞くだけで可愛いわ!)


「子どもっぽいだろうか?」

「そんなことございません。私もアップルパイ好きですわ。」

「ありがとう。シャーロット嬢は優しいな。」


そう言って、セドリックは今度はしっかり視線を合わせてニコリと笑顔を見せてくれた。昔2人で話したときのような笑みを見せてくれたことで、シャーロットの胸が高鳴った。


(私が心をさらに奪われてどうするのよ。私がセドリック殿下の心を射止めなくてはならないのに。どうしましょう。次に繋がる約束を…。えーと、そうだ。まずは先日のお礼をしなくてはいけないわね。)


「そんなことありません。お優しいのはセドリック殿下ですわ。先日は助けていただきありがとうございます。お礼が遅れてしまい申し訳ありません。先日と言っても5年ほど前のことになりますけれど…」

「え?」


急な言葉に驚かれたのか、セドリックから思わずと言った音が漏れた。


(それもそうよね。5年前の話なんて覚えているはずないわ。)


「セドリック殿下は、覚えておられないかもしれませんが、王妃様主催の茶会で足を挫いて迷子になっていたところを助けて頂きましたの。」

「それって、シャロが初めて参加したお茶会のことか?」


私の言葉に反応したのはセドリックではなく、グレンだった。セドリックは少し驚かれているのか、思い出せないのか、固まってしまっている。


「そうですわ。傷の手当てまでして頂いて、本当に助かりましたの。」


私は鮮明に覚えているけれど、セドリックからしたら、なんでもない出来事だったのかもしれないと少し落胆した。


(私自身も名乗っていなかったから、当たり前ね)


「お、お、覚えていたであるか…?」


少し落ち込んでいたシャーロットの耳に懐かしさを感じる特徴的な声が聞こえてきた。


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