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崩れゆく幸せ

「短くて半年、長くて1年半は帰ってこれない可能性がある。」


シャーロットは、いつもと同じセドリック執務室の隣の応接室のいつもの席に座りながら、セドリックの言葉を聞き固まった。


「シャロ…?」


セドリックはシャーロットに呼びかけながら、心配そうな表情を向けた。


「今の話は本当ですか?」

「間違いない。」

「どうしてですか?」


突然の離れ離れにシャーロットは、頭の中の整理が間に合わず、いつものしっかりしたシャーロットはおらず、辿々しく疑問を口にした。


「隣国のリアート国で、最近怪しい動きがある。」

「怪しい動きですか?」

「魔法道具を使った大量殺戮兵器が、プレギー王国の国境近くに多く見たと言う情報が入った。」

「それは…」

「まずはそれが事実なのかを確認し、事実ならば何のためにあるかを確認しなければならない。場合によっては、戦争になるだろう。リアート国は大きな国ではない。そこまで長期化する戦争にはならないだろう。」

「どうしてセディが行かなければならないの?セディが行かなくたっていいではないですか…。」


現実を受け入れきれないまま、まるで子どもが親に尋ねるような言葉をシャーロットはセドリックに向けて口にした。


「シャロ…」


セドリックがシャーロットの愛称でスラスラ言えるようになるまでも多くの時間がかかった。そんな練習の成果をこんなにも早く、悲しげに呼ばれるなんてシャーロットは思いもしなかった。


「シャロ。あんまり我儘を言うな。」

「…」

「シャーロット城。セドリック殿下が選ばれたのにも理由があります。」

「理由?」

「はい。噂の魔法道具はかなり強力なものらしく、いざ壊すことになれば相当な魔力が必要になります。プレギー王国にもそれほどの魔法師は王家か上級魔法師のごく一部です。戦場になることを考えると軍の司令官も必要になります。魔法師としも司令官としても両方できるのはセドリック殿下か陛下になります。そうなると結果としてセドリック殿下が出陣なさるのも仕方ないでしょう。」

「魔法ですか。」


魔法師は人口の約5%ほどしかいない。どこの国も魔法を使えることが王としての器と考えられている。さらに1人だけで大魔法を使える者は、魔法師の中でも10%ほどしかいない。大魔法は複数の者が詠唱を行い扱うものだ。シャーロットも一部の風の大魔法を1日一回だけなら扱うこともできるが、複数属性で、何回も大魔法を扱える者はこの国でも10人いるかいないかになる。セドリックが必要ということは、大魔法を使える者が必要である証だ。


(理由を聞けば、セディが必要なのは分かるわ。でも今は、セディ以外で適任者がいないのも分かってしまう自分が腹正しいわ。)


「わ…分かりました。」


(王太子妃として、国のために役目を果たそうとしているセディを止めることは間違っているわ。こういう時こそ、本当は感情を表に出さずに笑顔で送り出さなければならなかったのに。)


「シャロ。安心するといい。戦争になる可能性があるだけだ。やることが終わればひとっ飛びでシャロの元に帰ってこよう。きっと、私はそのために飛行魔法を身につけたのだ。」

「セディ」

「それに昔も言ったであろう。昔も言ったであろう?魔法は得意なんだ。だから、優しいシャロは心配かもしれんが、待っていてくれ。」

「はい」

「良い返事だ。」


シャーロットの返事にセディは優しげに微笑んだ。その表情にシャーロットは泣きそうになりながらも、なんとか声を発した。


「出国はいつになりますか?」

「向こうの見方によっては早まるかもしれないが、1ヶ月後の予定だ。」

「それでは2週間後のセディの誕生パーティーはどうなるのですか?」

「今回のことは他国にバレてはならないからな。通常通りに行う予定だ。向こうに動きがバレないためにも上級魔法師ではなく、私が選ばれた。」

「どういうことですか?」

「上級魔法師は、周辺国が動向を探っている。それに比べて王子というのは継ぐまでは何をしていても怪しまれん。他国に留学しようが、国で遊ぼうとも、どこにいてもおかしくない。しばらくは私が国を離れたということすらバレないだろう。」

「なるほど」

「16歳の一応成人になる誕生パーティーを王家が開かないのは怪しまれる。それを終えて出国するのが望ましいだろう。」

「分かりました。では、精一杯セディのことをお祝いいたしますわ!」

「ありがとう。今までの誕生パーティーで一番楽しみだ。」

「何か欲しいものはセディにないかもれませんが、して欲しいことでもいいので希望があればおっしゃってください。」


本当は今日はこの話を楽しくする予定だった。こんな風に必死の作り笑いで言うのではなく、心からの笑顔で楽しく話すはずだったが、違う形となってしまったことにシャーロットは少し悲しみを覚えた。


「では何か刺繍をしてくれないか?ハンカチでもいいのだが。」

「刺繍ですか?」

「よく戦場に婚約者から手縫いのものをもらって持っていくというのがあるだろう。あれは戦場ではなかったが、初めて野営をした時に周りの騎士たちが自慢げに見せてくれたのだ。」

「分かりました。」


セドリックの初めてのお願いなのでシャーロットはもちろん深く頷いた。ただこのような形で初めて送り物をするのは悲しかったが、離れてもシャーロットのことを忘れないように精一杯作ろうと心の中でシャーロットは誓った。


「ありがとう。楽しみだ。」


今回の知らせは悲しかったが、初めてセドリックの誕生日を祝うことができるんだという風に気持ちを入れ替えて、心から楽しみにしているセドリックに、任せてくださいと胸を張り、シャーロットは帰路に着いた。


諸事情により、しばらく休載します。

こちらの都合で大変申し訳ありません。

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