彼女の気持ち
本日の更新が20時になり、大変申し訳ありません。本編はもう少し続きますので、シャーロットとセドリックのことを見守ってくださると嬉しいです。
「シャーロット様。セドリック殿下とのご婚約おめでとうございますぅ〜。」
現在、セドリックが選んでくれた薄紫色のドレスにブルーサファイアのネックレスをにつけ、いつも以上に完璧なシャーロットは多くの令嬢たちの中心にいた。しかし、いつも完璧なシャーロットでも、今回ばかりは少し頬が引きつっている。そんなシャーロットを前にしても目の前にいるホワード公爵令嬢の口の動きは止まらなかった。
「でも〜、残念でしたわよね。私たちが、一番ディーン殿下との婚約に相応わしいと言われていたのに、ディーン殿下と婚約したのはオリヴィア様なんですもの。私たちの世代で一番美しいと言われているシャーロット様が、あのセドリック殿下と婚約されるなんて…。一応第一王子ではありますけど、あのお姿ですし。」
「シャーロット様もおかわいそうに」
ホワード公爵令嬢に続き、その友人達も彼女に倣って言葉を口にし始めた。
「私、聞きましたわ。ディーン殿下とは恋仲だったのだと。」
「私もお茶会での熱烈なディーン殿下の告白を見ましたわ。」
「あれは素敵でしたわ。」
「どんなに愛があっても流石に政略結婚では仕方ないですわね。シャーロット様は公爵家ですもの。ちなみにグレン様の婚約はお決まりになりました?」
「それは私も気になっていましたの。」
シャーロットは令嬢たちの弾丸トークを聞きながら、なぜこうなってしまったのかと遠い目をしそうになっていた。
現在、シャーロットは婚約披露宴の真っ只中である。陛下と王妃様の挨拶から始まり、シャーロットとセドリック、そしてディーンとオリヴィアが並び、4人がダンスを踊った後、重鎮たちとの話をシャーロットはセドリックと共に躱した。2人で行う挨拶が終わり、今度はそれぞれのフィールド、つまりシャーロットは令嬢たちと会話をすることになったのだが、これが問題だった。
(一応、最初に婚約の祝福の言葉は話しているけれど、その後に続く言葉が全部哀れみなのはどうしてかしら!)
シャーロットがやっとのことで、口を開こうとした時には、話題は兄達に変わっていた。
(セドリック殿下との噂を良いものにしなければならないのに。これでは婚約者として失格ですわ。)
そんな風に考えながらも、今どれだけシャーロットがセドリックを愛していると彼女たちに伝えても、更なる哀れみを聞くだけで終わってしまうと考えて心の中だけで大きくため息をついた。
彼女たちだけではなく、今日会ったほとんどの人たちが、セドリックとシャーロットの婚姻に驚いた表情をしていた。セドリックとの婚約が嬉し過ぎて、シャーロットは周りの反応まで気にすることを忘れていたのだ。
今日会った者たちの表情を思い出しつつ、目の前で行われている会話を聞き流していたシャーロットの視線の先にオリヴィアが映った。
シャーロットは彼女たちの会話に自分は必要ないと感じて、当たり障りのない言葉で断りを入れてその場を後にした。
◇◇◇
「どうしてこうなったのかしら。」
オリヴィアに話しかけようとしたタイミングで、オリヴィアが静かに声を漏らした。
「セドリック殿下との婚約で決まりだと思っていたのに…。」
(え?オリヴィア様ってセドリック殿下と婚約したかったの?)
