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「シャーロット嬢、すまない。待たせてしまった。」

「そんなことありません。こちらが少し早く終わっただけです。」


本日の王妃教育は、シャーロットの実力の確認だけだったため、思いの外スムーズに進み予定の時間を大幅に短縮した。ディーンに話しかけられるというハプニングでロスタイムが生まれても尚、時間に余裕があった。


ディーンのことで取り乱した心を落ち着かせるために、シャーロットはお茶を飲みながらセドリックが来るのを待っていた。そこにセドリックが入ってくると、すでにシャーロットがいることに驚きの表情を見せて、セドリックはすぐに謝罪の言葉を口にした。


本当に気にしていないという態度をシャーロットが取ると、セドリックはシャーロットの向かいに座りながら今度は心配そうな表情で口をマーガレットについて尋ねた。


「叔母上はどうであった?確かシャーロットの教育担当であっただろう?」

「とても明るい方で、親切にしていただきましたわ。」

「叔母上もとても話し好きなんだ。冗談も平気で言うので、授業以外は半分聞き流してもいいくらいだ。」

「王家の方たちは話好きなのですか?でも、とても楽しいお話ばかりでしたよ。」

「うーむ。話好きというよりも冗談を言える者が少ないので、話せるだけで楽しいのだろう。女性は特に話すことが楽しい時間だと聞くしな。」

「そうですね。気を許せる方とのお話は、何時間あっても足りませんもの。気軽に接していただけて嬉しいですわ。」

「そうか。母上もシャーロット嬢とまた話がしたいと言っておった。シャーロット嬢が良ければ付き合ってあげて欲しい。」

「もちろんですわ。」


(王妃様もマーガレット様もとても気さくな方たちだったから、そう言ってもらえるだけで嬉しいわ。)


「それと、実はシャーロット嬢と私がこ、こ、婚約したことを正式に発表したのは、つい先程のことなんだ。」

「そうでしたの?」


(だから、ディーン殿下も先程聞いたと言っていたのね。)


「殿下、婚約という言葉を言うだけで照れないでくださいよ。」

「照れてなどおらん!」

「本当ですかー?」


顔を真っ赤にして、グレンと言い争っているセドリックを見ながら、静かにシャーロットも照れていた。


(セドリック殿下から婚約したと改めて言われると少し恥ずかしいわね。)


喜びを噛み締めているシャーロットの耳に、ジェフリーの静かな声が届いた。


「そう言えば、陛下からの婚約発表を聞いてすぐに、シャーロット様とディーン殿下が逢引していたと、先程噂を聞きました。」

「「逢引!?」」


ジェフリーの言葉に、見事にセドリックとグレンの言葉が重なった。


「シャロ。流石にそれはダメだ。」

「シャ、シャーロット嬢。」

「ジェフリー様。噂を鵜呑みにされるのは困ります。一方的に話しかけられただけですわ。」

「実際に話はしたのですね。」

「まあ、少しだけですが。」

「ディーン殿下と何か話すことなんてあったのか?」

「ないわ。」


シャーロットは、ジェフリーのせいで面倒くさいことになったと眉を潜めた。さらに先程のディーンとのやり取りを思い出し、シャーロットはさらに表情を険しくさせた。


「先程も言ったけど、一方的に話しかけられただけです。当然王子相手ですから、受け答えはしましたけれど。」

「何を話されていたのですか?」

「えっ」


何を話していたかと言われると、自分で説明するのはさらに面倒だ。何と言うか悩んでいると、グレンがシャーロットの後ろに目を向けた。


「ティア。何があったんだ?」

「簡潔に答えるなら、言い寄られてました。」

「え」「ティア!」


ティアのストレートな回答に、思わずシャーロットは声を上げ、反対に予想外だったのかセドリックから驚きの声が上がった。


「まあ、想像通りです。」

「そんなことだろうと思った。」

「え、え?想定内の話であるか?」

「プライドの高いディーン殿下が、今朝の陛下の言葉だけで納得するとは思えません。」

「言い寄られていたというよりも、シャーロット様とディーン殿下がセドリック殿下のために引き裂かれたという妄言をされておいででした。」

「うーわ。一周回って恐ろしいな。」

「流石にブレませんねディーン殿下は。」


ティアの付け加えられた言葉にシャーロットは頭を抱えた。シャーロットは振り返り、ティアをひと睨みすると、何事もなかったようにティアが一歩後ろに下がった。


「しかし、これは面倒くさいことになりました。」

「なんでであるか?」


セドリックは冷静な顔に戻りながらも、口調が昔に戻っていることから、焦っているのが伺えた。


「シャーロット嬢が王妃教育を受けていたことを考えると、今の話はつい先程のことだというのが分かります。それが、すでに私の耳に入っているということは、城中に噂されているということになります。」

