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新たな一歩

シャーロットはセドリックにエスコートされながら、城門までの廊下を歩いていた。シャーロットは、そんな2人に奇異の視線が向けられていることに気づくことなく、頭の中でパニックを起こしていた。


(思いを伝え合って初めての2人っきり。何を話したらいいのかしら?せ、正式に婚約者になったわけだし、一般的に婚約者同士って何話してるのかしら?)


グレンとジェフリーが後ろから付いてきているとはいえ、少し距離もあり、自分たちが前を歩いているので、2人までそこまで話が聞こえるとは考えにくい。そのため、実質2人っきりの状態に言葉が出ず、シャーロットはせっかくの機会にも関わらず無言の時間を過ごしてしまった。


「すまない。」


結局、言葉を最初に発したのはシャーロットではなく、セドリックだった。沈黙は初めてではない。しかし、その都度シャーロットは頭をフル回転させるが、結局のところ沈黙を破ってくれるのはいつもセドリックだ。


「何か謝られることがあったでしょうか?」


ただし、せっかく声を掛けてもらったが、セドリックの意図がわからず、シャーロットは首を傾げた。


「父上も母上も顔に似合わず、よく話す方達なんだ。今回も何度もシャーロット嬢とフローレンス公爵を無視して話し続け、関係ない話ばかりになってしまった。」


謝罪の意味を聞いて、シャーロットはセドリックが部屋に入ってきた時の表情を思い出した。


「セドリック殿下、客間に入った時から少し困ってましたものね。」

「母上の気合の入れようから、心配しておったのだ。」

「そうだったのですね。」


セドリックの言葉で、あの時困った顔をしていた理由が分かり、プレギー家の関係性が少し垣間見えた気がした。


「王妃様のおかげで緊張もほぐれましたし、セドリック殿下が家族と仲が良いことが知れてよかったです。」

「少し恥ずかしいな。どんなに成長したとしてもあの2人にとって私はいつまでも子どもなのだろうが、シャーロット嬢の前でも子ども扱いはやめてほしい。」


少し照れ臭そうにしながら、セドリックは口を尖らせているのが、隣から見ていたシャーロットにも分かった。


「とても素敵な家族だと思います。どの国でも王家の方達は少し厳しい印象があるので、セドリック殿下が王家としてではなく、家族としてご両親と接することができるのは良いことですわ。」


(実際に会うまで、どれだけお父様に気さくな人だと言われても、国王と王妃様だと思うと勝手に厳しい方だという考えは消えなかったもの。本当に気さくな方たちで驚いたわ。)


「そうだな。帝王学などは厳しいが、普段はそれほど厳しいと感じることは少ない。忙しい方たちなので、そこまで話す機会も多くはないが、昔から可能な限り会う時間を作ろうとしてくださった。」

「まあ!普段から家族とお過ごしなのですね。ディーン殿下とも仲が良いのですか?」


(家族と過ごしていたということは、ディーン殿下とも過ごしていたとは思いますけれど、あまり仲の良い印象はありませんでしたわ。)


「私にグレンやジェフリーがいたように、お互いに遊び相手のような者がいたから、共に過ごすことは少なかったと思う。年も得意分野も異なるので、共に授業を受けるわけでは無かったからな。」

「では、幼少の頃はあまりお会いにならなかったのですか?」

「そうだな。ディーンが物心着く前に私は魔力コントロールのために、人にはほとんど会わずに、閉じこもっていたからな。シャーロット嬢に初めて会った茶会の少し前までは、完全に魔法研究所に引きこもっておった。ディーンに久々にあったのもその頃だ。」

「そうだったのですか?」


(引きこもっていた?どういうことかしら。)


「前に薔薇の庭園の話をしただろう?」

「はい。大きな薔薇を作った話ですよね。」

「そうだ。その後に魔法の勉強に力を入れることになったんだがな…。」

「どうかされたのですか?」


シャーロットは、暗い表情をしたセドリックに不安を感じた。困った顔は何度か見たことがあったが、シャーロットがこのように暗い表情を見たのは初めてだった。


「先程の父上との話を聞いていて気づいたかもしれないが、一度魔力が暴走したんだ。魔力を抑え切れずに、建物を丸々吹き飛ばしてしまったんだ。」

「建物ごとですか?」


先ほどのセドリックと陛下の話で何かあったんだろうとは思っていたが、想像よりも大きい規模の大きさに、シャーロットは困惑した声を出してしまった。


「魔力のコントロールをまだ練習し始めてすぐに、魔法の訓練をしていた時、魔法研究に使われている施設を吹き飛ばして更地にしてしまった。周りにいたのは優秀な魔法師しかおらず、死人は幸い出なかったが、それから少し自分の力が恐ろしくなり、人前に出るのも恐ろしくなってな。父上や魔法師に太れば問題ないと言われて、太ってから魔力が抑えきれないかったことは一度もない。それ以来、太っていないと落ち着かないんだ。」