咄嗟に身を隠したシャーロットは、オリヴィアの呟きに驚いて身を固めた。
「そうしたら、もしかしたら…。」
ガサ
「誰!?」
シャーロットのドレスが音を立てたことで、オリヴィアに気づかれてしまい、後に引けなくなったことで、シャーロットはしぶしぶオリヴィアの前に出た。
「シャーロット様」
「お久しぶりですね。オリヴィア様。こうしてしっかりお話しするのは初めてね。今回は共に主役だというのに。」
「そうですね。同じ空間にいましたが、話す機会はありませんでした。」
「お互い婚約おめでとうと言いたい所ですけれど、違いまして?」
「やっぱり、聞かれてしまいましたね。」
「ごめんなさい。そんなつもりはなかったのだけど…。」
「私が悪いのです。こんな大勢のいる夜会で、離れているとは言え、声に出してはいけませんでした。それも婚約披露宴でしたのに。」
今にも泣き出しそうなオリヴィアにシャーロットは慌てた。自分でも何を言うか考えるために遠回りに話していたら、オリヴィアを責める形になってしまった。
(私は2歳も年下の子に何をしているのかしら。少し大人びているとは言え、まだ12歳の少女に私はなんてことを…。)
「ごめんなさい。責めるつもりはなかったの。ただ、貴方が今回の婚約をどう思っているか聞きたくて。」
「やっぱり、シャーロット様はセドリック殿下との婚約を後悔されておいでですか!?」
「ごめんなさい。私はとても満足しているわ。」
「そう…ですか。」
「オリヴィア様はあまりお話にはならないと聞いていたけれど、とてもお話しされますのね。」
「申し訳ありません。」
「謝ることは何もないわ。」
「父によく話す者は淑女として失格であり、表情は顔を出してはいけないと言われまして。」
「そんなことありません。もちろん、表情によっては不利になってしまう場合があるので、隠す必要もありますが、普段からそのようなことをする必要はありませんわ。」
「そうなのですか?」
「そうです。少なくともフローレンス家ではそんなこと言われてません。」
「では、シャーロット様とは普通にお話ししても良いですか?」
「もちろんです。」
「嬉しいです。」
自分の容姿にも自信のあるシャーロットでも、オリヴィアの笑顔の破壊力は凄まじかった。
「と、とても素敵な笑顔ですわ。少し仲良くなれたと思って先程の話の続きを聞いてもいいかしら?盗み聞きした形になってしまったけれど…。」
「はい。私、実はロマンス小説にハマってますの。シャーロットは知りませんよね。」
理想のシャーロット・フローレンスとしては、知らないと言いたかったが、セドリックと近づくためにどうしたらいいかと考えた時に、参考書にするためにいくつも読んだ結果、思いの外ハマったのが現実のシャーロット・フローレンスである。ロマンス小説は恋愛をテーマにした話で、貴族の中では庶民の読むものとしても考えられているため、令嬢で読んでいるものは多くはない。
「少しだけなら、嗜んでいます。」
「シャーロット様はなんでもご存知なのですね。」
尊敬の眼差しむける少女にシャーロットはいたたまれなくなった。
「そ、それで、今回の話にロマンス小説は何か関係ありますの?」
「ロマンス小説を読むまでは、政略結婚が当たり前だと思ってました。しかし、ロマンス小説を読んでからは、私は恋愛結婚に憧れを持ってしまったんです。」
「それは素敵でわね。」
ロマンス小説が貴族の中で読むことが許されない暗黙の了解となっている理由の一つがこれである。貴族は政略結婚が当たり前の中で、恋愛を進めるロマンス小説はあまり良しとはされてない。しかし、貴族の間でも恋愛が主流になりつつある今は異なるかもしれない。
「そんな時に、私はお慕いしてしまった方ができてしまったのです。自分でも信じられませんでした。」
「セドリック殿下ですか?」
先程のオリヴィアの呟きを思い出して、おずおずと最初に抱いた疑問をシャーロットは尋ねた。
「正確にいうとセドリック殿下の部下の方です。」
「部下?」
「はい。例えあの方と結婚できなくてもセドリック殿下と結婚すれば、側にいることができると思いました。さらにロマンス小説で聞いたことがあるのです。王家では多妻性も可能で、増えた妻を部下に下ろすというとこを聞いたことがあります。もしかしたら…と思いまして。」
(なんだかこのような話をどこかでも聞かなかったかしら?)
少し照れながらも、先日聞いた話と近い話をするオリヴィアにシャーロットは驚いた。
「何かその方を好きになる瞬間がありましたの?」
「…ええ…」
セドリックの部下と呼べるのは実際に側近の2人しかいない。王家や国に仕えている者は多いが、セドリック自信に仕えている者は他にはいない。更に、セドリックと過ごすことで側にいることができると考えることができるのは間違いなく側近2人である。
オリヴィアが、何かの思い出をなぞり照れているのを見ると、確実に何かあったに違いない。シャーロットがセドリックと会ったように、オリヴィアにも何かあったのだろう。側近であるジェフリーはオリヴィアについて話す時淡々としていたのと、鈍感な兄が自分の気持ちにしっかり気づいているのを見ると、間違いなくオリヴィアの想い人はグレンで間違いない。
2人に何か明確なやりとりがあったのだ。グレンの一目惚れであり、片思いかとも思っていたがどうやら違ったらしい。グレンにチャンスどころか両思いであることを悟ってしまったシャーロットは、引き受けたとは言え、少し面倒臭いことになったと思った。
更に、グレンとオリヴィアは鈍感かつ変わった思考を持った似た者同士なことにもシャーロットは頭を抱えた。とにかく、セドリックからディーンの様子を聞いてからこのことは考えるようにしようと、シャーロットは幸せそうに笑うオリヴィアを見つめながら思った。




