妖精姫の初恋
初めてお会いしたのは、9歳の時、親に連れられて初めて参加したお茶会だった。
2人の王子の軽いお披露目の場でもあったため、比較的大きなお茶会となっていた。
親戚意外に改めて会うのは初めてだったので、シャーロットは緊張して、頭を真っ白にして立ち尽くしてしまった。そのため、周りを見る余裕がなく、気づいたらお父様もお母様そばにはいらっしゃらなかった。
慌てて探していると、何故か庭園内にある池の向こう側に来ていた。慌てて引き戻ろうとした瞬間に、ずっこけて足を挫いてしまい、歩けない状態になってしまった。どこから自分が来たかも痛みで混乱して、元いた会場にすら戻れなくなってしまい、不安と痛みでただただ泣くことしかできなくなっていた。
「森の妖精さん?」
そんな不安な中、急に話しかけられて、驚いて声の主の方に振り返ると、自分と同じ年ぐらいの少年が立っていた。人が来たことで、淑女として涙を止めなくてはと思うと余計に止まらなくなってしまった。
「す、すすすまぬ。な、泣かせるつもりはなくてであるな。えーと。変なこと言ってごめんなさいである。妖精さんなわけないのに。」
「ふふ、面白い話し方。」
少年の自分よりも慌てている姿と少し変わった話し方に、だんだんこちらが落ち着いてきて、涙が止まり、それどころか笑ってしまった。
「大丈夫であるか?どうしたのである?」
「お茶会の会場にいたはずなんだけど、迷子になった上に、道中怪我をしてしまって戻れなくなってしまったの。恥ずかしいわね。」
「怪我をしているのであるか?」
「うん。」
小さく呟いて、静かに挫いた足を見せた。
「大丈夫である!私に任せるである!」
そう言うと、少年の手が緑に光り、優しく私の足をその光が包んでくれた。
気づくと痛みが和らぎ腫れも引いていた。
「少し安静にしていれば、すぐに歩けるである!そしたら会場に案内するであるよ。」
「ありがとうございます。とても楽になりました。今のは魔法ですか?傷を治す魔法なんて初めて見ました。」
「さすがに傷を治す魔法は使えないである。少し体内の治癒能力を活性化しただけである。」
「それでもすごいわ」
「魔法は少しだけ得意である。水魔法も得意である。好きな花はなんであるか?」
「えーと、ガーベラが好きですわ。」
そういうと、そばにあった池の水をガーベラの形へと変えていった。
「すごい。…綺麗」
「そうであるか?」
「ええ。とても綺麗で優しい魔法だわ。あなたと同じね。あなたは優しくて親切な上に魔法まで優秀だなんて。私と同じぐらいの歳なのに。それに比べて、私は迷子になった上に怪我をして、何もできず泣いてしまったわ。初めてのお茶会だったのに。淑女のしの字もない姿だわ。今日のために、あんなにも練習したのに…。」
「そんなことないである。そなたは優しく愛らしく、見たとき本当に妖精さんかと思ったである。練習した分は、会場に戻って発揮すればいいであるよ。私は弟と比べて醜いから、こんなに普通に話してくれる人はあまりいないのであるが…。」
「醜いだなんて!そんなこと言う人の心が醜いんだわ!」
「そなたは本当に優しいであるな。す、すまぬ。そろそろ夜会が始まるである。のんびりしすぎたである。ここからだと会場まで少し時間がかかるというのに。そうだ!この池を渡っていくである」
そういうと、少年が魔法の詠唱をとなえて私に魔法をかけた。
「これで池も歩けるからすぐに会場まで行けるであるよ。」
「え?水の上を歩くの?」
「大丈夫である。私を信じよ。」
真剣な目で言われて、何故かシャーロットはドキドキと胸が高鳴った。
「ええ、分かったわ。本当にありがとう。あ、そうだ。お名前を…。」
「会場に着いたら嫌でも分かるである。」
そう言うと、少年は私の背中を押してニコリと笑った。会場に少し目を向けた瞬間に彼は居なくなってしまった。最後の彼の笑顔を思い出すだけでドキドキした。
御伽話に出るような白馬に乗った王子様でもなければ、命を守ってくれるイケメン騎士でもない。少しふくよかでかっこいいとは言えないし、変わった話し方だったけれど、紳士な振る舞いに恋をしたなんてことを通り越して、シャーロットは彼と結婚したいと思った。
(彼となら絶対に幸せな家族を作れるわ。)
夢見心地のまま、池を渡りきったシャーロットのことを周りが妖精姫と呼んでいるとは気づかないまま、無事に両親と合流して、母に心配され、父に泣きながら怒られた。
その後、会場から離れ、剣舞を見ることになり、周りで舞う騎士が統制されていて美しいが、真ん中で踊る第二王子の無駄に動きが派手なだけの剣舞への周りの称賛に首を傾けた。
(確かに派手だけど、動きだけなら、お兄様たちが剣技の練習の合間に遊んでいたものと変わらないわ。9歳にしては上手なのかしら?)
疑問に思い、周りの声に耳を傾けていると、「なんて美しい方なのかしら」「将来が楽しみだわ」と頬を染める女の子や女性たちを見て、なるほどと思った。
確かに、容姿だけ見れば将来国内でも1.2を争うだろう。剣技への称賛というよりはトータルで美しいということかと納得して不意に王家の席に目を向けた。
ふと王妃様を見ると、先程の少年が隣にいるのを見つけた。それと同時に身分の差にショックでディーン殿下の剣舞はどこかに吹っ飛んでいってしまった。
確かに、確かに会場に来たら分かるって言ってたけれど、まさか王子様だなんて。
それもディーン殿下以外で、あの年齢であるならば、王太子であるセドリック殿下で間違いない。
その後、不敬罪だとか、身分差だとかがごちゃ混ぜになりながら、気づけば自分の屋敷に戻っていたことは5年ほど前であるにもかかわらず記憶に新しい。
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シャーロットは昨日のように思い出せるセドリック殿下との思い出にひたりながら、視線の先の彼に目を向けた。
(あの頃と違って、話し方も王子らしく気品ある声だわ。それとも使用人の前では前から気品あふれる話し方だったのかしら?それはそれで素敵だわ。もしかして、私の前で気を抜いて素の話し方をしてくださったのかしら?なんて嬉しいことかしら。)
シャーロットは妄想を膨らませていたため、ティアの呆れた顔に気づくのに少し時間がかかった。