「嘘…」


シャーロットは、噂という力の強さに驚きの言葉をあげた。今まで、自分の噂で悪いことはなかったので気にしていなかったが、事実と異なる噂が流れると実害が生まれそうな予感に、さらにシャーロットは内心頭を抱えた。


「時期に消えるでしょうが、シャーロット嬢は極力ディーン殿下とは会わないようにしてください。」

「は、はい!」

「母上ももうすぐディーンの婚約者が決まると言っておったである。ディーンは素直であるが故、シャーロット嬢のことが忘れられぬのであろう。ちと、可哀想なことをしてしまったであるな。」


シャーロットは本日2度目の疑問を今度は隣にいたグレンに投げかけた。


「王家の方たちは、どうしてディーン殿下のことを素直で片付けるのかしら?」

「お優しい方たちなんだ。」

「将来的に大きな問題になると思うけど」

「…。流石に問題に発展しそうになれば、陛下も厳しくするだろう。」

「そ、そうね。」


フローレンス家でコソコソと話終え、シャーロットがグレンから視線を正面に戻すと、弟を少し心配そうにしている目の前の婚約者と目があった。


「セドリック殿下。」

「なんである?」

「弟想いなのはよろしいですが、それで私のことを捨てたりしないでくださいね?」

「そ、そのようなことはせぬ!流石に、ディーンにも、シャ、シャ、シャーロット嬢のことは、ゆ、譲れないである!」

「まあ!嬉しいわ。」


セドリックから想像以上の言葉をもらえたことで、ご機嫌斜めだった機嫌が急激に向上した。


(熱烈な愛の言葉を頂いてしまったわ。マーガレット様に言われたけれど、当分は大丈夫そうね。)


「私もセドリック殿下だけをお慕いしております。」

「そ、そうである?」

「はい」

「ありがとうである。嬉しいであるな。」

「おー。一瞬でイチャつき始めたな。」

「殿下。またもや口調がお戻りですよ。」

「あ、いつの間に。ごほん。」


セドリックは何度か咳き込んだ後に思い出したように口を開いた。


「ディーンにも正式に婚約者ができれば、ディーンと私の婚約発表を兼ねて夜会が開かれる。シャーロット嬢のデュビュダントと兼ねることになるが大丈夫だろうか?」

「問題ないですわ。」


(王族の婚約者が決まれば当然パーティーが開かれるわよね。すっかり忘れていたわ。)


「少し早まっちまったな。」

「もうすぐ16歳ですし、そんなに大きく変わったわけではありませんわ。反対に、デュビュダントと一緒にしていいものですの?」

「いいだろう。デュビュダントは、王家に顔を見せするのが目的なのだから、シャロは普通に挨拶してしまっているしな。」

「そうなのですね。分かりましたわ。」


ほとんどの令嬢がデュビュダントを16歳になってから行うが、王族との婚姻や歳の離れた婚約者の関係などでデュビュダントが早まるのはプレギー国では珍しくない。


「あー、こんな時間か。殿下、仕事の時間です。」


グレンの言葉で、セドリックが仕事の途中であることを思い出した。


(今日はほとんどセドリック殿下と話せなかったわ。少しでも会えたことを喜ぶべきよね。)


連絡事項や噂についてなどで、ほとんどセドリックと話せなかったことに、シャーロットは少なからずショックを受けた。


「早いな。シャーロット嬢、次に登城するのはいつだ?」

「来週の予定です。」

「そうか。また時間を作れるようにしておこう。」

「ありがとうございます!」


セドリックがすぐ次に会う予定を立ててくれたことで、シャーロットの機嫌が戻った。


シャーロットはセドリックに別れを告げ、セドリックにエスコートされてのデュビュダントや、来週の2度目の茶会など、婚約してすぐに会う機会が多くできたことにシャーロットは心の中でスキップしながら、帰路に着いた。



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