「そのようなことが…」


(そんなことがあれば、痩せることが不安にもなってしまうわ。魔法は魔法師以外ではほとんど防ぐことができませんもの。)


魔力は普通絞り出すように努めて行うものだ。それが、溢れてしまうということがどれだけ恐ろしいことか、シャーロットは想像しただけで震えてしまった。


「久々に出てきた第一王子がこのような容姿で、周りにも怪訝な顔をされた。ディーンも実の兄がこんな私でがっかりしたのだろう。尊敬できない兄などと仲良くしようとも思わないだろう。」

「セドリック殿下には尊敬できる所がたくさんありますのに!」


(容姿で決めるなんて、これだから脳内お花畑の方たちは困りますわ。セドリック殿下の素晴らしさを見落とすなんて、もったいないことを…。)


表情には出さずに、シャーロットは可能な限り頭の中でセドリックに心ない言葉を言ったであろう者たちを罵倒した。


「ありがとうシャーロット嬢。未だに大勢の前で魔法を使うことはできないのだ。ディーンの前でも魔法を使ったことはない。私は情けない兄なんだ。」

「魔法以外にも素敵な所がありますわ。容姿で決めるなんて…。それに太っていても素敵なことには変わりありませんのに。」

「シャーロット嬢は昔から優しい子だな。」

「それはセドリック殿下です。」


セドリックの『優しい子』という言葉に、シャーロットは慌てて脳内での罵倒を中断した。


「当時、私のことを褒めてくれたのは貴方だけだった。」

「え?」


脳内での雑念を消し去ることに必死になっていたシャーロットは、セドリックの呟きを聞き逃してしまった。


「さ、着いた。貴方と話していると時間があっという間に過ぎていくな。」


シャーロットがセドリックに聞き返そうとした所で、気づけば目の前に馬車が見えた。


すぐにセドリックはシャーロットが馬車に乗りやすいように手を引いてくれた。シャーロットが乗るのを確認してから、セドリックがシャーロットの前に座った。その後、セドリックの隣にジェフリーが乗り、シャーロットの隣にグレンが乗り終えた所で馬車がフローレンス家の屋敷に向けて出発した。




◇◇◇




「殿下、おめでとうございます。」

「おめでとうございます殿下。」


馬車が出発してすぐに、ジェフリーに続きグレンまでも開口1番にセドリックへの祝いの言葉を投げかけた。


「私は今日、誕生日ではないが?」

「殿下の誕生日でしたら、今夜は夜会ですね。」

「ん?何か祝われることがあっただろうか?」

「陛下に正式に王太子と指名されたでしょう?」

「初めから、殿下が王太子だとは思っていましたが、こうして改めて殿下が指名されるのは喜ばしいことです。」

「そうでしたわ!セドリック殿下、おめでとうございます!」


ジェフリーの言葉で、シャーロットも陛下の言葉を思い出し、セドリックに祝いの言葉を伝えた。


(私も勝手にセドリック殿下が王太子だと思っていたから、陛下の言葉に驚きはしなかったけど、お祝いすべきことだわ。)


「ああ。そうであったな…。ディーンがなると思っていたので、あまり実感はないが。シャーロット嬢には、私のせいで王妃教育を受けねばならくなってしまった。大変な思いをさせて申し訳ない。」

「どうしてディーン殿下がなると信じていたのかは分かりませんが、王妃教育を受けるのは覚悟の上ですので安心してくださいませ。セドリック殿下の婚約者として恥ないように勤めてみせますわ!」

「殿下。陛下もおしやっておりましたが、自信がないのは殿下の悪い癖です。シャーロット嬢の方が、覚悟を持っているのはおかしいではたりませんか。」

「うう、すまない…。」

「ほら。殿下は私たちとシャロのためにも生まれ変わるのしょう?自信持ってくださいよ。」

「そうであった。見ていてくれシャーロット嬢。君に負けないくらい立派な王になるよう勤めてみせよう!」

「はい。もちろん殿下の側で見ております。」

「その意気ですよ殿下」

「今の殿下は輝いておいでです。」

「お前たちからは、全く敬意が感じられぬ!」


シャーロットはセドリックの少し怒った顔を見ながら、今後はこうやってセドリック殿下の側にいるのが当たり前になるのだと実感し、喜びを噛みしめた。そして、セドリックと王妃教育の後はなるべく時間を合わせてお茶をしようという大変嬉しい約束をした所で、屋敷に到着した知らせを受け、セドリックと「それでは、また」という未来に繋がる言葉で別れを告げた。



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